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2018.03.26

最近のスタートアップのロゴのスタイルが似通ってきている問題について

お気に入りのスタートアップやサービスのロゴがいつの間にか変わっている。このような事が最近増えている。少し前までであれば、「ロゴのリデザイン ー なぜGapが失敗しAirbnbが受け入れられたのか」でも見られるように、ロゴの変更やリブランディングは一つのトピックとして、多くの人たちからの反響が得られていた。

しかし、最近ではなぜか”しれっと"変わっているケースが後を絶たない。それも新しいロゴのデザインが”ある一定の”共通パターンをなぞっていて、特にロゴタイプの部分はどのロゴもかなり似通ってきている。

スタートアップのビジョンをロゴで表現

スタートアップを始めた当初には一体何があるであろうか?ファウンダー達の理想的な未来へのビジョン、名前、そしてロゴぐらいだろう。プロダクトもほぼ無い状態の場合、見た人の印象に残るのはその名前とロゴぐらいしか無い。そのために、自分たちのビジョンをロゴに込めて表現するケースは珍しく無い。

会社のフェーズによってロゴの役割が変化する

スタートアップは、急激に成長することをゴールとしていることから、短期間のうちに会社のフェーズがどんどん変化する。最初は、既存の常識に囚われたくない反逆精神を持った若者たちの社会への挑戦から、ユーザーを獲得。大きな資金を調達し、多くの人が関わることで、バランスのとれた”まじめにな”企業へと成長する。

ユーザーのターゲットも特定の考えを持ったアーリーアダプター獲得から、世間一般の人々へのサービスの浸透を目指すためのゴールのシフトする。知名度が低いうちはロゴも他とは異なる奇抜なデザインで目立つことで覚えてもらう事を目的としていたのが、徐々に市民権を得て、一般ウケするものへと変貌を遂げる。まるでこれはデビュー当時は奇抜なメイクで目立っていたビジュアル系バンドが売れてくるにつれて、地味な服装とスッピンになっていくのに近い感覚だろう。

 もちろんこの変化には、当初は自分たちで未熟なデザインをしていた時代から、徐々に専属のデザイナーやデザインチームを要するようになった事も大きいだろう。そうなってくると、ロゴもセオリーに合ったデザインが施される事となる。

このロゴの変革は、既存の概念を破壊するユニークなサービスから、日々使いたくなるシンプルで使いやすく分かりやすいサービス体験をビジュアルとして表現しているのである。スターアップの存在としても、ユニークなサービスを通じて世の中に変革をもたら役割から、ユーザーの生活の一部に欠かせない存在になる事に変貌をとげ、それを具現化する方法の一つとしてロゴが存在している。

実はロゴタイプよりもアイコンの方が重要な時代に

ちなみに、スタートアップの"ロゴ"と言った場合、最近ではその多くが"アイコン"をイメージする事が多いだろう。その理由は単純で、アプリのアイコンそのものがロゴの役割をしているから。厳密に言うと、ロゴはアイコン部分のロゴシンボルと文字の部分のロゴタイプに分けられるのであるが、現代においてはとりあえず"アイコン = ロゴ"の認識が一般的になりつつある。

 

この辺の変化は、経験豊富なベテランデザイナーなどからすると"邪道だ!"と叱責されるかもしれないが、これも時代の変化によるもので、それに順応できない方がデザイナーとしての能力が低いと言わざるを得ない。

トレンドはサンセリフ書体を使ったシンプルスタイル

では最近のロゴ共通するパターンとは何なのか?ロゴタイプの部分が丸みを帯びたサンセリフの書体を利用し、余計なエフェクトやアクセントを廃し、全体的にシンプルにまとめ上げられている。まるで社名をデザインソフトで”サクッと"タイプしただけのように見える。

ちなみに”サンセリフ”とは、文字の書体の一つの種類。「サン」とは、フランス語で「〜のない」という意味で文字にとめ、はね、はらい、などのが無いタイプのもの。日本語だと”ゴシック"と呼ばれるものに近い。代表的なフォントとしてHelveticaやFuturaがあげられる。

 

 

参考: タイポグラフィーとブランディングの密接な関係

もちろん文字と文字との間のカーニングの調整や、全体的なバランスも考慮されているが、どれも同じようなパターンを踏襲しているようにも見える。

一番の原因はスマホなどのデジタルデバイス

アメリカのデザインスクールでは、原則的にセリフ書体は印刷媒体、サンセリフ書体はデジタル表示用に使い分けろと教えられる。これは、人間の目の性質と解像度との関係が理由。

