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2025.01.28

【2025秋冬パリメンズハイライト2】パリコレの屋台骨となる日本人デザイナーたち

写真左から「ヨウジヤマモト プールオム」「メゾン ミハラヤスヒロ」「サカイ」「カラー」

 

 パリコレクションの中でも、豊かなクリエーションを真摯な姿勢でアピールし、存在感を強めてきた日本のブランド群。その勢いは留まるところを知らない。「ヨウジヤマモト プールオム(Yohji Yamamoto POUR HOMME)」、その下の世代である「サカイ(sacai)」、そして新世代によるコレクションをリポートする。

ヨウジヤマモト プールオム(Yohji Yamamoto POUR HOMME)

Courtesy of YOHJI YAMAMOTO

 

 ありふれたポリエステル製のダウンジャケットに感情移入できない層を、一気に取り込んでしまいそうな「ヨウジヤマモト プールオム」。ファッションにおけるファンタジーの側面を保ちながら、実用性にも目を向けた。パリの本社ショールームにてショーを開催した。

 

 ジャケットやコートはもちろんのこと、立体的な襟が特徴的なシャツも登場。多くのアイテムに綿を入れ、暖かい装いでコレクションを貫いている。ストリートウェアからクラシカルなアイテムまで、今季はジャンルとしても幅広い。

 

 バレエダンサーのユーゴ・マルシャンは、チェーンを飾ったミリタリー風のセットアップを着用し、詩人でアーティストのロバート・モンゴメリーはかすれたモチーフのプリントスーツを、写真家のモハメッド・ブルイッサはフロックコートとダウンジャケットをミックスしたようなロングジャケットをまとってランウェイをウォーキング。ベルギー人アーティスト、リュック・タイマンスと妻のヴェネズエラ人アーティスト、カルラ・アロチャは、それぞれチェックとストライプのシャツを合わせたルックで登場。全て綿入りのアイテムをコーディネートしていた。

 

 複数のモデルが登場し、互いにリバーシブルのジャケットを裏返して着せ合う場面も見られ、そんなところにもリアリティとファンタジーの両面を感じさせる。終盤に登場したテクニカル素材をあしらった綿入りのシリーズは、全て白で統一。素材遣いも色遣いも意外性溢れるアイテムだった。

 

サカイ(sacai)

Courtesy of sacai

 

 砂丘の景色を張り巡らせた会場で、“Take a walk on the wild side.”と題したコレクションを発表した阿部千登勢によるサカイ。モーリス・センダック作の絵本や映画「Where the wild things are / かいじゅうたちのいるところ」から着想を得て、厳しい自然の中で生きるための装いを、このブランドらしいハイブリッドな手法を用いて再構築している。

 

 ジャケットやブルゾン中心にした冒頭のシリーズには、襟や袖口にニットファーを合わせ、「かいじゅう」をインターシャしたニットプルは、二重になったリブがファーのような効果を出し、獣っぽさを演出。

 

 今季もワークウェアで知られる「カールハート(Carhartt)」とコラボレーションし、特徴的なウォッシュドキャンバス地と異素材をミックスしたり、ダウンを入れたり。またレザーのブルゾンも登場していた。足元には、「アグ(UGG)」のオーバーニーブーツや「ジェイエムウエストン(J.M. WESTON)」のカウプリントのスリッポンが合わせられ、コラボレーションアイテムが各ルックを更に華やかなものにしている。

 

 ブルゾンからイブニングドレスまで、様々なアイテムを彩った中央アジアのカーペットを思わせるプリントのシリーズは印象的。襟のハ刺しを表に出したジャケットは、二重構造の身頃が適度なボリューム感を与え、新しいシルエットを見せていた。

 

 アウトドアウェアからフォーマルスタイルまで幅広いジャンルを見せ、このブランドらしいバランスの鋭さを余すところなく伝える内容となっていた。

 

オーラリー(AURALEE)

Courtesy of AURALEE

 

