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2020.03.07

【2020秋冬パリコレ ハイライト2】自然回帰、サステナビリティ、ヴィンテージ、アンティーク…トップメゾンが放つキーワード

(写真左から)ドリス ヴァン ノッテン、メゾン マルジェラ、ケンゾー

 環境への意識を打ち出しつつ、ヴィンテージやアンティークからインスパイアされたコレクションが目立った今シーズン。中世から1990年代まで、時代と国を問わずに温故知新を体現した。

ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN

 バスティーユのオペラ座でショーを開催した「ドリス ヴァン ノッテン」。80年代のロンドンのクラブシーンから着想したコレクションは、30年代のハリウッドやセルジュ・ルタンスが生み出すイメージ、80年代の日本のミニマリズムなど、様々なインスピレーション源をミックスしながら、夜のミステリアスな世界を表現している。

 

 60年代のアールヌーヴォー・リバイバル的なアイリスモチーフのドレスや、膨れ織りのジャカード素材のワンピース、サイケデリックなサテンジャカードのスーツなど、モチーフの洪水はこのブランドならでは。グリーン、パープル、オレンジ、ブルーなど、強い原色を使いながらも、ダークな側面を引き出して、1つのルックとしてのまとまりを感じさせるから不思議だ。

 

 セルジュ・ルタンスの写真作品を彷彿とさせる色濃いメイクが、妖艶さを強調し、エロスさえ漂わせる。これまでの「ドリス ヴァン ノッテン」には無かった世界観の中で、“着飾ることを楽しむ”という前シーズンからのテーマを大きく推し進めていた。

ロエベ(LOEWE

「ロエベ」は、ユネスコ本部でショーを開催した。京都をこよなく愛するアーティスティック・ディレクターのジョナサン・アンダーソンは、日本からの影響を随所に感じさせるコレクションを披露。

 

 ウエスト部分に円形にギャザーを寄せたジャカード素材のドレスや、バックサイドにノットを配したドレス、ローエッジのパーツをグラデーションに繋いだコートなどに続いて、和柄のギャザードレスが登場。ドレスには陶器のパーツがあしらわれているが、これは陶芸家の桑田卓郎とのコラボーションによるもの。桑田卓郎は「ロエベクラフトプライズ2018年」で特別賞を受賞している。今季はドレスの他に、バッグのパーツも担当。

 

 今季は、素材の組み合わせの面白さとボリュームあるカッティングの妙が魅力を放っており、ビーズフリンジを刺繍したニットトップや桑田卓郎とのコラボレーションのドレスなど、クラフトを強烈に感じさせる強いアイテムとのコントラストが美しいハーモニーを生んでいた。

ケンゾー(KENZO

 アーティスティック・ディレクターにフェリペ・オリヴェイラ・バティスタが着任して初の「ケンゾー」のコレクションは、パリ5区の聾唖学校の中庭にチューブを設置して発表。

 コレクションタイトルは“Going places”。自らも様々な場所に旅行をするというフェリペ・オリヴェイラ・バティスタは、遊牧民的な人々にインスピレーション源を求めている。高田賢三の残したアーカイブ作品からも影響を受けつつ、リスボン出身のネオリアリズムのアーティスト、フリオ・ポマールとのコラボレーションで新しい虎のイメージも打ち出した。

 

 砂漠の民や遊牧民を思わせるコートやブルゾンは、ゆったりとした長いシルエット。バラをあしらった迷彩モチーフは高田賢三のアーカイブをリアレンジしたもので、その仕上がりは探検隊のコスチュームのよう。

 

 旅先での着やすさ、使いやすさといった機能性を重視した結果、シンプルで柔らかな曲線を描くシルエットのコレクションが完成した。

パコ ラバンヌ(PACO RABANNE

 ジュリアン・ドッセーナによる「パコ ラバンヌ」は、ヨーロッパの様々な国や時代の衣装から着想を得て、現代でこそ魅力を発揮する女性の神秘的な側面を表現。

 

 18世紀の男性用のフロックコートを想起させる刺繍入りのコートや、中世の王族の衣装を思わせるドレスなどは、一見時代がかっているが、再構築されてモダンな印象。甲冑を思わせる鎖帷子のドレスは、パコ・ラバンヌならではのアイテム。レースをあしらったドレスには、マリー・アントワネット王妃をイメージしたバラや矢車草がプリントされたバッグが合わせられ、ロマンティックでフェミニンな仕上がり。

 

 刺繍やレースを控えめにあしらったコート類は、90年代のミニマリズムにイメージを求めたもので、装飾的なアイテムとのコントラストが心地良い。

 

