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2025.08.01

【2026春夏東京メンズ ハイライト】ワーク、イージーテーラリング、可変──定番の再構築と個性の拡張

写真左から「カミヤ」「アタッチメント」「ヴェイン」「アモク」

 

 2025年7月の東京のコレクションシーンでは、メンズデザイナーを中心に独自スケジュールで2026春夏コレクションを発表するケースが見られた。その狙いは、海外セールスにタイミングを合わせることであり、この動きはますます強まっている。そして、ファッションウィークでのショーとは異なり、独自の形式やロケーション、独自の時間帯での発表ができることもメリットのようだ。
 
 発表されたコレクションの共通する点としては、定番アイテムへの別アプローチ、可変アイテムやユーティリティの追求、自身の原体験や持ち味を拡張するケースが多く見られた。ワークウェアの新解釈やイージーテーラリングなど、先行した欧州コレクションとシンクロする部分も見られた。

カミヤ(KAMIYA)

Courtesy of KAMIYA/Photo by Shun Mizuno

 

 寺田倉庫でランウェイショーを行った「カミヤ」。今シーズンは、英の音楽ユニットであるザ・ケミカル・ブラザーズの楽曲「darkness will come」からインスパイアされたコレクションを発表した。
 
 暗闇(人生の苦難)を静かに受容しつつ、それでも前へ進む強さや静かな希望を感じさせるこの曲。これまでの持ち味をベースとしながらも、新たなものへの挑戦を示したという。その新しさとは、ドレッシーさと艶やかなエッセンスだ。キュプラのドレスシャツ、シルクとコットンを混紡したロングシャツ、シアー素材のトップスなどがそれだ。これらの新たな要素は、同ブランドの持つルードなアメカジに、さまざまな化学反応をもたらしたようだ。
 
 例えばカラーリング。フェード感のあるレッドやブルー、パープルなどがコレクションにリズムを与えた。フードマフラーやスリップオンを内包したビッグシルエットのレースアップスニーカー、ロゴを組み入れたバンダナ柄のセットアップなど、いつもの遊び心も満載だ。
 
 神谷康司デザイナーらしい凝ったアイテムにも注目だ。「ヒッコリー・シャツ・カンパニー」の象徴であるストライプのワークウェア、「バンソン・レザーズ」によるKAMIYAロゴのレザージャケット、「HTC」のスタッズベルトなど、服好きならではの無骨なコラボアイテムが目を引いた。
 
 順調に卸先を増やし、東京のコレクションシーンを牽引するブランドへと成長した「カミヤ」。海外への卸販売拡大を見据えて、コレクション発表時期を前倒しした。さらなる飛躍に期待したい。
 

アタッチメント(ATTACHMENT)

Courtesy of ATTACHMENT

 

 “Easily”をテーマにしたコレクションをショーで発表した「アタッチメント」。エレガンスと軽さ、そして若さを感じさせるコレクションだ。リチャードギア主演でファッション業界にも大きな影響を与えた映画「アメリカンジゴロ」からインスパイアを受けてコレクションを発表したという。同映画はジョルジオ・アルマーニが手がけたソフトスーツが注目を浴び、日本でも1980年代から90年にかけてメンズのスーツスタイルに改革をもたらせた。

 

 「アタッチメント」のコレクションでも「ソフトフォーマリティ」が軸となった。フレッシュなスカイブルー、鮮やかなコーラル、落ち着きのあるグレーなどボクシーなソフトテーラードスーツが描き出す、フリュイドなシルエットやドレープが優美だ。他のルックでもソフトなスラックスを合わせてメンズエレガンスを表現。多くはタックインし、シャツのブラウジングを楽しむスタイルだ。

 

 “Easily”はデニムでも表現。驚くほどソフトに仕上げた加工デニムのパンツはゆとりのあるフィットでイージーパンツのような気楽に着用できる。同ブランドがデニムパンツを発表するのは久しぶりだ。化繊のサテンでつくられたシャツ、タンクトップ、パンツも華やかさを加えた。

