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2019.06.17

【ピッティ2020春夏 ハイライト】ジバンシィ、フェラガモ、MSGMらがアニバーサリーなショー開催 クラシコ系ブランドはカジュアル化が加速

 2019年6月11~14日、第96回「ピッティ・イーマージネ・ウォモ(以下ピッティ)」が伊フィレンツェのフォルテッツァ ダ バッソにて開催された。今回のテーマは“THE PITTI SPECIAL CLICK”。メイン会場の前の広場には植物に飾られ自然の映像が流れるリラックスした空間が作られた。そんなメイン展示とリンクするかのように、会場ではリラックス感やスポーツ、ストリートのトレンドがさらに進化。

 またスペシャルイベントも盛りだくさん。ゲストデザイナーの「ジバンシィ(GIVENCHY)」、本拠地フィレンツェでショーを行った「サルヴァトーレ フェラガモ(SALVATORE FERRAGAMO)」、セレクトショップ「ルイーザヴィアローマ」90周年記念としておこなった「CR ランウェイ」、10周年を記念した「エムエスジーエム(MSGM)」、アーティスト、スターリング・ルビーによる初のコレクション「S.R. STUDIO. LA. CA」など、連日様々なショーが行われた。またピッティ宮では1989年から現代までのピッティにゆかりのあるアイコン的ピースを集めた展覧会「A SHORT NOVEL ON MEN’FASHION」も話題を呼んだ。

ビッグブランドのショーで今季メンズウィーク最大の目玉に

ジバンシィ(GIVENCHY)

 今年のゲストデザイナーとして招聘されたのが、「ジバンシィ」のデザイナー兼アーティスティックディレクター、クレア・ワイト・ケラー。ヴィクトリア女王が別荘として使っていたフィレンツェ郊外のヴィッラ パルミエリにてショーを行った。

 コレクションテーマは「NOUVEAU GLITCH」。画像がバグするようなイメージで、クラシックとモダン、イタリアとフランス、西洋と東洋、相反するテイストの素材やシルエット…など様々な要素が重なり合って混ざり合う。それはテーラーテイストのジャケットにカーゴパンツやドローコードのパンツを合わせたテイストミックスのコーディネートだったり、ゆったりしたフォルムのジャケットやコートとぴったりしたサイクリングウエアのようなインナーやスリムパンツとあわせたシルエットミックスのコーディネーションであったり。または光沢素材やナイロンからゴブラン織りに至る素材のミックスや、オニツカタイガーとのコラボスニーカーやメタリックで光沢のある韓国製のテクノ素材を使用し、今のアジアのストリートテイストをワンポイントでいれたものなど。その中に詩人ボードレールの「悪の華」のカリギュラフィ―をモチーフにしたピースや、絵画のようなフラワーモチーフがモード感を添えている。

 クレア・ワイト・ケイラーによる初のメンズコレクションは、今の時代の流れはきちんと抑えつつ、パリの大御所ブランドとしての存在感を見せつけた。今後のジバンシィのメンズに大きな期待が寄せられる。

「ジバンシィ」2020春夏コレクション

サルヴァトーレ フェラガモ(SALVATORE FERRAGAMO)

 「サルヴァトーレ フェラガモ」は、フィレンツェのランドマークの一つである市庁舎前の広場にランウェイを設置してショーを行った。ここをショーの会場に選んだのは、同広場にあるネプチューンの噴水の修復を同ブランドが支援したため。そのネプチューンの像と多くの市民や観光客が見守る中、ショーが始まった。

 ポール・アンドリューがクリエイティブ ディレクターに就任して初となるメンズコレクションは、今年の9月にミラノで発表するコレクションに先駆けてつくった特別なカプセルコレクションだ。ショーの前半は、アーシーなカラーやスモーキーなパステルのシンプルでセンシブなルックが続き、風を含むリラックスしたシルエットが、フィレンツェの日差しに映える。特に同ブランドが得意とするレザーのピースは、その上質さが見てとれる。ダークカラーやプラム、ライラックなどのカラーパレットの後にプリントシャツのルックが登場。ネプチューンをはじめとするフィレンツェの広場に設置してある石像をモチーフにしており、故郷である同地への敬意を感じる。

 上質なイメージはそのままに、テクノロジーや新発想によって開発したピースも魅力的だ。テクニカル素材のアノラック、スポーツウェアとして解釈してデザインしたテーラードジャケット、厚底のエスパドリーユ風シューズなどが若々しいイメージを創り上げた。

