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2023.10.31
【2024春夏パリ 展示会レポート】韓国バイヤーが目立ち、中国は期待したほどの来場はなし パリ・ウィメンズ・トレードショー/ショールーム2024春夏
2024春夏のパリ・セカンドセッションのトレードショーが、2023年9月28日~10月2日にかけて、市内各所で開かれた。トラノイ(9月28日~10月1日)はパリ旧証券取引所、プルミエールクラス(PC/9月29日~10月2日)はチュイルリー公園のテント会場、ウーマン(9月29日~10月1日)は前回と同じレピュブリック広場近くの会場で開催された。またビーチ・リゾートウェアのスプラッシュ・パリ(9月28~30日)は、チュイルリー公園からアレクサンドルⅢ世橋たもとのセーヌ河畔に移動し、テント会場を設えた。
コロナからの完全回復期に入ったと思われたが、出展者数については2019年10月(2020春夏)のコロナ以前までの回復には至っていないどころか、前年より若干後退した。
東京都と一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)は、「東京ファッションアワード」ウィメンズブランドの受賞者による「ショールームトーキョー・イン・パリ」を9月28日~10月3日の6日間、マレ地区、フィユ・デュ・カルベール駅近くで開催した。第8回受賞デザイナーから「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」「フェティコ(FETICO)」「アンスクリア(INSCRIRE)」「ヴィヴィアーノ(VIVIANO)」、第7回受賞デザイナーから「マリオンヴィンテージ(MALION vintage)」「オダカ(ODAKHA)」が参加した。
トレードショーの全般的な傾向と日本からの出展者を一部紹介する。
※WSNは、フーズネクスト・PCを擁するWSNディベロッブモン。16SSのPCは、シュールモード(SUR)、ドント・ビリーブ・ザ・ハイプ、その後合流するザ・ボックス、カプセルとの合計。21SSのWSNは、ファーストセッションのフーズネクストを中止し、セカンドセッションのPCと合流して開催した合計。尚17SS、22SSのデータは取得できていない。さらに20SSと23SS、24SS以外のスプラッシュのデータも不明。
表とグラフは、この8年間のセカンドセッション・トレードショーの推移(2017春夏と2022春夏のデータは、取れていない)だ。コロナ前の2020春夏まで、「トレードショーの出展者が減り続けていた」と言われ続けて10年以上というのが多くの見方だろう。だが、ショールームが決して良かったとも言い切れず、また成熟市場の欧州全体としては伸び悩みの中、ある時期は中東やロシア、そしてある時期は中国やアジアがと、世界のどこかにけん引してくれるマーケットが存在していたがためにビジネスを続けられたとも言える。
そして2020年3月に開かれた2020秋冬シーズンを終えた直後にロックダウン、前稿でも述べたように、半年後に開かれた2021春夏は、前年比78.9%減、2割強の出展者数まで落ちた。「コロナからの完全回復なるか」が、ここ1~2年の焦点だがコロナ前(2020春夏)と比べて表・グラフの最右欄にある通り、35.6%減(前年は34.3%減)と前年より1.3%微減となってしまった。まだ中国からの来仏のハードルが高く、一部のトップバイヤーしか戻ってきていない状況を憂慮して、なかなか出展に踏み切れていないというのが、今シーズンの微減という結果となって表れたようだ。
一方で、トラノイに中国ファッション協会がパビリオン出展し、パリコレクションにはオフスケジュールながら、中国文化センターを会場に3ブランドが単独ショーを行うなど、ハイソサエティーレベルでの来仏とプレゼンス拡大が進んだようだ。
トラノイの津島忠章・日本リージョナルマネージャーは、「海外来場者のうち約3割以上がアジアで、うち15%が日本から。日本、中国とも前回より登録数が増えている」とアジアからの力強い来場増があると評価した。
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トラノイ
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トラノイ
トラノイはコロナ下から、フランスオートクチュール・モード連盟の公式トレードショーと位置付けられて以降、ウィメンズは150ブランドを連盟と共同で選考する仕組みに変わった為、大幅な出展者増とはなっておらず155ブランドとなった。前述の中国「CHINA SELECT」6と従来から出展しているアフリカ「CANEX」20、ソウルファッションウイークに替わって新世界グループがサポートする韓国「KFASHION82」13の3つのパビリオンを足して総数では、194ブランドが揃った。
ゾーン別にみると、クリエイティブコンテンポラリーが51、アクセサリーが52、リゾートテーマのバケーションエディットが33、ニューシーンが19で区分けされた。津島マネージャーによると「バケーションエディトには、インド、スペイン、イタリアなどからの出展が多い」との答えだった。
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KFASHION82
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KFASHION82
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CANEX/AFRICA
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CHINA SELECT/中国服装協会
日本からは、14ブランドが出展した。
