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2025.01.28

【2025秋冬パリメンズ ハイライト1】新ディレクター、デザイナーコラボ、突然のデザイナー退任など、話題のショーをレビュー

写真左から「ランバン」「ディオール」「ルイ・ヴィトン」「アミリ」

 

 2025年1月21日から26日までの6日間、パリ市内各所でファッションショーを行うパリ・メンズコレクションが開催された。主催するパリオートクチュール組合による公式カレンダー上では、今季は68のブランドが参加。先シーズンは69で、その前のシーズンから微減傾向は続いている。

 

 今季は「ロエベ(LOEWE)」や「バルマン(BALMAIN)」といったハイブランドのショーが行われず、その代わりに新興のブランドや復活した「ランバン(LANVIN)」などが増えた。とはいえ、総数的には大きな変化は見られなかった。

 

 日本勢のブランド数は12で、やや減少してはいるものの、依然として一大勢力であることに変わりはない。公式カレンダー外ではあったが、「シュタイン(ssstein)」がショーを発表。日本のブランドらしい丁寧な物作りをする姿勢を見せ、大きなインパクトを与えたに違いない。

 

 今季はピーター・コッピングを擁して復活した「ランバン」も話題だったが、何よりもショッキングだったのが「カラー(kolor)」である。ショー前に配られたTシャツには、阿部潤一からの直筆の手紙が添えられており、そこには「この時間は私にとって特別なものになります。それはkolorのデザイナーとして最後のショーになるからです。ですが私は変わらずkolorの中でサポートを続けていきます」と綴られていた。

 

 「カラー」は、2012年よりパリでコレクションを発表して以来、メンズのファッションウィークを彩る、常に注目されるブランドに成長。昨年11月には、伊藤忠商事の子会社で海外ブランドを扱うコロネットが事業を継承すると報じられたばかりだった。今後どのような活動形態になるのかはわからないが、「カラー」のデザイナーとしての阿部潤一の退任は大きな喪失感を生みそうである。

 

 今季も3回に分けて報じ、今回は話題のショーやビッグメゾンのショー、海外デザイナーによるショーをリポートしたい。

 

ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

Courtesy of Louis Vuitton

 

 「ルイ・ヴィトン」は、ファレル・ウィリアムスとNIGO®とのコラボレーションによる、二人の親交の深さを示すコレクションを発表した。ルーヴル美術館の中庭に建てられた大掛かりなテント内に円形のランウェイを設置。放射状に並べられたホワイトボックスは、フィナーレで内側が見え始める仕掛けで、これまでのアーカイブや二人の個人コレクションを陳列。「ルイ・ヴィトン」のコラボレーションの歴史や、二人のデザイナーのクリエーションの源泉をうかがえる内容となっていた(個人コレクションはその後オークションに掛けられている)。

 

 ファレル・ウィリアムスの目指すダンディズムに、NIGO®のバックボーンであるストリートウェアの要素を掛け合わせ、日本の伝統的な文化を随所に散りばめてモダンなジャポニズムを貫いたコレクション。

 

 日本画の雲を思わせるパッチワークのブルゾンには、同モチーフのボロ風のデニムパンツを合わせ、モノグラムモチーフのベースボールシャツにはカタカナの「ヴィトン」の文字が踊る。桜を思わせる折り紙風のピンクのボタンを飾ったジャケットや、スティーブン・スプラウスとのコラボレーションを彷彿とさせる日本語をペイントしたデニムジャケットなども登場。

 

 またフラワーアーティストの東信とのコラボレーションによるトランクや、茶道具を収めたトランク、日本酒と徳利とおちょこを収めたトランクなども発表された。

 

ディオール(DIOR)

Courtesy of Dior

 

 ムッシュ・ディオールのクリエーションからインスパイアされたキム・ジョーンズによる「ディオール」。1954秋冬オートクチュール・コレクションにおける「Hライン」に着目し、フェミニンなドレスの構造をマスキュリンに変換。メンズウェアを進化させている。

 

 腰を絞ってHのラインを描くジャケットやローブは、限りなくシンプルで無駄のないシルエットを描く。構築的で厳格、しかし同時にフェミニニティも感じられ、その対極的な要素が一つのルックに見出されて新鮮。女性を凌ぐような華やかな装い、そしてアイマスク風の仮面は、18世紀のジャコモ・カサノヴァのイメージからの引用。

 

 今季はメンズのオートクチュールの正式発表となり、特にムッシュ・ディオールが1948春夏オートクチュー・コレクションで発表したルック「ポンディシェリ」からインスパイアされた刺繍のピンクのローブが目を引いた。また、冒頭のピンクのサテン地のジャケットのバックサイドには、オートクチュールの象徴であるリボン結びが配され、見る者に「ディオール」がオートクチュール・メゾンであることを強く印象付けていた。

 

ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)

Courtesy of Dries Van Noten/Photo by Willy Vanderperre

 

 ドリス・ヴァン・ノッテン本人が引退して初のメンズコレクション。デザインはスタジオチームが担当し、後任のジュリアン・クロスナーがディレクションをしている。パリ市内のショールームにてプレゼンテーション形式で最新作を発表。ジュリアン・クロスナーのデザイン・ディレクションによるメンズコレクションは、今年6月に発表予定。

 

 ウィリアムSバローズによる小説「ワイルド・ボーイズ: 猛者 死者の書」と、同小説から着想を得た2017年のベルトラン・マンディコ監督による映画「Garçons sauvages」にイメージを求めた今季。アントワープの湾岸工業地帯を拠点とする若いギャングたちの装いを、退廃的な雰囲気で表現している。

 

