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2025.09.18
【展示会レポート】欧米、アセアン諸国、オセアニアを結ぶハブとなる香港センターステージ

年に一度、香港貿易発展局(HKTDC)が主催するファッションブランドのトレードショー「香港センターステージ」が2025年9月3日~6日、香港コンベンション&エキシビション・センター(HKCEC)で開催された。
25ヶ国・地域から260ブランドが出展し、91ヶ国・地域から業界関係者1万人が来場した。一部即売するブランドもあり、全体来場者の半数ほどを占める一般消費者も最終日の土曜日を中心に訪れた。
日本から4時間ほどの位置にあり、アセアン諸国、オセアニアとの距離も近く、さらに英国自治領の名残で英語の通じる国という優位性もあることから、欧米各国の来場も多く、ハブという名に相応しいポジションを築いている。
<写真>香港貿易発展局提供、筆者撮影

今回は、センターステージを始めて10年という節目の年を迎え、記念レセプションが開催されるなど、かつてなく活気のある回となった。
英国ファッション協会(BFC)が大型のパビリオンを造作し、16ブランドを出展させたほか、オーストラリアも7ブランドで団体出展ブースを構えた。タイも42ブランドの集積を作り、プレゼンスを高めた。
日本からは、「プラグイン|エディトリアル」の交換プログラムで派遣された2ブランド、一般社団法人東京ファッションデザイナー協議会(CFD TOKYO)の団体出展ブースに8ブランドのほか、2ブランドが独自出展し、計12ブランドが出展した。また香港からのエントリーでマッシュホールディングスの現地法人、マッシュスタイルラボ香港が香港発の独自ブランドを立ち上げて出展し、ランウェイショーも行った。
来場面では、世界50拠点を持つHKTDCが各地からバイヤー招致を実施した。日本を含む英国、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、インドネシア、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなど約200人のバイヤー・エージェントなどを招聘し、約1000件のマッチングサービスを実施した。同サービスは、出展者からも好評で、総じてクオリティーとクリエイティブレベルの高い日本ブランドのブースには、多くのアポイントが入った。
プラグイン|エディトリアルの交換ブースに出展したのは、ファッション須賀のウィメンズブランド「ハク(H.A.K)」とパッションジェムスのジュエリーブランド「イリス・コフレ」の2つ。

ファッション須賀は、すでに30年ほど前から香港の代理店と取り組んでおり、常時30件ほどの取り扱いがある。今回はセンターステージに初出展で、従来の香港、中国、台湾に加えてアセアン諸国や欧米に広げることとタイ、インドネシアの代理店獲得を目指した。香港代理店の既存取引先に加えて、オーストラリア、韓国、タイ、インドネシア、フィリピンなど12件ほど新規コンタクトを広げることができたという。フリルが付いたジャケット(4万2,000円/日本の希望小売価格・以下同)やワンピース(3万5,000円)が人気だ。

同じく交換ブースで初出展の「イリスコフレ(Irise coffret)」は、天然石を生かしたジュエリーを披露。イリスは、虹の意味と神話のイリスにコフレの化粧箱を繋げた造語のブランド名で、平均小売価格が5~6万円。中国、台湾、韓国などアジアが多いがロシアのバイヤーも訪れたという。アジア人には、華奢なデザインが受けると感じたそうだ。
CFD TOKYO(CFD)は、「ホウガ(HOUGA)」「ジュンオカモト(JUN OKAMOTO)」「ナーディーズ(THE NERDYS)」「ロキト(LOKITHO)」「ユウミアリア(YuumiARIA)」「ユウアサノ(YUASANO)」「ペイエン(PEIEN)」のほかランウェイショーを行った「マリコ(MARIKO)」の8ブランドが出展した。同ブースには会期前までに全体で105件のアポイントが入り、各ブランドに対して万遍なく商談が行われた。特に欧米、オセアニア、アセアン諸国から多くのバイヤーが訪れた。

CFDの理事を務めるウィメンズウェアの「ジュンオカモト」は、「フリーで入ってきたスペインのセレクトショップのバイヤーが気に入ってくれて、後からパリ、リスボンのセレクトとキエフの百貨店のバイヤー仲間を連れてきてくれ、皆で試着までするなど良い感触で商談が出来た」と前向きに捉えていた。「香港という土地柄が、パリのように皆で集まって情報交換できたのだと思う」とパリ在住時を彷彿させる雰囲気だったそうだ。
カジュアルウェアの「ナーディーズ」は、韓国、タイ、香港、中国、カナダ、ドイツ、インド、イタリア、台湾、日本など20件以上とコンタクトを取り、4店舗と本格商談を開始したという。活況だったこともあり、HKTDCの動画取材も受けた。

