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2017.12.20

大阪「エキスポシティ」――3年目の挑戦 地元ファンが増加傾向に

地元のファンが着実に増えている「エキスポシティ」

 2015年11月に大阪・吹田市にグランドオープンした大型複合商業施設「EXPOCITY」(エキスポシティ)が3年目に入った。「ららぽーと」を軸に、様々なエンターテインメント施設が集まる新しい商業施設として注目度が高い。開発主体の三井不動産としても、挑戦的な新しいコンセプトの施設である。オープン景気の反動が表れる2年目はほぼ前年並みと健闘したようだ。3年目に臨む「エキスポシティ」を取材した。

オープン景気の反動を乗り切った2年目

 いわゆる大手メディアの悪い“癖”のひとつに、オープン景気を過ぎた商業施設に対する関心が急速に薄れる、という“習性”がある。オープンのほかに、どこに関心を向けるかと言えば、“閉店”のタイミングである。その間の活動――粛々とその商業施設が営業努力を積み重ねていった“過程”を鑑みる事例は、残念ながら少ないと言わざるを得ない(皆無、ではないが)。

 

 常々、商業施設の“実態”は、開業から3年目に表出するというのが、わたしの主観的な見立てだが、幸いなことに取材の際、この説を披歴すると、同意していただける商業施設関係者が多いことも事実である。ただしこの自説も元はと言えば、若かりし頃、過去の商業施設を取材した際に、業界の諸先輩方に教えていただいた知識が礎になっている。

 

 「エキスポシティ」の場合、具体的な売上高が非公表なので、厳密な評価は難しいが、館長のコメント――「前年並み」という言葉を信じる限り、オープン景気の反動が大きい2年目をうまく乗り切ったと言えるだろう。期中に退去したテナントもあるため、初年度との単純比較は難しいが。

ポイントアップ、ワークショップ―近隣客が着実に増加

 明るい材料もある。2年目の取り組み課題に掲げてきた足元商圏の顧客が増加傾向にあることだ。約1年前の取材では、EXPOCITYオペレーションセンター、栗林環所長は「平日の集客が課題」だと語っていた。その課題を解消するべく臨んだ2年目だった。

 

 同施設の顧客層は、ミルフィーユのように多層構造である。半径10km圏内の足元商圏が1つ。加えて、週末や祝日など“ハレ”のシーンに利用される――観光客を主体とした広域商圏というもう1つの守備範囲を併せ持っている。この多層的な顧客層を、様々な施策を用いて効率的に集約することが、平日対策にもつながる。

 

 2年目に取り組んだ事例の1つが、水曜日のポイントアップサービス。足元商圏のヘビーユーザーを対象にした取り組みだ。その前日――火曜日の集客策も併せて取り組んだ。加えて、「ワークショップ」の開催にも力を入れた。昨今、様々な商業施設でトレンドではないかと個人的に思ってしまうワークショップであるが、エキスポシティでは着実に集客効果を挙げているという。こうした取り組みの結果、2年目は足元商圏からの来館客数が増加傾向にあるようだ。1年目の課題が徐々に解消されつつある。

アパレル系セレクトショップや大型テナントが売り上げをけん引

 今シーズンは比較的、アパレル関連テナントが健闘しているようだ。カレンダー通り季節に応じた気温変化が続いた後押しもあり、今秋以降の売上推移も順調だという。今年10月、週末ごとに襲来した台風の影響も軽微だったようだ。特に「セレクトショップ関連や、大型テナントの『ユニクロ』『無印良品』『アカチャンホンポ』などがけん引役になっている」(栗林所長)。

 

 前述の、台風到来時の影響が少なかった背景だが、これは来館客の“アクセス”分布に理由がある。最寄駅は大阪モノレールの「万博記念公園駅」だが、最も多いのは自家用車の利用で、来館客全体のおよそ70%が該当するという。そのため、台風の影響も軽微だったようである。駐車場のキャパシティーの件も、来館の時間帯がまんべんなく分布する傾向があるため、現在のところ問題にはなっていないという。

 

 30~40代を中心としたファミリー客がメーンの同施設だが、3世代の利用が多く、子供服のテナントも好調だという。3世代の利用という面では、家具関連などインテリア雑貨も堅調だ。そのほか、大箱テナントの「ゼビオ」などスポーツ関連テナントも堅調だ。最近の冷え込みも、ダウンジャケットなど重衣料の消化を後押ししているというプラス要素がある。非アパレル系では、“お鍋”関連の食材が相乗効果でよく売れている。

重視するのは継続した顧客づくり

 売りだったエンターテインメント施設は、残念ながら「ポケモン」のテナントが撤退したが、ほかの7施設は堅調に運営を続けている。「ポケモン」跡には来春(2018年)、ナムコが手掛けるスポーツをテーマにした体験型施設「VS PARK(ブイエス パーク)」がオープンする予定だ。

 

 3年目に突入したエキスポシティ。開業時の会見では、年間600億円程度の売上規模を目指すと公表していた。約22万3,000平方メートルの敷地内に約7万1,000平方メートル(ららぽーと部分)の商業棟を展開する同施設。7万1,000平方メートルは「三井不動産ショッピングパーク ららぽーとEXPOCITY」の部分で、ほかの施設を併せると運営面積は更に広くなる。郊外型施設だという点を考えても、控えめな数値目標である。

 

 栗林館長は3年目の売上目標について、「非物販のエンターテインメント施設の比率が多い施設なので、売り上げの数値目標の設定は難しい」と慎重な姿勢だが、手応えは確実に感じているはずである。前述した“多層的な顧客層を、様々な施策を用いて効率的に集約すること”――これが3年目にも共通した重要課題のようである。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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