PICK UP

2025.06.26

【2026春夏ミラノメンズ ハイライト1】自由・旅・軽やかさ ─ リーディングデザイナーが導く次のメンズウェア

写真左から「プラダ」「ポール・スミス」「セッチュウ」「ドルチェ&ガッバーナ」

 

 2025年6月20 から23 日まで「2026春夏ミラノメンズ・ファッションウィーク」が開催された。イタリアファッション協会の発表によると、15のショー(うち5つがデジタル)、44のプレゼンテーション、17のイベント、計81の発表が行われた。

 

 前シーズンに続き、今シーズンも多くのブランドがウィメンズファッションウィーク中にメンズ・ウィメンズ合同ショーを予定していたり、これまでミラノのトリを飾って来た「ゼニア(ZEGNA)」が今回はドバイでショーを行ったりと、ビッグブランドを欠いた感はあるが、今回はミラノ初のショーでオープニングを飾った「セッチュウ(SETCHU)」、同じくミラノでは初めてのショーとなる「ポール・スミス(Paul Smith)」などの明るい話題も。また、「ディースクエアード(DSQUARED2)」の30周年パーティーや「ヤコブ コーエン(JACOB COHËN)」の40周年イベントを始め、全体的にイベントが多く、またプレゼンテーションも増えたため、予想以上に慌ただしいファッションウィークとなった。

 

 さて、ハイライト1では、そんなミラノ初登場の注目ブランドと、ミラノメンズの先端モードブランドを中心に紹介する。

 

プラダ(PRADA)

Courtesy of PRADA

 

 いつも凝ったショー演出がなされる「プラダ」だが、今シーズンはお馴染みの会場であるプラダ財団の空間をそのまま使い、いくつもの大きな花のラグを並べただけのシンプルなセットを設置。そんな雰囲気にも通ずるように、今シーズンのコレクションは全体的に簡素にまとめられている。今回のコレクションでミウッチャ・プラダとラフ・シモンズは“A CHANGE OF TONE”というテーマで、「姿勢の変化 ― 意味の解体」を探求した。

 

 コレクションはスポーツ、ビジネス、ヒッピーなど様々なテイストのメンズスタイルを組み合わせて構成。ファーストルックはタートルネックシャツとボーリングシャツを重ねてブルマを合わせた「プラダ」らしいスタイルだ。子供のようなイノセントな雰囲気を加えるこのブルマはフリンジ付きのミリタリー風セーターやトレンチコート、エナメル加工のジャケットやブルゾンなど様々なアイテムに合わせて繰り返し使用される。またカラフルなトラックスーツも、テーラードスーツやトレンチ、または会場のラグと同じデイジープリントが施されたヒッピーテイストのチュニックなど様々なアイテムとのコーディネートで登場する。さらに「フェミナイズド」と呼ばれる、女性服のようなアイテムのカテゴリーもあり、ガーリーな雰囲気のニットや、シャツドレスや50年代風のミニドレス、ワンピースとして着るタンクトップなども見られた。

 

 全体的にデザインがシンプルな分、カラーパレットは赤、黄、水色や黄緑のネオンカラーなどカラフルな差し色を多用。またアクセサリーはアウトドアテイストのバイカラーのナイロンバッグやカラフルな編み込みのランタンハットなどパンチの効いたアイテムを合わせている。ピンバッジやTシャツのプリントに使われた「Lover’s Lake(恋人の湖)」「Peak’s End(頂の果て)」などのスローガンも印象的だ。

 

 コレクションノートには「自由そして気楽」、「大地、空気、太陽、自然」、「衝動」などのキーワードが連ねられていた。前シーズンも本能や心が求めるファッションを提案していた「プラダ」だが、今回はさらに直接的で感覚的、そしてある意味、イノセントでピュアなコレクションだ。だからこそ、より「プラダ」らしさが前面に表れている。

 

ポール・スミス(Paul Smith)

Courtesy of Paul Smith

 

 昨年の6月のピッティ・ウォモのゲストデザイナーとして招聘されて、フィレンツェでプレゼンテーションを行った「ポール・スミス」。今シーズンはミラノ本社をショー会場として使用し、ミラノで初めてのショーを開催した。

 