楽天ファッションウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)にも参加経験のあるウィメンズウェアの「ホウガ」は、特に海外バイヤーの反応を直接見られた点が大きかったそうだ。さらに他ブランドの商談の様子を見て自分に足りないことなどを考えるきっかけにもなったという。商談は、香港、中国、台湾、韓国、ドイツ、タイ、インド、オーストラリア、日本などと進められた。

同じく楽天ファッションウィーク東京に参加経験のあるウィメンズウェアの「ペイエン」は、「各国の来場者がとても盛り上がっていて、アポがなくても沢山のお客様と直接会話ができ、現地販売もできた。香港の若者にも惹かれたようで、とても嬉しい。」と感想を述べ、韓国のEC大手や香港のショールーム、タイ、中国、ドイツのセレクトショップなどとの商談をこなした。

リメイクやカジュアルウェアの「ユウミアリア」は、中国、カナダ、イタリア、韓国と商談し、「思った以上のお客様が洋服を手に取ってくれ、足を止めてくれるフリーのお客様が大変多く、出展者側もすぐに声を掛け、興味があるかどうかを肌感ですぐに受け取る事ができた」と評価。「取材などを通して世界のメディアの方々とお話しする事ができたり、現状の世界の興味、動きなどを少しでも体感する事ができた」と情報面でも有益だったと語った。

「ユウアサノ」は、ドイツ、カナダ、イタリア、英国、オーストラリア、タイ、韓国、インド、香港などヨーロッパをメインとしたコンタクトが多く、20件以上の取引の可能性がある商談ができたという。一方で「ある程度の語学力を身に付け、商談中のコミュニケーションをたくさん取りたい」という課題も口にした。
ウィメンズウェアの「マリコ」は、「ブランドとマッチした会社と合理的につながりを持ち、直接お客様の意見を聞くことができ、国ごとの感覚の違いを知ることができた」とイタリア、ウクライナ、サウジアラビア、インドネシア、オーストラリア、中国、日本のバイヤーと商談をこなした。さらに「共同出展者や他のブースの出展者と色々な情報交換ができたことや初めてのショーを無事開催できた」ことを前向きに語った。

ウィメンズウェアの「ロキト」は、日本の百貨店との接点ができたことを評価した。CFDブースは、BFCやオーストラリア、香港デザイナーブースに次ぐ規模の合同ブースだったこともあり、会場全体の中でも目立った存在になっていたようだ。
現地法人から出展したのは、マッシュホールディングスの香港法人、マッシュスタイルラボ香港。デザイナーでインフルエンサーでもあるリリアンを起用して、「メゾンシェルネ(Maison Cielune)」を今年6月からスタートさせた。リリアン自身のブランド「カナリリ(KanaLili)」も併せて、同社が運営主体となってブース出展させた。
「メゾンシェルネ」は、すでに香港1店舗、深圳に2店舗を出しており、併せてECでの販売もスタートしている。ランウェイショーも行い、出展する事でKOLやセレブリティーへの認知向上を図るのが一番の狙いだが、一般消費者だけでなく、東南アジアの商業施設など業界内への宣伝効果も視野に入れている。小売価格は、ジャケット700香港ドル、スカート400~600香港ドル、ワンピース500~700香港ドル。今秋には、日本でのポップアップストアの開催も検討しているという。

香港という地の利と世界各地のHKTDCによるバイヤー誘致の施策が、世界各国のハブの役割をうまく果たせている証左となって表れており、パリに出展するコストを考えると投資額が少なくて済む香港から世界へとアプローチするという方法も、一つの選択肢と言えそうだ。資金に余裕があり、すでに国内では飽和状態の成長ブランドはパリでインターナショナルを相手に挑み、アメリカの東部を狙うならニューヨーク、西部ならロサンゼルスやラスベガス、シカゴのトレードショーに、サイズ展開の拡大に制約を感じるなら中国の大陸を中心に狙う上海ファッションウィークの時期に、投資額が少なく効率的にインターナショナルを狙うなら香港という選択も一考の価値がある。
海外販路開拓の課題は、少子高齢化が進み、インバウンドと富裕層頼みの日本のファッション・アパレル産業にとっては重要な拡販の方向性ではあるが、すべてのブランドに当てはまる訳ではない。ブランドの特性やMD、サイズ、色彩がそのエリアに合っているかの事前のリサーチは欠かせない。その上で、サイズ感の調整やMD構成のローカルへのアジャスト、輸出の際のインコタームスや物流手段などを十分に準備した上で臨みたい。「行けば売れる」などという幻想を持った甘い考えでは、釣果は坊主必至だ。
取材・文:ファッションジャーナリスト 久保雅裕