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2025.01.29
【2025秋冬パリメンズ ハイライト3】多様な才能が放つ新たなスタイル

写真左から「リック・オウエンス」「ダブレット」「アイム メン」「シュタイン」
今季第3回目のハイライト記事では、退廃的な作風で熱狂的な信奉者を擁す「リック・オウエンス(Rick Owens)」、今回初掲載となるドイツの「ゼロスリートゥーシー(032c)」、尖ったクリエーションで注目される日本の「ダブレット(doublet)」と韓国の「ジュン ジー(JUUN.J)」、前シーズンに続きプレゼンテーション形式で新作を発表した「バウルズ」、そしてパリコレクション初参加の「シュタイン(ssstein)」と、「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」による「アイム メン(IM MEN)」をリポートする。
リック・オウエンス(Rick Owens)


“CONCORDIANS”と名付けられたコレクションを発表した「リック・オウエンス」。アメリカより渡仏してからの22年間、イタリアの小さな工業都市コンコルディアの工場に通いながら服作りをしている自らの軌跡を振り返った。
今季は、高さのある襟「ドラキュラカラー」が特徴的なディテールとして挙げられ、シルエットはビッグショルダー。レザーアイテムも豊富だが、全て食用牛由来のレザーを用い、特にバイカージャケットは相模原市在住のタンナーに依頼してベジタブルタンにより染色している。またインディゴデニムも福山市由来。
多くのルックにFSC認証を受けたウールとビスコースのブレンドジャージー素材で作られたサーマルインナーを合わせ、保温性を高めている。特に印象的だったアイテムが、アリゲーター素材を用いたというシャツ、パンツ、そしてバッグ。アメリカで適正な形で調達され、実に12匹分を使用したという。
レーザーカットされた牛革を手作業で織り上げたチェーンリンクのスカートやブーツは、パリのデザイナー、ヴィクター・クラヴェリーとのコラボレーションによるもので、人間技とは思えない技巧に驚かされた。また、パリのラバーマスター、マティス・ディ・マッジオとの再びコラボレーションを行い、天然ゴム製フリル付きトップスやフーディーを発表。ショーには登場しなかったが、リチャード・セラの壁をイメージしてアルミの上からブロンズをコーティングしたリモワのキャリーケースも発表。内装にブラックレザーを用い、ゴージャスに仕上げている。1月末より販売予定。
ダブレット(doublet)


プラスチックの下敷きを曲げると白くなり、悪しきものとして使われなくなってしまうが、それをエレガントに変換できるに違いない、という発想から、使われなくなった素材に焦点を当てたという井野将之による「ダブレット」。“Villain(悪役)”と題したコレクションを発表した。
ジョーカー、ドラキュラ、特攻服姿の不良、ゾンビ、悪女…。映画やドラマやアニメの悪役を彷彿とさせるモデル達が矢継ぎ早に登場。スーツやブルゾンはドロップショルダーに仕立て、ニットはコクーンのようなシルエットを見せる。起毛素材のコートの背面にはクラックがあり、モンスターのような口がのぞく。
ドルや円のお札バッグ、口が開いて舌が見えたようなシューズ、グラフィティ用のスプレー缶を模した水筒、水枕風クラッチ、コンビニ袋のようなバッグなど、小道具の存在感も強い。「不思議の国のアリス」に登場する猫風のキャラクターをプリントしたピンクのバスローブや、某ブランドBを彷彿とさせるバックルのベルト、某馬具ブランド風のバッグも登場。ギリギリのラインを攻める姿勢はいつもながらではあるが、あらためて驚かされたのだった。
アイム メン(IM MEN)


Courtesy of ISSEY MIYAKE INC./Photo by Frédérique Dumoulin-Bonnet
現在はイベントスペースとして利用される、16世紀建立のコルドゥリエ修道院跡にてショーを行った、「イッセイ ミヤケ」のブランド、「アイム メン」。2021年にスタートしているが、パリでのコレクション発表は初となる。舞台装置は、三宅一生の門下生でもある吉岡徳仁が手掛けた。
コレクションタイトルを“FLY WITH IM MEN”と題し、このブランドのコンセプトでもある1枚の布から作り上げたアイテムを中心に構成。1枚の布が空を舞っているイメージを思い描きながら、布が持つ根源的な美しさを表現したかったという。エアリーさを追求した軽い素材が中心となり、重厚に見えるものであっても限りなく軽量化させている。
折り畳むと全てが正方形になる、揺れるドレープが美しい「FLAT DRAPE」のシリーズには、サトウキビの廃糖蜜を使用したポリエステル素材を使用。デザインチームにはウィメンズを手掛けて来たデザイナーも在籍し、フェミニンな側面が打ち出され、結果的にジェンダーレスなムードも生まれていた。
東レが開発した人工スエード、ウルトラスエード®(Ultrasuede®)にグラデーションのパンチングを施して軽さを出した素材による「HERON」のシリーズ、同素材にリサイクルウールを含む複合繊維製ボアを貼り合わせ、箔プリントを施した人工ムートンによる「METALLIC ULTRA BOA」のシリーズは、それぞれトップ部分は1枚の布で、ジップにより立体感が出る仕掛け。部分染めをした糸を織ることで、不均一な濃淡を出す絣染めを用いた「KASURI」のシリーズも1枚の布で構成されており、コートとポンチョの二通りの着方が楽しむことができる。裂き織りのシリーズは、使われなかった素材をリボン状に裂いて織った素材を使用。2か所のスリットにより、1枚の布を立体的にまとうことが可能となっている。
ジュン ジー(JUUN.J)


