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2025.06.25

【2026春夏ピッティウォモ ハイライト】クラシコの殿堂で存在感を増す日本ブランドとデザイナーたち

ゲスト・オブ・オナーとして登場した「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」 Courtesy of ISSEY MIYAKE INC.

 

 第108回ピッティ・ウオモが2025年6月17日から20日までフィレンツェのフォルテッツァ・ダ・バッソで開催された。ピッティ協会の報告によると、出展ブランド数は730で、そのうち43%が海外からの出展。また地元紙によると、入場者数は15,000人以上、海外からのバイヤーの比率は昨年6月のピッティに比べ3%アップしており、人数的にも海外バイヤーの総数がイタリア人バイヤーの数に僅差まで迫った。特に多いのがアメリカ、中国、それに日本が続いた。

 

追い風ムードの日本ブランド

 

 日本勢に関しては、前回から一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)とのパートナーシップが結ばれたこともあり、相変わらずの追い風ムードだ。6回目の「ジェイ・クオリティー(J∞QUALITY)」は、5回目の出展となるマルチョウの「グッドピープル グッドステッチング グッドプロダクト(GOOD PEOPLE GOOD STITCHING GOOD PRODUCT)」、山陽染工の「キフ(Kiivu)」、山喜の「蝶矢シャツ」が登場。また、前回、経産省のサポートで参加した「エーレザー(A LEATHER)」は単独でブースを構え、島をイメージした海や砂浜の色使いで、アイテム内容もアップ。「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス(Children of the discordance)」はショーだけでなく、ブースも構えた(ショーの詳細は後出)。

写真:ジェイ・クオリティー(上、中、下左)、エーレザー(下右)

 

 

 その他、ピッティと中国服装協会の提携によるプロジェクト「チャイナ・ウェーブ」、招待国の韓国からは韓国コンテンツ振興院の主導による「コード・コレア」、コペンハーゲン国際ファッションフェアの協力による「スカンジナビアン・マニフェスト」などが共同展示を行った。

 

チルドレン オブ ザ ディスコーダンス(Children of the discordance)

Courtesy of Children of the discordance

 

 そんな流れはショーでも見られ、今回行われた4本のショーのうち3本がアジア勢。初日には、海外でのショーは初となる、志鎌英明の「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」がショーを開催。“ENFANT TERRIBLE(恐るべき子供)”をテーマに、志鎌の子供時代に出身地である横浜で自分の周りを取り巻いていたお洒落な子供達からのインスピレーションでコレクションを作成。「“世界で一番お洒落なヤバイ子供”をイメージしています。今の小中学生が着たらすごくお洒落だろう、と思える服を考えました。父親の服を子供が勝手に着たようなイメージで、シルエットは全体的にぶかぶか。大人用のジャケットを子供サイズに切ったようなアイテムや、ジャケットをショーツに合わせたコーディネートもあります」と志鎌。

 

 ロンドンで修行を積んだメンズウェアのパタンナーとのコラボレーションにより、クラシックなシルエットのジャケットやコートなどのテーラードも加えつつ、パッチワークやプリント使い、デコンストラクション、アシンメトリーなどを盛り込んで、独自のストリートテイストを構築した。そこに、最近アトリエを設けたベトナムへの旅から得たダスティなイメージで、製品染め、ブリーチなど、全体的にダメージ加工を多用したり、褪せたような感じのテイストを加えたり、または自分のマンションの壁や横断歩道のひび割れなどからの連想の意外なモチーフを落とし込んだ。

 

オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE)

Courtesy of ISSEY MIYAKE INC./Photo by Giovanni Giannoni

 

 2日目には「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」がゲスト・オブ・オナーとして登場。今後は「オープンステュディオ(OPEN STUDIO)」という名の元、世界を巡ってブランドのモノづくりの成果を発表する「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」は、この活動のお披露目的第一弾として、フィレンツェを見渡す高台に建つメディチ家の別荘「ヴィッラ・メディチェア・デッラ・ペトライア」にて、インスタレーションとショーを発表した。

 

 インスタレーションは日本デザインセンター 三澤デザイン研究室との協業による、プリーツ素材を使用した作品群によって構成。「実際に素材の扱いを学んで、覆う、被せる、巻く、折る、重ねるという作業から、素材が自然に創り出すかたちを探求しました。展示台の脚の部分など、この宮殿の円柱のようなフォルムもプリーツで作り上げています。色の展示はデザインチームがイタリアを巡り、自然や町の中から集めたものです」と同研究室ディレクターの三澤遥は語る。

 