「サルヴァトーレ フェラガモ」2020春夏コレクション

 

エムエスジーエム(MSGM)

 ブランド10周年を迎える「エムエスジーエム」は、フィレンツェの屋内競技場でショーを行った。アリーナ部分には、海のさざなみをプロジェクションマットで投影。その周りをモデルがウォーキングするという形式でショーは進行した。

 水からあがって濡れたままのような髪のモデルたちが纏うのは、トロピカルなリゾートルックだ。フラワーモチーフ、ザリガニ、レオパードなどのプリント、タイダイや絞り、グラデーションなどの解放感たっぷりの柄や素材が、快楽的なムードを広げる。アイテムでは、ワークやスポーツ由来のものが多いが、テーラードのセットアップ、オーバーフィットのトレンチなども登場した。フィナーレは、全モデルがビギニのスウィムウェアを着用。リゾートムードたっぷりにショーを締めくくった。

 ここ数シーズン、サブカルチャーなどを取り入れてギークなルックを提案し続けた同ブランドのメンズコレクション。今回はビーチリゾートという夏の定番テーマを取りあげたことが、かえって新鮮に感じた。

「エムエスジーエム」2020春夏コレクション

CRランウェイ×ルイーザヴィアローマ(CR Runway x LuisaViaRoma)

 フィレンツェの老舗セレクトショップ「ルイザヴィアローマ」の90周年イベントとして、「CRファッションブック」の編集長でもあるカリーヌ・ロワトフェルドが、自身初のショーである「CRランウェイ×ルイーザヴィアローマ 」を行った。フィレンツェの市内を見下ろす高台にあるミケランジェロ広場に5,000人を収容する大ステージを設営。登場するピースは様々なハイファッションブランドの2019秋冬コレクションの中から厳選された90体。90年代を意識したグラマラスでセクシーなピースを、ジジ、ベラ・ハディッドなど今を時めくスーパーモデルから、アレック・ウェック、ナターシャ・ポーリー、マリアカルラ・ボスコノなど90年代に活躍した大御所モデルに至る豪華なモデル陣が身に纏う。スポーティなピースからゴージャスなドレスまで、トップブランド達のベストルックを抽出して集めた見ごたえのあるショーとなった。

 そしてショーの後には90年代を代表するシンガー、レニー・クラヴィッツによるスペシャルパフォーマンスが開催され、豪華な一夜を締めくくった。

 他には、ミラノで注目を集めている気鋭デザイナー「マルコ デ ヴィンチェンツォ(MARCO DE VINCENZO)」やロンドンベースでコレクションを発表している中国人デュオデザイナー「プロナウンス(PRONOUNCE)」もショーを行った。

 

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クラシコ系やファクトリー系での注目は麻×テクノロジー、ピンク、アメリカ・・・サスティナブルへの取り組みも本格化

ブルネロ・クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)

 今年は“NEW POINTS OF REFERENCE(新たな基準点)”をテーマに、スタイルと着心地のバランスが完璧にとれた装いを提案。クラシックなジャケットにワイドパンツやドローコードのパンツ、ニットやTシャツ、レザーブルゾンなどスポーティなアイテムのエレガントなコーディネートなどのミックスでそれを具現化している。カラーはこれまでクチネリがあまりメインにすることがなかったホワイトを大々的に提案しそれにネイビー、または差し色としてオレンジや赤などのヴィヴィッドなものを使っている。またこれまでにはあまり見られなかった太めのストライプやチェックなども登場。アメリカンヴィンテージ風のテイストも見られた。

ラルディーニ(LARDINI)

 今シーズンのテーマは“キューバ”。シャツジャケットやエスパドリーユなど、リラックスしているけど粋なラテンムード満載。オレンジや黄色など強い色を差し色にしているのも特徴。Lをモチーフにしたニューロゴがジャケットやジーンズのステッチなど様々に登場した。一方、サルトリアのラインでは、「サーフクラブ」をテーマに1940年代のマイアミビーチに集まるジェットセッターのイメージでコレクションを展開。トラベルジャケットにワイドパンツ、1つボタンのダブルジャケットにシルクバンダナ、ブラック&ホワイトをあえて提案したシックなスタイルなどダンディな世界観を展開。

ヘルノ(HERNO)