新聞などの紙媒体では、メリハリの多いセリフ書体の方が文字を識別しやすいが、解像度の低いデジタル画面では、セリフの細い線が見えにくくなってしまう特性があるため、サンセリフを使う事がセオリーとされている。

参考: 米国のデザイン教育から学んだこと

それに加えてWebやスマホアプリなどのデジタル系のサービスを提供することの多いスタートアップの場合、ロゴを見られる場所が圧倒的にデジタルになるため、おのずとセリフ書体を利用する事が多くなる。特にスマホなどの小さい画面の場合、セリフの細い線は画面が小さくなると表示に限界が生じるので、デザインの幅が限られてしまう。

様々な大きさやスペックのデジタルデバイスに対応するには、小手先の装飾は通用しない。よりシンプルでわかりやすいデザインが必要とされてくる。フラットデザインやマテリアルデザインなどが普及したのにはそのような背景もある。ロゴにおいても、GoogleのようにCSSでも書き出せる仕組みにしたのもまさにデジタル化の流れの一つだろう。

メルカリもアメリカでリブランディング

日本発のユニコーン企業として注目されているメルカリであるが、実は先日アメリカ版のロゴを一新した。それもかなり大きな変更を行った。メルカリのこのリブランディング施策は、実は上記のトレンドとは全くをもって逆行する形である。

 

もともとメルカリのロゴは、可愛いアイコンと丸みを帯びた整ったサンセリフ書体のロゴタイプで、最近のトレンドに沿ったデザインだったのが、まるで立ち上げ期のワンパクなスタートアップっぽいロゴに変化したのだ。もしかしたら彼らはアメリカではまだまだ"とんがった"存在でいたいという事なのだろうか?

これからはロゴもユーザー体験の一部になる

ここまで説明してきた"ロゴ"であるが、一般的にブランディング要素の一つとして考えられる事が多い。しかし、デジタルサービスが主流になった現代では、それに加えてサービスにおける体験をはじめとして、複数のタッチポイントでのUXがブランド構築の役割を担うようになってくる。そうなると、ロゴ単体での役割は限定的になるだろう。言い方を変えると、ユニークな体験が提供し続けることができれば、ロゴはコンサバティブになっても問題はないのである。

加えて、最近話題のスマートスピーカーをはじめとする音声認識型サービスなどにおいては、まさに"音声"がそのサービスのアイデンティとなるわけで、"ロゴ"の概念が大きく変わってきてる。現に、AlexaやSiriといったサービスにはロゴはほぼ無いと言っても良い。"音"を通じたユーザー体験が価値となっているので、ビジュアル要素が極力少なくなっているのも理解できる。

ちなみにComScoreの調査によると、2020年までには検索のおおよそ50%は音声によるものになるとのことで、ロゴに合わせて社名自体もユーザー体験において重要な役割を果たすようになるだろう。発音のしやすさや覚えやすさから始まり、下記のように"動詞"として定着するかが勝負となる。

  • Google it - 検索する
  • Tweet it - ツイートする
  • Instagram it - インスタでシェアする

参考: スタートアップやプロダクト名を考える際に重要な6のポイント

ユーザー体験がブランド構築のコアになる

このように、ロゴをはじめとして、企業やブランドが一方的に発信する「ブランディングメッセージ」というものはすでに時代に適合しておらず、過去の異物になり得る。これまでは、企業のロゴやコーポレートI.D.、広告やマーケティングキャンペーンなどを通じて、消費者やユーザーに対してのブランド形成が一般的であった。

しかし、ふと考えてみると「うちのブランドはこれを強みとしており、貴方にこんな価値を届けます」と表現するだけでは、あまり意味がない。

消費者としてはむしろ「では、実際にそれを体験させてみてよ」と言いたくなる。これは、ミレニアル世代をはじめとして、誰もが簡単に体験を受け取ることのできるこの時代に生きる人たちの視点からすると当たり前の価値観だろう。

ブランド構築の側面を考えてみても、UXデザインのプロセスをしっかりと取り入れることで次世代の企業やサービスの価値を向上させる事ができると考えている。

参考: UXピラミッド – UXデザインの正しい評価方法 –

 

筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

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