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2021.09.23
米国女性の70%がサイズ16以上! 急成長中のプラスサイズブランド「TORRID(トリッド)」
ニュージャージー州の「Paramas Park Mall」にある、TORRIDの店舗
北米最大のプラスサイズを専門に扱う専門店「TORRID(トリッド)」は、2021年7月上場後初となる四半期の決算で、純売上高が2020年同時期に対し34%増、既存店の売上高も2020年同時と比べ30%増。また粗利率では、2019年同時期に対し、2020年は32.1%増、2020年同時期に対し、2021年は39.8%増と発表しました。TORRID社の資料によると、米国の女性向けプラスサイズのアパレルと下着の市場規模は850億ドルにも上るといいます。また、調査会社のEDITED社のデータでは、プラスサイズの市場規模は2027年までに6,970億ドルにまで成長すると予測されており、さらに米国女性の70%近く(約9000万人)がサイズ16以上のプラスサイズを着用していると報告されています。
実際に、需要に対して未だ不足しているこのプラスサイズ市場に参入するアパレル企業が増加しています。例えば、「Anthropologie(アンソロポロジー)」や「Athleta(アスレタ)」、量販店の「Target(ターゲット)」が展開するアスレジャーラインの「All In Motion(オールインモーション)」でもプラスサイズを導入し、コロナ禍でありながら、All In Motionが立ち上げから僅か1年で10億ドルの売り上げを達成しています。また、最近では「OLD NAVY(オールドネイビー)」が8月にBODEQUALITY(ボードクオリティ)をスタートしました。同ブランドの店内ではサイズ0~28を展開し、体型が異なる友人同士でも同じストアでショッピングが楽しめるインクルーシブマーケットとして、1200店舗で本格始動しています。この店舗数からも、BODEQUALITYはTORRIDの最大の競合店となり得る可能性があります。
TORRIDの基本情報:
-店舗数:608店舗(2021年5月時点)2020年はパンデミックで一時的閉鎖
-取り扱いサイズ:10-30(売れ筋平均サイズ:18)
-ターゲット:25−40歳(昨年度は客層の58%が40歳以下)
-2020年度売上高:9億7,400万ドル(2019年度:10億3,700万ドル)
-2020年度のアクティブ顧客:320万人(前年は340万人)
-2020年度Eコマース売上比率:全体の約70%(2019年度:48%)
-2020年度純売上高の95%が、ロイヤリティメンバーによるもの
バービー・フェレイラをフューチャーしたショートムービー
急成長の要因
TORRIDの急成長を支える要因として、プラスサイズの消費者が最も必要としている「フィット感」にフォーカスし、熟練のデザイナーが10年以上も商品開発に携わってきたことに加え、プラスサイズの「専門店」であるということが、最近市場に参入した競合企業と大きく異なる点と言えます。また同社は、商品投入後、反応が早い商品をいち早くデータで掴み、新製品のローンチを早めることで在庫のリスクを最小限に抑えています。
ベーシック商品 | 全体の売上の19%を占める定番のスタイル・色を用いた商品 |
コア商品 | 全体の売上の67%を占め、実績ベースのシーズン商品 |
新デザイン | 全体の売上の14%を占める |
商品のカテゴリーによる売上の構成
同社のデータベースによるローリスクのMD戦略として、純売上高の80%を正規価格で販売しているという特徴があります。また、デジタル分野に投資しつつも、年間25店舗をオープンするというオフライン戦略も取っています。その理由としては、消費者が店舗を通じて同社を知るきっかけを作るということ以外に、米国女性の70%近くがプラスサイズを求めているという現状の中、レギュラーサイズの店舗が約6万店舗あるのに対し、プライサイズの専門店は同社を含めて1,100店舗しか存在していないという背景があります。需要があるにも関わらず、それらを満たす専門店が現状非常に少ないという市場メリットがあります。
TORRIDのECサイトでは商品のフィット感を訴求
プラスサイズ市場に存在しなかったパーフェクトフィット
TORRIDの重要な販売要素となっている一貫したフィット感は、長年の自社研究により開発され、品質、コスト面を両立しながら実現しています。プラスサイズを提供している競合企業の多くが通常サイズをグレーディングしているのに対し、TORRIDでは実際にプラスサイズモデルを採用し、徹底したフィッティングを行うことで立体的な3D体型の女性によりフィットする商品をデザインしています。ちなみに、プラスサイズに力を入れているオールドネイビーでは、オレゴン大学と提携して女性380人をボディスキャンし、それらをベースに作成された3Dアバターを使用したグレーディングを行っています。これも一見現代的な方法に思えますが、TORRIDが行ってきた実在のプラスサイズ女性をモデルにしたフィッティング戦略の効果の一つとして、昨年度のEコマースにおける返品率が僅か9%という結果が出ています。