 カジュアルなアイテムやスーツなどのユニフォーム。何気ないルックをアップデートし、モダンに解釈してモードに落とし込む岩井良太による「オーラリー」。オスマン大通りに面したイベントスペースを会場にショーを開催した。

 

 一見して正統派なブルゾンやコート。しかし、バックサイドを見ると、膨らみや丸みを帯びたシルエットを描き、ありふれたアイテムを目にした時の既視感が否定される。  

 

 縮んでしまったかのような丈の短いカーディガンや洗いざらしのデニム、色が褪せたかのような洗いを掛けたパーカ、ヴィンテージ感溢れるレザー製ブルゾン。そんな使用感を演出したアイテムが、スタイリングにより新しさを生んでいる。地味な色合いのミトンやチェックのマフラーなど、時代遅れとも取れるアイテムであっても、各ルックで絶妙なアクセントとして機能。

 

 普通のようでありながら、全く普通でない。コクーンシルエットやバルーンといった誇示するためのシルエットではなく、極端な取り合わせのスタイリングでもない。あくまでも日常生活に溶け込ませることの出来る範囲での誇張やひねりが見られ、そこに今後のファッションにおける新しいスタンダードが見えた気がした。

 

キディル(KIDILL)

Courtesy of KIDILL

 

 ショー開始30分前に、会場となったパリ大学の元食堂「セシュール」の脇を通ると、尺八と太鼓と三味線の音が響き渡って来た。切腹ピストルズによる和楽器の演奏に合わせながら、東京発のパンクの世界を描いた末安弘明による「キディル」。ミスマッチな世界観が不思議な緊張感を生み、見る者を圧倒した。

 

 1990年代後半から2000年代初頭の原宿に行き交う、反骨的な気概と型破りな個性を持った人々にイメージを求めた今季。アートワークは、パンクファッションの祖であるマルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドによるセディショナリーズの復刻権を獲得している原宿の伝説的ショップ「A STORE ROBOT」とのコラボレーションによるもの。また、ロサンゼルス在住のアーティスト、ブレット・ウェストフォールとの共作である、溶けるストロベリーや犬の「SNOPPY」、パンクキッズ、スケーターといったドローイングを、ボンバースやTシャツ、スウェットなど様々なアイテムに散りばめている。

 

 これまで以上に華やかなカラーパレットで、日本のポップカルチャーの要素を配しつつ、仕上げられたルックはあくまでもパンクであり、「キディル」の基本姿勢に変化はなかった。

 

 楽団の演奏は激しさを増し、ショーのフィナーレが終わってからも暫く続き、最後は招待客を巻き込んで終了。大きな歓声が上がった。

 

ターク(TAAKK)

Courtesy of TAAKK

 

 森川拓野による「ターク」は、アレクサンドル三世橋の袂に位置するクラブスペースを会場にショーを行った。「新しいものを生み出すには発想の逆転が必要」と説いたロボット開発者だった父親の言葉と、母親が所有していたルネ・マグリットの画集から受けた違和感がクリエーションの源泉となったという今季。

 

 厳格ささえ漂わせるアイテムに、ぼんやりとした曖昧なモチーフやフェミニンな装飾が彩られ、そのコントラストが一つの世界観を生む。デニムにはレオパード柄が、ウール地にはヘリンボンが浮かぶが、これらは本来混ざり合わないものを融合させた新素材。特に後者は、ヘリンボン柄をニードルパンチで叩いて表現したといい、新しい発想に驚かされた。

 

 このブランドらしいグラデーションの手法は、新たな局面を見せている。フローラルモチーフを刺繍したスカジャンはジャケットのヘムを持ち、テイラードジャケットはボンバースと一体化。ルネ・マグリットイメージのプリントのスウェットは、ポリエチレン素材のブルゾンと繋がる。素材とデザインの両面で、切れ目のないグラデーションを表現していた。

 

メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)

Courtesy of Maison MIHARA YASUHIRO/Photography by Luca Tombolini

 

