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2014.10.10

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.19】2015年春夏NYコレクション

 2015年春夏・ニューヨークコレクション(メルセデスベンツ・ファッションウィーク、9月4~11日)は楽観的なムードに覆われた。鮮やか色やハッピーモチーフがランウェイを朗らかに華やがせた。リラクシングやスポーティーの流れはさらに勢いを増し、テイストミックスも拡大。米国の歴史や気風をあらためて再評価するような傾向も強まった。

(左から)カルバン クライン photo by Calvin Klein、
マイケル コース photo by Michael Kors

 全体に若返った印象を濃くしたのは、今回のNYで目立った変化だ。余計な飾りをそぎ落とした着姿で知られる大御所の「カルバン クライン(Calvin Klein)」も、ノースリーブの上下セットアップを軸にフレッシュで健康的なシルエットを目に飛び込ませた。着丈が長いメッシュ編みニットは、細身スカートとのコンビネーションが冴えて、スレンダーで伸びやかなボディーラインを描き上げた。

 

 自ら「楽観的シック」をテーマに選んだ「マイケル コース(Michael Kors)」は今NYのムードセッターとなった。幸福感を象徴するフラワーモチーフをどっさりあしらって、気張らない「エフォートレス」の先へと案内した。持ち前のアメリカンスポーツウエアと甘すぎないロマンティックを同居させた「プリティースポーティー」は今のNYモードの主旋律だ。パートナーのワードローブから拝借してきたようなフレンチカフスの白シャツをメンズウエアから発掘。スカートのコンビネーションでレトロとキュートを交差させ、「古き良きアメリカ」への郷愁を募らせていた。

(左から)トム ブラウン ニューヨーク photo by トム ブラウン ニューヨーク、
ダイアン フォン ファステンバーグ photo by Diane von Furstenberg

 会場に芝生を敷き詰めてガーデンパーティーのような演出を見せた「トム ブラウン ニューヨーク(THOM BROWNE. NEW YORK)」も、花をキーモチーフに据えた。グレーのスーツがシグネチャー的存在だったが、今回はそのスーツにも花びらアップリケをいくつも配してガーリーな装いにアレンジ。パステルカラーやサイケデリックカラーも持ち込んで、これまでの無彩色志向から一変。叙情的な春物語を語りかけた。その一方で帽子にはいたずらを仕掛け、スーツ風やドレス形など、トリッキーな外見のハットで着姿にサプライズを仕込んでいた。

 

 バカンスや小旅行に連れ出すような提案が相次いだのも、今回の目立った動きだ。「ダイアン フォン ファステンバーグ(Diane von Furstenberg)」は南仏コートダジュールに着想を得て、本物の上流階級を知る彼女ならではの優雅でリュクスな避暑地ルックを披露。鮮やか色の花柄や、黒と白のギンガムチェックが1950年代ムードを呼び覚ました。アイコン的なシルクジャージー仕立てのドレスが、リゾート地でくつろぐのどかな時間を印象づけている。

(左から)ラグ & ボーン photo by rag & bone、
アレキサンダー ワン photo by ALEXANDER WANG

 ミリタリーの台頭は新ムーブメントに成長し、この先も勢いが続きそう。もともと米国ワークウエアへのリスペクトが深い「ラグ & ボーン(rag & bone)」はオリーブ色やカムフラージュ(迷彩)柄を多用。ありきたりの軍放出品風にまとめないで、植物モチーフやスリーブレスジャケット、ワイドパンツなどと組み合わせて、アーバンな着姿に仕上げている。自然体のスタイリングはさらに安定感を高め、白やエクリュのニュートラルカラーを使った。バッグの持ち方、提げ方を工夫した提案が相次ぐ中、斜めがけにしたバッグを胸の真正面でホールドするアレンジも冴えた。

 

 愉快な雰囲気の「プレイフル」がさらに進んで、茶目っ気やいたずらっぽさに向かったのも、今回の新傾向の1つ。「アレキサンダー ワン(ALEXANDER WANG)」が披露した「着るスニーカー」はその分かりやすい例。「Nike」や「adidas」の歴史的傑作スニーカーの特徴を写し取った服を発表した。パーフォレーション(通気穴)が開いた風情、シューレースのたたずまいまで生かしたミニドレスやテニスルックは自然とスポーティーな気分を宿した。モデルにはあえてスニーカーを履かせず、ハイヒールやウェッジソールで合わせ、自らがリードしてきた「スポーツリュクス」に新たなお手本を示してみせた。

