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2023.10.30
【2024春夏台北 ハイライト2】インキュベーション機能を強めデザイナーを育成し国際交流を活発化
写真:台北ドームで行われたクロージングショーのフィナーレ
2023年10月22日に台北ファッションウィーク(以下TPEFW)の2024春夏が閉幕した。東アジアでは、ソウル、上海などファッションウィークが進化しているがTPEFWの特徴は、インキュベーション機能に重きを置いていることだ。
例えば、15のショーのうち5つのショーは合同ショーだ。中には単独ショーも行いながら合同ショーにも参加しているブランドもある。合同ショーは、ルック数やモデルのギャラ、ショー演出コストを抑えて参加することができる。新進デザイナーにとってメリットが多い。
またショー会場と隣接して合同展示会も行っているのも特徴だ。ショーに参加しているブランドのほとんどは合同展示会に参加しており、ショーの前後にサンプルを確認できるためバイヤーとの商談やビジネスマッチングを容易にできる環境を整えている。
このようなインキュベーション機能によりデザイナー育成を促進しているのがTPEFW最大の特徴であろう。
インキュベーション機能を強めた合同ショー
■When Contemporary Craftsmanship Meets Fashion
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金工 蘇小夢 スーシァォ モンX ジェミーウェイフゥァン
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竹工藝 リンジングァx エレンコ ツリー
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纖維藝術 カン ヤー ヂュ X タンゾンチィェン
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纖維編織 ヂョン チョンイーX 8=D
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石藝 チィゥ チュゥァン ヨンXシャオ イェン
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天然染 リンイージェ X UUIN
最も独自性のある合同ショーが10月12日に行った「When Contemporary Craftsmanship Meets Fashion」だ。新進デザイナーが台湾の職人やアーティストとコラボレーションしてコレクションを組み立てるという試み。
ファッション・メディアのシニア・パーソナリティ、呂秀芬がキュレーションし、繊維織職人、竹細工職人、金細工職人、ストーンアーティスト、ファイバーアート、繊維染め職人がそれぞれパートナーを組んだデザイナーとコンテポラリーなコレクションを作り上げた。
ショーが終わるや否やゲストは隣接した会場に移動。先ほどまでウォーキングしていたモデルが静的にポージングをとるプレゼンテーションを披露した事も印象的だ。このプレゼテンショーは翌日13日からはマネキンによる展示に変更され、16日まで開催した。
■ヤングタレントショー
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チェン・シォンユェンのコレクション
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チェン・ウェイのコレクション
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チェン・フゥイユーのコレクション
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ホン・イートンのコレクション
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ヤン・ズーインのコレクション
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リー・ジアンのコレクション
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ワン・ジィェン・カイのコレクション
第3回となる「ヤング・タレント・フレッシュ・ショー」では、文化部と教育部が共催した「台北ファッションウィークAW23大学対抗展示会」で、輔仁カトリック大学紡織服飾学部のチェン・シォンユェン(陳聖元)、チェン・ウェイ(陳葳)、チェン・フゥイユー(陳慧伃)、嶺東科技大学服飾学部ファッションデザイン学科のヤン・ズーイン(楊子瑩)の4人、そして高雄市政府青年局が主催する「高雄ファッションアワード2022」の受賞者であるホン・イートン(洪衣彤)、リー・ジアン(李紀鞍)、ワン・ジィェン・カイ(王建凱)の3人を加えて、7人の若手デザイナーで行った。
■ニュー・ブリード
「ヤングタレント」をはじめとするアワード受賞経験を持つ若いデザイナーによる合同ショーが「ニューブリード」だ。今回はグゥォ・ホンシォン(郭恆生)による「ホン シォン(HANSEN)」、ウォン ズー ジュン(翁子竣)の「ウォン スタジオ(WENG_ Studio)」、リー・ユーチー(李玉琪)の「ペシズ(PCES)」の3ブランドがショーを行った。この3ブランドはTPEFWで2回目のショー参加となる。
ホン シォン(HANSEN)
「ホン シォン」はジュエリーブランド「ナナ(Nana)」とコラボレーションしてコレクションを発表。詩的で、東洋の宗教的な禅を探求し、エレガントな蘭を着想源とした。大胆なオリエンタル柄をあしらった脱構築的なルックが中心ながら、ヨーロピアンエレガンスを感じせるルックも差し込んだ。
ウォン スタジオ(WENG_ Studio)
「ウォン スタジオ」は、アースコンシャスなコンセプトのもと、オーガニックでナチュラルな原料やリサイクル可能な生地を厳選し、シンプルでエレガントなブランドスタイルを採用しているブランドだ。今シーズンのコレクションのテーマは“翼のある蘭”。蘭の花弁を象ったトップスをキーアイテムに、ノンシャランなルックやレディライクなルックなどを発表した。
ペシズ(PCES)
「ペシズ」は3人のデザイナーによって設立されたライフスタイルブランドで、性別や季節にとらわれず、ゼロ・ウェイスト・パターニングなどのサステナビリティへの取り組みを行っている。今シーズンは、西洋カトリックや軍隊などを象徴するアイテムからインスピレーションを受けたアイテムを発表。フリュイドなシルエットのアイテムにフリルやラッフルをあしらったエアリーでロマンンチックなルックが印象的だ.
