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2025.06.21
「ゴールドウイン 丸の内」がリニューアルオープン 新素材研究所と創る“素材が語る空間”

「ゴールドウイン(Goldwin)」は、2025年6月21日、旗艦店「ゴールドウイン 丸の内(Goldwin Marunouchi)」をリニューアルオープンした。デザインを手がけたのは、新素材研究所の建築家・榊田倫之氏。同氏が都内店舗を手がけるのは今回が初となる。
榊田氏との取り組みは、2021年に中国・北京の三里屯から始まり、丸の内店と同日にオープンする深圳 (シンセン)の店舗で8店舗目となる。日本国内では2025年5月に京都店をオープンし、札幌にも出店を予定している。また、今後はイギリス・ロンドンやアメリカ・ニューヨークへの出店も計画している。

多くの有名ブランドが軒を連ねる丸の内・仲通り。その一角に、自然を感じさせる空間が静かに佇んでいる。 通行客の視線を引きつけるのは、中央に設置された大きなカウンターテーブル。その前には、縮小された自然の風景を象徴するように植物が生け込まれ、道行く人の足をふと止めさせる。 空間全体に広がるのは、「風に乗る音」をイメージして設計されたオリジナルスピーカー「ウコウク」による穏やかな響き。旋律が一点に集中せず、輪唱のように重なりながら広がっていく音が、店内のどこにいても均質に感じられるよう工夫されている。
さらに、空間全体に通底するコンセプトは「『チ』の集積」。 地層を思わせる自然の造形「地」と、ゴールドウインが長年追求してきた知見の蓄積「知」が重なり合うことで、訪れる人に“時間の奥行き”を感じさせる構成となっている。

「売る」から「感じる」へ──新生「ゴールドウイン 丸の内」、素材と空間の挑戦
2025年6月20日、「ゴールドウイン 丸の内」のオープンにあたり、建築設計を手がけた榊田倫之氏(新素材研究所)と、同社事業本部長の川田慎二氏によるトークセッションが開催された。両者は、設計思想の共有から空間演出に至るまでの協業の歩みと、ブランドの理念をどう空間化したかについて語った。
冒頭、川田氏は「細部へのこだわり(Dedication to Detail)」というゴールドウインの精神が、見えない部分にも美を求める新素材研究所の建築思想と共鳴したことが協業のきっかけであると説明。中国・北京での初店舗からスタートし、今回で7店舗目となる中で、「単なる空間演出ではなく、素材に込めた思想の浸透が鍵だった」と振り返った。
丸の内店の設計にあたっては「風」と「揺らぎ」をテーマとし、風による動き、自然現象による経年変化を積極的に空間に取り入れている。榊田氏は「自然から得た要素を、そのまま素材として空間に溶け込ませることで、人の記憶に残る体験を作る」と語る。
具体的には、黒皮鉄板の酸化による自然な変化、節目の揺らぎを活かした竹の縦格子、桐の板など、人工的な成形を極力避けた素材使いが特徴だ。竹の節の位置さえも「偶然の美」として活用している。
さらに、顧客の導線や接客オペレーションも緻密に設計されている。店舗奥のストックルームは扉を設けず、スタッフがスムーズに行き来できる構造とした。これにより、接客時の動線が途切れることなく、自然なサービスが提供できる。

川田氏は「建築家と話すうちに、店というより“場”をつくる感覚に変わってきた。売場の効率を最優先するのではなく、ブランド体験としての空間の価値を重視するようになった」と話す。
また、素材の選定は「日本らしさ」の再構築でもあった。桐箱(きりばこ)に使われる桐、和室建具にも使われる竹、自然の流れで丸くなった川石をイメージした小舗石など、いずれも土地や風土と関係する素材ばかりだ。「それらをモジュール化し、各国の店舗でも再構成できる仕組みとして提案している」と榊田氏は補足した。ここでいう「モジュール化」とは、素材そのものを定型化するのではなく、空間構成の要素として整理・組み替え可能な“型”にするという意味合いを持つのだろう。
今回の丸の内店では、単なる自然素材の活用にとどまらず、「風化」や「経年の美しさ」を取り込むことにも挑戦している。榊田氏は「枯れていくこともまた豊かさ。時間の流れの中で素材が変わることを、空間の価値に昇華させたい」と語る。

写真:店の奥に配置したフィッティングとサロンを兼ねるスペース
店舗づくりにおいて永らく重要視されてきたのは“効率”であった。スペース効率や商品効率を前提とした従来の店舗設計とは一見逆行するようにも見える今回の空間だが、榊田氏はむしろ「売ること」にこだわったという。スタッフの動線、顧客の滞在時間、商品価値を高めるための工夫など、意図的かつ戦略的な設計が随所に施されているように見える。中国で始まった同ブランドの挑戦が、世界でも冠たる高坪効率の国である日本でどのように挑み、どのように成長していくのかに注目したい。
取材・文:山中健
■「ゴールドウイン 丸の内」
所在地:〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-6-1ブリックスクエア1階
営業時間:11:00~20:00
店舗面積:約27.8坪
取り扱いアイテム:スキー・アウトドア・アスレチック・ライフスタイルウエア、アクセサリー、バッグなど「ゴールドウイン」ブランドの全カテゴリー
Courtesy of Goldwin