 「ラミナー」からはシルクとメンブランを貼り合わせて防水性、防風性、透湿性をはじめとする機能性のあるオリジナル素材「OFFICINA TESSILE」を開発。当初ゴアテックスだけを使っていた頃はスポーツテイストが前面に出ていたが、素材のバリエーションが増えたことでクラシックなアイテムもプラスされ選択肢が広がった。マドラスチェックや千鳥格子、ミリタリー柄などのパターンも揃った。

 本ラインではエコサステナブルな新ライン「ヘルノ グローブ」が登場。リサイクルナイロンの生地で、中綿が使われているモデルにはリサイクルダウンが使われている。さらに染色も植物由来の天然色素配合比率50%で環境負荷の軽減が配慮されたもの。また“バックトゥオリジン”という姿勢を強化し、80年代に裏地などに入れていた同社のモノグラムマークを復活させて各所に使ったり、80年代の大きなラペルやバックスリット部分のディテールなど、過去のデザインを復刻。

A|X アルマーニ エクスチェンジ(A|X Armani Exchange) 

 ピッティ初出展のアルマーニエクスチェンジは、約500㎡以上の巨大スペースにて若手アーティストとのコラボレーションプロジェクト#ST_ARTのアーティストによるライブペイティングパフォーマンス、バスケットボールのフリースタイルショー、そして、イタリア・e-スポーツチーム MKERSと来場者との対戦イベントなどを開催。アルマーニのエレガンスをストリートウエアとして具現化。

ジーゼニア(Z ZEGNA)

 地球の砂漠化という深刻な環境問題に人々を対峙させるべく、厳粛な砂漠をイメージしたセットで新コレクションを展示したジーゼニア。「A CONSCIOUS LIFESTYLE」と言うテーマで、素材や技術の選択を推進する、倫理的な意識をもったライフスタイルを提案している。アップサイクルやリサイクルされた繊維、水にやさしい処理や洗浄プロセスにより作られた素材や、裏地をつけず外側の生地に電子的に溶接されたメンブレンを特徴とする非常に軽量な素材、または光沢があり肌触りがよく、しわに強い天然メリノウールによるテックメリノ「ウォッシュ & ゴー」のより進化したバージョンを使用し、都会的なスポーティスタイルを展開。

 昨今のメンズファッションの傾向は、“快適”かつ“機能的”と言う方向に進んでいると言われて久しい。本来、トレンドは変わって行くものなのだが、一度楽な服を着てしまったら、それをやめるのは難しい。そんな本能に従うがごとく、軽くて動きやすく、お手入れが楽・・・という服を求める方向は今年も一層強くなったように見られる。とはいえ、お洒落ではありたいという欲望も満たすべく、フォルムはクラシックだが開発素材で楽に着られるアイテムが中心となっている。それは例えば究極に薄くて軽いジャケットにあわせるのはドローコードやゴムを一部につかったパンツ・・・というようなコーディネートに代表される。そして中に合わせるのはシャツの代わりにどこもサマーニットが登場している。

 そんな中、素材として多く見られたのがリネンとリネン混の生地。エレガントで夏らしいリネンだが、しわになりやすいという欠点がある。これを味だということでシワ感のあるテイストを押し通すか、または化繊混にすることで解決するかのパターンだ。またはジャージー、ソラーロなど織で遊ぶことで立体感や独特のニュアンスがでる素材も好んで使われていた。もちろん撥水や透湿、防シワなどにすぐれたテクノ素材も多く、その機能はさらに進化している。

 色で注目されるのが(なぜか)ピンク。多いのはピーチピンクだが、アプリコットや薄いあずき色のようなニュアンスのあるピンクも登場していた。もちろん白やネイビー、またはサンドやベージュといった夏らしい色の差し色に使うこともあるが、セットアップで提案しているブランドも多かったのはやや意外。

 そして、今の時代を最も象徴しているのが、多くのブランドが謳っていたサステナビリティ。リサイクル生地、植物由来で自然にダメージを与えない染めなど、エココンシャスな製品であふれていた。これがただの企業イメージアップのためだけでなく、みんなが真摯に取り組んでいるものであること、またただのブームで終わらず、今後はサステナビリティな取り組み自体が当たり前のことになることを祈る。

「ピッティ・イマージネ・ウオモ」2020春夏コレクションをチェックする

取材・文:田中美貴、アパレルウェブ編集部

 

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