■クロージングショー
台北ファッションウィークのグランドフィナーレとなる「クロージングショー」が10月22日台北ドームパークの松煙大道で、「DE&I」(多様な融合)を開催。同時にオンラインでも公開した。
ショーに参加したのは「エレンコ ツリー(ALLENKO3)」「ボブジアン(BOB Jian)」「ゾンチィェン(TANGTSUNGCHIEN)」「ジャスティン ダブリューエックス(JUST IN XX)」「ペシズ」「ストーリーウェア(Story Wear)」の6ブランド。「ジャスティン ダブリューエックス」は開幕ショー、「ペシズ」はニューリードショーにも参加している。
エレンコ ツリー(ALLENKO3)
世踐大学ファッションデザイン科を卒業後、台北グッドファッションで金賞を受賞したケー・ウェイロン(柯瑋倫)がブランドを設立。ワークウェアを進化させたスタイルが持ち味だ。今シーズンのテーマは不条理なストーリーで知られるカフカの小説「変身物語」にヒントを得て 、“METAMORPHOSIS”をテーマに設定。モノトーンのワークウェアやテーラリングなどの普遍的な定番アイテムをフェティッシュや、アート、ホラー要素でアバンギャルドに変換したルックを発表した。
ボブ ジアン(BOB Jian)
デザイナーのボブ・ジアンは2011年にリアリティ番組「スーパーデザイナー」でキャリアをスタートさせた。以降台湾の数々のファッションアワードを受賞。現在は、多くのアーティストのステージ衣裳やレッドカーペットドレスのデザインを手がけている。
「Karl Lagerfeld: A Line of Beauty」展に訪れ、より繊細な職人技を服に取り入れたいと考えたというボブ。レースやフリンジなどの細かな手仕事を大振りなスカートなどで大胆に見せた。サイケデリックなデジタルプリントやパッチワークなどと融合し独特の世界観を作り上げた。
ゾンチィェン(TANGTSUNGCHIEN)
ゾン・チィェンは、フランスのエールで開催された第34回国際ファッションアクセサリー写真フェスティバルにファーストコレクションで選出されて以降、国内外のアワード受賞や海外メディアで取り上げられているデザイナーだ。今シーズン“Skin Deep”をテーマに、大小様々なリンクル加工やシミのような染めで細胞、組織、臓器、などを表現。エレガントな中に毒気のあるコレクションを見せた。
ペシズ(PCES)
「ペシズ」はニューリードショーと同じシーズンのコレクションから、スタイリングを組み立てた。エアリーでロマンチックな要素に若干のクールさとダークさを纏わせた。
ジャスティン ダブリューエックス(JUST IN XX)
「ジャスティン ダブリューエックス」は、“FNO=Fruit Night Out!!!!”をコンセプトにコレクションを発表。マンゴー、バナナ、ロータスミスト、パイナップル、グレープ、スイカ、ドラゴンフルーツなど、台湾が誇るフルーツからカラーやモチーフを生み出した。職人による凝った装飾や加工と前衛デザインの融合はジャスティンならでは。
ストーリーウェア(Story Wear)
チェン・グァンバイが手がける「ストーリーウェア」。社会貢献に注力しているデザイナーの一人であり、再就職が困難な中高年労働者を積極的に雇用し独自の生産ラインを開発。またデニムのリサイクル生地やリサイクル衣料を使用することにこだわり、アップサイクルな物作りを行っている。今シーズンは、台北出身の世界的アーティストのヤオ・レイヅォン(姚瑞中)の庶民文化を描くアプローチやインディゴアートで知られる英国人アーティスト、イアン・ベリーに触発されたコレクションを発表した。
東京でコレクションを発表した実力派デザイナーのコレクション
ジョイア パン(GIOIA PAN)
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人気俳優メルビン・シア(謝佳見)