 コレクションは彼がデザインを始めた頃に、エジプトを旅して手に入れたカイロのストリートフォトブックからのインスピレーション。ライムグリーン、フューシャ、コーラルといった温かくノスタルジックな色調で、鳥や花がプリントされたシャツや、鳥のアップリケのダブルジャケット、スエードでかたどった植物のアップリケが施されたレザーブルゾンなどポップなアイテムが登場する。50年代風のショート丈のジャケットにハイウエストのトラウザーズを合わせたテーラリングスタイルにはカラフルなプリントシャツを合わせ、ネクタイの代わりに首元にはスカーフでアクセントをつける。

 

 世界各地のマーケットの洋服や生地からインスピレーションを得るポール・スミスらしく、世界を旅するトラベラーが、各地の市場や路地裏で見つけた服を気ままに重ねたような、新鮮で意外性のあるコーディネートがなされている。パンツのベルトループに付けられたヴィンテージ調のホテルキーフォルダーやピンバッジやメダリオンで飾られたベレー帽、野菜や果物を入れたネットバッグなどの小技の効いたアクセサリーも楽しい。

 

 モノづくりの国であるイタリアには、これまでも製造の拠点を置いており、ブランドスタート当時から「ポール・スミス」にとってゆかりのある国。ポール本人もトスカーナに家を持っており、人も食べ物も気候も大好きだと言うイタリアで、満を持してのコレクション発表となった。コレクションに登場したポップでカラフルな色使いは、まさにイタリアの明るい太陽に映える。

 

セッチュウ(SETCHU)

Courtesy of SETCHU

 

 前シーズン、ピッティ・ウォモのゲストデザイナーとしてフィレンツェにて初めてショーを行った「セッチュウ」は、今シーズンは本拠地であるミラノに場を移し、継続してショーという形でコレクションを発表。元々は工場だった場所を改装して現在はギャラリーとして使用しているスペースをショー会場に選んだ。

 

 東洋と西洋の文化や美意識の「折衷」がベースとなっている「セッチュウ」だが、このアプローチは今シーズン、アフリカのプリミティブな世界へと舞台を広げる。出発点は桑田悟史がジンバブエのヴィクトリアフォールを訪れた旅。そこで現地の部族とともに椰子を使った編み物の制作に参加したり、憧れのタイガーフィッシュを釣る(桑田は趣味の範囲を超えるほどの釣り好き)という自然の中での貴重な体験を経て、服の形やサイズにとらわれず、身体そのものに重きを置く服作りへのアイデアが生まれた。

 

 ジッパーやボタンを開けて巻きつけるように着るシャツやTシャツ、縛って履く超ワイドなデニムパンツやカーゴパンツなど、サイズやフォルムを自由に調節できるアイテムが多数登場する。アフリカの滝の霧に着想を得た滑らかなドレープが各所に生かされ、椰子の編みを使ったオーバースカートや帽子などがアクセントを加える。ストラップがついてバッグのように持ち運べるサファリジャケットやガーメントケースからできたワンピースなど遊び心が聞いたアイテムも。色使いは空の青、大地の茶など自然の色で構成された強めのカラーパレットで、虹をモチーフにしたタータンも登場した。

 

 前シーズン、フィレンツェでのショーは特別な機会だと話していた桑田が、ミラノでも引き続きショーを発表するとは嬉しいサプライズだった。それは、ブランドとして着実に成長している様子を見せつけるとともに、これまでとはまた違ったアプローチで新しい章への幕開けを宣言しているかのようなショーだった。

 

ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)

©DOLCE&GABBANA

 

 今シーズンのテーマは“PYJAMA BOYS(パジャマ・ボーイズ)”。1990年代から同ブランドのDNAとしてランウェイに登場してきたパジャマを主役とし、アーカイブを掘り下げながら、クラシックで洗練されたイタリアンスタイルとして再解釈する。軽やかなパジャマとコントラストをなすベートーヴェンの「第五」をBGMに、モデルたちがランウェイをスリッパやテリークロスやファーフリーのサンダルで闊歩する。

 

