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2018.03.30
世界の大企業に見る 企業理念を体現した5つの新規事業
大企業では、イノベーションを起こすのは難しいと言われるが、大企業の持つ潤沢なリソースがあってこそ成せるイノベーションというものもある。
freshtraxではこれまでにも大企業でのイノベーションについて取り上げてきたが、本稿では特にイノベーティブなアイデアだけでなく、大企業がこれまで積み上げてきたものを上手くレバレッジして新しいものを生み出したり、あるいは外部のイノベーションのタネを上手くスケールしたりした例を5つ紹介したい。
これらは、企業が持つビジョンもしくはミッションステートメントとも関連しており、昨今の大企業によるスタートアップとの協業の流れを活かすヒントになるかもしれない。
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1. フォード:シェアバイク
“自動車とモビリティのリーダーシップを通じて、人々の生活をよりよくするために、リーン、グローバル企業として一丸となって働く人”
中国でも一大ブームとなったシェア・バイクビジネスだが、今ベイエリアでもシェアバイクが熱を帯びている。その火付け役とも言えるのが、アメリカ車産業のビッグ3の一角を担うフォードである。同社は昨年の2017年に、GoBikeと名付けたシェアバイク事業をスタートさせた。
ベイエリア大気管理局とサンフランシスコ・ベイエリアの都市交通委員会と協力関係にあるMotivateという専門の会社が運営を担当し、フォードがスポンサー役を務める形だ。ベイエリア大気管理局の広報担当によると、これはカリフォルニア州で初めての公共シェアバイク・プログラムであり、アメリカ初の地域的な取り組みであるという。
利用法方法:
このフォードバイクは、街中に設置された専用の駐輪場に停められている。利用する際はそこから自転車を借りてまたどこかの駐輪場に返却するという仕組みだ。料金は1回乗り・1Dayパス・年間会員の3プランが用意されていて、年間会員は1回45分・それ以外は1回30分利用できる。支払いは、アプリまたは地域のパスモやスイカのようなICカードを使って行われる。駅から会社までの移動や、観光客が街を見て回るのにはちょうどいいかもしれない。
フォードは今後、モーター付きの電動自転車を含め今年中にベイエリアだけで計7000台の自転車を投入する。さらに、都市部の交通を意識して2016年に買収したスタートアップのシャトルバスのサービスも併せて拡大させるなど、自転車だけでなく、モビリティ事業全般の投資の手を緩めない。都市部の人口増加による交通渋滞の問題や、環境意識の高まりなどから、需要はまだ広がるだろう。
これらは決して社会貢献事業などではなく、営業利益率20%を見込んでおり成熟企業の成長に寄与することを期待されている。そして今回のこのシェアバイクビジネスは、フォードという会社を「クルマ」の会社ではなく、「モビリティ」の会社に変革したいという会社全体としての強い意志の現れとも言えるだろう。
サンフランシスコを含むベイエリアやシリコンバレー地域では、シェアバイクの競争は加速しており、Uber(ウーバー)やLimeBike(ライムバイク)といった会社などもこの動きに追随している。特徴的なのは、UberとLimeBikeの場合、駐輪場所を選ばない「乗り捨て可能」タイプの自電車であり、スマートフォンがあれば、好きな場所から乗って好きな場所に置いていけることだ。ちなみに、フォードバイクが鮮やかなスカイブルーに対して、ウーバーはエッジの効いたレッド、ライムバイクは穏やかなグリーンカラーとなっている。
2. ディズニー:シードアクセラレーター
“世界でトップのプロデューサーとエンターテイメントと情報のプロバイダーの一員であること。ブランドポートフォリオにより、コンテンツ、サービス、コンシューマープロダクトを差別化することで、我々は世界で最も創造的、革新的、そして有益なエンターテイメント・エクスペリエンスと関連商品の開発を追求します”
スター・ウォーズを製作するルーカスフィルムや21世紀フォックスのテレビ・映画部門の買収、自社ストリーミングサービスの発表など、アグレッシブなニュースが絶えないウォルト・ディズニー・カンパニー。ディズニーの通称で親しまれる同社は、映画やテーマパークだけでなく、メディアや音楽、製作技術などエンターテイメント全体に強い力を持っている。
