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2021.09.16

【2022春夏NYコレ ハイライト2】スリーク、強さ、リラックス・・・楽観的なムードに満ちるニューヨーク

 ニューヨークでは2021年9月8日から12日にかけてニューヨークファッションウィークが開催されたが、そのハイライト後編をお届けする。今季のニューヨークコレクションはデジタルとリアルなフィジカルのショーが併存する形となったが、従来の会場であるNYFWの会場、スプリングスタジオも健在だった。しかしながら規模は、以前に比べると縮小しており、フリーギフトやカフェのコーナーもなくなっていたのが現状だ。一方、大きなコーナーをかまえているスポンサーがピンタレスト社であるところに時代の推移を感じる。メトロポリタン美術館服飾研究所の新展覧会「In America: A Lexicon of Fashion」も18日から開催されるが、そのメインスポンサーがインスタグラム社であるのも、時代を反映していると言えるだろう。

 

 今季のコレクションは全体に明るく、人々がまた出かける時に装うことを想定しているオプティミスティックなデザインが多く見受けられた。シルエットとしてはリーンでロングなものと、また一方ではミニのセットアップやミニ丈のドレスも多く提案された。重心がトップにあり、ブラトップやクロップ丈のトップに、ミッドリフを見せてハイウエストのボトムを組みあわせるスタイルが引き続き主流だ。そして雰囲気としては、スリーク(なめらかでなまめかしい)であったり、強さを主張したりする一方、どこかリラックスした空気も漂うルックが多かったのは、まさに人々の気分を掬いとっているといえるだろう。

アリス アンド オリビア(alice + olivia)

 ステイシー・ベンデッドが手がける「アリス アンド オリビア」は、9月10日にハイラインスタジオで対面式のプレゼンテーションを披露した。“カム・クリエイト・ウィズ・アス(来て、一緒に作ろう)”というテーマで、実際にペインターが背景の絵を描いたり、バンドが演奏したり、ダンサーが踊ったりという、アートとファッションを融合させた発表形式となった。

 

 色彩パレットはレッドやイエロー、グリーンと、まさに虹の七色といっていいほどビビッドだ。ブライトグリーンのジャンプスーツや、イエローのクロップ丈ジャケットとミニのセットアップ、オレンジのオーバーサイズのブレザーとシルキーなワイドレッグトラウザーまでボールドな色が目を奪う。このビビッドに主張する色彩は、やはりコロナ禍で閉じこめられていたところから反動としての生きる喜びを表しているのだろう。

 

 さらに全身タイダイのコーディネートや、ステイシーの顔を全身にプリントしたドレスなどのファンキーなアイテムも、「アリス アンド オリビア」らしい。ブランドのシグネチャーでもあるクラシックなプリントのパッチワークや花柄プリントも健在だ。シャイニーなアコーディオンプリーツのスカートやドレスは、70年代のスピリッツを彷彿とさせ、ビーズやラメもふんだんにちりばめられている。

 

 また今季はすべてビーガンレザーで作られているのも特徴で、ビーガンレザーを使用したミニやロングのフリルスカートやベルボトムパンツが目を引いた。

トム ブラウン(THOM BROWNE)

 「トム ブラウン」はフィジカルなランウェイで、メンズとウィメンズの2022春夏コレクションを発表した。創作ノートには「それは大きな屋敷だった、美しい邸宅だった、美しい庭の真ん中にあって。庭は忘れられていた。けれども、なお忘れられていなかった」とあり、廃屋や花園のようなイメージがあるようだ。

 

 ファーストルックは細やかなチュールで作った花をたくさん飾ったケープを纏った姿で登場して、オートクチュール並みの手作業で観客を魅了した。そして庭園にある20体の彫刻という設定で、色とりどりのチュールのドレスをまとったモデルが登場するのだが、そのチュールは何百枚ものチュールをひとつずつ切り、手で縫いつけて陰影を出すように仕立ててある。ちょうど人体のようなトロンプルイユの模様を浮かびあがらせたピースは芸術品のような出来映えだ。

 

 この他は、すべてがシグネチャーであるグレーの色彩でまとめられ、シアサッカー、ピンストライプ、ハウンドツース、プリンス・オブ・ウエールズ、ステップツイル、モヘアなどの素材が使用されている。袖なしのジャケットやコートがキーピースとなっていて、欠落したパートが不完全の美を感じさせる。たとえば袖なしのジレの上に、さらにアシメトリーの半袖のクロップ丈ジャケットを重ねた組み合わせや、長袖と半袖というアシメトリーなコートなど、アンバランスなバランスに美意識がうかがえる。

 

 メンズもマキシスカートを着こなして、ほとんどメンズ、ウィメンズの差がないルックとなり、より進んだジェンダーレスな着こなしを提案した。

レベッカ ミンコフ(REBECCA MINKOFF)

写真:会場の様子

写真左:会場に設置したデバイス、写真右:レベッカ・ミンコフ本人

 「レベッカ ミンコフ」はスプリングスタジオで、リアルとデジタルの両方を併存させたカプセルコレクション発表した。これは実際の会場に設置されたパネルにバーチャルを組み入れたユニークな形式で、会場でQRコードを読みとると、ヤフーのプラットフォームでコレクションを見ることができ、その場でオークションに参加できることもできる。いつもいち早くデジタルを採り入れる同ブランドらしい試みだった。

写真:モバイルで見た画面

N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)

 「N.ハリウッド」は、CFDA主催のデジタルコンテンツ、ランウェイ360のプラットホームで、「N.ハリウッド コンパイル」の2022春夏コレクションを公開した。

 

 「N.ハリウッド コンパイル」は“フォーマル、ドレスウエアの在り方をコンテンポラリーに編集する”というコンセプトを基に、テーマ性を持たず、服のディテールや素材、着心地を追求した創作を続けるブランドだ。

