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2018.06.13
Airbnbの「予約取り消し」問題 訪日観光客に万全な対策を
6日の日本経済新聞は、16年の観光国内総生産が(GDP)が4年前に比べて20%近い増加を示し、約10.5兆円に上るとの試算を環境庁が示したと報じていた。同期間の名目GDPへの寄与は4.5%となり、経済成長への役割は大きい。この好調を支えているのが訪日観光客の増加で、12年には年間1千万人に満たなかったのが、以後急速な増加を辿り17年には2869万人を記録した。
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この勢いは18年も継続中で、1~3月期の訪日観光客消費額が前年同期比の17.2%増となり、1~3月期で初めて1兆円の大台を突破した。政府は20年までに4千万人の訪日観光客と8兆円の消費金額を目標にしており、今後滞在日数を長期化するような仕掛けが必要だとまとめられていた。
そんな浮かれた状況に冷水を浴びせたのが、民泊仲介世界最大手の米エアビーアンドビー(Airbnb、エアビー)による予約の取り消しだ。民泊の本格解禁と同時に法的な位置付けを明確にする目的で、15日に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行される。環境庁は1日、仲介業者に対して新法に基づく届け出予定がない施設の、予約取り消しを求める通知を出した。この時点ですでに、新法施行までわずか2週間と切迫した状況だった。
エアビーは通知の直後に、違法が疑われる業者の仲介サイトへの掲載をやめた。15日以降は旅館業法上の「簡易宿所」や国家戦略特区等の許認可に該当しない施設は“新法に基づく届け出のない施設”になってしまうため、エアビーの対応は当然だ。
問題は、既に予約されていた15日以降~30日までの4万件、および年末までの15万件である。全てが取り消しの対象ではないにしても、月内分だけでも3万件を超える予約に違法の恐れがあった。エアビーも直前まで予約の取り消しが必要とは想定していなかったが、環境庁との認識の違いが明確になった1週間後の7日になって、まず15日から19日分の予約をキャンセルし、それ以降の予約は10日前に自動キャンセルされることをホームページ上で告知した。
エアビーは予約取り消しの対象者に、総額11億円に上る補償を拠出することを発表した。利用者に対してこうした補償をすることは、同社にとって初めてだという。
しかし問題は訪日観光客にとっての宿泊施設の切実さだろう。国内に居住する人が、明日隣町で宿泊する予定がキャンセルになったとしても、そのまま自宅を出なければいいだけだ。海外旅行はそうは行かない。1週間前であれば既に旅行を開始している人もいるだろう。そんな人たちが慣れない旅先で、宿泊先の予約が突然キャンセルになった場合に、スムーズに次の宿泊先を予約できるとは想像しにくい。旅慣れた人でも半日程度の悪戦苦闘は避けられないのではないだろうか。貴重な旅程の楽しみをそんな手数で煩わせたら、来日全体の思い出が相当色褪せることは間違いない。とにかく現在は、慣れない旅先でホームレスになる訪日観光客が発生することのないように、官民の総力結集を期待したい。(矢牧滋夫)