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2014.10.15

JR西日本SC開発 株式会社 キャリア層に支持される「ルクア大阪」の強みとは

 大阪駅の再開発に合わせ、その駅ビルに出店したファッションビル「ルクア大阪」。今年8月28日には開業以来、最大規模の改装を実施した。2011年5月にグランドオープンした同施設は初年度から当初計画を大きく上回る340億円と好調に推移。2年目は357億円、「グランフロント大阪」が開業した昨年3年目は346億円と健闘した。25-30歳のキャリア女性に広く支持されている「ルクア大阪」。その強みは何だろうか?

2万平米というコンパクトな売り場面積

 「ルクア大阪」は地下2階、地上10階の12層構造で、実効売り場面積は2万平方メートル。各フロアは奥まで見通せるように設計され、上層階へもアクセスしやすいよう考えられている。その効果が表れているのが坪効率だ。同施設を管理・運営するJR西日本SC開発の山口正人代表取締役社長は「上層階の坪効率もあまり落ちない」と説明する。

 

 今年8月の改装を機に顧客へインタビューを行った際、20-30代のメーンターゲットに多かった意見が「時間がない」という回答だったという。時間消費型の商業施設を提案する傾向が増えている昨今だが、こと「ルクア大阪」では効率性、利便性が顧客ニーズに合致しているようだ。この買い回りの良さも魅力の1つらしい。

 2つ目は、シーズンごとにテーマを決めて、テナントにも協力を依頼する販促体制。当初は一部のテナントから反対意見もあったようだが、館全体のテーマ性が明確になるというメリットがある。カード会員27万5,000人の反応も良かったため、今ではこの方針はテナント間に浸透しているという。

 

 3つ目はJR大阪駅の改札口と連絡する好立地だということ。小売業は立地商売という王道を地で行く点だ。しかしMD構成がターゲットに合っていなければ、JR大阪三越伊勢丹のように苦戦を強いられることになる。ターゲット層に適したテナントを集積できている点も強みと言えるだろう。

初の大規模改装で見えてきたこと

 今年8月の改装に際し、顧客調査を実施したところ、バギーを押した若い女性客に加え、大学生(特に就活生)の来館が多いことが分かった。今回のリニューアルは25-30歳のメーン顧客に加え、その下の20代前半へ向けた商材を充実させることが大きな目的だった。「就活生が増えると新入社員も増える。彼らはちょうど当館顧客の入り口世代に該当するが、新規客を強化することにつながっている」(山口社長)。

見渡しの良い売り場構造。写真は5階フロア

 しかし今回の改装で最も重視したことは、従来の顧客を大事にすること。リピーターが求める商材を手厚くし、さらに来館を促すという点はぶれていない。来館客層は幅広いが、「実購買層の一番はメーンターゲットの25-30歳。以下、20代前半、35歳オーバーと続く」(平田友秀 取締役営業部長)。想定通りの客層を取り込めているようだ。

 

 今年の上期は改装工事による閉鎖期間もあり、やや苦戦したようだが、改装後の9月は前年比110%超の推移だった。今期(2014年度)は2年目に記録した357億円を超えるという目標を立てている。

来春の「西館」開業を控え、新しいルクアを模索中

 来春には、旧JR大阪三越伊勢丹を改装して、ルクア大阪の「西館」が新たに開業する。そのデベロッパーを担当するのがJR西日本SC開発である。同館9階フロアに、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)株式会社の「代官山 蔦屋書店」が出店することは公表されているが、それ以外はまだ検討中。売り場面積は3万3,000平方メートルで、その40%をキーテナントとして三越伊勢丹が占めることになるという。残りの60%は専門店で構成する。

 

 百貨店がデベロッパー役を担って自身の店舗内に専門店を誘致する例はあるが、今回の西館のようなケースは珍しい。「売り場構成も百貨店と専門店とで分けない。ルクアの顧客に百貨店売り場を、百貨店の顧客にはルクアの売り場を訪れて欲しいという目的があるからだ」(山口社長)。

 

 西館の構成に関して、山口社長は「百貨店が強いところを切り出して展開する点が特徴だ。専門店の強い分野と百貨店の強い分野をそれぞれが担うということ」だと説明する。これが軌道に乗れば、新しい百貨店の在り方のひな形になると思う。

 

 「ルクア大阪」の売り場面積2万平方メートルが少し窮屈に感じたという山口社長。西館と併せて5万3,000平方メートルの規模に生まれ変わる。単に好調なファッションビルの増床オープンというだけでなく、新しい百貨店の業態が確立されるかもしれない可能性があるので、来春のグランドオープンは今から楽しみである。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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