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2025.09.21

【2026春夏ニューヨークハイライト2】次世代クリエイターが示す「手仕事」と「レジスタンス」

写真左から「エリア」「プロエンザ スクーラー」「ディオティマ」「フォーム」

 

 米・ニューヨークでは、ニューヨークファッションウィークが、2025年9月10日から16日まで開催されたが、今回は中堅ブランドでのクリエイティブディレクター交代も話題となった。

 

 まず「プロエンザ スクーラー(Proenza Schouler)」のクリエイティブディレクターが創設23年目にして、創業デザイナーの二人から、レイチェル・スコットに交代。また創設10年を迎える「エリア(AREA)」も、共同創設デザイナーであったピオトレク・パンシュチク(Piotrek Panszczyk)からニコラス・アバーン(Nicholas Aburn)に交代。

 

 今季はランウェイで、すっきりとテーラードしたラインと、細かな手作業や、あるいは完成しない一種の不完全さを融合させたコンセプトが多く見られたが、手芸や工芸、あるいは手仕事による独自性といった温かみが今、注目されているといえそうだ。

 

 またニューヨークらしくデザイナーの多くが移民のルーツを持つが、カリブ出身のデザイナーたちが明るい側面だけではなく、ディアスポラ(離散のことで、アフリカから黒人たちが奴隷として連れ去られたことを示す)をも、テーマに盛り込んでいたのが興味深いところで、新世代のデザイナーたちは政治観もファッションに入れることにためらわない。

 

 ニューヨークコレクション第二弾として、ピックアップしてレポートを届けよう。

 

プロエンザ スクーラー(Proenza Schouler)

Courtesy of Proenza Schouler

 

 「プロエンザ スクーラー」は、ファッションウィークの開幕より一日早く9月10日に、カシミン・ギャラリーで2026春夏コレクションを発表した。

 

 今回は、同ブランドにとっても新章となるコレクションだ。創業デザイナーであるジャック・マッコローと、ラザロ・ヘルナンデスが「ロエベ(LOEWE)」の新クリエイティブディレクターに就任して、レイチェル・スコットが、新しく「プロエンザ スクーラー」のクリエイティブディレクターに。

 

 レイチェル・スコットはジャマイカのルーツを生かした、手芸や工芸を取り入れたデザインで、「ディオティマ(Diotima)」を立ち上げた気鋭のデザイナーで、2024年にCFDAの「ウイメンズウエア・オブ・ザ・イヤー」を受賞。

 

 今回は、「記憶と可能性の糸を紡ぐ」ことをテーマに謳い、「プロエンザ スクーラー」のヘリテージを生かして、「プロエンザ スクーラー」らしいシャープなジャケットやスーツ、リーン&ロングなシルエットに、裁ちっぱなしのエッジをあえて見せる仕立てをしたり、ジャカードの裏地を表に出したドレスで、生地の隠れた糸をほぐして見せたりするなど、レイチェルらしいディテールを加味した。

 

 またレーザーカットやコーティング素材など技術的アプローチを用いることで、着る人の動きに合わせて立体的な表情が変化するデザインが多く登場。ブラックとシーグラス色のドレスは菊モチーフが光の加減で揺れ動くように見え、素材や光の演出による奥行きが生まれる。足もともオーガンジーのサイハイブーツやファーサンダルなど、意外性あるアイテムの組み合わせが印象的だった。

 

 同ブランドが持つシャープなテーラリングや都会性に加えて、解体と再構築、未完成の美しさ、変化と継続といったコンセプトをいれこみ、過去と未来を交錯させたコレクションとなった。

 

アダム リぺス(ADAM LIPPES)

Courtesy of ADAM LIPPES

 

 「アダム リぺス」は、“日本の哲学への探求”をテーマにして、2026春夏コレクションを展示会形式で発表した。

 

 このテーマはリゾートコレクションで初めて反映されたが、今季はより穏やかで内省的なアプローチへとなって、シルエットはより柔らかく流れるようなラインとなっている。

 

 たっぷりとボリュームあるパンツやサルエルパンツ、とろりと流れるようなシャツ、帯のようなスカートのペプラムが魅力的だ。サルエルパンツはシルクジャカードとシアーシフォンで、トレンチコートはドレープ感のあるシルクで、ドレスはジャージー素材で表現。シグネチャーであるテーラリングはクリーンであり、ことに日本の帯から再解釈されたペプラムは、モダンでシンプルなディテールを見せる。

 

 カラーパレットでは、ビビットなブラックとホワイト、ソフトなグレー、ペールピンク、ペールブルー、そしてクリーム、アイボリー、サンド、カーキといったニュートラルカラーで展開。

 

 今シーズンのテキスタイルは、中島氏の木目研究を反映したシルクのモアレ、そして花言葉を引用し特別に開発された猩々花柄の錦織まで多岐にわたった。

 

エリア(AREA)

Courtesy of AREA

 

 「エリア」は、「10周年」という節目で2026春夏コレクションのランウェイを打った。
 
 今季は共同創業デザイナーであるピオトレク・パンシュチクからニコラス・アバーンに、クリエイティブディレクターが交代。ニコラス・アバーンは、セントラル・セント・マーチンズで学んだあと、「トム フォード(TOM FORD)」、「アレキサンダーワン(alexanderwang)」、そしてデムナの「バレンシアガ(BALENCIAGA )」のクチュールで活動してきた経歴の持ち主。
 