 

 今季は当たり前に存在するデザインやプロダクトのプロセスに対して「違和感」というキーワードを念頭に置いたコレクションを発表した。一見すると、ベーシックなアイテムに、袖だけ異素材をあしらったり、部分的にチェックを印象的に組みあわせたり、あるいは加工素材を用いるといった、異なる要素を「N.ハリウッド コンパイル」らしいバランス感で形づくり、ふしぎと溶けこむ違和感を表現した。

トリー バーチ(Tory Burch)

 「トリー バーチ」はフィジカルなランウェイで春夏コレクションを発表した。今季のインスピレーション源は、アメリカンルックの母ともいわれる往年のデザイナーであるクレア・マッカーデルだ。マッカーデルは1940年代に活躍して、現在のファッションにつながるカジュアルで機能的なデザインを作りあげたデザイナーだが、その汎用性、機能性、誠実さと喜びをかねそなえたアイデアを今季のコレクションに反映させたという。

 

 シフォンとリネン、ジャージーとイギリス刺繍、ピクニックの要素とマドラスチェックをコラージュしたドレス、エンジニアストライプと無地を組み合わせたデザイン、カラーブロックのリバーシブルジャージートップスなど、カラー、プリント、 ファブリックのコントラストが印象的だ。またウエストマークも今季の着こなしとして注目したい。ウエスト部分をコルセットのように絞ったデザインや、太めのベルトやニットのバンドゥでウエストをマークすることによって、マキシスカートやリラックスしたトラウザーを着用したルックのプロポーションをバランスよく見せている。クラシックなアメリカンスポーツウェアに、「トリー バーチ」らしい味つけを施したコレクションとなった。

トム フォード(TOM FORD)

 「トム フォード」はリンカーンセンターで、フィジカルなランウェイを開催した。今季のコレクションに当たって、トム・フォードはリリースのなかで、人々の生活の変化について語っている。デイタイムにドレスアップせずに、けれども夜出かけるときにはドレスアップすること。さらにインスタグラムによって、カラフルで、携帯の画面にも映えるデザインのスタイルが好まれるようになったこと。そしてセレブを含めて、多くの人達の日常スタイルがジーンズとTシャツ、ヨガパンツやスウェットパンツになっていること。こうした時代の変化を語り、そこから導きだされた今季のコレクションは、みごとにその時代の空気を掬いとったものとなった。

 

 ファーストルックは光輝くフューシャのトップに、オレンジのミッドレングスのスカート、そしてスリークなアクアブルーのジャケットという、鮮やかな色の組み合わせで目を奪う。シャイニーでスリークという、90年代のグラマーさを表現しながら、同時にレースバックタンクやサテンのジョガーパンツ、ブラトップ、トラックジャケット、アスレチックショーツなど、スポーツウェアの要素でカジュアルにリラックス感を醸し出した。

 

 カラフルなピースの後には、定番のブラック、そしてきらびやかなゴールドやシルバーがランウェイを支配する。コレクションのほとんどが、きらめくイブニングのワードローブで、パーティにふさわしいグラマラスなルックだ。だが同時に、各ルックをキーピースに切り離して、ジーンズやスウェットとミックスコーディネートとして、容易にデイウェアとして着こなすことができるだろう。色彩パレットは豊富で、ヌード、ライラック、シャルトリューズ、ペールアクア、ショッキングピンク、コバルト、スプリンググリーン、シルバー、ゴールドとブロンズなどが展開された。それらのカラーを絶妙なバランスで組みあわせてみせるところが、さすがの手腕だ。

 

 全体のバイブとしては希望に満ちた明るいもので、グラマラスでありながら、カジュアル、スリークでありながら、リラックスという感覚が、まさに今求められるものとなっている。エンディングにはゴールドやシルバーのメタリックなルックが続く。ラストルックは、モダンな夏のウエディングドレスだ。ゴールドのジョガーパンツに、ブラトップ、そしてシルバーラメのロングコートを羽織るという、プールサイドやアウトドアダイニングでの結婚式にふさわしいスタイルで、スリークでいながらリラックスした雰囲気を提案した。何よりも希望に満ちた輝きが、今季のランウェイの締めを飾るのにぴったりだったと言えるだろう。

アナ スイ(ANNA SUI)

 「アナ スイ」はリアルなランウェイに戻る舞台として、ニューヨークの人気レストラン「インドシン」を選んだ。今回はアナ自身が夢見る南国の“パラダイスの一日”をテーマにしたという。

 

 ファーストルックから、ネオンピンクのTシャツにクロシェの水着を上からつけて、スキューバシャツを羽織り、同じくネオンピンクの靴下とサンダルを合わせるという鮮やかなスタイルで登場。続くルックの色彩もネオンピンクやネオングリーン、レインボーカラーとカラフルで鮮明だ。楽園の鳥やハイビスカスをモチーフにしたトロピカルプリントのシャツやドレス、スカートが、フレンチテリーコットンやメッシュとミックスされて披露された。Tシャツやショーツにサーファーカルチャーを織り込み、トロピカルなモチーフをアップデートしてみせ、クロッシェ編みの帽子やバッグ、水着などの小物類も魅力的だ。

 

 フランス人画家のニキ・ド・サンファルの作品が、スパンデックスやシルクリネン、シルクコットンボイルなどにプリントされ、カラフルなパレードを飾った。パンデミックが終わってバカンスに自由に行きたい、パラダイスに向かいたい、そんな人々の気持ちが華やかにランウェイに咲いたようなカラフルでスイートなコレクションとなった。

 

 

取材・文:黒部エリ

 

「ニューヨーク」2022春夏コレクション

https://apparel-web.com/collection/NY

 

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