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2025.06.18

【NRF APAC 2025】「アルタ・ビューティー(Ulta Beauty)」 ハイブリット消費者に向けた店舗起点のオムニチャネル戦略

 「Retail Unlimited(リテール・アンリミテッド)」——リテールの無限の可能性をテーマにシンガポール・マリーナベイサンズで6月3日より3日間開幕された「NRF APAC 2025」。

 

 初日のキーノート(基調講演)には、「Ulta Beauty(アルタ・ビューティー)」が登壇。全米に約1,400店舗を展開し、マスブランドからD2Cブランドまで幅広いビューティー・ウェルネスブランドを取り扱う米国発ビューティー総合小売チェーンです。

 

 登壇したのは、同社でデジタル・EC部門を統括するバイス・プレジデントのJosh Friedman(ジョシュ・フリードマン)氏。彼は、これまで「J.C.Penny(JCペニー)」「Neiman Marcus(ニーマン・マーカス)」などの米大手百貨店などでキャリアを積み、デジタル・Eコマースの領域で20年以上にわたってロイヤリティ戦略とオムニチャネル改革に従事してきた人物です。

 

 Friedman氏はキーノートの冒頭、「20年程前にシンガポールに駐在していた。当時はまだ(NRF APAC開催会場の)マリーナ・ベイサンズ自体が存在していなかったが、再びこの土地に戻ってこられて嬉しい」と述べ、「Ulta Beauty」が取り組む“ハイブリッド消費者に向けたオムニチャネル戦略”をテーマに、「フリクションレス(摩擦のない)な顧客体験」の重要性について語りました。

 

画像右から、「Ulta Beauty」のデジタル・EC部門統括兼バイス・プレジデント、Josh Friedman(ジョシュ・フリードマン)氏(NRF APAC提供)

年間57,000のライブイベントを開催 アプリ連携で店舗体験を強化

 パンデミックがあらゆる業界にデジタル化の波をもたらした中、特にビューティー業界はその親和性の高さから大きく進化しています。「Ulta Beauty」では、店舗とオンラインをつなぐオムニチャネル戦略の中核を、売上の大部分を占める約1,400の実店舗に据えています。

 

 店舗の代表的な取り組みの一つが、年間約57,000件にものぼる「ライブイベント」。その集客をサポートしているのが、専用アプリ「Makeup & Skincare(メイクアップ&スキンケア)」です。顧客はアプリを通じてイベント情報の取得や、RSVP(事前参加登録)が可能。イベントの前・中・後のすべてのフェーズにおいて、アプリと連携するデジタルタッチポイントを設け、すべての顧客体験をシームレスにつないでいます。「1,400店舗とアプリを自由に行き来しながら、事前のショッピングから購入後の体験までを一貫してつなげることが極めて重要」とFriedman氏は語りました。

 

「Ulta Beauty」の専用アプリ「Makeup & Skincare」(公式App Storeより)

会員売上比率95% 高ロイヤリティ顧客によるゼロパーティデータ活用

 「Ulta Beauty」の優れた強みの一つが、顧客の非常に高いロイヤリティ性です。

 

 ロイヤリティプログラム「Ulta Beauty Rewards™(アルタ・ビューティー・リワーズ)」には、現在約4,400万人の会員が登録し、売上全体の95%がこの会員によるものだといいます。Friedman氏は、「顧客の購買履歴やショッピング習慣を把握してゼロパーティデータ(顧客が自発的に提供する情報)の収集にこだわることで、店舗・オンライン問わず、毎回初めての会話を繰り返すことのないよう、パーソナライズされた顧客体験を実現している」と説明。AIを活用しながら顧客の関心に寄り添う提案を行っている姿勢を示しました。

 

 バーチャル体験の提供もまた、顧客接点の注力を象徴しています。自社開発プラットフォームの「GLAMlab®(グラムラボ)」では、「バーチャルスキンアナライザー」や「バーチャルヘアアナライザー」といったバーチャル機能を提供し、顧客は来店前に商品の使用感を事前に確認することが可能。来店した際は、専用アプリのウィッシュリスト機能で気になる商品を効率的に試すことができ、過去の購買履歴とも連携しています。これは、ビューティー商品にありがちな“同じカラーの商品を二度買ってしまう”といった事象を防ぐ狙いがあるといいます。