(左から)ダナ キャラン photo by Donna Karan、
ジェイソン ウー photo by JASON WU

 アメリカのよさを見直すアプローチが相次ぐ中、「ダナ キャラン(Donna Karan)」は地元NYへの愛を歌った。アフリカやアジアを思わせるトライバル模様をドレスにあしらい、NYのミックスカルチャーを装いで表現。赤をドラマティックに利かせて、都市の鼓動を服に写し取った。NYのストリートから生まれたグラフィティ(落書き)アートも取り込んで、街と地続きのモードを組み上げてみせた。大人っぽいブラトップや深いスリットに静かな色気が薫る。極端に山の高いビッグハットにも、おしゃれで「遊ぶ」余裕がのぞく。

 

 「ジェイソン ウー(JASON WU)」はスラウチで着やすそうなドレスやセットアップを仕立てて、アメリカンスポーツウエアの精神を受け継いだ。一見、シンプルでありながら、巧みなテイラーリングが施されていて、品格や華やかさが際立つ。「Hugo Boss」も任されているだけあって、メンズとのジェンダーミックスはさらに磨きがかかり、男っぽさを薄めた自然なボ-ダーレスに仕上げられている。シルクやツイード、スエードなどの上質マテリアルを惜しげもなく注ぎ込んで、貴婦人の装いに深みをもたらした。

(左から)トミー ヒルフィガー photo by TOMMY HILFIGER、
ラコステ photo by LACOSTE

 クリエイターの人生哲学や偏愛をコレクションに昇華した「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」は尽きないロック愛を捧げた。ビートルズやローリング・ストーンズなど、1960~70年代の音楽シーンを沸騰させたロックのレジェンドたちが身を包んだようなグリッターでグラムな装いを並べた。裾広がりのロングコートや軍楽隊風のミリタリージャケットが「ロックスター」の栄光を現代に照り返す。彼らに焦がれるグルーピー少女たちにはヒッピーライクなアイテムを用意して、ロック史のヘリテージ(遺産)にも敬意を払った。

 

 「ラコステ(LACOSTE)」はヨットをイメージソースに迎え、リッチ感の高いマリンスポーツに誘った。ウインドブレーカーは腰に巻き、風に遊ばせた。スポーツアイテムのアイコンと言えるナンバリングTシャツは数字の見え具合をいたずらっぽくアレンジして、ファニーな気分を忍び込ませている。NYが発火点になった「スポーツリュクス」のムーブメントをさらに深め、アクティブ感と上流ムードをねじり合わせた演出。海辺のマリーナでのどかに過ごす週末の雰囲気をまとわせ、非日常の空気を呼び込んでいた。

(左から)ヴィヴィアン タム photo by VIVIENNE TAM、
アイ・シー・ビー photo by ICB

 「ヴィヴィアン タム(VIVIENNE TAM)」は古代中国の美術品を連想させる古典的なチャイニーズモチーフを現代の装いに写し込んだ。梅や竹といった、陶磁器風の絵柄を、細身のミニワンピースにあしらい、エキゾチックな風情を醸し出している。メッシュの透かし編みニットワンピはほのかにセクシー。バミューダ丈ショートパンツのセットアップは軽快なムードを招き入れている。手の込んだ刺繍を多用して、伝統的な中国絵柄をリッチに整えた。レッドやブルーのはっきり色でオリエンタルな雰囲気に寄せた。アスレティックなタイトシルエットとの相乗効果で、洋の東西を行き来する行動的な現代女性のコスモポリタンなスタイルを印象づけていた。

 

 NYコレクションで自らの名前を冠したブランドを発表し続けているプラバル・グルン氏は「アイ・シー・ビー(ICB)」で、エアリーなメッシュ仕立てのパンツ・セットアップを打ち出し、軽やかでスポーティーな着姿に仕上げた。透け感のあるジョギングショーツ風やフルレングスのワイドバンツなど、目を惹くパンツに静かな主張を込めた。シャツをもう1枚、腰から下に着ているようにも見えるだまし絵的な演出はウィットフルなたくらみ。メロンのような淡いペールカラーのショートパンツ・セットアップは涼やかで初々しい。格子の大きいウィンドウペーン柄も伸びやかな景色を生んだ。長いフリンジを胸からどっさり垂らして、動きを添えた。つやめきを帯びたシャイニー生地で光を操って、楽観的なムードを濃くしていた。

 

 全体を振り返ってみると、楽な着心地のコンフォート服が増えたことに気づく。エフォートレスの延長線上にある自然体のおしゃれがますます浸透してきた。ファッションを休むのではなく、プレイフルにチアフルに着こなしを楽しむ意識が一段と強まっている。複数のムードを重ね合わせるスタイリングも加速していて、「アスレジャー(アスレティック×レジャー)」や「フレンドリッチ(フレンドリー×リッチ)」といった新提案も相次いだ。単に男女のワードローブを入れ替えてみたり、街着とリゾートウエアを混ぜたりといったミックスではなく、着る人の気持ちが清々しく伸びやかになるような服との間柄を再発見しようという方向性が示されていて、クリエイターの自信や余裕が感じられたNYコレクションだった。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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