NEWS

2018.04.02

今こそイノベーションラボ設立の時?大企業に学ぶ“失敗して学べる環境づくり”とは

世界的な大企業では、イノベーションラボの設立はもはや当たり前になっているが、あなたの働く企業にはあるだろうか。イノベーションラボとは、そのまま直訳してイノベーション研究室という意味だ。つまり、既存事業に関わらず、新たなサービス、プロダクト、ビジネスモデルの可能性を探り、実験する場のことである。

形態としては実際にイノベーションラボとして物理的に実験室を設けてそこに専属スタッフを配置する場合と、 Googleのように全社員に対して業務時間の20%をラボの活動に使うことを認めるなど制度として設ける場合がある。主な形式としては大きく分けて、企業内でラボを完結させるインハウス型と外部団体や企業と提携するコラボ型の2つある。

なぜ今イノベーションラボ?

イエール大学の調査によると、企業の平均寿命はここ約60年で61年(1958年)から18年(2015年)へ大きく縮んでおり、この傾向はさらに加速傾向にあると予測されている。生活の必需品であるスマートフォンも登場してから10年程度しか経っておらず、いかに短いスパンで人々の生活が変化しているかということを象徴している。

ここ数年を見ても自動車業界では自動運転の普及によって大きな変革を求められているし、AIやブロックチェーンといった新たな技術が金融業界や小売業界をはじめとしたビジネスのあり方や人の生活の仕方を大きく変えていきつつある。

つまり、どの企業もそのような変化に対応しうる柔軟性なくしては生き残れない時代にさしかかっており、これまでの事業領域やあり方にこだわらず、新たなことにどんどん挑戦していくことが必要とされているのだ。

関連記事:近い将来テクノロジーが葬る10の産業

イノベーションラボ設立で狙えることとは?

イノベーションラボを設立することによる第一のメリットとしては、専用の部署を構えることにより長期的な視点で新たなアイデアを試すことができる点が挙げられる。新しいアイデアを軌道に乗せるには、時間もかかるし、失敗もつきものだが、通常の業務内ではなかなか許されないのが現状だろう。

しかし、イノベーションラボを創設すれば、トライ&エラーのプロセスがポジティブに受け入れられる環境を社員に提供することができる。それにより、新たなアイデアをオープンに受け入れる空気を会社内に醸成し、実践させて行くことによって、失敗を恐れずどんどんチャレンジしてみるデザイン思考型・アジャイル型のカルチャーを育むことも可能だ。

さらに、新たなモノづくりに携わりたいと考える能動的で優秀な人材を呼び入れ、逃さずに取り込んでいくことにもつながっていくだろう。

以下では、実際にイノベーションラボを取り入れた大企業の事例をインハウス型、コラボ型、複合型に分けて紹介する。

関連記事:デザイン思考入門 Part 1 – デザイン思考の4つの基本的な考え方

1. Capital One <インハウス型>

Capital Oneはアメリカ・バージニア州に本部を構える銀行で、預金や融資、クレジットカードなどのサービスを提供している。そんなCapital Oneでは、2014年からニューヨーク、サンフランシスコ、ワシントンD.C.の3拠点でCapital One Labを設立した。

Capital One Labでは、「お金は単なる数字じゃない、誰かの食料品、初めての車、家、実家へ帰るための航空券…つまり人生そのものだ」という考えの下、人々の生活向上を目指して既存の枠に収まらないサービス開発・銀行のあり方に挑戦している。彼らは、カスタマーファーストの考えを大切に、デザイン思考をラボでの活動に取り入れている。

また同社は、カフェに銀行の機能を組み合わせたCapital One Cafeも各地にを展開しているが、サンフランシスコのCapital One Labはその上の2フロアに構えられている。新たなサービスのアイデアがあればすぐ下のカフェ利用者を対象に、ユーザーインタビューやテストを行うことが可能だ。

またCapital One Cafeのサービスとして提供されている、無料のファイナンス相談、ワークショップ、キャンペーン等は、ユーザーから生のインサイトを得る上で重要な役割を果たしている。

このようにCapital Oneは、自社の敷地内にユーザーとなる人々を呼び込むことで、これからの金融会社のあり方を模索するインハウス型イノベーションラボを展開している。


Capital One Lab の取り組みの様子(画像転載元:Capital Oneの公式サイトより)

関連記事:アメリカの大組織に学ぶ デザイン思考の活用事例

2. Ford <コラボ型>

1903年創業のFordはアメリカミシガン州に本部を構える、言わずと知れた老舗の自動車企業だ。技術の革新によって、従来の自動車に代わる様々な移動手段が生まれることが予想される中、Fordでは「移動・自動走行車・顧客体験・ビッグデータ」にフォーカスを合わせ、他企業、非営利団体、教育機関とともに、様々な角度から新たな可能性を探る調査研究を行なっている。

また、2015年にはFord Research and Innovation Centerをカリフォルニア・パロアルトに設立し、シリコンバレーのモビリティイノベーションのハブとして、コラボラティブな取り組みを推し進めている。例えばここでは、テクノロジー関連4社や各大学と協力して調査や実験をしている。