そのディズニーが2014年から始めているのがディズニー・アクセラレーターだ。いわゆるシードアクセラレーターなのだが、ディズニーにしかできないことが存分に活かされている。このプログラムの選考を勝ち上がったスタートアップは、3ヶ月間ディズニーからメンタリングを受けられるだけでなく、ディズニーグループが保有する膨大なリソースとネットワークへ自由にアクセスできるようになる。具体的には、ロサンゼルスのディズニー社員も使うコワーキングスペースを仕事場として使えたり、投資家や各分野の専門家への紹介を受けたりすることができる。
プログラムを通して得られた知的財産権は、あくまでスタートアップ側に帰属するので会社が縛りを受ける心配はない。大企業ならではの太っ腹である。とは言え、このアクセラレーター発の製品・サービスとのコラボレーションもディズニーから多く発表されている。投資以外の面でしっかりとディズニー側にリターンが還元されている点は、やはりさすがである。
これまでにアクセラレーターから生まれたコラボレーション例をいくつか紹介したい。
・Sphero (2015): ディズニー買収後のスターウォーズ作品でかなり目立った存在だったオレンジ色の丸いドロイドBB-8のおもちゃ。2015年のディズニーのベストセラーになった。
・Atom Tickets (2016): 映画チケットのためのスマートフォンアプリ。購入やチケットの表示だけでなく、予告の再生やどの映画を観るか友人と決めることもできる。
・VOID (2017): VRのヘッドセット装着し、実際の施設内をコンテンツに合わせて進んでいく進化型のアトラクション。本当のバーチャルとリアリティの融合。
関連記事:【オープンイノベーション】 大企業がスタートアップとの協業を成功させる為の3つの方法
3. テスラ:ソーラールーフ
“持続可能なエネルギーへ、世界の移行を加速する”
テスラはクールなデザインの電気自動車メーカーとして一躍有名になったが、今やテスラが提供するのはクルマだけに止まらない。彼らは太陽光により発電した電気を家のバッテリーに一旦蓄電し、必要に応じて家庭内消費電力及び自動車の充電まで全てまかなうトータルソリューションを提案しようとしている。
2016年にテスラは、ソーラーパネルの製造から設置までを行っていたアメリカのソーラーシティを20億円以上で買収した。これによって、テスラがもともと電気自動車開発で培ってきたリチウムイオンバッテリーの技術と、太陽光発電の技術が組み合わさり、2社の強みを1つのパッケージとして新たな価値を創造することに成功したのだ。
ソーラールーフとは、一般的なソーラーパネルとは異なり、見た目は普通の屋根に見える。テスラの情報によれば、ソーラールーフは一般的な屋根より強度があり、30年間発電できるという。驚くべきことに、Bloombergによれば、ソーラールーフの単価は従来のソーラーパネルに比べて安いという。ただし、同じ発電量をまかうためにより多くのタイルを必要とするため、トータルコストは高くなるかもしれないということだ。
画像転載元:Tesla公式サイト
4. アマゾン:2時間で届く新鮮なオーガニック食品
“お客様がオンラインで買いたいものがなんでも見つかり、最安値で提供する努力をする、地球上でもっともお客様を大切にする会社であること”
アマゾンは今年の2月からアメリカの一部の街において、ホールフーズの商品をプライム会員に向けて2時間以内に配送するサービスを開始した。しかも、35ドル以上の買い物は配送は無料である。有料オプションなら1時間で届けてくれるが、地元の店舗から商品が運ばれるため、利用時間と地域には制限がある。今後は、順次その地域を広めていく考えである。
昨年全米に衝撃を与えたアマゾンによるホールフーズの買収。ホールフーズといえば、テイラー・スウィフトなどのセレブも御用達の高級オーガニック・スーパーマーケットである。買収後は一部の商品の値引きが行われた他は特に大きな変化はなかった。それが今年に入って、ついにこの2大タッグのいいとこ取りが解禁されたと言えるだろう。
とは言え、食品の配送自体はなんら新しいことではない。アマゾンはアマゾン・フレッシュとして食料品の配送をしていたし、それ以前にも2012年にサンフランシスで設立されたInstacart (インスタカート)は提携するスーパーやペットショップの商品を運んでくれるサービスを展開していた。インスタカートの提携先にはホールフーズも含まれている。NBCのテレビ番組TODAYでは、両者を比較するために、同じ商品を同時に購入し同じ場所に届けるという検証を行った。そこで分かったのは、インスタカートの料金には10%ほどサービス料が上乗せされるが、アマゾンには別途料金はかからなかった。
