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2025.07.26

「ケイスケ ヨシダ」2026春夏コレクション ブランド10周年を機に自身の創作手法を再検討

 「ケイスケ ヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」は2025年7月24日、東京・六本木の「ESTNATION 六本木ヒルズ」で2026春夏コレクションを開催した。ブランド設立から10年の節目にあたる今シーズン、デザイナーの吉田圭佑は自身の創作手法を再検討。「現実を直視すること」を出発点に、都市生活者の緊張や疲弊、そしてその隙間に漂う人間らしい柔らかさをテーマに据えた。

 

 開催数日前には、「リフレッシュ&リラクゼーション」の文字が刺繍されたハンカチが届いた。静まり返った閉店後の店舗内に地響きのような重低音のサウンドが鳴り響き、ふだんは買い物客が行き交う通路を、モデルたちが進んでいく。

 

 冒頭に登場したのは、襟が歪んだオーバーサイズのストライプジャケットとストライプシャツ、スカートなど、オフィススタイルをベースに構造を変形させたルック。襟や身返し、台襟といった服の構造要素を解体・変形する手法が特徴だ。ジャケットやシャツは、襟元が膨らんだり、よれたり、ずれたりと、既視感のある装いが意図的に崩されている。ショートトレンチ、ミリタリージャケット、フーデッドブルゾンは、ずらされた縫製や裏返しのような仕様によって、着る身体と服の輪郭のあいだに柔らかな余白を生む。

 

 これらのデザインは、サルバドール・ダリの「記憶の固執」に描かれた「溶けた時計」や、1990年代の「フラジャイル(fragile)」というトレンドを想起させる。だが、あえて完成させず、余白に見る人や着る人の想像の余地を残すという点で、日本的でもある。

 

 また、襟元にパンツのようにベルトを付けたデザインなど、ネックラインをパンツのウエストディテールに置き換えたトップスや、袖をひねってドレープを生んだドレスなど、構造の転用も今季の象徴的な手法だ。デニムやタイトスカートは、袋布を腰元でまくり上げたような仕様になっている。布が脚に貼りつくようなドレープが現れ、無意識の“気の緩み”が、かえってシャープな輪郭を引き出す。曖昧さと緊張感の同居は、現代都市に生きる身体のリアルを映し出す。

 

 上下を逆にしたようなデザインは、もはや歴史となったアバンギャルドともいえる。同時に、シュルレアリスムについて詩人ロートレアモンが語った「手術台の上のミシンと雨傘との偶然の出会い」という言葉も思い出させる。未完成、逆転、構造の脱臼。それらは「リフレッシュ&リラクゼーション」という言葉とは直結しないが、むしろそれらを文字通り脱ぎ捨てるような試みとも受け取れる。

 

 ブランド初のコラボレーションも実現した。ベルギー出身のアーティスト、トム・トッセン(Tom Tosseyn)とのグラフィック刺繍を随所に配置し、日々の緊張と緩和のあいだに生じる「浮遊感」を視覚的に加えた。

 

 また、夏祭りの傘「おけさ笠」などを彷彿とさせる、折編笠をデフォルメした黒塗りのハットや、花火のようなイヤリング、詩的象徴としてのアイウエアも登場。夏祭りや日本的なムードとは対照的に、かつてのマルタン・マルジェラのように顔を覆い、視線を遮断する装飾は、都市における匿名性や自己防衛のイメージを強く印象づけた。

 

 エフォートレスやウェルネスといった消費されやすい現代的な概念を再定義しようとする吉田。構造の「余白」や「ズレ」を美として認識し、「硬い服が柔らかさを際立たせる」という逆説を、静かな造形によって表現。アバンギャルドの転位、シュルレアリスムの偶然性。そうした美術史的語彙を想起させながら、都市に生きる緊張と疲弊、そして緩和を服とデザインに置き換えたコレクションとなった。

 

取材・文:樋口真一

 

Courtesy of KEISUKEYOSHIDA

 

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