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2025.09.10
【2026春夏東京 ハイライト2】ウィメンズコレクション自然と日常を再解釈。軽やかなリアリティを表現

写真左から「ハルノブムラタ」「ヴィヴィアーノ」「ツモリ チサト」「サポート サーフェス」
「楽天ファッションウイーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」2026春夏のウィメンズは、自然からの着想や手仕事、日本の素材を生かした軽やかな表現が際立った。「ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)」は水や霧の揺らぎを衣服に重ね、日本的な美意識を都市生活に翻訳。「ツモリ チサト(TSUMORI CHISATO)」は35周年の節目を祝し、花や魚など遊び心あふれるモチーフで感謝を示した。「ヴィヴィアーノ(VIVIANO)」は黒と白で新たなロマンティックを提示し、「サポート サーフェス(support surface)」はボタニカルプリントと蛍光色で挑戦。「ピリングス(pillings)」は日本の日常服に潜む情緒を掬い上げた。
ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)


「ハルノブムラタ」は“YOUR SILENT WATERFALL”をテーマに、自然と人との関係性を出発点とし、水や霧、滝の流れなどの変化を衣服や空間に落とし込んだ。会場はテレコムセンタービル。中央には人為的に作られた静かな滝を設置し、自然の記憶を喚起させる演出を行った。コレクションのファーストルックに登場したのは、薄いピンクを幾重にも重ねた半透明のミニドレス。日本の十二単を思わせる透明感のあるデザインは、空気のように驚くほど軽いオーガンジーを手仕事で幾層にも重ねて仕立てられた。徐々に色づきながら空間に消えていく霧のように曖昧な輪郭を表現し、オーロラや光をまとっているようにも見える。
白いシャツは風のように揺れ、黒のニットドレスも影のようにリアルで軽い。白と黒のフリンジは光や動きを強調し、ブルーのシャツはまるで水をまとっているかのようだ。また、同ブランドで初めてデニムを用いたテクニックを駆使したドレスや、ボディコンシャスなニットとデニムスカート、かつて「天女の羽衣」と呼ばれた素材の進化版であるオーガンジーを重ねたトップスとデニムのパンツ、さらに京都の老舗織元と制作したスカートなど、日本の得意とする素材を構築的なドレスに仕上げたデザインも登場した。デニムは一着につき20時間以上に及ぶ手作業でスモッキングが施されている。
ラフィアのフリンジ付きトップスとテンセルカシミヤを用いたラウンジウエア風スウェットパンツ、ニットのトップスとスカートなど、多様な素材と技法で「刹那の美」を具現化した。ニットとフリンジスカート、ニットのレイヤードスタイルなど、クチュールのエレガンスとリアルなムードを両立させたデザインが並び、これまでのスタイルをさらに軽やかに、リアルに発展させたような提案も目を引いた。
自然を感じさせるデザインや軽やかさ、リアルな分量感。オーガンジーを重ねたデザインやデニムを使ったドレスは、ラグジュアリーブランドが日本の素材に注目している動きとも共通している。十二単から最新素材、デニムやカジュアルなアイテム、日本の仕事着、かつて「ストリートファッション」と呼ばれた東京のストリートのムードまで、さまざまな要素が混在するコレクションとなった。日本の職人技とラグジュアリーなムード、美しいシルエットとエレガンスを両立させ、日本的な美意識を都市生活のワードローブへと翻訳したデザインは、世界展開を視野に入れたものとも受け取れた。
村田晴信は「自然の要素と都会的な見た目や要素を掛け合わせて表現したいと思った。最近の自分の気持ちとしても、オーガニックやナチュラルなもの、そこにまつわるフィーリングが気分に合っている。これまでのコレクションよりも肩の力を抜き、ショールックを作り込むのではなく、これまで扱ってこなかったデニムやスウェットシャツと合わせたり、都会的な要素と自然の要素を組み合わせたコレクションができればいいと考えた」とコメントした。
また「プラステでは、よりリアリティのある女性像に向けて服作りをしている部分があり、その影響も少なからずあったと思う。それがあったからこそ思い切れた部分があり、同時にこれまで以上に日常をリアルに生きる女性像を強く意識するようになった」。
さらに「海外展開についても、今後しっかりと取り組んでいきたい。ショーがあるとコンセプトを示すことになるが、今期は特にグローバル展開を見据え、自分たちが持つ価値観が武器となり得るのかをコンセプトとして表現したいと考えた。その中でさまざまに試みたが、今後はそれをプロダクトにまで落とし込み、『ハルノブムラタはこうした価値観を持つブランドだ』とより明確に示していきたい。次のシーズン以降、本格的に海外に広げていくタイミングにしたい」と語った。
ツモリ チサト(TSUMORI CHISATO)