この他にも2013年にFordが開発したオープンソース型のデータ収集プラットフォームシステムOpenXCをサンフランシスコ市内を移動する自転車に装着し、タイヤの回転速度やアクセルのタイミング等の走行データを蓄積・解析して利用する研究を行っている。

さらにFordのラボでは、アフリカやインドの開発途上地域において、現地非営利団体等と協力しモーターバイクで医療用品の流通をサポートする活動をしながら、データを集め、現地で必要な都市開発の計画に役立てるためのデータ活用方法も研究しているという。

このラボのほかにもFordは、ideaplaceというオンラインスペースを用意して、Ford社内やパートナー企業に限らずオープンにイノベーションアイデアを受け付け、挑戦する姿勢を示している。

Fordは、各領域の最先端をゆく団体とコラボレーションを図りながら、移動の未来を探る完全コラボ型でイノベーションラボに取り組んでいる。


自転車を活用したデータ解析プロジェクトの様子(画像転載元:Fordの公式サイトより)

3. Accor Hotel <複合型:インハウスラボ+コワーキングラボ>

Accor Hotelは世界95カ国に展開するフランスに本部を構える多国籍ホテルグループ。ホスピタリティの未来を探るべく、社内にDisruption & Growthという部署を設立し、社員にデザイン思考を教育したり、より社内の意見交換がよりオープンになるような仕組みを作ったりして、イノベーションが生まれやすい企業文化を育む努力をしている。

例えば、社内プラットフォーム”OPEN-IDEAS”では、個人的にもチームとしてもアイデアをシェアすることができ、気に入ったものへの投票やコメントや意見の交換ができる場として活用されている。また、そこで出てきたアイデアはHotel Labsと呼ばれるいくつかのキーロケーションで試され、それに対して実際に従業員からフィードバックを集めるという仕組みができている。最近のケースでは、AccorHotelグループのホテル専用のグーグルグラスのようなものを作り、プロトタイプをテストしたという。

またAccor Hotelは、Thecampという巨大イノベーションラボの出資・設立を行っている。Thecampは、コワーキングスペースのような形をとっており、入居企業同士がパートナーシップを結ぶ関係で、イベント開催や意見交換などノベーションのためのコラボレーションが活発に行われている。入居団体もスタートアップ、非営利団体、大企業と幅広い。

他にも、Accor Hotelでは、6 months education programというイノベーションプログラムを社員に提供している。このプログラムでは、 参加者らが、毎回出されるテーマに則ってチームごとにプロジェクトを行い、最終成果として、プロジェクト結果をピッチし、パートナーになっている専門家やスタートアップからのフィードバックを受けている。

Accor Hotelは、企業内での文化づくりに注力しながらも、コワーキングラボのパートナーシップを使い、新たなホスピタリティのあり方に挑戦する複合型のイノベーションラボを推進している。


Openideaのプラットフォーム(画像転載元:Accor Hotelの公式サイトより)

番外編 大手日本企業A社のケース

最後に、弊社クライアントでITコンサルティングを行う大手日本企業のA社の例をご紹介したい。A社は、事業に積極的な若手社員の育成を当初の目的として、弊社のイノベーションブースターを利用され、結果的に実質的なイノベーションラボの設立に漕ぎ着いた。

イノベーションブースターに参加したA社の参加者らは、サンフランシスコ市内のオフィスで10週間のプログラムを通して、デザイン思考を学び、その考え方を基に、新規事業のアイディエーションからプロトタイプ、最終的に地元の投資家らがジャッジとして参加するピッチイベントに登壇された。

参加者らは、トライ&エラーのプロセスを通じて新たなものづくりに挑戦していくマインドセットを身につけ、帰国後プログラム卒業生が自主的にイノベーションラボを設立した。現在は、デザイン思考を軸に新規サービスの創出に関わる立派な一部署として認められている。

A社は、外部のプログラムを利用して社員にお試しラボを体験させ、結果的にインハウス型のイノベーションラボを設立させるに至った複合型の一例と言えるだろう。日本の大企業はアメリカの企業ほど柔軟になれない傾向が強く、イノベーションラボの導入には及び腰になりがちだが、これは一つの好事例として捉えられるのではないだろうか。


イノベーションブースターでのプロトタイピングフェーズの様子

まとめ

以上では4社の事例を紹介してきたが、他にもたくさんの大企業たちがそれぞれの方法でイノベーションラボを創設し、新たなものづくり、ことづくりに励んでいる。

特に、大企業では長年培われてきたものがある中、新たなものを作り出すのにはリスクが伴うかもしれない。だからこそ、「失敗することが許される<失敗して学べる」環境=イノベーションラボが重要なのではないだろうか。

物理的なイノベーションラボを作ることへのハードルが高ければ、まずはイノベーションのマインドセットを持った社員の育成から始めてみてはどうだろうか。コワーキングスペースやミートアップ、各種イベントなど、コラボラティブな可能性に触れる機会の多い場所に身を置いてみるのも良いかもしれない。

関連記事:

参考:

メールマガジン登録