 アウターにはメンズらしい素材を用いるも、敢えてレディースライクなアイテムを合わせたり、フェミニンなディテールを加えたりして、メンズコレクションにおけるマスキュリン・フェミニンを実現。

 

 西洋服飾史に登場するようなジゴ袖のジャケット、グラデーションのスパンコールを刺繡したミニスカートのようなホットパンツ、ラヴァリエールスタイルのノットのシャツ、シルクのジャカード素材であるフィルクーペをライニングに配したコートなど、女性らしさを超えて官能的な側面も感じさせる。ナポリタンスタイルのゆったりとしたスクールボーイ風のスーツ、デカダンスを感じさせる花をプリントしたバイカージャケット、馬の毛皮のような腹子のコート、スケーターのシューズから引用された細いベルトを合わせた取り外し可能な刺繍カフ付きロングコート。本来ならば男性的なアイテム群を、フォトグラファーのウィリー・ヴァンデルペールが色濃い世界に再解釈した。

 

アミリ(AMIRI)

Courtesy of AMIRI

 

 アクセサリーの見本市などが開催される広大な展示場を、ラウンジのようなムーディな空間に変えてショーを開催したマイク・アミリによる「アミリ」。ナイトクラブを訪れるハリウッドスター達の装いをイメージした。

 

 ベルベットやサテンのスーツには、ゴールドでコーティングしたバラのブローチや、ヴィンテージ風のブローチをコーディネートしてアクセントに。60~70年代を彷彿とさせる、夜の月明かりを意識して独特の光沢感を持たせたレザー作品は、BGMのマーヴィン・ゲイと呼応。東洋モチーフを刺繍したスカジャンや、シードビーズをグラデーションに刺繍してハリウッドスターが浴びるスポットライトをイメージしたジャケットなど、このブランドらしい煌びやかなアイテムが目を引く。ベルベットのジャケットやブルゾンを彩るバラは今季のキーモチーフで、ナイトバーで女性を口説く時に使われる小道具の象徴。

 

 今季はレディースコレクションをオフィシャルに発表。マニッシュなベルベット製スーツの他に、マイクロスパンコールを編み込んだニットドレスや、シルクサテンのランジェリードレスなどが登場している。コレクションテーマに忠実なアイテムとして全体をより一層華やかに彩っていた。

 

キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)

Courtesy of KIKO KOSTADINOV

 

 「キコ コスタディノフ」は、フランスの専門教育機関であるホテル学校のホールを会場にショーを開催した。ランウェイには枯れ葉を敷き詰め、登場するモデル達は病みを思わせるメイク。今季はハンガリーの映画監督、ベーラ・タールの作品からインスパイアされ、複雑な人間関係を描く内容から、様々なディテール、モチーフを組み合わせる多面的な作品が仕上がった。 

 

 ベーラ・タールの作品の中では、登場人物が後ろ姿で映し出されることが多いことから、今季のアイテムは背面や側面から見た時にシルエットやカットが認識できるように設計されている。そして、それが明らかになるよう、2人のモデルを同時に登場させ、互いに擦れ違うようにウォーキングさせた。

 

 歪んだストライプやチェックのモチーフは、ロシアのアーティスト、コン・トルブコヴィッチの絵画からインスパイアされたもの。複雑な凹凸のあるニットのアンサンブルや、撚りの掛かったストライプのスーツなどにその影響が見られた。

 

 ハンガリーやブルガリアのミリタリールックからの引用も見られ、ショー終盤に見られたストライプのアンサンブルやコートに反映。足袋型のハイトップブーツは、「アシックス(ASICS)」とのコラボレーションで、1950年代に開発したシューズから着想を得たもの。複雑なパターン、カッティングのルックを的確に彩っていた。

 

ランバン(LANVIN)

Courtesy of LANVIN

 

 新たにピーター・コッピングをアーティスティック・ディレクターに迎えた「ランバン」は、シャンゼリゼ大通り沿いのパヴィヨン・ガブリエルを会場にショーを行った。

 

 英国出身のピーター・コッピングは、「クリスチャン・ラクロワ(Christian Lacroix)」や「ソニア リキエル(SONIA RYKIEL)」を経て、マーク・ジェイコブスによる「ルイ・ヴィトン」でキャリアを積み、2009年から2014年まで主任デザイナーとして「ニナ リッチ(NINA RICCI)」を手掛けた後は、渡米してオスカー・デ・ラ・レンタに入社。近年はパリに戻り、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のクチュール部門を手掛けていた。

 

 アール・デコ期に活躍した「ランバン」の創始者、ジャンヌ・ランバンのクリエーションからインスパイアされた今季。娘のための服を作り始めた彼女のイメージは、子供を抱き寄せようとする母娘のエンブレムに象徴されるが、今回のショーのキャスティングにも反映され、男女共に幅広い年齢層のモデルが登場した。

 

 トライアングルのパネルを配した直線と曲線を強調したドレスや、スタッズ風の刺繍を施したスカラップのケープ、ゴールドとブラックのレーシーなドレスは、そのままジャンヌ・ランバンの生きた時代を彷彿。一方のメンズは、ファーのプルオーバーや立体的なニットカーディガン、レザーのブルゾンなどでチェックモチーフやトライアングルモチーフを用い、アール・デコらしさが散りばめられている。特に印象的だったのが、終盤に登場したミラー刺繍のトップスをコーディネートしたルック。ジャンヌ・ランバンのドレスからインスパイアされたと思われるフローラルモチーフで彩られたトップスと、無骨なバギーパンツの組み合わせは、このブランドだからこそ表現できるマスキュリン・フェミニンを実現。「ランバン」のモダンなメンズ像を描いていた。

 

取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供

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