「ツモリ チサト」はブランド設立35周年を記念し、東京・表参道のショールーム兼ショップ「TC HOUSE」で「35周年 TSUMORI CHISATO 感謝」と題したショーを開催した。パリ進出15周年を記念して2回のショーを行い、アニバーサリーブック「TSUMORI CHISATO」のローンチパーティーや、パリで発表した各シーズンの代表作のインスタレーションも開催した2018秋冬コレクション以来となる今回。デザイナー津森千里が好きなモチーフを集め、現在のバランスで軽やかに生まれ変わらせたデザインで感謝の気持ちを表現した。
コレクションは、花のモチーフをあしらった透けるミニドレスから始まった。花の刺繍や、花のような襟やフリルのシャツ、ニットなど花をテーマにしたアイテムが続き、靴やスニーカーには虹や星のモチーフも加えられた。目や口の付いた花や魚などを描いたいたずら書き風、絵本のような雰囲気のトップスやドレスには、花や葉を思わせる襟が多用されている。ラウンジウエア風のパンツは、サイドラインがフリルやプリントで装飾されていた。細かい手仕事を駆使しながらパリでコレクションを発表していたころのように、凝りに凝ったテクニックや素材を幾重にも組み合わせたデザインとは異なり、軽やかでリアルな仕上がりとなっている。肩の力が抜けた印象だ。
小さな魚を組み合わせて大きな魚を形作る「スイミー」風のモチーフをあしらったトップスや、深海を思わせるプリントのパンツやコートが登場。たくさんの魚が猫の顔や「HAPPY」の文字を形づくるなど、子どものような純粋さと津森らしいユーモアが表現された。
未来派風の円形の袖や目玉、富士山のような山、猫、Love、ハート、地球、東京の街などのモチーフや絵、降り注ぐ光を思わせる多数の光る円も、シャツやワンピースなどのリアルなアイテムに落とし込まれている。
花から「猫に真珠」まで、ブランドのアイコンやアーカイブといえるモチーフやテクニックをふんだんに取り入れながらも、軽やかでリアルな仕上がりとなった。
ある意味で津森の原点ともいえる、1980年代に「I.S. chisato tsumori design」で見せていたハッピーなオーラ全開の、軽快でカジュアルなデザインをも思い起こさせた。
「いろいろな気持ちが詰まったショーでした。どう感謝を込めたらよいか難しかったのですが、自分の気持ちはとても子どもっぽいので、思い切りダイレクトに表現してもいいかな、という感じで。自分の好きなものを集めて、皆さまに感謝を伝えたいと思い、服で表現しました。お絵描きが自分の個性を出しやすいかなと思っていて、三宅一生さんに『あなたは絵を描きなさい』と言われたことがきっかけで、絵を描いてコレクションをつくるようになり、今も描き続けています」と津森。
また、「私は服作りが好きで、生地をつくるのも好きなので、少し遊びを取り入れながらものづくりができたらいいなと思っています。リラックスしながら、面白く生きていきたいと思います」と話した。
ヴィヴィアーノ(VIVIANO)


「ヴィヴィアーノ」のテーマは“Neo Romanticism”。色を削ぎ落とし、クチュールライクな構築や刺繍の一針、ラッフルの揺らぎといった独自のディテールを強調したコレクションを発表した。渋谷ヒカリエのヒカリエホールAを黒い布で覆った今シーズン。インスピレーションとなったのは、1920〜60年代のクチュールやヴィンテージの記憶だ。
コレクションは、光沢のある黒のドレスでスタートした。衿や袖口にフリルをあしらい、背中には黒いレースを付けた。花を描いたブラトップと膨らんだスカート、透けるガウン、そしてレースのタキシードとブラトップも、すべて黒。透けるドレスやチャイニーズムードのワンピースまで黒が続き、ブラトップの白い花や白衿以外は黒で統一された。いつものような鮮やかな色をなくし、「ヴィヴィアーノ」にしては抑えられたデザインと分量にすることで、逆にテクニックやディテール、素材感が際立った。
続いて、白い花をあしらった白のブラトップに、白いドットとフリルを加えた黒いスカート、黒いバラやレースをアクセントにした白いドレス、フリルが美しいトップスとミニ、クロップド丈のトップス、レースのミニドレスなど、白のさまざまなデザインも登場した。暗闇のような黒とは対照的に光を感じさせる白のパートも、デザインやボリュームは最小限に抑えられ、軽さやリアリティの中にオリジナリティを共存させている。
また、背中に「CIRCOLO 87」の文字をあしらった白のドレスやボレロ、白い襟を斜めにデザインした黒いポロシャツ、胸に「VIVIANO」とバラの花、さらに「1987」を付けたクロップド丈の黒いブルゾンやモアレ柄のジャケットなど、レトロスポーツムードもアクセントとなった。トレンドのカレッジスポーツ風ロゴを想起させるレトロスポーツのモチーフは、軽さやリアルなムードを加速させた。
ラストに登場した黒のドレスや、フィナーレを飾った白と黒のウエディングドレスも、これまで「ヴィヴィアーノ」が見せてきたレースやドット、刺しゅうを用いながら、デザインやボリュームを抑えることで、暗闇の中で同ブランドのオリジナリティを浮かび上がらせた。
ロマンティックを単なる装飾や感傷ではなく、服の構造や手仕事が人の存在と結びついたときに現れる「静かな強さ」と捉えた「ヴィヴィアーノ」。1920〜60年代のクチュールやヴィンテージの記憶、アンティークホワイトの室内着の静謐さ、70年代レトロスポーツの軽やかさを融合させ、新しいフォルムとバランスを提示。クラシックとモダン、過去と未来を交差させながら「新しいロマンティックの形」を提案した。
静かな力強さ。黒と白に色を絞り込み、本質を追求した「エッセンス・オブ・ヴィヴィアーノ」と呼べそうなコレクション。
サポート サーフェス(support surface)


