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2025.06.07
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.107】 戦略的ドレッシングの波 「反骨と癒やし」を求めて 2025-26年秋冬ファッションの6大トレンド

写真左から「ステラ マッカートニー」「ディオール」「クロエ」「プラダ」
「トレンドの消失」が言われて久しいが、2025-26年秋冬コレクションでは着こなしマインド面での変革が目立った。新トレンドの軸は、着る側が意図を持って能動的に装いを組み上げる「戦略的ドレッシング」。時代に立ち向かうような「強め」の自意識が背景になっている。そうした能動的なマインドに寄り添い、動きやすさを重視したスポーティーやヴィンテージのテイストを自由にミックスする着こなしが広がりを見せた。着ることを通して癒やしや安らぎへと導くようなウエアも提案されている。着る人に自己肯定感や高揚感をもたらすような提案が全体に目立っていた。
◆80s パワーモード(80s Power Mode)




1980年代気分を帯びたパワードレッシングが息を吹き返した。ミニマルやクワイエットラグジュアリーはややトーンダウン。入れ替わるかのように浮上してきたのが「強め」の押し出し。肩張りシルエットも再評価を受けている。ただ、80年代のバブル感は遠ざけて、芯の強さを漂わせるさじ加減が2025-26年秋冬流。本格派のテーラードで節度や品格を醸し出す。
官能的すぎないボディーコンシャスは今の傾向を物語る。こびない流麗フォルムはしなやかでしたたかなキャラクターをまとう。ファーとレザーがグラマラスなムードを呼び込む。タフ感とエレガンスをねじり合わせるコーディネートは、一筋縄ではいかない反骨を印象付ける。
◆アスロマンティック(Ath-Romantic)




止まらない温暖化を背景に、着心地のよさを求める流れは加速が続く。一方、ロマンティック志向も強まっていて、両者がアスレティックを接点に折り合い始めた。かつてはエフォートレスと同調して「アスレジャー(Athleisure)」というトレンドが起こったが、今回はフェミニンでドリーミングな雰囲気との掛け算だ。
トラックジャケットとシアースカートを引き合わせるような着こなしだ。バーシティージャケット(スタジアムジャンパー)やユニフォーム、ラガーシャツなどに、たおやかなワンピースやロングスカートを添えると、全体がこなれて映る。ベースボールキャップやサッカーソックスなどの小物も健やかムードを加える。
◆ハートウォーミングボリューム(Heartwarming Volume)




心をほぐすような装いが浮上している。安心感に誘う、包み込むようなシルエットが登場。単に着飾ることを超えて、気持ちを整える役割をファッションに託す。先の見えない社会情勢、危うさを増す気候変動などの時代に、着る人の素肌越しに寄り添うかのようだ。
象徴的なのは、ボリューム感のあるファーやニット。オーバーサイズのコートはまるでブランケットのように体を柔らかく包み込む。防寒や着映えを超えた、気持ちをマッサージするような装いだ。色調もニュートラルカラーやグラデーションといったソフトトーンが安らぎに誘う。内面のラグジュアリーを高める新アプローチだ。
◆オールディーズガーリー(Oldies Girly)




ガーリー気分が成熟の気配を見せている。新たにまとったのはノスタルジックな雰囲気。エイジレスとタイムレスという、2種類の「レス」がクロスオーバーしたミックステイストだ。初々しいガーリー感は宿しながらも、幼さは封印。レトロな風情を絡ませて、オールディーズな着映えにまとめ上げている。
「年齢相応」という古いルールには従わない。若作り感は遠ざけながらも、ミニスカートやソックスといったガーリーアイテムを大人流に投入。フリルやリボンもアートのようなモチーフとして提案されている。穏やかに落ち着かせる決め手は懐かしげなムード。真知子巻きヘッドスカーフのような復古調アレンジが大人っぽさをもたらす。
◆タクティカルマッチング(Tactical Mattching)




エッジの立ったミックスコーディネートが装いの奥行きを深める。異なるテイストを交わらせるという従来の技法を踏み越えて、「テーラード×パンク」といった、戦略的な交差が試されている。現実の受け入れを拒むかのように、時空を超えて、無理めのスリリングなマッチングを試みるのが不穏な時代の実験的手法だ。
不確かで不愉快な情勢に抗(あらが)う意識がスタイリングにノイズを求める。パンツとスカートの重ね穿きは隙を見せない。ミリタリーやワークウエアの武骨さが持ち込まれ、「きちんと感」を揺さぶる。身を守る「プロテクション」のマインドがゴツめのアウターをまとわせる。
◆クラッシィゴージャス(Classy Gorgeous)




「マキシマリズム」とも呼ばれる、過剰なほどの装飾性が戻ってきた。パーティーシーンの復活を追い風に、スパンコールやラメ生地などのキラピカ演出がリバイバル。フリンジやスリットなどの動感ディテールが多彩に盛り込まれ始めた。ただ、むやみに着飾るのではなく、クラス感や節度、品位を保ちつつ、ゴージャスさを示すバランスが肝心だ。
レディーライクなたたずまいと、肩の力を抜いたアティチュード。そのどちらにも、上質な素材感が欠かせない。サテンやベルベットの控えめなつやめきがノーブルに着映えを整えてくれる。ニット仕立てのセットアップやワンピースには、穏やかでファビュラスな気配が漂う。
2025-26年秋冬トレンドのキーワードは「反骨」と「癒やし」だ。ファッションを通して抵抗感や不同意を示す。旧来のルールを受け入れない気持ちがずらしや崩しのスタイリングを呼び込んだ。一方、ヴィンテージテイストの柔らかく懐かしいムードや、身体の自由を保証してくれるのどかなシルエットも勢いづいた。反骨と癒やしという、真逆とも映る方向感の同居は、着る側に主導権が移りつつある今の雲行きを映し出しているかのようだ。
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宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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