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2025.03.06

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.104】「ポスト・ミニマル」に転換 黒とレザーが復活 2025-26年秋冬ニューヨーク&ロンドンコレクション

写真左から「カルバン クライン コレクション」「コーチ」「バーバリー」「マイケル・コース」

 

 2025-26年秋冬のニューヨーク&ロンドンコレクションでは、飾り気を抑えたシンプル志向から離れる「ポスト・ミニマル」の傾向が広がりを見せた。入れ替わるかのように台頭したのは、芯の通った「個」の主張。黒とレザーの復活がたくましいキャラクターを印象付ける。終わりが見えない戦争・紛争に加え、社会への不満や不安を映し、静かな抵抗の姿勢がコレクション全体に流れている。

 

■ニューヨークコレクション

 

◆トム ブラウン(THOM BROWNE)

Courtesy of THOM BROWNE

 

 お得意のメンズテーラード路線はぶれない。ショルダーに主張を込めたシルエットが目立つ。ジャケット、コートはオーバーサイズ気味。スーツはクラシック感を保ちながらも、フォルムを縮ませるような、朗らかでウィットフルなずらしや崩しを随所に仕掛けている。千鳥格子、ヘリンボーン、グレンチェック、ウィンドウペーンなど、多彩なチェック柄が英国ムードを漂わせる。シュルレアリスム趣味やトロンプルイユ(だまし絵)が幻想的ムードを帯びる。「スワロフスキー」のクリスタルがきらめきを添えた。「籠の中の鳥」というモチーフに、現状への不満や息苦しさを託している。

 

◆カルバン クライン コレクション(Calvin Klein Collection)

Courtesy of Calvin Klein Collection

 

 6年ぶりにNYコレクションでショーを開いた。ブランド初の女性クリエイティブ・ディレクターに迎えられたヴェロニカ・レオーニ氏は創業デザイナー譲りのミニマルテイストをリスペクト。アーカイブに光を当てた。一方、オーバーサイズも多用。シルエットに幅を持たせた。首の詰まった8分袖のブラックドレスで幕開け。膝丈のスカートスーツはグレー。ブランドシグネチャー的な無彩色を軸に据えた。トレンチコートはしなやかなコートドレスにリモデル。コクーン状のノーカラーワンピースは朗らかなフォルム。ロング&リーンのドレスはわずかに脇を絞っている。単純なミニマルにとどまらない動感やヘルシーさを盛り込んでみせた。

 

◆マイケル・コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)

Courtesy of MICHAEL KORS

 

 ブランドの背骨にあたるアメリカンスポーツの伝統を貫き、エフォートレスシックの装いにまとめ上げた。ボックスシルエットのテーラードジャケットをキーピースに選んで、端正でクラシックなルックをそろえた。不安や混乱の続く情勢に、タイムレスと洗練で立ち向かうかのよう。ブラレットをパンツスーツに組み込んだり、スカートに深いスリットを切れ込ませたりして、しなやかな艶美も忍び込ませている。ベージュ、グレー、ブラックなどのワントーンがほとんど。レザーをはじめ素材の上質感や着心地のよさを引き立てている。全体に穏やかでありつつ、強さを秘めたルックがニューヨークらしさを漂わせていた。

◆コーチ(COACH)

Courtesy of Coach/Photo by Isidore Montag

 

 レザー仕立てのロングコートがブランドのオリジンを語った。逆に、フライトジャケットはクロップド丈で、子ども服のよう。ボリューミーなパンツとの量感ずらしを仕掛けている。パンツにはレザーパッチを不ぞろいに当てた。レザージャケットとルーズシルエットのユーズド顔ジーンズとの相性を試した。スリーピースのスーツはウエストをチラ見せ。バッグや靴にぬいぐるみチャームを配して、ファニーな気分を呼び込んだ。だぼつかせたパンツは腰で穿き、スケートカルチャーの気分を投入。ベルトの余った端は長く垂らした。ネオンカラーのサングラスが程よくキッチュ。ヘリテージを再定義するクリエーションに今回も成功していた。

■ロンドンコレクション

 

◆バーバリー(BURBERRY)

Courtesy of Burberry

 

 カントリーハウスへの週末旅をイメージした、ノーブルなお出掛けルックを披露した。全体にしっかり防寒のオーバーサイズ・アウターがキーピース。なかでもレザーで仕立てたトレンチコートが目を引く。コートドレスはノスタルジックなたたずまいで、タペストリー風の生地がボーホー感を帯びた。乗馬用のジョッパーズパンツが格上の野外旅行に誘う。裾をブーツに収めて、アクティブな脚景色に。ビッグバッグが気負わない野遊びを印象付ける。ベルベットのパンツ・セットアップがレトロあでやかな印象。奥深いヘリテージを持つブランドならではのヒストリー感をまとわせていた。

 

◆トーガ(TOGA)

Courtesy of TOGA

 

 ロングトレンド化しつつある「フォーマル崩し」にさらに踏み込んだコレクションを打ち出した。特大にデフォルメされた白シャツの襟が存在感を放つ。ほどいた蝶ネクタイは首から無造作に垂らしている。ボトムスは黒のワイドパンツで、正装をウィットフルにゆがませた。基調色はブラック×ホワイト。ファーやフリルで華やぎを添えている。ミリタリーの空気もミックスされた。ケープ状のレイヤードでボリュームをプラス。ジャケットのセーラーカラーは前後が逆。スニーカーも持ち込んで、フォーマルの概念を揺さぶった。

 

◆アーデム(ERDEM)

Courtesy of ERDEM

 

 ドレスを主役に据えて、色と柄で混沌の時代を映し出した。物憂げな女性の顔やくすんだトーンの植物をビッグモチーフであしらった。水彩画風の絵柄がドレスの曲線的なフォルムに動感をもたらしている。シルエットはウエストシェイプを利かせた、古典的なフィット&フレアが中心。スカート部分をボリューミーに膨らませ、上半身のコンパクトさを際立たせている。レザーのコートドレスをはじめ、シャギーなつやめいたドレスや、花びら状のフリルで包んだドレスがゴージャス感を醸し出す。ダークカラーやくスモーキートーンを主体に、抽象化したフラワーモチーフが不穏なムードを忍び込ませていた。

 

 国際情勢を背景に、平和や自由を望む気持ちが込められたのは、今回の際立った変化。黒やブラウンが基調色に選ばれ、テーラードや職人技を重んじる傾向が一層際立った。ぶれない「軸」を求める志向が強まり、歴史やレザーに回帰。プロテクトとコンフォートが重視されたことも今のファッションを取り巻く状況を映し出している。

 

 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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