「サポートサーフェス」は“quiet sparks”をテーマに、植物図鑑に掲載されているような精密で生々しい花を描いたボタニカルプリントやネオンカラーを用い、新しい表現に挑戦した。
リリースに「静けさの余韻に潜む閃光、季節の彩りを纏って」と記した今回。会場に選ばれたのは寺田倉庫G1-5F。コンクリートが目を引く静かな空間に、ドレープが美しい白いシャツと、インビテーションにも使われたさまざまな花をプリントしたパンツにピンクの靴を合わせたルックが登場した。
花をプリントしたトップスやコートなど、グロテスクなまでにエネルギッシュなボタニカルプリントと白の組み合わせからショーは始まった。朝顔など美しい花を想起させる繊細で透け感のある紫のニットと、花のように膨らんだ白いパンツ。大胆な蛍光色を取り入れたノースリーブの前身頃は押し花を思わせる。
グリーンのパンツやイエローのシャツも、鮮やかでありながら繊細さを併せ持ち、花や植物といった自然を感じさせた。大胆な色に加え、土や砂、水、空の青を思わせる色も用いられていた。少女のようなムードを漂わせる三つ編み風のイヤリングも目を引いた。
また、水や風を思わせる青のドレープドレスやプリーツスカート、つまんだうえにウエーブプリーツを施したドレス、彫刻的なドレープなど、装飾的でフェミニンなデザインも見られた。さらに、コートだがワンピースとしても着られるものや、シャツだがワンピースとしても使えるといった、さまざまな場面で活躍するマルチユースなデザインもポイントになっている。
ラストに登場した透ける黒と細密画のような花のコーディネートや、暗闇を思わせる黒のドレスも、花の生命力や大胆な色を際立たせていた。
東京でファッションウイークが始まった当初からショーを続けてきた「サポートサーフェス」は、スタイルを持ちながらも、これまで挑んでこなかったことやタブーに挑戦している。
ショー終了後、デザイナーの研壁宣男は「ゆっくり流れる空間の中で、スパークというか、弾けるようなものがあってもいいのかなと思いました。静かな空間の中に、スパイシーな色や、主張しすぎない蛍光色、普段あまり使わない少しグロテスクなボタニカルプリントを取り入れて表現しました」とあいさつ。さらに「カジュアル一辺倒だったものが、徐々にフェミニンな要素とミックスされ、だんだんフェミニンになっていく。その流れが今、新しいのかなと思っています」と話した。
ピリングス(pillings)


「ピリングス」はこれまでニットを軸に展開してきたが、今季は布帛アイテムも取り入れ、ブランドの「スタイル」を提示。海外から注目される「原宿かわいい」や「オタク文化」とは異なる、日本の日常に根差した服を再解釈した。微妙なシワや歪みを織り込み、日常の中に潜む些細な情緒や違和感を表現している。
トップスは二重仕立てや揺らぎのある裾が特徴。洗いをかけて生まれる歪みをあえてデザインに取り入れ、心の揺らぎや不安定さを映し出す。ポケットの裏地や袋布にこだわり、外からは見えない部分に独自の工夫を凝らした。デザイナーは内側の物語を意識し、服を通じて心の形を示すように構築している。
さらに、幼少期の記憶からNHK「にこにこ、ぷん」とのコラボレーションを実現。母親が編んでくれた「じゃじゃまる」セーターの思い出を服作りにつなげ、10周年の節目に取り入れた。
村上は「今回取り組んだのは、日本の日常服です。海外から見られる「原宿かわいい」やオタクカルチャー、いわゆるアバンギャルドといった文脈ではなく、もっと隠れた「本当の日常服」に興味を持ち、着目してコレクションを制作しました。まだ言語化されていない洋服やスタイルといえるかもしれません。そこに自分たちなりのクチュール的な要素を込め、微妙なシワをどう作るか、洗いをかけて歪みをどう表現するかといった小さな部分に丁寧にこだわりながら仕上げたコレクションです」と説明した。