PICK UP
2015.05.20
「ルクア イーレ」開業1カ月 売上高50%増の好スタート
樋口尚平の「ヒントは現場に落ちている」 vol.17
集客力を発揮している「梅田 蔦屋書店」。500席の寛げるスペースも設置
4月2日開業し、5月8日の「梅田 蔦屋書店」のオープンでテナントが出揃った「LUCUA 1100」(ルクア イーレ)が好調なスタートを切ったようだ。改装グランドオープンなので、盛り上がって当然かも知れないが、4月末まで約1カ月の推移は、来館者数が約720万人(約60%増)、売上高が約66億円(約50%増)だった。現場を歩き回った感想を書いてみる。
高すぎず、個性的な商材
来館者数の約60%増および売上高の約50%増という伸び率は、前年同月のルクアとJR大阪三越伊勢丹の合計との比較だ。この2つの伸び率が近しいため、“冷やかし”のお客さんが少なかったと想定できる(来館した人の買上げ率が高かったと予想できる)。「グランフロント大阪」や「JR大阪三越伊勢丹」の開業時は、売り上げの伸びに比して来館者数の方が多かった。また、「ルクア本館」への相乗効果も見られたという。
4月2日の開業後、何度か「ルクア イーレ」を訪れた。正直、上層階に行くほどお客さんの“入り”は減っていく印象を受けたが、これは9階に「梅田 蔦屋書店」がオープンしていなかった影響も大きいだろう。現に、5月8日の「蔦屋書店」のオープン後に訪れてみると、上層階への集客数がぐっと増えていた。 “本のショールーミング”の一面を持つ「蔦屋書店」の集客力がかなり貢献しているとみられる(後述)。
「グランフロント大阪」や「JR大阪三越伊勢丹」ではラグジュアリーブランドが多かったが、「ルクア イーレ」はそうした高感度ファッションよりも個性派ブランド、メンズ・レディス双方に提案できる雑貨や飲食などを増やし、時間消費型の施設を意識している。「ちょっと買って帰ろうか」と思わせる商材が多かったと推測できる。これは「ルクア本館」の系譜を継承していて(本館の滞在時間は短いが)、高すぎないが、個性的な商材を重視した。2階を中心に好調な推移だそうで、幅広い客層が訪れているという。
統一感のあるレイアウト 都市部立地のSC然とした構え
「ルクア イーレ」の主要な導線は、2階のペデストリアンデッキ(歩行者連絡通路)だ。もちろん、1階からも入館できるし、5階や7階の「ルクア本館」(かつてのルクア大阪)との連絡通路もあるが、“顔”になっているのは2階である。ここは「ルクア本館」のほか、「グランフロント大阪」、JR大阪駅改札口、大丸梅田店と連絡しているので、とても利便性がいいからだ。「ルクア」を管理・運営するJR西日本SC開発も、「ルクア イーレ」の一押しフロアは2階だと語っている。
雑貨ショップが集積する一押しの2階フロア
核テナントに百貨店である「isetan」を据えているが、極力、従来型の百貨店然とした構え、内装には仕上げていない。出店テナントの発表会見でも、「専門店部分と自然につながっていて、気が付いたら百貨店売り場だった」という統一感のある雰囲気にする旨を語っていた。2階フロアはその象徴的な売り場で、中央付近には「isetan」編集の個性派雑貨ショップと化粧品コーナーを集積し、その周辺と壁面を専門店で囲むようなレイアウトになっている。ショッピングセンター(SC)、ショッピングモールが都市部立地にある印象だ。
ただし「ルクア イーレ」は平均的なSCやショッピングモールのように低層階の構造ではない(地下2階、地上10階の12層)。上層階へ来館客を導く強力なテナントが必要だった。その施策の1つが6階のSPAブランドの集積で、「オールドネイビー」や「フォーエバー21」といった大型テナントが入っている。業界では、「いまさら…」と否定的に見られていた向きもあるが、4-5月、複数回にわたり現場を訪れている限りの印象では、お客さんはよく入っている。
9階には、約1,000坪の「梅田 蔦屋書店」(カルチュア・コンビニエンス・クラブが運営。以下、CCC)が入居する。複数の媒体で、「大型書店がひしめく梅田地区で勝算はあるのか?」といった論調が目立っていたが、同店の小笠原寛館長いわく、「本を売っているという気はない。既存の書店とは違うと考えていただければ…」と語っている。中央にテーマ別で編集した書籍が並び、それを取り囲むようにカフェやオーディオ機器、ネイル・ヘアカラー・ヘッドスパなどのテナントが出店する。500席ある椅子で、購入前の本を片手に店内カフェで購入した飲み物を楽しむことができる。汚れる恐れもあるがそこは性善説を採っていて、お客さんを信用しているそうだ(実際、汚す人も少ないらしい)。読んでいるうちに面白くなってきて、購入につながるケースも少なくないようである。
この店内の構成やレイアウトはCCCが組み立て、「足りない部分は専門店に協力を仰いで売り場を構築した」(CCCデザイン Beauty&Healthcare事業企画、咲山一郎ユニットリーダー)という。その一例が「シー ユー バイ ウカ」。ヘアサロン・ネイルサロン・ヘアケア・美容用品を扱う株式会社ウカと共同で設立した株式会社シーユーが運営するヘアサロン・ネイルサロン・ヘアケア・美容用品販売ショップだ。1号店は東京・二子玉川ライズS.C.テラスマーケットに出店する「蔦屋家電」内にある。「梅田 蔦屋書店」にも、「蔦屋家電」で展開するスマートフォンのコーナーも併設している。
昨秋、JR西日本SC開発の山口正人社長をインタビューした時、「(本館だけの)2万平方メートルでは手狭だと感じていた。西館(=ルクア イーレ)と合わせると5万3,000平方メートルになり、『ルクア』として十分な提案ができると思う」と語っていた。正直、広すぎやしないかと感じていたが、出来上がってみると、なるほどとうなずける部分がある。さあ、これからどうなりますか。現場に足繁く通ってみよう。
樋口 尚平
ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。
|