 クチュールメゾンとしての技術力の高さと、ジュリアン・ドッセーナのデザイン性の高さが融合した、力強くも繊細で、魅力の詰まったコレクションとなった。

セリーヌ(CELINE

アンヴァリッド(廃兵院)の庭スペースに建てられた特設会場内でショーを発表した、エディ・スリマンによる「セリーヌ」。今季も“フレンチ・ブルジョワジー”をテーマに、60~80年代の各時代のヴィンテージの要素を巧みに取り込みながら、モダンでフレッシュな新しい「セリーヌ」像を描いて見せた。

 

 メンズを含めて総数111ルックのコレクションは、全体を通して全て細いシルエットで、レディースのスカート丈は短め。シンプルなジャケットにボータイブラウスとチェックのスカートといった、70年代を思わせるルックから、複数のモチーフのシルクモスリンをあしらったティアードワンピースとサン・ジェルマン・デ・プレのブルジョワを思わせるベルベットジャケットのセットアップなど、80年代を想起させるルックまで、これまで以上にレンジの広さを感じさせる。

 

 モロッコ風の刺繍ベストや、インド風のめのうと金モール刺繍のドレスなど、エキゾチックなアイテムも登場。特に刺繍のアイテムは顧客向けて販売され、店頭には置かれないという。

 また今季、特に目を引いたのが、天然石をあしらったネックレスやベルトのバックルなどのアクセサリー。その中でも、エディ・スリマンが直々に石を選び、加工を施さずにセッティングしたアクセサリーライン「セリーヌ・クリスタル」のアイテムが発表された。また、セザールの代表的な作品である圧縮彫刻をモチーフにしたネックレスも登場。シルバーと、シルバーにゴールドを乗せたヴェルメイユの2種類、各100個限定で販売される。

メゾン マルジェラ(Maison Margiela)

 新しいファッションのあり方を提示した、ジョン・ガリアーノによる「メゾン マルジェラ」。1月に発表されたクチュールコレクションでのテーマとなった“ブルジョワ・ジェスチャー”の哲学を発展させ、自然との共存やサステナビリティを意識した新レーベル「レチクラ(Recicla)」を創設した。これはRecycle Upcycle Replicaを合わせた造語。

 

 消費主義・資本主義が飽和状態の中、生産過多のもの、既存の服をアップサイクルし、再生させる作業を行っている。そうして、真のラグジュアリーとは何かを問いかけるという。

 

 ヴィンテージの赤いコートは、左側の襟を右側の襟に重ね、左身頃の表地をボウタイにし、左身頃のライニングをドレスのようあしらって全く違った表情に仕上げられている。オレンジのコートは襟のハ刺しを露わにさせ、ボタン部分の身頃以外をカットしてほぼ原形を留めていない。ショーに登場した編カゴバッグは、レザーのパーツで装飾されたアップサイクルアイテム。

 

 それら「レチクラ」のアイテムはほぼ一点ものとなるため、世界でも限定的なショップでのみの取り扱いとなる。もちろん、コレクションには「レチクラ」以外の生産可能なアイテムも多く登場している。服を再構築して新しいアイテムに仕上げる、という姿勢で貫かれているため、その差異を見分けるのは中々困難だが、ブランド哲学を思い起こしながら間近で見比べてみることを勧めたい。

エルメス(HERMÈS

 ナデージュ・ヴァンヘ・シビュルスキーによる「エルメス」は、ラ・ギャルド・レピュブリケンヌ(フランス共和国親衛隊の本部庁舎)内の特設会場でショーを開催した。「エルメス」のコードとエレガンスを保ちながらフレッシュさを打ち出すという、バランスの妙を見せた。

 

 乗馬の競技であるジャンピングの障害のポールから着想を得たヴィヴィッドなカラーパレットが登場し、カラーブロックのニットや原色使いのスカーフプリントをあしらったセットアップは新鮮。モールスキン加工のコットンやコーデュロイのサルトリアルジャケットから、馬舎で着用するつなぎを思わせるワークウェアや、アウトドアウェア風のコート、スタジアムジャンパー風のブルゾンなど、カジュアルとフォーマルの采配も絶妙。

 

 今季特筆すべきアイテムは、リボン状にカットしたシルクプリントやラムレザーをニットで編みながらプリーツに仕立てたスカート。このメゾンならではの手の込んだアイテムで、美しくしなやかな動きを見せる。チューブ状に編まれたネックラインにメタルの金具を取り付けたチョーカーを通したニットを合わせたり、ハウンドトゥースモチーフのドロップショルダーのジャケットを合わせたり、「エルメス」にしか成し得ない優美かつモダンなルックに仕上げていた。

取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)

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