これは、米国の一般のアパレル企業の返品率が30%にも上ると言われている中で、非常に驚異的な効果が表れているということがわかります。また、商品ジャンルにおいて、新規顧客が初回に購入する商品の中で最も多いトップスに次いで、ブラジャーが2位となっており、同社傘下の下着ライン「Torrid Curve(TORRID カーブ)」は現在、グループ全体の売上の約20%を占める重要な成長戦略カテゴリーとなってきています。その他、ウエディングドレス、オフィスウェア、デニムなど、あらゆるオケージョンに対応するアイテムを展開しています。
TORRIDの公式YouTubeチャンネルでは、短編動画「ロックアウト」を生かしてブランドストーリーを演出
曲線美の消費者を一気に虜にしたマーケティング
HBOのドラマ「ユーフォリア」に出演する、厳しい状況下でも常にポジティブ精神を絶やさない女性を演じるプラスサイズの人気女優バービー・フェレイラ(24歳)をフューチャーした、ショートビデオシリーズが昨年末からスタートしています。初の短編動画「ロックアウト」のストーリーでは、TORRIDのランジェリーを着用し寛いでいるフェレイラに荷物が届きます。玄関先に出て荷物を受け取った後、オートロックのドアがクローズしてしまい、なんと彼女は下着姿のまま外へ締め出されてしまいます。彼女は慌ててパッケージを開け、届いたばかりのマフラーとブーツ(TORRIDの製品)を身につけ、隣人に助けを求めるというユニークなストーリーが展開されています。彼女が演じる親しみやすく魅力的で、ポジティブな主人公のキャラクターが一気に視聴者の共感をキャッチし人気に、今年の夏はプールサイドの一コマで、ダイナミックボディの水着姿で登場しています。
ニュージャージー州の「American Dream Mall 」にある、TORRIDの店舗
パンデミック禍でも繋がる顧客中心のサービス
店舗が一時閉鎖された間、ショップスタッフはオンラインビデオ会議ツールのZoomを活用して顧客と繋がることで、フィット感に関する商品選びのサポートや、BOPIS(オンライン注文、店頭受取)の対応など、顧客にとって安全で利便性の高いサービスを提供しました。特に評判が良かったのが、ブラジャーの採寸やサイズに関するアドバイスです。これは自宅からのコミュニケーションが意外と向いているサービスの好例の一つなのかもしれません。
TORRID INSIDER |
TORRID LOYALIST |
TORRID VIP |
年間購入額が0-499ドル |
年間購入額が500ドル以上 |
年間購入額が1000ドル以上 |
1ドル=1ポイント |
1ドル=1ポイント |
250ポイントで20ドル |
250ポイントで10ドル |
250ポイントで15ドル |
$50購入で$25キャッシュ |
$50購入で$25キャッシュ |
$50購入で$25キャッシュ |
バースデーギフト |
バースデーギフト |
バースデーギフト |
送料・返品が無料 |
送料無料 |
限定イベントへの参加 |
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専用カスタマーサービス |
専用カスタマーサービス |
会員ランキングが高いほど、ロイヤリティプログラムで利用可能な特典が増える
TORRIDの公式Instagramでは、多くのユーザー投稿が見られる
SNSの活用でポイントゲット!得するロイヤリティプログラム
TORRIDには、純売上高の95%がロイヤリティプログラム会員という特徴があり、会員は上記のチャートの様に3つのグレードに分かれています。ポイントを獲得する方法として、Instagramへの投稿やメールマガジン内の広告の閲覧がそれぞれ1ポイントとして付与されます。また、写真付きの商品レビューを投稿すると25ポイントが付与されるほか、「#TorridReward」や 「#feelthefi」のハッシュタグを記載してInstagramへ投稿すると月に最大25ポイント、FacebookやPinterestへの投稿は10ポイント、さらに、リワードキャンペーン中はポイントが2−3倍となるなど、SNSの活用でポイントが加算されるチャンスが多いのも特徴です。
プラスサイズという共通したアイデンティティに重点を置き、顧客ベースの一体感を育む戦略傾向が高まる中、ボディポジティブの風潮によりさらに自分らしさや自己アイデンティティをポジティブに捉えるという文化的な動きが活発になっています。プラスサイズの有名人やインフルエンサーが登場することで、プラスサイズの女性達も誇りをもってスタイリッシュな服を楽しむ傾向にあるようです。筆者は以前にもプラスサイズ市場をコラムで取り上げましたが、ゆっくりとしたペースで着実に成長しているこの市場には引き続き注目していきます。