台湾ではニットの女王として称されるデザイナー、ハン イ リヨウ。2024春夏コレクションは“bloom”をテーマに、コレクションを発表した。
ファーストルックにはアジアの人気俳優メルビン・シア(謝佳見)が登場。墨で描いたようなアート柄ジャケットを纏った。その後もモノトーンのルックが続く。モノトーンであっても暗さは感じさせず、陽光が織りなす影のような印象だ。途中イエローベースのヴィヴィットな総柄を挟み、小花柄のニット、ドレープを聞かせた不均衡なデザインのスーツ、カットジャカードのような素材などでコレクションを構成。ラストはニットのイブニングドレスで華やかに締めくくった。
コレクションの中で特に目を引くアート柄は、ジェネレーティブ・アート(生成系アート)により生み出したもの。AIのアルゴリズムコードを使って素材に変換したものだという。
アイレンセンス(IRENSENSE)
8月に「楽天ファッションウィーク東京」で2024春夏コレクションを発表した「アイレンセンス」。台北の有力セレクトショップでも取り扱われる人気のデザイナーだ。TPEFWでは演出とスタイリングを変えて凱旋ショーを行った。
先シーズンから、東京への旅をテーマに据えている同ブランド。今シーズンはおとぎ話「不思議の国のアリス」になぞらえられ、夢の始まり、そして現実の砂丘である台湾に戻り、そこで自分を受け入れ、恐れを克服するというストーリーを描いた。
フリュイドシルエットやシアー素材が作りあげるエアリーでシンプルネスなルック、ほつれかかったかのようなニットなどが印象的なコレクション。これらのカラー、アイテム、ファブリック、ディテールを通して、アリスのおとぎ話の世界と少女のイマジネーションを表現したという。
セイヴソン(Seivson)
今や「楽天ファッションウィーク東京」の常連となったヅゥチン・シンによる「セイヴソン」。シーズンを追うごとにシンプルかつセンシュアルなムードを強めている。
東京ではガーゼを会場に吊り下げ、女性のライフシーンや二面性を表現。TPEFWTではヅゥチンと親交のあるブランド「エイ・クライプシス((A)crypsis®)」と合同ショーを開催。「セイヴゾン」の持つ繊細さと「エイ・クライプシス」が持つアグレッシブさのコントラストを感じさせる演出であった。
多様性を受け入れる自由なムード
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プラトウ ストゥディオ
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オクリク
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アクリプシス®
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アノウェアマン
写真:「青・春」をテーマにしたオープニングショーに参加したブランドのグループショット
TPEFWの取材を通じて感じたことは、多様性を受け入れる受容力だ。コレクションの内容だけでなく、ショー会場を訪れるゲストたちを見ても感じる。奇抜なファッションやトランスジェンダーな装いしているゲストに好奇の目を向ける人々は少なく、東京との差を感じた。日本に先んじて同性婚が合法化するなど、自由なムードが社会を包んでいることを感じる。しかし、長い間台湾は国際社会において曖昧な立ち位置にある。
同ファッションウィーク期間中に台湾文化部の王時思次長にインタビューをする機会があった。そこで彼女は「台湾は国際情勢においてとても繊細な問題に直面し微妙な立場にあります。だからこそファッションを通じて国際交流をしたいのです」と話した。その中で日本は最も大事な国の一つとして、「台湾のデザイナーを日本に送り出したり、日本からデザイナーを迎えたりしたい」とも話した。
今回の記事で取り上げた合同ショーに参加したデザイナーが東京でコレクションを発表することに期待したい。
文・取材:山中健
画像提供:台北ファッションウィーク