 

「GLAMlab®」の専用ページ。自分に近いスキンカラーのモデルを選ぶか、カメラを連携することで商品のバーチャル試着が可能(「Ulta Beauty」公式サイトより)

新・定期購入プログラム「Replenish & Save」

 2024年に同社が注力した「即日配達」に続き、今夏に新たにローンチするプログラムとして、定期購入サービスの「Replenish & Save(リプレニッシュ&セーブ)」がセッションで発表されました。ビューティカテゴリにおいては、新商品が注目される一方で、「信頼できる定番商品を長く好んで繰り返し購入するルーティン性がある」とし、顧客の特性に寄り添った利便性の高い購買体験を提供します。このプログラムは専用アプリ、オンライン、店舗のすべてのチャネルに組み込まれる予定で、さらなるオムニチャネルの深化が見込まれます。

 

「Ulta Beauty」が重視する小売の“6P”

 20年にわたり、小売やデジタルの領域に身を置くFriedman氏は、“変わらないもの”として小売の基本である4P—「商品(Product)」「価格(Price)」「場所(Place)」「プロモーション(Promotion)」を紹介。加えて、近年は重要性を増す2つのP――「パーソナライゼーション(personalization)」と「参加(participation)」があるといいます。

 

 特に「参加」については、「TikTok」などで見られるような、顧客が会話や商品企画に関与したいという動向に着目。「プロモーションは単なる万人に向けた一律のメッセージではない。顧客は会話に“参加”し、互いの購買決定を助け合う時代」であるということを強調しました。

 

今秋には招待制マーケットプレイス開設 新ブランドの実験場に

 質問者からの「NRF APACを通じて得たインスピレーションは?」という質問に対して、Friedman氏は、アジア太平洋地域の特色である“モバイルファースト”を挙げ、特に「ソーシャルコマース」「ライブコマース」、そして韓国から生まれるビューティートレンド「K-Beauty(Kビューティ)」の勢いも見逃せないと回答。

 

 今秋には、招待制のマーケットプレイス「Ulta Beauty Marketplace」の開設を予定。 同社が持つロイヤル顧客との接点や豊富なパーソナライゼーションのアセットを活かし、新しいカテゴリや小規模ブランドにとって、テストマーケティングの場として提供されます。近年、若年化やメンズ向けなど多様なトレンドが加速するビューティー・ウェルネス領域において、スピーディーな顧客反応の取得を可能にする仕組みに注目です。

 

Ulta Beauty Marketplace」の専用ページ。利用申込の受付はすでに開始している

今後の出店戦略:メキシコ・中東 ハイブリッド消費者に対応したKPI転換

 今後の店舗展開にも触れ、メキシコシティ、中東のクウェート、ドバイなど成長市場で約100店舗の開設を予定。シンガポール含む他都市への展開にも積極的な姿勢をみせました。

 

 また、オムニチャネル戦略の課題として、チャネルごとのKPI設定に対する懸念も示されました。「百貨店、店舗、オンラインとチャネル毎の売上を追うことは、少々危険をはらむ可能性がある。なぜなら、私たちの顧客はもはやチャネルを意識せず買い物をするからだ。顧客の購買意思決定にチャネルの違いはもはや影響しない」と説明。「ハイブリッド消費者」の購買行動を受け、今後は「顧客生涯価値(customer lifetime value)」や月間アクティブユーザー数(MAU)といった長期的なエンゲージメントの可視化へとKPIの軸足を移していく方針だと述べました。

 

 最後に、「Ulta Beauty」はすべてのチャネルを通じて顧客が示す行動や意思決定を理解し、顧客にとって“生涯のビューティー・ウェルネスの目的地”であり続けるというメッセージで締めくくりました。

 

https://www.ulta.com/

 

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