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2025.06.30

【2026春夏ミラノメンズ ハイライト2】足さない美学 ─ 心地よさと軽さが導く新しいスタイル

写真左から「ブルネロ クチネリ」「エンポリオ アルマーニ」「ダンヒル」「ジョルジオ アルマーニ」

 

 今シーズンも多くの大手ブランドが不参加で、前シーズンに続きショーは少な目だったミラノメンズファッションウィーク。物作りの国であるイタリア故に、製品をしっかり見せるという目的から展示会形式で新作を発表するブランドは以前から多かったが、今シーズンはますますその傾向が強いようで、「エムエスジーエム(MSGM)」や「エトロ(ETRO)」、「マリアーノ(Magliano)」など以前はショーをやっていたブランドもプレゼンテーション形式に移行。ショーを開催する意味を考えさせられるシーズンでもあった。

 

 今シーズンは、全体的に軽やかさ、柔らかさ、薄さが重要視され、シンプルで控えめ、そして快適さとリラックスを求めるノンシャランなスタイルが多くみられた。それは「引く」のではなくて単に「足さない」だけのことで、つまり意図してそぎ落としてミニマルにしようというのではなく、へたに無駄なものはつけない、というようにも見える。

 

 カラーパレットも自然を感じさせるようなニュートラルな色、パステルカラーがマストで、そこにレッドやライトブルーなど、夏らしい明るい差し色を使っている。またチェックやストライプも多くみられ、オーセンティックな夏の雰囲気を感じさせた。

 

 今、求められているのは、奇をてらったり、肩ひじを張ったりしない、リラックスした自由な男性像。依然として世界情勢は混乱し、景気が低迷し続けている中で、ファッションは「攻めない」道を選んでいるのかもしれない。

 

 さてハイライト2では、クラシック系のテーラーブランドや、職人技が強みのブランドのコレクションをレポートする。

 

ダンヒル(DUNHILL)

Courtesy of DUNHILL

 

 昨年の初夏に続き、旧貴族のポルディ・ペッツォーリ邸のプライベートガーデンにてショーを開催。今回も緑が溢れる庭園に並んだテーブルに着席し、飲み物を片手にショーを見るという優雅な演出がなされた。

 

 今シーズンは、英国貴族の洗練されたドレスコードと英国ロックアイコンたちの反骨精神という英国独自の二面性からのインスピレーション。「ダンヒル」に常に影響を与えるウィンザー公の装いのフォーマルなコードに、ブライアン・フェリーやチャーリー・ワッツといった英国ロックスターたちのエフォートレスなスタイリングを入れ込んでクラシックを再構築した。

 

 テーラリングは、シアサッカー、ハイツイストウール、リネンなどの夏らしく軽い素材を構築的でありながら流動的に表現。ストーン、グレージュ、ドラブ、ハウスネイビーといった落ち着きのあるニュートラルな色合いのスーツやジャケパンスタイルに、スエード、コーティングリネンやコットンシルクツイルなどの素材を使ったカーコート、ドライビングブレザー、モータリングトレンチコートなどのアウターを合わせる。一方、ウォッシュドラベンダー、インディゴシャンブレーなどのジャケット、またはイングリッシュブルドッグのモチーフが付いたカーディガンなどスポーツエレガンスの装いも。太いストライプのネクタイやチーフを合わせて、「ネオギャツビー」なテイストを添えたルックもある。

 

 さらにマドラスチェックのジャケットや、赤、黄など原色使いのニットやパンツを合わせたカラフルなコーディネートや、フラワーモチーフのシャツやデニムなどのカジュアルスタイルをハットやスカーフでエレガントにまとめたコーディネートも登場。

 

 クラシックなラウンジスーツは、ロイヤルからネイビー、パープル、ブラックを採用しつつ、そこにはキャンディストライプのシャツ、シャーベットカラーのポケットチーフなどの対照的な色を使い、さらにベースボールキャップでコントラストをつけた。そこには英国風なエレガンスの中に、あくまで「ダンヒル」風の「ロックな反骨」が見え隠れしている。

 

エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)

Courtesy of EMPORIO ARMANI

 

 今シーズンは“ORIGINS”をテーマに、異文化への純粋な関心という自身の美学の原点に立ち返り、日常の装いを通して自己を表現する方法への情熱を再定義した。今回もショーは、「EA7 エンポリオ アルマーニ」のルックで幕開けし、砂漠での生活を彷彿させるような、サンプロテクト機能のあるテクニカル素材で、マウンテンパーカやポンチョ、トラックパンツやバミューダ、日焼け防止のキャップや長いグローブなどが登場した。

 