 ストライプのコットンジャカードを使った、ドローストリングスのゆったりパンツとパイピングシャツのセットアップや、パジャマテイストのテーラードスーツがベージュからライトブルー、クリーム、ネイビー、そしてグリーンやブラウン、タイムレスなブラックまで様々な色使いで登場。またはクロシェ編みのカーディガンやポロシャツ、またはタイドアップしたジャケットスタイルやレザージャケットにパジャマパンツに合わせたコーディネートも。そこにはアニマル柄のコートやポルカドットのシャツなど、「ドルチェ&ガッバーナ」のアイコン的要素も加えられる。イブニングスタイルでは、パジャマに手刺繍のストーンやクリスタルが施され、予想を裏切るラグジュアリーさを発揮する。

 

 ショーのフィナーレでは、2月のウィメンズのショーと同様に、パジャマに身を包んだモデルたちが会場から外に出て大通りへ。パジャマスタイルが家の中だけでなく、モダンなラグジュアリースタイルになることを早速証明していた。

 

プロナウンス(PRONOUNCE)

Courtesy of PRONOUNCE

 

 周俊と李雨山の中国人デザイナーデュオによるブランド「プロナウンス」は、新しくオープンした「ソッツァーニ財団」にてショーを開催。常設展として飾られているクリス・ルースの作品に、「プロナウンス」のアイコニックなロープのイメージが重なる。

 

 今シーズンは伝統的な中国凧からのインスピレーションで、東洋と西洋の文化における凧の微妙な違いを探求し、凧の本質である脆さ、軽さ、そして張りを洋服のシルエットと構造に反映。その雰囲気は、透け感や浮遊感のある素材を使い、鋭角的に生地を折ったり後ろに流れるようなシルエットで表現される。また凧作りの伝統から直接着想を得たボタンの代わりに施した独特な留め具や、長いベルトや首に巻き付けたタイなどのディテールもみられる。

 

 フレッシュコットン、リネン、キャンバス、シルク、柔らかなジャカードなど天然素材を多用し、テーラードアイテムからブラウス、ウィンドブレーカー、ワークパンツやバミューダなどベーシックなワードローブを、斬新なプロポーションとお得意のロープのディテールで再解釈する。いずれも軽く、薄く、流動的なシルエットなのが特徴で、それをアースカラーやモノクロームに加え、淡いピンク、ミントグリーン、ライトブルー、ラベンダーなどの優しい色で仕上げている。

 

 そして今シーズンは、アーティストUNDETECTEDによる東洋の石を用いたネックアクセサリーや、初のレザーアクセサリーとなる、ハンドメイドでウォッシュ加工とダメージ加工を施したレザーシューズも登場した。

 

ヤコブ コーエン(JACOB COHËN)

Courtesy of JACOB COHËN

 

 創業40周年を迎えた「ヤコブ コーエン」は、60年代から70年代を彷彿させる没入型プレゼンテーションを開催。「スモール(JC)ワールド」と名付け、「ヤコブ コーエン」のアイテムを纏った約20名のモデルが養蜂業、洗濯屋、時計修理業、自動車整備士などに扮して作業したり、サッカーゲームや卓球、カジノなどに興じるパフォーマンスを行った。さらにマーチングバンドも登場してアニバーサリームードを盛り上げた。

 

 「ヤコブ コーエン」のアイコンはもちろんデニムパンツだが、モデルたちが纏うアイテムにはデニム生地でジャンプスーツやテーラードジャケット、スポーツウェアなどをデザインしたものも。さらにはデニムだけでなく、「ロロ・ピアーナ(LORO PIANA)」のペコラ・ネラ生地、シーアイランドコットン、そして繊細なジャージー素材を使ったアイテムも登場した。

 

 2階には40周年記念の特別コレクションも展示。日本製のデニムや、シルクやレザーにデニムシャツ+ジーンズのようなトロンプルイユが施されたアイテムなどが並んだ。また、来場客がカスタマイズジーンズのオーダーを体験できるコーナーも設けて、生地の洗いからステッチ、リベットやパッチなどを選んで、タブレット上で自分だけのジーンズを作れる仕組みを説明した。

 

 ミドルエイジ向けのクラシックなジーンズというイメージからモダンに変革を行い、幅広い層にファンを広げている「ヤコブ コーエン」。ライフスタイルをコンセプトにしたプレゼンテーションは、誰にもわかりやすく、そして楽しくブランドの魅力を伝えるものとなっていた。

 

取材・文:田中美貴

画像:各ブランド提供

>>>2026春夏ミラノメンズコレクション

 

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

アパレルウェブ ブログ

メールマガジン登録