ソウルを拠点にしながら、2007年のパリ・ファッション・ウィークでのデビュー以来、コンスタントに新作を発表しているジョン・ウクジュンによる「ジュン ジー」。“COVERUNCOVER”と題して、パレ・ドゥ・トーキョーにてショーを開催した。
ドラマチックなコントラストの遊びに焦点を当て、構造と流動性、繊細さと大胆さを融合させたという今季。リーンなテーラードに対し、極端に膨らんだオーバーサイズシルエットのコートやブルゾンをぶつけてインパクトを与えた。
デニムのアンサンブルや、デニムと異素材を組み合わせたシリーズでは、ずり落ちそうなスカートやパンツが視覚的に鮮烈だった。ウエストをマークしたテーラードは、ジャケットの肩が強調され、バギーなパンツをコーディネイトしてコントラストを生み出す。
何よりも印象的だったのが、オーバーサイズのアイテム群。1つの塊のようなファーのコートドレスや丸いシルエットのボンバース、カモフラージュモチーフのミリタリーコートに合わせられたスエードのコートなど、その大きさと迫力に圧倒された。
バウルズ(vowels)


北マレ地区のギャラリーを会場に、プレゼンテーション形式で“everyday life”と題したコレクションを発表した、ニューヨークと東京を拠点とするオルタナティヴ・ラグジュアリーブランド「バウルズ」。クリエイティブ・ディレクターの八木佑樹は、リチャード・セラの作品をイメージした壁に服を飾り、インスピレーション源となった書籍を展示した。
今季はマリーゴールドをキーカラーに、日常生活のための現代的なワードローブを提案。ポール・セザンヌの静物画からインスパイアされたモチーフをジャカードで表現したコートやブルゾンは、シンプルなシルエットでありながら、強い存在感を示す。シンプルなデニムパンツや、マリーゴールドカラーのポロシャツなどが合わせられ、無駄を排したスタイリングでまとめられていた。古い植物図鑑からインスパイアされたモチーフをプリントしたシルクスカーフシャツも美しく、ヘムにはスカーフの縁かがりが手で施されている。手縫いのニットボンバージャケットは、スチールブルー、ブラック、バーガンディカラーで展開。ハートモチーフのニットやアランニット風のジップアップカーディガン、ヴィンテージ感を出したフローラルモチーフのジャカードニットなど、今季はニット作品が充実している。
先進性や革新性とは距離を置き、日常生活におけるラグジュアリーを表現するために、例えばブルゾンにはリモンタ社のナイロンを使うなど、最高品質の素材を用いている。永続的で汎用性の高い作品作りを目指しているとのことで、加工や仕上げ技術にもとことんこだわる姿勢を崩さない。先シーズン以上に、ブランドの揺るぎない方向性を感じさせた今季だった。
シュタイン(ssstein)


公式カレンダー外で初日にショーを行った、浅川喜一郎による「シュタイン」。昨年、東京都と繊維ファッション産学協議会によるファッションコンペティション「ファッション プライズ オブ トウキョウ」の第7回目の受賞者として選出され、支援を受けてのショー開催となった。
浅川喜一郎は東京学芸大学を卒業後、一般企業に勤めた後、原宿の「ナイチチ」のショップ店員となり、2016年に独立してセレクトショップ「キャロル」を設立。同年に自身のブランド「シュタイン」をスタートさせている。
レゾナンス(=共鳴、共振)をテーマに、被写体とカメラマンが共鳴し合いながら作り上げた写真集をイメージし、そこで生まれる自然体でありながらエレガントなムードや光の美しさなどを服に落とし込んだという。
様々な素材で仕立てられたリバー仕立てのコートは、どれも滑らかな手触りで、軽やかに羽織ることが出来、エレガントな空気感をまとっている。オルメテックスによる素材のコートは、洗いを掛けてニュアンスを出し、艶としっとりとした感触を出したメルトンのブルゾンはリラックスしたシルエットを描く。各アイテムの光沢感が美しい。ビーバー加工のカシミア素材によるコートは、二重構造にして裾の丸味や素材の流れ方を追求したアイテム。ムラのある縦糸で織ったデニム地をストーンウォッシュし、オーバーダイした、1960年代の「リーバイス66前期」をイメージしたパンツも登場。「ロロ・ピアーナ(LORO PIANA)」によるウール素材のジャケットは、素材を生かしたシルエットを見せ、バランスの妙を示していた。
ゼロスリートゥーシー(032c)


“SUSPICIOUS MINDS”と題し、パリの下町にある劇場、メゾン・デ・メタロでショーを開催したマリア・コッホによる「ゼロスリートゥーシー」。
「ゼロスリートゥーシー」は、2000年にベルリンでヨルグ・コッホによって創刊された、年2回発行される前衛的な雑誌。2016年にファッション・デザイナーである妻のマリア・コッホがコレクションを発表し、メディアとファッションレーベルの両者を独立して運営している。
今季は、クラシカルなアイテムにエッジーな要素をぶつけ、ヨーロッパらしいデカダンスな空気感を加えている。モヘア製コートに見られた仔鹿の背中に見られるモチーフや、デイジー、倒れ掛かった十字架はアルプスからインスパイアされたものだが、ディストピアの象徴として毒々しささえ漂わせていた。
シンプルなオーバーサイズのパーカやミントグリーンのレインコートなど、ごくありふれたルックがあるかと思えば、シースルーのメンズシャツや胸元の開いたミニドレス、トップスとベルトだけの挑発的なルックが登場し、そのコントラストが独特な空気感を生む。しかし、互いに整合性が無いわけではなく、絶妙な融和を見せているから不思議だ。来シーズンの方向性はどうなるのか、この世界観をどう発展させていくのか、期待を抱かせるコレクションとなっていた。
取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供