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2020.03.09
【2020秋冬パリコレ ハイライト4】それぞれのクリエーションを追求する、強い個性を携えた日本人デザイナーたち
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(写真左から)ウジョー、アンリアレイジ、サカイ
手仕事の美しさを見せる「マメ(Mame Kurogouchi)」。独自のアイデアを果敢に具現化する「アンリアレイジ(ANREALAGE)」。テーラードの新解釈を見せたパリ初上陸の「ウジョー(Ujoh)」。モノ作りの喜びを感覚的に表現した「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」。自ら考案のコンセプトを進化させた「ビューティフル ピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)」。シックでドレッシーに変化する「サカイ(sacai)」。トレンドを全く無視するのではないが、各人の自由な発想に重きを置く姿勢を感じさせる日本人デザイナーたちだった。
マメ(Mame Kurogouchi)
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黒河内真衣子による「マメ」は、パリ薬科大学の講堂でショーを開催した。コレクションタイトルは“Embracing -編む-”。先シーズンから続く“包む”というテーマを深く追求し、「人を包みこむ柔らかな籠」をイメージ。リネンコードを刺繍した繊細なコードレースをあしらった大胆なスタイリングで、フェミニンで美しく、しかし非常に力強いコレクションに仕上げている。
コードを刺繍したレースのベストや、襟や袖元にレースを刺繍したドレスなど、本来ならばフェミニンで繊細に終始するはずだが、そこはかとない強ささえ感じさせる。ドロップショルダーのオーバーサイズコートや、様々なパターンを組み合わせたニットブルゾンなどは、ゆったりしたシルエットと袖の丸みが着物を彷彿。
コード刺繍を重ねた綿入りブルゾンや、レザーリボンを編んでモチーフを描いたレザーブルゾンなど、後半のアイテム群は特に美しく、その迫力に圧倒された。
アンリアレイジ(ANREALAGE)
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森永邦彦による「アンリアレイジ」は、カンボン・カプシーヌで最新コレクションを発表。コレクションタイトルは“Brock”で、「つくってはこわす。こわしてはつくる。」積み木から着想を得て、袖、見頃、リブなどのパーツを外して組み合わせることが出来るアイテムを提案。2つ以上のアイテムを購入すれば、様々なコーディネートが可能となる。
特に袖のパーツは積み木のフォルムからインスパイアされ、半円だったり三角に尖っていたりで、ルック全体に強烈な個性を与えている。
ショーが進むにつれて、トレンチやダウンジャケットやアランニットなどの様々なアイテムが一つのルックに組み合わされ、奇異な印象さえ与えるが、1つのルックとしてのまとまりを感じさせ、「アンリアレイジ」ならではの独自性に驚かされるのだった。
ウジョー(Ujoh)
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アレクサンドル3世橋の袂にあるクラブ、ル・ブリッジにて新作を披露した西崎暢による「ウジョー」。ヨウジヤマモト社でパタンナーとして活動した後、2009年に独立してブランドを設立。昨年まではミラノでコレクション発表をしてきたが、今季初めてパリでショーを開催した。
テーラードを主体とするコレクションは、各アイテムを解体して再構築したような複雑な構造。どのような作りになっているのか、一瞬では把握できない。それが服にモダニティをまとわせ、ベーシックなカラーパレットと相まって上品な印象を与えている。
左身頃をカットしてベルトで開閉させるジャケットには、プリーツのバギーパンツをコーディネート。全体的にゆったりしたシルエットのアシメトリーアイテムで構成している。白いテープを縫い付けてグラフィカルなモチーフを描いた素材のコートや、チェックのブランケット地を用いたワンピースなど、素材使いの独自性も目を引いた。
イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)
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近藤悟史による「イッセイ ミヤケ」は、パリ17区のカルノー高校の体育館にてショーを開催した。今季もダニエル・エズラロウによる演出で、ブランドが持つハッピーで楽しい空気感を会場の隅々にもたらすショーとなった。
“Making Speaking, Speaking Making -話すことをつくる、つくることを話す-”とするタイトルが掲げられ、幼少時のもの作りの時に感じた言葉に表せない感覚を思い起こしながら、言語や文化を超えて人は繋がることができるのではないか、とするメッセージが込められている。
ジャケットの身頃を外すとドレスになるアイテムや、編地と色を替えながら織ったニットドレス、羽のような素材のセットアップなど華やかなルックがある一方で、墨で描いたようなプリントのコートドレスやアースカラーのセットアップなど、渋さを感じさせるルックもあり、その強弱が心地良い。
最後は、複数のモデル達が袖の繋がったニットを着用して登場。歩調を合わせて歩くが、時折丸く固まって身体を寄せ合い、そして再び歩き出す。人と人の繋がりを見事に表現し、感動的なフィナーレとなった。
ビューティフル ピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)
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コルドゥリエ修道院跡、現パリ医大のホールでショーを開催した、熊切秀典による「ビューティフル ピープル」。工事現場のように柱に断熱材をまとわせ、工事現場用のパネルを設置して荒々しさを感じさせるランウェイに仕上げた。
昨年発表された2019春夏コレクションから、表地と裏時の縫製に工夫を凝らすことで違った表情を与える「サイドC」のコンセプトを続け、今季もひねりを加えたアイテムで構成。断熱材の表示のようなモチーフを、ライニングや綿入りブルゾンの表地に、あるいはボリュームあるニットプルにプリントして、無機質な表情を与える。一見してその構造を把握できないコートやドレス、ケープなどは、不安定な美しさを見せながらもシックな印象。
インダストリアルなベルトを編んだバッグやスナップ留めのバッグ、巾着とトートをドッキングさせたバッグなども強いアクセントに。メンズコレクションにも注目したい。
サカイ(sacai)
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阿部千登勢による「サカイ」は、ハイブリッドの作風を堅持しながらも、よりドレッシーでシックなスタイルを提案した。
コートとドレスが一体となったアイテム、ジャケットとコートが一体となったアイテム、パンツとニットドレスが一体となったアイテム。ジャンル分け不能であるが、おそらくは全てドレスとして十分に機能するはずである。
ボンバージャケットやワークウェアブルゾンでさえも、今シーズンはこの上なくドレッシーに感じさせた。
タイポグラフィプリントを重ねたドレスが登場したが、これは20世紀半ばに活躍したインテリア&テキスタイル・デザイナー、アレキサンダー・ジラードとのコラボレーションによるもの。また、NASAによる宇宙のイメージをプリントしたドレスも見られ、このブランドらしい手法で美しいルックに仕上げられていた。
このショー開催から2日後に、今年7月に発表される予定のジャン・ポール・ゴルチエのオートクチュールコレクションに、ゲストデザイナーとして阿部千登勢が迎えられるというニュースが報じられた。今季のドレッシーなコレクションからクチュールへの流れを考えると、期待を募らせずにはいられないのだった。
取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
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