 ファーストルックからの数点は、ブラックのアーバンなデニムスタイルで、リアルに落とし込んだスタイルを見せ、そこから肩パッドを誇張されたジャケットや、ラメをちりばめたスポーツウェアを解体再構築したドレスや、デニムを縛ってミニスカートにしたルックなど、大胆なフォルムを展開。
 
 そしてラストには、華やかで大胆なイブニングドレスが続いた。まるでクリスマスのフォイルリボンや、チアリーダーのポンポンをまとったようなルックは、彫刻的かつクチュール的な手仕事が光る。
 
 日常にも落とし込めるデニムから、奇抜さと、独自性、そして精緻な手仕事が融合されており、エリアを新しい方向に進めたコレクションとなった。

フォーム(FFORME)

Courtesy of FFORME/Photo by Giovanni Giannoni for FFORME

 

 「フォーム」の2026春夏コレクションは、太陽賛歌、フリースピリッツ、そして水や地や光といった自然の要素と一体化する逃避行を、テーマに掲げた。

 

 ファーストルックはオーバーサイズのスプリングコートで、クリーンなカットと大きく風をはらむシルエットで、自然や自由を象徴。

 

 サーフウェアを彷彿とさせるモールド加工のラバー素材によるボディスーツ的なトップス、光沢があり、流れるようなボリュームのリキッドドレス、ボクシーなテーラードジャケットスーツ、皺加工のあるメタリックなタキシードやドレスなどが目を引いた。

 

 ラストは、立体的な羽毛状の飾りをつけたドレスやコートで、ふわふわとした質感が魅惑的だ。

 

 今季はよりスポーティさでアウトドアな要素を強め、テクスチャーや質感にこだわった加工や繊細さを加えて、機能美と美意識を融合させた。

 

ディオティマ(Diotima)

Courtesy of Diotima

 

 レイチェル・スコットが手がける「ディオティマ」は、2026春夏コレクションで、初のランウェイショーを披露した。

 

 “カリブのカーニバル精神、そして抵抗と解放”をテーマにして、ディアスポラ(黒人が奴隷としてカリブやアメリカに連れ去られたこと)の中で生まれた自己表現と自由への願いを中心に据えた。

 

 ジャマイカの伝統を生かしたニットをシグネチャーにしているレイチェル・スコットだが、今季もフィッシュネットや伝統的なクロシェや刺繍、手工芸のテクニックを随所に取り入れてみせた。

 

 手芸や手仕事の温かみと都会的なシャープさ、リゾートと日常、ボリュームある立体感とミニマルなシルエットという、ふたつの対比する要素をうまく掛けあわせて表現した。

 立体的で羽毛のように加工されたスカートが存在感を放つ一方で、ぴったりと身体に沿ったニットのボディスーツや、胸元を大きく開けたシルエットのタイトなジャケットやベストが登場して、エポレットや羽の飾りで肩を彩る。パイエット縁取りのダスターコートやチュニックも力強い。

 色彩パレットも独自性が光り、マゼンタ、グァバ、ライム、グレナディーンなどのトロピカルな色を、グレイ、ブラック、ホワイトと合わせてみせる。

 今季のディオティマは、CFDAの「ウイメンズウエア・オブ・ザ・イヤー」受賞に輝いた自信に裏打ちされて、デザインモチーフの展開も世界観の打ち出し方も大きく飛躍して、ブランドの魅力が確立された。

 

ルアール(LUAR)

Courtesy of LUAR

 

 「ルアール」のランウェイには、ジャングルを想起させる植物が飾られ、暗いなかにフラッシュが焚かれるなか闊歩するモデルたちは、まさに夜のカーニバルに舞う人たちのようだ。

 

 デザイナーのラウル・ロペスは、ドミニカ共和国で生まれたルーツを生かして、今コレクションではカーニバルのエネルギーと、ドミニカ共和国の精神を讃えた。ロペスは、かつてストリートブランド「フッド・バイ・エア(HOOD BY AIR)」を共同設立した経歴を持つ。

 

 羽の飾りや、ボリュームあるケープ、スパンコールをちりばめたジャケットやブラトップ、透け感あるネイキッドドレス、鳥の羽の首飾りやウエストバンドは、カーニバルの華やかさを感じさせる。

 

 そして極端に大きな肩パッドで強調したボディコンシャスなドレス、ボリュームあるトップスやブルゾンをコルセットで締め付けた強弱のシルエット、ビッグシルエットのデニムのセットアップ、ミニマルなラインのスーツといったアーバンなルックも展開されて、シアトリカルなステージを披露した。

 

ニューヨークメンズデイ(NYMD)

  • 「クララ・ソン」 photo by Kara Ramos

  • 「オックスブラッド・ゼブラ」

  • 「マックス エスメイル」

  • 「フィット コレクティブ」

  • 「アーチー」

  • 「ブライアン ヒメネス」

  • 「ピーク ラペル」

 合同展示会であるNYMDは、今季会場を移して、メルセデスベンツのショールームでの開催となった。

 

 8ブランドが参加して、既に参加経験のある「クララ・ソン(Clara Son)」、「ジョセフ マックレー(JOSEPH McRAE)」、「マックス エスメイル(Max Esmail)」、「ピーク ラペル(PEAK LAPEL)」に加えて、初参加となる「フィット コレクティブ(FIT COLLECTIVE)」、「アーチー(archie)」、「ブライアン ヒメネス(BRYAN JIMENÈZ)」、「オックスブラッド・ゼブラ(Oxblood Zebra)」がコレクションを披露した。

 

取材・文:黒部エリ
画像:各ブランド提供(開催順に掲載)
>>>2026春夏ニューヨークコレクション

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