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2016.06.15

「ルクア イーレ」開業から1年 既存施設との相乗効果生む

大阪駅北側から臨む駅ビル。真ん中奥が「東館」(旧ルクア大阪)、右手が「イーレ」(旧伊勢丹)、左手前は「グランフロント大阪」の南館

 「伊勢丹」の売り場を再開発した大阪・梅田の複合商業施設「ルクア イーレ」がグランドオープンして1年が経過した。昨年4月2日に上層階の「蔦屋書店」(5月8日に開業)を除くテナントがオープン。東館(旧ルクア大阪)と併せ、年間770億円の売上高を目指してきたが、暖冬の影響が響いて761億円の実績だった。しかし来館者は7,000万人の計画に対し7,700万人と実績が上回った。同施設を運営するJR西日本SC開発の山口正人代表取締役社長に、1年目の手応えをうかがった。

売り上げ好調!セレクト主力の東館に40~50代も流入


ルクアイーレ(LUCUA 1000)

 総売り場面積が5万3,000平方メートルと中規模の百貨店並みである「ルクア」。2館体制で昨春、新しくスタートを切った。東館、旧ルクア大阪は20-30代女性を主体にしたファッションテナントがメーンの構成だが、「イーレ」は40-50代も想定した幅広いターゲット設定で、取り扱う商材も雑貨や飲食、大型書店などと変化に富む。ターミナル立地を最大限活用するため、全方位的な商品構成を目指した。また、百貨店の伊勢丹が「isetan」の屋号でテナントとして入居し、専門店と一緒に売り場を構成している点も新しい試みだった。

 

 ふたを開けてみると、意外にも東館の売り上げが増えたという。若い世代が中心だった東館だが、「イーレ」に訪れる年配の世代が回遊して、新しい客層を取り込んでいる。「東館のセレクトショップ――『ビームス』や『トゥモローランド』などは若い世代に加え、30-40代、50代もカバーできる品揃えです。ヤングレディスブランドなどのショップにも、年配層の方が訪れているようです」と山口社長はその相乗効果を説明する。元々、東館には顧客が付いていて、その上に「イーレ」効果で新しい客層が流れ込んだ。その分がプラスになり、好調な1年を過ごすことができたようだ。「イーレ」による相乗効果を東館へもたらす――という来館客の流れは、想定に近いものだったという。

 

 2館トータルの初年度売上高は761億円(館ごとの売上額は非公表)。当初目標の770億円を少し下回った。これは昨年11月以降の暖冬の影響が大きく、年明け以降のセールなどは健闘したそうだが、特に冬物のプロパー商戦が苦戦したこともあり、目標値には少し足らなかった。2016年春夏シーズンもそうだが、「今すぐ着られるものを買い求めるという、実需型の傾向がますます強くなっている」(山口社長)ことも影響しているようだ。「イーレ」では、順調な滑り出しだったテナントと、そうではないテナントが混在している状態だった。顧客を作っている途上で、山口社長も「今後の課題はファン作り」と指摘する。

 

 ちなみに16年春夏シーズンの推移は「まずまずだと思う」(山口社長)。昨年の開業時期に当たる4-5月はさすがにオープン景気の反動があったというが、アパレルの落ち込みは思ったほどではないようだ。また、インバウンド客は前年の10%増程度に落ち着きつつあるという。大量買いの傾向が影をひそめ、東アジアの個人客にリピーターが増えている。

「isetan」は新規の若い世代を取り込む

 「ルクア イーレ」のメーンテナントとして再スタートを切った伊勢丹。「isetan」の屋号で、レディスアクセサリーやレディスアパレルの自主編集売り場、メンズの洋品売り場などを展開する。エスカレーター前のスペースでは常時、新しいブランドなどを紹介するイベントを開催しているが、こうした取り組みが若い世代を取り込んでいるようだ。ちなみに伊勢丹の開業時から頑張っているのが食料品売り場、いわゆる“デパ地下”だ。「イーレ」開業と同時にデパ地下と隣接する区画に飲食街「地下バル」がオープンしたことも、プラスに働いている。

 

 「isetan」は周辺の専門店の顧客層を意識して、ターゲットの年齢層を比較的若く設定している。そのため、年配層を主体にした既存顧客が離れて行った面もあったが、これは想定内である。新たに若い世代を開拓する必要があると考えているが、東館との買い回りが増えたプラス要素もある。「イーレには伸び代がある」(山口社長)と感じている。

テナント間の信頼醸成も継続課題

 今後も、「オールドネイビー」(「フォーエバー21」と共に出店中)など不定期でテナントの入れ替えが発生するが、新業態など認知度を高める必要のあるブランドにはリスクが伴うと考えている。「デベロッパーとしては、新しく入ってもらったテナントにお客さんがついてくれるかどうかが重要。新業態にはこだわりません」(山口社長)。強化すべきカテゴリーは、「うまく行っている個所――例えば地階の『地下バル』を拡充する手もあります。週末を中心に“カフェ難民”が発生しているので、もっとカフェ機能を充実することもありでしょう」(同)。

 

 テナントとの良好な関係構築にも継続的に取り組んでいる。「ルクア」の特徴的な取り組みの1つが、十分な在庫を積むという点。前述のように実需型の館であるため、売れるタイミングを逃さないよう準備しておく必要がある。とかく昨今は在庫の管理が厳しくなり、売り切れ御免のスタイルが増えている観があるが、こうした全体の流れとは少々、趣を異にしている。「店長会などを通じ、テナントには結構うるさくお願いしています…。在庫を持たない方がいいと言われますが、この館は“玉”を用意する必要がある」(山口社長)。実際、年明けの1月中旬から下旬にかけて冷え込んだ時期に、冬物商材を用意できていたため、売り上げを確保することができた。…集客力の高い館だからこそできる施策かも知れないが。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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