 本コレクションでは、アフリカ文化にインスピレーションを受けた色彩やアイデアがちりばめられる。モデルたちがコーン・ロウにしているのは、これまでの「エンポリオ アルマーニ」には決して見られなかったものだが、素肌に直接着た柔らかなジャケット、ワイドパンツやアラジンパンツ、長いチュニックやポンチョなど軽やかで流動的なフォルムはまさにジョルジオ・アルマーニが作るスタイルだ。素材はクレープやリネンなど素朴な質感の生地を多用し、低温染色の技法で強い日差しにさらされたような色彩の、砂、土、赤土などの温かみのあるトーンや、ペールトーンのゴールドやシルバーなどエキゾチックな色が使われている。

 

 モロッコのモザイクやベルベル人のテントからの着想の幾何学的なモチーフ、タトゥーを連想させるスモッキング刺繍やビーズとシルク糸の刺繍が使われており、ジャケットやジレについたフリンジやタッセルなどのディテールにもアフリカのテイストが色濃く表れる。さらに編み込みのスリッパや麦わら帽子、大きなソフトバッグ、ネックレスやチャームなどのアクセサリーは現地の職人技を物語るかのようだ。そんなアフリカの生命力が、アルマーニの洗練された独自の世界観にエネルギーを吹き込んでいた。

 

ジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)

Courtesy of Giorgio Armani

 

 今シーズンは久々に「テアトロ アルマーニ」でショーを開催した「ジョルジオ アルマーニ」。コレクションは“調和が奏でるシグネチャー”というテーマで、都会と休日、西洋と東洋、南と北などの相反する要素を織り交ぜながら、ブランドらしいバランス感のあるシグニチャースタイルを追求した。

 

 ボタン位置が低く丈は短めのショールカラーのダブルブレストジャケット、ティアドロッププリーツのワイドパンツ、シャツのように軽やかなトレンチコートやジャケット、ボリューミーなニットなど、リラックス感が漂う。オリエンタルテイストなスタンドカラーのセットアップやノーラペルのジャケット、またはエキゾチックな模様や織りや和柄のようなプリントで異文化のタッチを加える。

 

 色使いは全体的にニュートラルトーンのなかに深みのあるブルーやアクアマリン、ブーゲンビリア、シクラメンといった地中海の色彩を盛り込み、ロープのようなディテールのベルト、ファブリック製バッグ、ラフィアのハットなどのアクセサリーがリゾート感を漂わせている。メンズとウィメンズで同様なコーディネートをしてカップルで登場したルックでは、「ジョルジオ アルマーニ」の意外にもジェンダーレスな一面が垣間見られた。

 

 当日ジョルジオ・アルマーニ本人は自宅療養中で、「エンポリオ アルマーニ」共々、ショーのフィナーレには登場せず。久々にミラノメンズファッションウィークのトリを飾った「ジョルジオ アルマーニ」だが、「ミラノの帝王」ご本人が欠席の幕引きは寂しい。1日も早い回復を祈る。

 

ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)

Courtesy of BRUNELLO CUCINELLI

 

 例年通り、ピッティに続いてミラノショールームでもプレゼンテーションを行った「ブルネロ クチネリ」。今シーズンのテーマは“THE SHAPE OF LIGHT”。これは“明るさ、軽やかさが見せる形”を示唆している。薄いウール、シルク、リネンといった夏らしい上質の素材が、夏の光で流れるようなシルエットを描く軽やかなスタイリングを表現し、カラーパレットはオレンジ、アプリコット、ロイヤルブルー、コーラルレッドといった今シーズンらしい鮮やかな差し色が使われている。

 

 フォーマルなテーラードスタイルでは、ジャケットの着丈が3㎝ほど長く、ショルダーはややワイドで構築的で、ラペルは広めでゴージラインが下がった90年代初頭のような雰囲気のシルエットへと変化。パンツは股上を深く、2タックでボリューム感がある。それらを涼しげな生地で仕上げ、構築的ながらノンシャランな雰囲気を醸し出す。

 

 アウターも軽くなり、ショートトレンチやスリーブレスのMA-1、ファイヤーマン風の金具の付いたジャケットなど、個性的なデザインも見られる。ニットもシルクやコットンなどの素材を、ライトゲージを用いて軽く仕上げている。シャツはモックネックやノーカラー、または開襟シャツを提案し、軽さを強調。イブニングウェアさえも、ショールカラーにサテンを用いず仕立てた。それはフットウェアにも至り、アンコンストラクテッド製法のローファーやダービーシューズや薄手のスニーカーが登場。洋服から小物に至るまで全般的に、堅苦しさから解き放たれた自由な男性像を提案した。

 

ブリオーニ(BRIONI)

Courtesy of BRIONI

 

 「ブリオーニ」は、カサーティ・スタンパ宮という16世紀の宮殿の中庭で展示会を開催。エントランス部分では、普段はアブルッツォ州・ペンネにある「ブリオーニ」のアトリエで働いている熟練の職人たちがデモンストレーションを行った。

 

