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2000.07.05

【2026春夏パリメンズ】独自の作風と方向性を提示する日本のデザイナーたち

写真左から「アイム メン」「ホワイトマウンテニアリング」「オーラリー」「キディル」

 

 パリ・メンズコレクションの第3回目のリポート記事は、独自の作風と方向性を提示し、クオリティを維持して高い評価を得ている日本のブランドを特集して紹介したい。

アイム メン(IM MEN)

© ISSEY MIYAKE INC./Photo by Frédérique Dumoulin-Bonnet

 

 ジャン・ヌーヴェルによる建築物である、旧カルティエ財団現代美術館を舞台にショーを開催した、「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」のメンズブランド、「アイム メン」。今季は、陶芸家の加守田章二の作品からインスパイアされたアイテムを主軸に構成。陶器の持つテクスチャーを、現代のファブリックでいかに再現するかに腐心した。一枚の布から生み出されるクリエーションというコンセプトは今季も継続。ショー後には、作品を間近に見ることが出来るようパリ中心のギャラリースペースで作品展を開催した。

 

 鱗のような文様を再現したシリーズは、ボンディングオパール加工の技術を駆使。貼り合わせた布に特殊加工を施し、その部分だけを水で洗い流すことで、布が立体感を帯びる。それらを羽織やセットアップに仕上げた。畳むと平面になるのだが、今季は加守田作品のフォルム、例えば花瓶や壺などの形になるようにデザインされている。

 

 純銀の顔料を用いた銀陶からインスパイアされたコートは、シルバーの箔を載せたテキスタイルで表現。今季は加守田作品にインスパイアされたアイテムのほかに、廃棄された魚網をリサイクルした素材を一部に使用した、色鮮やかなシリーズも見られた。草木の灰を主成分とする灰釉(かいゆう)を用いた鉢からのイメージのアイテムは、ろくろ文を3つの版を重ねた顔料捺染によって陶器の凹凸感を再現。畳むと円形になる。

 

 「曲線彫文」からインスパイアされたシリーズは、熱で収縮させて立体感を出したファブリックを使用し、凹凸の質感を再現。彩色壺からインスパイアされたシリーズは、マットな朱と白の波模様をジャカードで織ったファブリックを使用。朱色部分にはラメ素材も織り込み、立体感が生まれている。

 

 加守田章二の工芸作品に向き合うことで生まれた、正に工芸品のような職人技を感じさせる作品が並んだ。

 

ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)

Courtesy of White Mountaineering

 

 18世紀に設立されたアイルランド文化センター内の中庭を会場にショーを開催した、相澤陽介による「ホワイトマウンテニアリング」。1970年代から続くアウトドアウェアの歴史を辿りながら、現代的な技術や素材を用いて新たなスタイルの創出を目指した。

 

 1970年代のアルミ製フレームパック(背負子)を実家の物置で見つけたことが、アウトドアウェアに開眼するきっかけとなったというエピソードに触れ、冒頭にはフレームパックを背負ったモデルが登場。

 

 コレクション全体を通じて登場したマドラスチェックやオンブレチェック、ストライプといった一見コットンにも見えるシンプルなシャツ類は、速乾性、伸縮性に優れたポリエステルメッシュやガーゼ素材があしらわれ、軽量化が実現されている。1976年に商品化されたゴアテックスについても、今季は軽量化させた3レイヤー素材を用いている。

 

 今季は、デンマークの「エコー(ECCO)」とのコラボレーションによるレディースのルックが多く見られ、コレクション全体を重厚なものにしていた。

 

オーラリー(AURALEE)

Courtesy of AURALEE

 

 国立公文書館の回廊を舞台にショーを開催した、岩井良太による「オーラリー」。寒さと暖かさが繰り返される中、急いで選んでしまい、ちぐはぐな装いになってしまった時の愛らしいスタイルに言及。ウールやカシミア、シルクといった上質素材を用いながら、今季は形式に囚われない自由なレイヤーを提案した。

 

