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2020.03.08

【2020秋冬パリコレ ハイライト3】「カジュアル&フォーマル・ミックス」その采配で遊びを生み出す注目ブランド

(写真左から)ニナ リッチ、オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー、ステラ マッカートニー

 ストリートウェアやワークウェアを取り入れながら、テーラードを得意ジャンルとして打ち出してきた「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」や「ステラ マッカートニー」が、今季はドレッシーな傾向を強めた。フォーマルなルックをカジュアルにアレンジした「ニナ リッチ」、そしてカジュアルウェアに刺繍を施してクチュールライクに仕上げた「ロシャス」は、カジュアルとフォーマルの間を行き来して新しいクリエーションを見せる。

オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)

 1月のメンズコレクションで復帰したヴァージル・アブローによる「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」は、アコーホテル所有の複合競技場にてショーを発表。スポーティなストリートの要素を配しながら、クチュールとテーラードを前面に据えた内容で、真っ二つにカットされた車をランウェイに配置し、その荒々しさとドレッシーな各アイテムとのコントラストを強調していた。

 

 スポーティーなブルゾンをミックスしたプリーツチュールとラフルのドレスでスタート。ギャザーのベルトを飾ったアシメトリーのジャケットを合わせたスーツや、グラフィティプリントのジャケットなど、テーラード類はシンプルなシルエットでまとめている。レザーのブルゾンやジャンプスーツといったワークウェアインスパイアのアイテムには、ロンググローブやクリスタルのイヤリングを合わせてよりシックに。

 

 ジョルジナ・グレンヴィルやデブラ・ショーなど、90年代に活躍したスーパーモデルも出演。キャロリン・マーフィーは、トム・フォード時代のグッチを思わせるホールの開いたドレスをまとって登場したが、これは、昨年から続くエメンタール(穴あきのチーズ)のアイデアを応用したもので、偶然ともいえるオマージュとなっていた。

 

 ジジ・ハディッドが着用した、パーカーを組み合わせたクリノリン入りのプリーツチュールドレスが最終ルック。クチュールへの意識を感じさせる今シーズンの象徴的スタイルとなっていた。

イザベル マラン(ISABEL MARANT)

 「イザベル マラン」は多くの顧客を招いて、パレ・ロワイヤル内の特設テントでショーを開催。ポンチョやファーベストなど、ノマド(遊牧民)的なスタイルで幕を開け、エキゾチックなフローラルプリントをあしらったセットアップや、グラフィカルなプリントのワンピースが登場。

 

 80年代を思わせる大きな肩が今季の特徴で、まるで甲冑のようなフォルムを見せた。ニットドレスでさえも大きなパッドが入り、パフスリーブのトップスも肩のラインが強調されている。

 

 最後のブラックのシリーズは、まさに80年代の時代感を凝縮して見せ圧巻。レザーのパッチワークスウェットや、リュレックスのミニドレス、イヴ・サン・ローランを思わせるワンショルダーのドレスなどには、シルバーやクリスタルの輝きがプラスされ、グラマラスなイメージでまとめられていた。

バルマン(BALMAIN)

 オリヴィエ・ルスタンによる「バルマン」は、催し物会場エスパス・シャンペレでショーを開催した。1月に発表されたメンズコレクションに引き続き、自らのルーツであるアフリカにイメージを求め、スカーフプリントをあしらいながら、エキゾチックなノマド(遊牧民)風スタイルでまとめ上げている。

 

 ポンチョ風のコートやサファリジャケット、サルエルパンツなど、砂漠を思わせるアイテムに、立体成型したレザーのビュスティエや刺繍を施した絢爛豪華なニットなど、手仕事の美しさを見せるアイテムをミックス。

 

 テーラードは80年代を彷彿とさせる大きな肩が特徴で、BGMとして流れる80年代のフランスの歌謡曲と絶妙なマッチングを見せた。

 

 ヘレナ・クリステンセン、リヤ・ケベデ、エステル・カニャダなど、1990~2000年代に活躍したスーパーモデルも出演し、懐かしさと新しさが溢れるコレクションとなった。

トム ブラウン(THOM BROWNE)

 ボ・ザール(国立高等美術学校)の講堂でショーを開催した「トム ブラウン」。ランウェイは雪景色で、フェルト素材による動物の手縫いアップリケを施した幕で客席を取り囲んだ。