 

ヴェイン(VEIN)

Courtesy of VEIN

 

 
 「ヴェイン」は2026年春夏コレクションを、東京・恵比寿にある自社ショールームで発表した。“HURT COMMUNE”をテーマに据え、展示形式にもひと工夫が凝らされていた。
 
 会場では瓶ビールや宅配ピザが振る舞われ、“部屋飲み”をイメージしたカクテルタイムを実施。その空間の中でルックの撮影が行われるという演出だ。ゲストに混じってモデルたちが登場し、フォトブースでポージングして次々とルックを収めていく。全体としてアットホームな雰囲気が広がっていた。
 
 モデルたちがまとうのは、メンズウェアの定番であるテーラリングやワーク、ミリタリーアイテムに変化を加えたもの。オーバーサイズや可変性のあるディテールが特徴である。また、何人ものモデルは包帯のように布を巻き付けており、まるで骨折しているかのような装いを見せていた。
 
 この演出は、デザイナーの榎本光希が最近スポーツ中に骨折した経験で味わった“HURT(痛める)”から生まれたものだという。その際に感じた身体の不自由さ、そして家族や友人といった“COMMUNE”の温かな心遣いが、今回のコレクションのベースになっている。
 
 そのため、テーピング特有のプロポーションや、アンクルサポーター、エルボーパッドといったディテールがコレクションピースに落とし込まれている。なかでもアームカバーバッグは、ひときわ目を引く存在となっていた。
 
 ユーティリティ(利便性)とともに印象的だったのがカラーリングである。アーシーな色合いに加え、ライトグリーンなどスモーキーで曖昧なカラーが目立った。「淡い世界観や、おぼろげに覚えていることを思い出すような、そんな感覚を表現したかった」と、榎本デザイナーは語る。
 
 さらに、“HURT COMMUNE”というテーマの通り、仲間やコミュニティを表現したいという思いから「ZINE(雑誌)」も製作。会場には、パリで発表する際に街中に掲出しているポスターと同様の手法で張り出されていた。

アモク(amok)

Courtesy of amok

 

 「アモク」は “SHIFT” をテーマに、可変アイテムを用いてファッションの可能性を探った。渋谷区の会場では3つのスペースを使用。1つ目は、たくさんの書籍や資料に囲まれた仕事場を再現し、デザイナーである大嶋祐輝の頭の中を表現した。2つ目は、コレクションムービーを鑑賞できるスペース。そしてメインのスペースには、工事現場を模したようなインスタレーションを設置した。

 メインスペースのエントランスには、さまざまな有名企業のロゴをパロディ化したテープが、カーテン状に装飾されていた。そのカーテンをくぐると、2体1組のマネキンが対になって配置され、計4組(8体)が設置されている。一見するとまったく異なるアイテムに見えるが、実は同じアイテムを異なる着せ方で展示しているという。あるアイテムは表と背面で、別のアイテムは表と裏面で、それぞれ見せ方を変えている。

 「今回は、自分の中で改めてファッションにおける“面白さ”って何だろうということを考えた結果」と語る大嶋デザイナー。「『こんな着方があるんだ』とか『こういう提案の仕方があるんだ』っていう驚きや発見をもとに、その無限の可能性を突き詰めていきたいと思い、たとえばひとつのアイテムでも、2つの洋服に見えるようにしたり、着方によって4通り・5通りのスタイリングができたり、そういった“変化”のある服を目指した」と話す。そして「ただ作って終わりではなく、“SHIFT”というテーマの中で、視点を変えることで見え方がガラッと変わるということを示したかった」と続けた。

 この“可変性”こそが、今回の最大の特徴だが、同ブランドの魅力である自由な発想から生まれるデザインの楽しさも健在だった。アーシーカラーやフェード感のある素材をベースに、マルチカラーやストライプを取り入れ、ポップなバリエーションを表現したコレクションとなっていた。

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