 スイムウェアからインスパイアされた、メンズのショーツやレディースのニット製オールインワンが登場。それらには、美しいテクスチャーのカシミアポーラーのロングコートや、レザーのブルゾンがコーディネートされ、アンバランスな雰囲気を醸し出す。パジャマ風のセットアップにも、トレンチコートが合わせられ、ドロップショルダーのジャケットとセンタープリーツのパンツには、敢えてビーチサンダルをコーディネート。仕事とレジャーを掛け合わせ、不思議なコントラストと調和を見せている。

 

 スーツの下にはシルク製アロハを合わせ、やはりビーチサンダルがアクセントに。パジャマ風のスーツにはスエード素材のブルゾンを重ね、デニムパンツとコートのルックには、洗いを掛けたカシミアのニットプルをマフラー代わりに巻く。

 

 どこまでも自由に組み合わせるのではなく、「オーラリー」のコードを守りながら、アンバランスの中のバランスを描き、エレガントなスタイリングが貫かれる、ストイックで厳格ささえ見え隠れするコレクションとなっていた。

 

キディル(KIDILL)

Courtesy of KIDILL

 

 末安弘明による「キディル」は、11区のアパルトマンの中庭を会場にショー形式のプレゼンテーションを行った。アンダーグラウンドな存在だったオタクな世界、アニメ、フィギュア、電子音楽、コスプレといった領域は、今や世界も注目するオーバーグラウンドなカルチャーになりつつある。今季は、その東京の多面的な文化を再構成する内容となった。

 

 ハートとウサギを取り付けたブルゾンのセットアップでスタート。一見して可愛いと思わされるが、直後にこのブランドならではの狂気を感じさせて心地良い。「中央町戦術工芸(CTCTYO)」とコラボレーションしたアクリル樹脂製ボディアーマーや、花柄仕様の「装甲ネコミミユニット」といったアクセサリーを装着させることで、「人物のフィギュア化」を意図したという。

 

 ダメージニットにはフローラルモチーフのブラが合わせられ、良く見るとグロテスクなプリントのシャツには、ファンシーなリボンを飾ったパンツがコーディネートされる。今季はストリングでたわませることで、不思議な揺らぎを生む造形的なスウェットやパンツが登場。

 

 ゴジラを思わせるトゲのあるセットアップ、ギザギザヘムのブルゾンなど、エッジーでパンキッシュなアイテムも健在。日本のテレビアニメ文化の礎を築いたプロダクションの一つ、「タツノコプロ」が手がけた「化学忍者隊ガッチャマン」や「マッハGOGOGO」とコラボレーションした一点ものも登場した。

 

ターク(TAAKK)

Courtesy of TAAKK

 

 森川拓野による「ターク」は、パリ日本文化会館とケイ・ブランリー美術館に挟まれたスポーツセンターを会場にショーを行った。今季はブランドのコードでもあるリボン刺繍とグラデーションファブリックをより進化させ、リボン刺繍をより彫刻的、より立体的にあしらい、アイテム同士の境目を取り払うグラデーションファブリックを的確に用いて新たな局面を打ち出している。

 

 花モチーフのリボン刺繍のシャツと、バギーなスプレー染めのパンツでスタート。シャツは二重に着込み、ネクタイも同じファブリックで作成され、超現実的な仕上がりを見せる。リボン刺繍のデニムパンツには、シャツとベストがグラデーションで繋がっているトップスをコーディネート。グラデーションのシースルーボンバースには、ジャカード素材のショーツを合わせるが、そのジャカード素材は、チェックとフローラルモチーフが織りで表現され、更にプリントが施されている。

 

 ジャカードでウォッシュ加工を表現したデニムには、リボン刺繍で埋め尽くしたシャツを合わせ、フォルムは極力シンプルに抑えられている。二色のグラデーション素材を用いたボディフィットのシャツジャケットには、バギーなパンツを合わせてコントラストを描く。イーグルモチーフのリボン刺繍のグラデーションスカジャンには、巻きスカートのようなバギーパンツを合わせ、シースルーのフィッシュネットポロにもバギーパンツを合わせ、上下のボリューム感の違いを強調。