 そんな演出からもわかるように、今シーズンは特に仕立てにフォーカスしている。これまでも常に軽さという点を重要視してきた「ブリオーニ」だが、今シーズンは“エアネス”というテーマで、さらなる柔らかさ、軽やかさ、しなやかさ、快適さを追求する。それは着る人が常に主役であり、服は主張しすぎずにその人の自然な魅力を引き出すべきだという考えに基づいており、控えめなエレガンスとさりげないノンシャランを提案する。

 

 フォーマルとレジャーウェアを優雅に融合した一枚布のアンコンジャケット「ソッフィオ」を始め、ダブルスプリッタブル仕立てを用いたシャツジャケット、パーカ、トレンチコートといった軽量アウター、撥水加工がなされたソラーロのアウター、シルク100%のスプリングコート、薄くて軽いスエードのジャケット、リネンのシャツなど、夏らしく透明感のある軽いアイテムが様々に揃う。

 

 さらに今シーズンは少しモードテイストを入れ込み、スーツとシャツを同色・同素材で合わせたものや、裏地とのさりげないコーディネートの提案もあった。その一方で、合計800mの糸を手縫いで縫い付けたイブニングジャケットや、オーストリッチの革の模様を活かして袖のリブ部分にまで使ったボンバージャケットなど、「ブリオーニ」らしい究極のラグジュアリーは健在だ。

 

 軽さがトレンドとなっている今シーズンにおいて、これまでも常にその部分に焦点を当ててきた「ブリオーニ」ならではの、触れるのもはばかられるほどの繊細なピースが並んでいた。

 

トッズ(TOD’S)

Courtesy of TOD’S

 

 今シーズンは“ゴンミーノ クラブ”をテーマとし、会場となったネッキ宮をクラブハウスの雰囲気で演出。キーの代わりにゴンミーニが並べられたレセプションを通って庭の中へと向かうと、バーやプールサイドでくつろぐモデル達が勢揃い。「このコレクションは、オープンエアの光と軽やかさに満ちたイタリアの夏への憧れから生まれました。『ゴンミーニ』はアイコンであるブランドへのオマージュであると同時に、自然体でゆったりとくつろぐことへの誘いでもあります」とマッテオ・タンブリーニは語る。カラーパレットは画家のヨセフ・アルバースの色彩からインスピレーションを得たと言う。

 

 洋服のコレクションではテーラーメイドでありながら、リラックスしたスポーティなスピリットを少し加えたアイテムが登場。コンパクトリネン、クレープコットン、トラベルウール、シルクキャンバス、そして柔らかいスエードやナッパなどの素材で、アンコンジャケットやサファリジャケット、ドローストリングスのパンツなど、体の動きに合わせたゆったりしたシルエットを表現する。特に選び抜かれた最高品質のレザー「パシュミー」は、その並外れた柔らかさと軽さから、夏のアイテムとしても多用されている。ちなみに今回も会場では、本社から赴いた職人たちがレザーの厚さを測ったり、手でその感触をチェックするデモンストレーションを行っていた。

 

 そして、同社のアイコン的シューズ、ゴンミーニは今シーズンも主役に。ゴンミーニ バブルやバルカ(ボートシューズ)、ミュールなどのバリエーション以外にもローファーやスニーカーのソールとして登場。バッグは「トッズ ディーアイ バッグ フォリオ」のトートや、パシュミー&キャンバスのトレッキングスタイルのバックパックが登場した。

 

ラルディーニ(LARDINI)

Courtesy of LARDINI

 

 「ラルディーニ」はファッションウィーク中に、ミラノショールームのビルの中庭にて“ナティーヴァ(Nativa)”というカプセルコレクションを発表。新作コレクションに使われているファブリックが、壁から地面まで一面に広げられて会場の舞台を作り上げている。  

 

 この名はラテン語のnativus(物事の本質から生まれるもの)に由来。オリジンへの深い思いと自然で軽やかで洗練されたエレガンスを探求する。コレクションは「ラルディーニ」のルーツに回帰して職人の伝統への繊細なオマージュを捧げつつ、意外性と控えめなモダンさを再解釈しており、本社のあるマルケ州の自然の色や雰囲気を反映している。

 

 ウールツイル、コットン、シルク、リネンなど、軽く自然な風合いを感じさせる素材を使い、スーツ、ブレザー、トレンチコート、カーディガン、ツインセット、オーバーシャツ、トラウザーズ、サファリジャケットなどのベーシックアイテムを揃えた。シルエットは無駄を一切省き、構造的でありながら流れるようなリラックス感を醸し出している。ラペルに黒いパイピングを施したショールカラーの白いタキシードや、蝶ネクタイやヴィンテージのグラフィックがあしらわれたネクタイが、古き良き時代のシックな雰囲気をプラスする。カラーパレットは、自然を感じさせる温かみのある土と砂、セージグリーンやカーキなどを揃えた。「永続するスタイル」であり、「押し付けるのではなく、寄り添うファッション」を「ラルディーニ」は提案する。

 

取材・文:田中美貴

画像:各ブランド提供

>>>2026春夏ミラノメンズコレクション

 

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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