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2015.04.10
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.23】2015~16年秋冬NYコレクション
宮田理江のランウェイ解読 Vol.23
グラマラスでコンフォートな装いに、ニューヨークモードは向かった。2015-16年秋冬・NYコレクション(メルセデスベンツ・ファッションウィーク、2月11~19日)では、これまでのスポーティーやエフォートレスの延長線上にアダルトっぽさやアッパー感を足し込みつつ、着心地やリラックス感との両立をめざす提案が相次いだ。ジェンダーミックスは、さらにこなれた融け合い方に進化。ロック・グラム音楽やミリタリーのムードをまとわせる試みも広がった。
スポーツシックを先導してきた「アレキサンダー ワン(ALEXANDER WANG)」はロックミュージックの世界に踏み込んだ。黒を主体にメタリックパーツを配して、ハードロックやヘビーメタルの雰囲気を呼び込んでいる。ゴシックロリータやアンドロジナス(両性的)のムードも重ねて、ダークに彩りつつ、リッチなムードを重ね、ラグジュアリー・ヘビメタという新たな世界へ誘った。
「カルバン・クライン コレクション(Calvin Klein Collection)」もロックに引き寄せられた。シンプルでミニマルな着姿で知られるブランドだけに、その新たな冒険は意味が大きい。ミニ丈ワンピースにブーツという若々しいルックや胸元が丸くくり抜かれて素肌をのぞかせた演出、つややかなレザーや鈍く光るスタッズ(鋲)を取り入れたアレンジも大胆な路線変更を印象づけた。
(左から)MICHAEL KORS 、3.1 Phillip Lim
「マイケル コース(MICHAEL KORS)」は楽観を押し出した春夏に続いて、グラマーやロマンティックを、マニッシュやミリタリーとねじり合わせ、クロスオーバーエレガンスのお手本を示した。身体の輪郭に自然となじむニットと、量感のあるアウターを組み合わせ、着やすさとリュクスを兼ね備えさせている。気負わないジェンダーミックスという今回のNYのキートーンを最も説得力を持って形で表現してみせた。
ミリタリーはロングトレンドとなりつつあるが、「スリー ワン フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)」は、ありがちなストリート風に寄せず、しなやかなフェミニンと交わらせた。ファー素材やテイラード技法と引き合わせ、武骨さを遠ざけた。裾が不ぞろいのスカートや、ロング丈のブルゾン、スリーブレスのジャケットなど、基本形を崩すウィットフルな仕掛けを繰り返し、着姿にアンバランスの美学を宿らせていた。
「プロエンザ スクーラー(Proenza Schouler)」もセオリーを逆手に取ったようなクリエーションを披露。厚手バンデージ風の布パネルを身頃に巻き付け、ダイナミックな見え具合に誘った。いたずらっぽい演出が続いた。手の甲まで届くスーパーロング袖のアウター、楕円の網目から素肌がのぞくストッキングなどがトリッキーな印象を呼び込む。気品やアート感を寄り添わせることも忘れていない。落ち着きと挑発の握手が装いをドラマティックに弾ませていた。
「ダイアン フォン ファステンバーグ(DIANE von FURSTENBERG)」はエイジレスな官能美をうたい上げた。赤をキーカラーに選んで、なまめかしく赤いドット(水玉)柄、静かにセクシーな赤いピンストライプなどで妖艶なフェミニンを色めかせた。ブランドアイコン的モチーフのリップ(唇)柄も投入。フラワー柄や東洋的モチーフをワンピースに配して、着姿を華やがせた。大人のナイトアウトにいざなうかのような成熟した雰囲気で全体を包み、たおやかな誘惑で酔わせた
タートルネックのニットは着心地志向を象徴するアイテムとなった。「デレク ラム(DEREK LAM)」でもスリーブレス・トップスと並んで主役を担った。ビッグシルエットのコートがボディーラインを消し、構築的な着姿に整えている。マニッシュはさりげなくあちこちに忍び込んで、気張らない強さを帯びさせた。穏やかなラウンドフォルム、ゆったりとロールした広襟などがのどかでやさしいムードをもたらし、進化形エフォートレスを目に残した。
ゴージャス感やアッパーテイストを濃くしたのは、NYの体温を伝え続ける「ダナ キャラン ニューヨーク(DONNA KARAN NEW YORK)」。ゴールドとダークカラーを響き合わせて、グリッターな艶姿に導いた。全体に夜遊びへ誘うかのようなアダルトっぽさをまぶしている。ベアショルダーやスリットで大胆な肌見せを演出。ウエストを絞ったテイラーリングでマスキュリンな輪郭を描き出しつつ、薄手の生地でフェミニンを薫らせた。シルエットと質感の両方でジェンダーミックスに深みをもたらしている。
(左から)rag & bone、DIESEL BLACK GOLD
「ラグ&ボーン(rag & bone)」はヒップホップのストリート感を持ち込んだ。ラッパーを連想させるような、表面がつややかなビニール系のダウンジャケットはケミカルな風合いが、ヴィヴィッドな色味となじむ。ネオンカラーの差し色が装いにエナジーを注ぎ込む。シルキーなランジェリー風スリップドレスは、紳士風パンツとの意外な相性を引き出してみせた。細身パンツと膝丈スカートを重ねるボトムスレイヤードも楽しい着映え。ミックステイストの重ね着はプレイフルな気分を連れてきた。
「ディーゼル ブラック ゴールド(DIESEL BLACK GOLD)」も強めムードとガーリーテイストを交錯させた。黒レザージャケットや黒デニムなど、ブラック主体のカラートーンを打ち出しつつ、ミステリアスな裾レースをあしらったスカートやランジェリーライクで悩ましげなトップスを交わらせ、ジェンダーミックスの新領域に踏み込んだ。ブランド名にブラックを抱くだけあって、様々な質感や色味のブラックを重ね合わせ、黒の表現を極めた。
(左から)LACOSTE、TOMMY HILFIGER
「ラコステ(LACOSTE)」は創業デザイナーが打ち込んだテニスに原点回帰。テニスウエアに通じる、肌当たりのソフトな生地を生かしつつ、これまでのスポーティールックより格上の装いに仕上げている。スウェット系生地のパンツ・セットアップはいかにも着心地よさげだ。遊び心を感じさせる仕掛けも相次いだ。コートやジャケットの脇下から腕を出す、ポンチョライクな変形アウターはユーモラスな意外感たっぷりだ。
ブランド創立から30周年のアニバーサリーを迎え、「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」は米国の国民的なスポーツ、アメリカンフットボールを題材に選んだ。スタジアムジャケットやピーコートを、ラグジュアリーに味付け。NYモードの新たな軸となりつつある「アメリカンスポーツウエア」を、リュクスにアレンジした。チアガールの面影を残すV襟のミニワンピースはチアフルでキュート。アメフト競技場を模した会場をはじめ、随所に米国らしさを持ち込んで、これも今の大きなうねりとなっている「アメリカのよさ再確認」の方向感を示していた。
楽観に彩られた15年春夏の高揚感は受け継ぎつつ、秋冬はさらにあでやかさ、グリッター、セクシー、パワーリッチなどのムードが注ぎ込まれた。勢いが増すミリタリーとアメリカンスポーツウエアに続いて、フォークロア・ボヘミアンやロックロマンティック、アンドロジナスといったテーマも浮上。テイストミックスはますます多彩になってきた。性別をまたぎ越えるクロスオーバーも一段とこなれた表情を帯び、いかにもNYらしい「スーパーミックス」の時代が幕を開けた。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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