 

 後半には、シャツに変化するジャケットや、ヘムがジャケットになっているリボン刺繍のシャツなど、グラデーションファブリックを駆使したルックが登場した。

 

シュタイン(ssstein)

Courtesy of ssstein

 

 浅川喜一朗による「シュタイン」は、カール・ラガーフェルドも居住していた7区の邸宅にて最新コレクションを発表。今季は、フォトグラファーのコリンヌ・デイの写真集に登場する繊細で柔らかい色彩、そしてそこに映し出されるニットウェアからインスパイアされた。

 

 これまで通り、ベーシックカラーが基調となるが、今季はエッグイエローやレッド、ブルーが差し色として登場。特にアウターに使用されるトープやグレー、ブラウンの素材は、織りの糸に変化を加える、風合いを出すために硫化染めを施す、あるいはオイルを刷り込むなど、それぞれにニュアンスを加える工程を経ており、厳密には単色とは言えない複雑な様相を見せている。

 

 ロングジレとアウターが裾でドッキングしているコートのアイデアは、今季はスタンドカラーコートして登場。カーディガンやプルオーバーなど、ニットもこれまで通りレンジが広い。

 

 テーラードコートとブレザーには、薄い肩パッドを使用することで、微細な丸味を表現。パンツはバギータイプが主となるが、ショーツやニットジャージー製のソフトなタイプも見られた。今季より、女性からの強い要望でXSサイズも展開している。

 

ベッドフォード(BED J.W. FORD)

Courtesy of BED J.W. FORD

 

 山岸慎平による「ベッドフォード」は、北マレ地区にある高級マンションの一室にてプレゼンテーション形式で最新コレクションを発表した。今季は、世界大恐慌のさなかでも人々への温かい視点を失わなかったアメリカの画家、ノーマン・ロックウェルにイメージを求め、人々が暮らす平凡な風景を捉え直して咀嚼するという姿勢に自らの服作りを重ねた。

 

 多くの人が、ごく当たり前に身近に感じることの出来るユニフォームを再構築。歪んだレザーボタンをあしらったコートや、ニットで表現した「シャネル(CHANEL)」風ジャケット、フロッキー加工を施した不思議な風合いのデニムシャツ、芯を一切使わないソフトジャケットなど、ジャンルとしては既視感のあるアイテムばかりだが、どこかに違和感や引っ掛かりを生じさせる。

 

 今季も左の袖に鈴が取り付けられているが、その他の隠されたディテールとして、例えば袖元を固定する伸縮ストラップや、ブルゾンの内側に潜むポケットなどが挙げられる。それらは、実用性や合理性を超えた、ささやかな日常の幸福を感じさせる存在としてあしらわれているのだという。

 

 見掛けはトラディショナルだが、その実、秘かな愉しみを内包したアイテムが揃えられていた。

 

バウルズ(vowels)

Courtesy of vowels

 

 ニューヨークと東京を拠点にし、日本製にこだわる八木佑樹による「バウルズ」は、11区の下町のギャラリーを会場にプレゼンテーション形式で最新コレクションを発表。敢えて生活臭のするレトロな内装を設営し、遊び心溢れるムードの中、カジュアルでカラフルなアイテムを並べた。コレクションタイトルは“What A Day”。

 

 特に素材へのこだわりは毎シーズン感じられるが、今季はひまわりプリントのスーツで確認出来る。ロゴは刺繍ではなくジャカードで表現され、そのロゴをプリントで消さないよう、ロゴを避ける形でプリントを施しているという。

 

 シャツのバリエーションも豊かで、今季もバンダナモチーフのシルクプリントシャツはイエローが登場し、宙返りするエルヴィス・プレスリーモチーフのシャツなど、見て楽しいアイテムが揃っている。

 

 「守破離」の哲学をブランドコンセプトに掲げるが、敢えて殻を破り、その先を見据えるという姿勢をまた一歩前進させていた。

 

取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供

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