 地下の倉庫スペースを会場に、“A Little Paradox Part Six”と題したコレクションを発表した「メゾン ミハラヤスヒロ」。フランス人のラッパー、テイク・ア・ミックが客席からランウェイ正面に移動し、ラップを始めてショーがスタートした。

 

 パラドックス(逆説)の手法により、30年に渡って取り組んで来たこのブランドのアイデンティティのコアな部分を再提示させたかったという今季。服作りの基本の一つとなっているスーツのテーラリングを再考し、服の仕立てそのものを逆説的に捉えた。

 

 パンツのパターンを袖に流用したり、ブルゾンの身頃を逆さまにしたり。ある一定の規律を伴った、無制限ではない自由奔放さを感じさせるルックの数々は、アンバランスの中にバランスを感じさせる。ブルゾンは極端なドロップショルダーに見えるが、身体にフィットするように仕立てられ、丸みを帯びた肩のラインのボンバースは、前屈みになっているかのように見えるが、そう見えるだけであり、無理な姿勢を一切強いない。不思議な緊張感と脱力感が一つのルックに見え隠れする。

 

 ショーの途中から、ランウェイ正面の幕の裏側にライトが当たり、モデル達の最終チェックをする三原康裕の姿が照らし出される。服同様、強いテンションの中にリラックス感を漂わせていた。

 

カラー(kolor)

Courtesy of kolor

 

 「カラー」は、オスカー・ニーマイヤーの設計によるエスパス・ニーマイヤーを会場にショーを開催した。ブランド創設者である阿部潤一による最終コレクション。

 

 クラシカルなアイテムであっても、レイヤードとディテール、ボリュームの出し方とカッティングいかんによってモダンなものとなるのだが、今季の「カラー」はそれを実現していた。

 

 綿入りのブルゾンにはファーのベストを、ジャケットの上にはニットカーディガンを、ロングコートの上にはベストを重ねる。リボンのストライプをアップリケして刺繍を施したカーディガンには、更にヘリンボンのモヘアのカーディガンを重ねている。合わせられたパンツもヘリンボンだが、バギー仕立て。古着店で見かける60年代のレトロなスタイリングにはならず、モダンに仕上げられている。ホワイトジップのレザージャケットやショールカラーのニットプルなど、敢えて古着っぽいアイテムを交えているのも今季の特徴。レディースに至っては、ウエストにコルセットを思わせるバンドを巻き、クラシカルモダンなコントラストを強調していた。

 

 肝心のコレクションはさておき、ショー直前まで、数名を除いて誰にも知らされていなかった阿部潤一の退任である。本人は、あくまでも「カラー」の会社における定年を守るためと主張しているようで、驚きを禁じ得なかったが、潔ささえ感じさせる引き際だったのかもしれない。既に後任は決定しているとのことで、その発表が待たれる。

 

ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)

Courtesy of White Mountaineering

 

 相澤陽介による「ホワイトマウンテニアリング」は、プロテスタントのサン・テスプリ寺院を会場にショーを行った。

 

 塗装や化粧板を使わない、建築資材の質感を強調した建築スタイル、ブルータリズムからインスパイアされた今季。建築資材をそのままの形で使用することで、周囲の色や形が強調される効果も生まれることから、今季は黒やセメントを思わせるグレーをメインカラーに据えている。しかし、後半にはレッドやカーキ、ネイビーやマスタードも登場し、ショーの始まりと終わりの強いコントラストを演出していた。

 

 「リーボック(Reebok)」とのコラボレーションによるシャツには、ゆったりとしたシルエットのスーツを合わせ、ジャカードニットプルにはアンブロとのコラボレーションの複数のポケットを取り付けたブルゾンをコーディネート。その他にも、「エコー(ECCO®)」や「ショット(Schott)」、「リグフットウェア(rig footwear)」とのコラボレーションも継続している。

 

 フェティッシュな雰囲気を醸し出していたストラップを配したハーネスや、ベルベット素材とチェックを組み合わせたシャツなど、このブランドとしては意外性のあるアイテムがコレクションのアクセントとなっていた。

 

取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供

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