 一方、ショーは庭園にて開催。「一本の筆を以て旅をする」という発想に始まり、“Amid Impasto of Horizons(積み重なる地平)”というテーマでコレクションを作成した。インスタレーションで登場したイタリアの色彩をカラーパレットとして使用したプリントシリーズ「PALETTE」、形と大きさの異なるポケットなどが特徴の、色の採集に必要な道具を収納するというアイデアから生まれた機能的なシリーズ「PAINTER’S GEAR」、リネンのような風合いを持ち、肌離れの良いさらっとした素材感が特徴のテーラードシリーズ「LINEN LIKE」、ブランドの定番として提案している二つボタンのジャケットに加え、新型のノーカラーロングジャケット、ロングダブルブレストジャケットなど、幅広いセットアップが揃う「TAILORED PLEATS」、調色の際に生まれる、筆の毛先から根元にかけての自然なグラデーションを表現したプリントシリーズ「PAINT BRUSH CLOSE-UP」で構成されている。

 

ニコロ・パスカレッティ(Niccolò Pasqualetti)

Cortesy of Pitti imagine

 

 3日目は、朝から「ニコロ・パスカレッティ」がゲストデザイナーとして、メンズウェアのみのコレクションとしては初のショーを披露した。2024年に「LVMHプライズ」のファイナリストに選ばれ、現在はパリでショーを発表している旬のデザイナーの一人であるニコロ・パスカレッティが、出身地のトスカーナに凱旋した。

 

 コレクションは、テーラリング、ミリタリー、ワークウェア、スポーツウェアといったメンズのベーシックなワードローブを、素材やレイヤード、個性的なアクセサリー使いなどでジェンダーレスに表現。シルク、リネン、コットンには絵の具で染めたような斑点模様を入れたり、刺し子刺繍がほどこされたデニム、迷彩柄を思わせるレーザーカットのスエードなど実験的なディテールも生きている。パンツからスイムウェアを覗かせたり、ブラトップのような短いタンクトップを各所に使ったり、または留め具を外す、肩から落とす、ウエストから垂らす・・・といったコーディネートでの崩しも加えている。

 

ポスト アーカイブ ファクション(POST ARCHIVE FACTION)

Courtesy of PAF

 

 同日夜には同じくゲストデザイナーとして招聘されたドンジュン・リムとスキョ・ジョンによる韓国ブランド「ポスト アーカイブ ファクション(POST ARCHIVE FACTION/PAF)」もショーを発表。

 “Drifters(放浪者)”というテーマで、目的地にとらわれずリズムに導かれるような穏やかな動きを表現。天井から砂が降り注ぐランウェイをモデルたちが定まった方向ではなく漂うように歩く。ブラックを基調とし、グレーと白のトーンを加えた、デイウェアとテーラリングが中心の実用的なワードローブに、ジャケットの肩や胸にはカッティングがなされていたり、シャツの襟にはフリンジ加工が施されていたり、薄いニットはアシンメトリーに着くずしたりすることで、ひねりを加えている。またタオル地やキュプラ、ナイロンなどの意外な素材で仕上げたテーラードジャケットやスーツも登場した。

 

クラシコ系ブランドで進む軽さと機能の追求

 

Courtesy of Pitti imagine

 

 クラシックの代名詞的存在だったピッティ・ウオモがカジュアル化、多様化方向に向かってから久しいが、今回もクラシックとカジュアルをミックスする方向性を継続している。今回は全体のテーマを“ピッティ・バイクス(PITTI BIKES)”とし、「ピッティ・ウオモの多様なセクション-新しいフォーマルウェア、革新的なデザイン、ストリートウェアやアーバンスタイル、アウトドアギアやテクニカルウェア—を結びつける」ことを目指していると言う。

写真:「イートン」のブース

 

 会場全体の傾向としても、職人技やクラシックなエレガンスと現代的なハイテク機能との結びつきが見られ、前回の秋冬の傾向であった、高級感を保ちつつ、素材やディテールによる機能性で快適さを追求する流れが春夏には軽さやリラックス感の追求という面でより強調された。夏の素材の王道であるリネンおよびリネンのシルクやカシミア混は、コーティングなどの二重加工や織りによるストレッチ加工などで進化。シアサッカーやソラーロなど夏らしい素材もより軽さを求めたり、織り糸の色にこれまで使わなかった色を用いるなどで変化を付けている。

写真:L.B.M1911(上左)、サルトリオ(上右)、ガブリエレ パジーニ(中左)、ブリリア(中右)、ヘルノ(下左、下右  Courtesy of HERNO)

 

 その一方で、ゴブラン織りなどの本来重い生地を軽く加工して夏の素材として使用しているブランドも見られた。また昨今のオーバーツーリズムなほどの人の移動を反映してか、リップストップナイロンを始めとしたしわにならない生地や様々な気候に合う耐水、撥水加工など、旅にも快適な機能性をアピールするアイテムも多かった。色の傾向としては、白、ベージュ、パステルやペールカラーなど優しいトーンに加え、コーラルレッド、アンティークローズ、アプリコットなどニュアンスのある赤からピンクにかけてのトーンの差し色が多くみられた。

 

 来シーズンのピッティ・ウオモの開催は2026年1月13~16日の予定だ。

 

 

取材・文:田中美貴

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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