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2025.03.10
【2025秋冬パリ ハイライト1】新ディレクターのショーなどで盛り上がりを見せる

写真左から「ドリス ヴァン ノッテン」「トム フォード」「ステラ マッカートニー」「アンダーカバー」
2025年3月3日より9日間、パリ市内各所にてファッションショーを行うパリコレクションが開催された。主催するオート・クチュール組合の公式カレンダー上では、今季の参加ブランド数は109。先シーズンの106から微増しているものの、特に大きな変化を見せていない。フランスが拠点となる「ジュンコ シマダ(JUNKO SHIMADA)」や「ケンゾー(KENZO)」を除外した日本のブランド総数は11。メンズコレクションと比べ占有率は低いものの、1割強を誇っている。
今季は、新任アーティスティック・ディレクターによる初コレクションが3ブランドあり、大きな話題となった。「アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)」から移籍したサラ・バートンによる「ジバンシィ(GIVENCHY)」は、創始者ユベール・ドゥ・ジバンシィのクリエーションを引用しながらも、新しいシルエットを追求。アシスタントから昇格した形のジュリアン・クロスナーによる「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」は、ブランドのコードを踏襲しながらも新しい持ち味を加えて新鮮なものにしていた。ハイダー・アッカーマンによる「トム フォード(TOM FORD)」は、前任のピーター・ホーキングスがわずか1年で辞任した後、トム・フォード自身が直々にハイダー・アッカーマンを指名したと伝えられ、大いに期待を抱かせた。そしてアウトプットされたものは、トム・フォードのコンテンポラリーでラグジュアリーなイメージを更に推し進め、新たな局面を切り拓いて見せていた。
それぞれがブランドのDNAを維持しながらも、デザイナー本人の作風を融和させ、充実のコレクションを披露している。来シーズンは、マチュー・ブレイディによる「シャネル(CHANEL)」への期待が募る。
※初日から3日目までを開催順に掲載
初日・2日目
シーエフシーエル(CFCL)


Courtesy of CFCL Inc./Photo by Koji Hirano
高橋悠介による「シーエフシーエル」は、ポンピドーセンターの目の前に位置するフランス国立音響音楽研究所のホールを会場にショーを開催した。ニット織機の音を取り入れたBGMは、様々な公共施設でサウンドインスタレーションを発表する細井美裕によるもの。
「世界は、全ての人や物が絡み合った、あるいは相互につながった線で構成されている」と説くイギリスの社会人類学者ティム・インゴルドの著作「LINES: A Brief History」から想を得て、ニットだけで服を提案する試行錯誤の過程を「線」と見立てている。
エネルギーの象徴としての色、赤をグラフィカルにあしらったラウンドショルダーのニットは、80年代のインダストリアルデザインからインスパイア。形を保つために中綿を封入。
再生ポリエステルとウールの混紡によるヘリンボーンのシリーズは、ダーツをプログラミングして無縫製に仕上げている。ラインが段階的に広がっていくアコーディオンのシリーズは、コンピューター・プログラミングニットの特殊技術を応用したもので、唯一無二の造形が鮮烈な印象を与えた。筒をイメージし、再生ポリエステル100%の黒の糸とゴールド・メタリック糸で編まれたシリンダーのシリーズは、重厚な凹凸感を見せ、ニットならではの美しさを表現。テクニックと造形をアップデートし、新しいクリエーションを提示したコレクションとなっていた。
マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)


“Katachi”と題したコレクションを発表した、黒河内麻衣子による「マメ クロゴウチ」。自然物や工芸品まで、様々な「かたち」に影響を受けながら、デザイナーが想像する独自の美しい「かたち」を追求している。
会場となったレストラン「Ogata」の2階スペースには、今季もイメージソースを展示。先シーズンの参考資料となった書籍「日本のかたち」が今回も登場し、その中の漆器の造形は各アイテムの膨らみなどのカッティングに反映される。鏡餅は、ドレッシーなダウンジャケットのシリーズに影響を与え、小石や綿菓子のようなふんわりとしたイメージを具現化。
印象的だったのが、ベルベットの切り替えしをあしらった朱色の小花柄のジャカード素材のドレス。やはり漆器からインスパイアされたもので、墨流しの渋みのあるドレスや、グラフィカルかつ有機的なモノクロームモチーフのニットドレスと共に、たおやかな中に強さを感じさせた。
コレクション全体を通して、しなやかで丸みを帯びた優しいシルエットが描き出されているが、これまで通り、日本の伝統工芸に裏打ちされた芯や核となるものがしっかりと感じ取れるコレクションとなっていた。
アンリアレイジ(ANREALAGE)