「本ならオンラインで頼んでも、欲しいものと違う商品が届くことはないだろう」ということから始まったアマゾン。アマゾン・ベイシックで家電領域を押さえ、ストリーミングでエンターテインメントにも参入し、今では最も取り扱いが難しいな生鮮食品を高いレベルで提供できるまでに成長した。アマゾンの持つ圧倒的なディストリビューション能力とホールフーズによって担保された品質。これにより、安全で健康的な食品がより、手頃な価格で買えるようになるということである。
画像転載元:Amazon公式サイト
5. マリオット・インターナショナル:若い世代がターゲットのホテル
“世界で最も愛されるトラベル・カンパニーであること”
マリオット・ホテル&リゾーツやリッツ・カールトンを含む、数々のホテルブランドを世界中で運営するマリオット・インターナショナル。彼らが新たなブランドMoxy(モクシー)を立ち上げるに当たって、コンセプトとなったのがミレニアル世代と呼ばれる20〜30代の若い層である。価格帯や立地などにより連想されるイメージから、見込み客のセグメントが見えてくることはあるかもしれないし、若者向けのマーケティング施策をすることもあるだろう。しかし、ここまでの規模で世代そのものがコンセプトになっていることは、これまでなかったのではないか。
モクシーの雰囲気は、おしゃれなオフィスとクールなナイトクラブを足したような感じである。現在世界に30軒ほど展開されていて、東京と大阪にも進出している。また、新ブランドを確立させていくために、館内でマリオットの赤いロゴを見ることはほぼないという。若者向けにデザインされたものとして、次のようなものがある。
- 1つ1つの部屋は大きくなく、自然と大きな共有スペースに宿泊客が集まりコミュニケーションをとるデザインになっている。
- チェックイン・チェックアウトだけでなく、部屋の入退室もスマートフォンで行う。
- テレビはネットフリックスやユーチューブなどと繋がっていて、無料のハイスピードWi-Fiが楽しめる。
- 24時間セルフサービスで無料食べ物とドリンクが提供されている。
- インスタグラムに、#atthemoxyのハッシュタグをつけて写真をアップすると、ホームページも表示される。
画像転載元:Moxy Hotels公式サイト
こういった動きは、シェアリング・エコノミーの波に乗って急成長しているAirbnb(エアービーアンドビー)に対する危機感から来るものもあるだろう。できて10年のエアービーアンドビーは、すでに90年以上の歴史を持つ世界的なホテルカンパニーの10分の1以上の売上を出している。しかも、彼らは、宿泊施設を保有していない。
旅行に関するトレンドとして、宿泊費や移動費にはあまりお金をかけない分、旅先での経験にお金を使いたいと思っている人たちが増えている。特にこの傾向は若い世代には顕著である。加えて、若い世代はデジタル・ネイティブであり新しいいテクノロジーにも寛容でSNSや口コミ評価も重要な要素になっている。これらの特徴は、エアビーアンドビーがターゲットにしているセグメントにも共通している。
マリオット・インターナショナルのグローバルブランドリーダーでバイスプレジデントのトニー・ストークルは、若い世代の顧客体験の創造には、パーソナライズされたのアプローチを取るようにしているそうだ。「インスラグラムに写真をあげないなら、そこにいなかったのと同じ」という時代になったことを踏まえて、これからのホテルに求められることは、「綺麗なシャワーや寝心地の良いベッドだけでなく、特有のライフスタイルに対して体験にまつわる心の繋がりを築くことに真剣に注力しなければならない」と語った。
関連記事:ミレニアルにはブランドネームではなく体験を売れ!ー 炭酸飲料大手企業の挑戦
まとめ
今回紹介した大企業による新規事業の例は、自転車、エンターテイメント、太陽光発電、Eコマース、ホテル、と内容は様々だ。ただ、共通していることとして、大企業だからこそできる資本力、規模、信頼性がこれらの新規事業の成長を助けているのは言うまでもない。オープンなマインドセットはもちろん必要だが、大企業ではイノベーティブなアイデアが出たからと言って、それがすぐに事業化されるのは現状では難しいだろう。
スタートアップやアクセラレーターの、外部の刺激を取り入れながらも、自社のエッセンスを活かした事業にすることで、イノベーションのタネを増やすことができる。上手くいきそうなものは、自社のネットワークや資金を使ってスケールすることもできる。会社のビジョンやミッションから新規事業を模索していくことで、目先の利益を追うのではなく、長期的な視点でイノベーションを起こし続けられる組織に近づくのではないだろうか。
参照:
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