 ショー冒頭には動物のマスクをかぶったメンズモデルが登場し、ドアを開けると全く同じ服をまとった男女のモデルが登場。

 

 異素材を組み合わせて冬景色を表現したジャケットや、ゾウモチーフのダウンジャケット、動物のアップリケジャケットなど、動物モチーフのアイテムが目を引く。全く同じアイテムを着用するため、メンズモデルでもスカート姿だったり、ドレスをまとっていたりで、今季もアイテムをジェンダーで分けない姿勢を貫いている。

 

 シンプルなフォルムのテーラードでも、グラデーションに刺繍したコートや、ローエッジのパーツを立体的に重ねたジャケット、襤褸(ボロ)のように端切れをアップリケしたジャケットなど、クチュール的なアイテムが登場し、終始、招待客の目を楽しませた。

アレキサンダー マックイーン(Alexander McQueen)

 サラ・バートンによる「アレキサンダー マックイーン」は、3区の旧市場だったカロー・デュ・トンプルでショーを開催した。今季はウェールズ地方の民族衣装など、フォークロアをテーマに据えながら、このブランドらしいエッジーなカッティングと装飾性を披露。

 

 キルト族の赤ん坊を包むためのブランケットから着想を得たパッチワーク&アップリケコートドレスには、キツネやウサギのモチーフをあしらったリカーケース風バッグをベルトからぶら下げ、アンティークの要素を加える。

 

 このブランドらしいグラフィカルなパッチワーク・テーラードも健在で、今季はグレンチェックと黒を組み合わせて大きなチェックを表現。中世の王族を思わせるハートモチーフのジャカード素材のドレスは、愛とラブレターというメッセージを込めている。今季は特に赤がキーカラーとなり、ラベンダーやピンクは赤の派生色として登場。

 

 ギピュールレースを立体的にあしらったドレスや、刺繍で構成したスプーンを無数に取り付けた総刺繍ドレス、鳥の巣をイメージしたチュールとホースヘアによるグランドソワレ…。後半は、アレキサンダー・マックイーンのDNAをダイレクトに感じさせるアイテムの数々に圧倒された。

ステラ マッカートニー(Stella McCartney)

 ショー会場で、ゲストたちの来場によって排出される炭素を相殺するために苗木を配布した「ステラ マッカートニー」。サステナブルなストレッチデニムCorevaを初披露したり、ショーには登場していなかったが、接着剤を一切使用しないループスニーカーを継続して発表したり、自然環境への高い意識はこれまで通り。

 

 苗木を配っていたのは動物の着ぐるみを被ったスタッフだったが、今季は動物を象ったアクセサリーにも象徴されるように、動物愛護や環境保全についての強いメッセージが込められている。

 

 ボリュームあるニットドレスやドロップショルダーのコートなど、このブランドらしいゆったりしたシルエットのアイテムが多かったが、ワークウェアなどのカジュアルな要素が減り、その分ドレッシーでエレガントなアイテムが増えた印象。

 

 アールデコのグラフィカルなプリントは、それだけで各アイテムを優美なムードに変えるが、これはロシア出身のデザイナー、エルテのアーカイヴ作品から引用されたもの。ノスタルジックな雰囲気をまとわせながらも、このブランドらしいモダニティがしっかりと打ち出され、新しい魅力を放つコラボレーションとなっていた。

ロシャス(ROCHAS)

 アレッサンドロ・デラクアによる「ロシャス」は、シャイヨー宮内のボール・ルームにてショーを開催。これまでボーリングシャツなどのスポーティなアイテムや、ワークウェアなどカジュアルなアイテムを取り入れてきたが、今季はシャツやタンクトップに刺繍を施してクチュールの感触を加えている。

 

 刺繍を施したシルクジャージーのドレスで幕を開け、ダブルフェイスコートやファーコートなど、極端にドロップショルダーのシルエットが目を引く。

 

 Rのロゴを配したカジュアルなニットプルには、刺繍を施したプリーツスカートとタートルネックのブラウスをコーディネイト。ウエスタンシャツにはゴールドの刺繍を施してゴージャスに。

 

 リュレックスの起毛素材によるコートドレスや、ジャカード織の糸をカットした素材によるドレスなど、フリンジのように風になびくアイテムが後半を彩った。

取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)

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