Courtesy of ANREALAGE/Photo by Koji Hirano
先シーズンは、空調服の応用で驚きを与えた「モードの魔術師」森永邦彦による「アンリアレイジ」。今季も期待を裏切らず、見る者の想像を遥かに超える、良い意味で仰天させられる作品を並べて見せた。
トップ部分を大きく誇張したピエロカラーのルックが続き、それだけでも強烈ではあるのだが、元ダフトパンクのトマ・バンガルターによるBGMに合わせて電飾が点き始め、クリスタルとは異なる煌めきを見せた。LEDが仕掛けられているにしろ、柔らかい布帛のドレスから光が放たれているのを見ると、一体どのような構造で形作られているのか、と混乱させられる。その実、クリエイティブ集団「MPLUSPLUS」と共同で開発したLED-LCDテクノロジーが埋め込まれた柔らかい糸と織物を使用。折りたたんだり、編んだり、縫ったり、ドレープしたり、あらゆる形にすることができるという。
ステンドグラスのようになったり、チェックになったり、テンポよくモチーフが変わり、会場となったアメリカン・カテドラルのステンドグラスと呼応する形で、美しさが増幅される。
見たことの無いものを創り上げる作業は困難を極めることではあるが、毎シーズンそれを具現化させている森永邦彦には感服する外はない。
ガニー(GANNI)


コペンハーゲンとパリの2拠点で活動をする、ディッテ・レフストラップによる「ガニー」。今季は、かつてはカール・ラガーフェルド邸でもあったポッゾ・ディ・ボルゴ館を会場に“心の落ち着く場所=ホーム”をテーマにショーを行った。
フリンジがなびくジャカード素材、フィルクーペをあしらい、使い古された家具のファブリックのようなドレスが生まれ、カーテン地のようなプリントのファブリックはドレーピングドレスとなり、カーテンのフリル装飾はサテン地のドレスやブーツにあしらわれる。
ソファ用ブランケットの花モチーフはニットプルに転用され、長年使用されて擦り切れたかのようなフローラルプリントはアンサンブルに用いられる。チェックやアニマルモチーフも、家具や室内装飾から引用されたもの。
そんな中で、このブランドのアイデンティティであるテーラードの美しさもしっかりとアピール。Bコープ認定をされているブランドだけあり、バッグにはオリーブ油を搾った後の実から作成されるエコレザーをあしらった。
アンダーカバー(UNDERCOVER)


高橋盾による「アンダーカバー」は、ブランド設立35周年を迎える。その記念すべきショーは、高橋盾がこれまでのコレクションの中でもベストとする2004秋冬コレクションを再構築した。独特の造形作品で知られるアーティスト、アンヌ・ヴァレリー・デュポンとのコラボレーションによるもので、パティ・スミスが手作りのぬいぐるみを思わせる服を着ていたらどうなるのか、を想像して創り上げたもの。ただ焼き直しをするのではなく、現代性を加えて新たなものにしている。カジュアルウェアやクラシカルでフォーマルなアイテムに、ひねりと歪みを加えて、ドラマティックな印象を与えた。
カール・ラガーフェルド時代の「シャネル」のミューズでもあった女優のジョアンナ・プレイスや、シルバーエイジのミノ・サッシーがモデルとして出演するなど、様々な年齢層のモデル達が、ストーリーを感じさせるルックで登場。会場となった劇場「サル・ワグラム」の雰囲気と相まって、一つの演劇や映画を観ているかのような気分にさせられた。
「チャンピオン(Champion)」とのコラボレーションアイテムは、ポケットがアシメトリーだったり、カットが湾曲していたり。ドロップショルダーのニットカーディガンは前身頃の丈の長さが合っておらず、無理矢理ボタンで留めたかのよう。その違和感によって、何か物語が隠されているのではないか、と思わせるから不思議だ。
アンヌ・ヴァレリー・デュポンとのコラボレーション作品であるパッチワークジャケットは、20年前のアーカイブであるが、今季は新たにシューズとスカルのバッグを作成。
綿入りの巨大なドレス2体に続き、ボタンを刺繍したドレスをまとったブラックエンジェルとホワイトエンジェル、そして白い鳥と黒い鳥が登場。2人のモデルが去り、ニーナ・シモンのBGMが突然切れてショーが閉幕した。
アライア(ALAÏA)


ピーター・ミュリエによる「アライア」は、11区に新たにオープンさせた本社アトリエにてショーを開催した。今季もアズディン・アライアのクリエーションにオマージュを捧げながらも、新たな側面を打ち出し、クチュールのテクニックを駆使した重厚な作品を並べた。
今季は「編み」の要素を散りばめ、多くの作品にニットをあしらっている。レザーのコードを編んだジャケットや、デニム風のニットによるスカート、先端を丸めたニット素材を集積したスカート、第二の皮膚のようなニットプル…。
アーカイブから引用されたというドーナッツのフォルムは、スカートやジャケットのヘムや袖にあしらわれ、今季の特徴的なシルエットとなっている。コードをフリンジのようにあしらったスカートには、サイハイブーツをコーディネートして縦のラインを強調。チューブ状のファーをあしらったアンサンブルは、モダンでグラフィカルな印象を与えた。
特に圧巻だったのが最終ルックの2体。スカートには、マザー・オブ・パールをフレーク状にカットして丸めたビーズを一つ一つ刺繍。手法はアナログながらも、ハイパーモダンなクチュールを実現させていた。