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エンリカ
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エンリカ
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ティッカ
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ティッカ
フラッパーズは、PCにスカーフなど服飾雑貨の「マニプリ(MANIPURI)」を出展し、トラノイにはウィメンズウェアの「エンリカ(ENRICA)」と「ティッカ(TICCA)」を出展した。「エンリカ」は、イタリアを中心とした欧州やスイス、米国など30件ほどと取引しており、パリの新規も獲得した。太いストライプやパイナップルの墨染めコットンシルク・ワンピースが好評だった。「ティッカ」は、マニッシュなストライプのコットンシャツドレスが受けたそうだ。
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シー・ティー・プラージュ
海外取引が主でパリに事務所もあるニットの「シー・ティー・プラージュ(C.T.plage)」は、エージェント経由の強みを生かして、堅調なビジネスを展開している。特にカシミヤのような冬素材でも、サマーカシミヤとして通年で売れていくのが、欧州の気候の傾向から来るメリットと感じている。また中国語も聞こえるが、欧米拠点のエージェントをしている中国人が多いそうだ。
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プルミエールクラス
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PC内のアンダム賞の展示
プルミエールクラス(PC)には、313ブランドが出展し、前回比10.3%減、コロナ前比25.8%減となった。ルーブル側の小規模テントはウェア中心、チュイルリー側の大規模テントは服飾雑貨中心に配置され、アイテム構成はアクセサリー24%、テキスタイル雑貨20%、バッグ19%、靴18%、ウェア18%、その他1%だった。日本からは16ブランドが出展した。
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マニプリ
前述の「エンリカ」などをトラノイに出展したフラッパーズのストールブランド、「マニプリ」は、前シーズンに20件ほどの取引先まで戻し、上代が5%程上がったものの、「円安を機に従来手掛けていた輸入のノウハウをもとに、輸出にシフトできたことが奏功した」と機を見て敏な対応が良かったと語るのは、同社の長島邦彦代表取締役だ。主要な取引先は、アジアが韓国、中国、香港、欧米はフランス、米国、カナダなどに卸している。スカーフを組み合わせたキャンバスバッグの新作も商材として成長しており、100品番ほどあるスカーフと併せて拡販し、輸出のみで3年後に「マニプリ」を1億円規模、全ブランドで4~5億円を目指すという。
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マチュアーハ
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ボックスドハット・バイ・マチュアーハ
継続出展してきた帽子の「マチュアーハ(mature ha.)」は、既存40~50社程度の来場を見込んでおり、新規を20件程度加えたいと意気込む。引き続き米国からの来場者が多いと感じており、特にニューヨークが増えたという。スロベニアに新規取引先ができ、全体としては、コロナ前の水準に戻りそうだ。一方生産面では工場がタイトな分、従来5割だった作り込みが、7割にまで増えている点が課題という。
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ユーシーエフ
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昇華転写プリント
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有松絞り
上田安子ファッション専門学校の学生によるブランド「ユーシーエフ(UCF)」は、秋冬12件だった取引先を今季20件まで増やす目標だ。今回は、エジプト、クウェート、サウジアラビアなど中東、欧米、オーストラリアなどからオーダーを得られそうだ。有松絞りは継続で仕込み、昇華転写プリントのシリーズも加わって、当たりが出ている。
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スミカネコのループ状アクセサリー
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スミカネコのループ状アクセサリー
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スミカネコのループ状アクセサリー
コロナ以降、久しぶりのPC出展となった「スミカネコ(sumikaneko)」は、米国出展を経て戻ってきたが、「欧州の方が合う」という結論を得たそうだ。今回はフランス、中国、台湾の新規7件を含めて10件のオーダーを獲得した。特に手間のかかるチェーンをひと続きでループ状にしたゴールドコーティングのシルバーアクセサリーの繊細さが受けて好評だったという。
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スミカネコ
ウーマンは、前回比9.7%減、コロナ前比65%減の28ブランドが出展した。レピュブリック広場近くの会場も定着し、そのアットホームな雰囲気が気に入って出展しているブランドも多い。ニューヨーク拠点の日本人ブランドの出展は在ったが、日本からは「トゥジュー(TOUJOURS)」1ブランドのみだった。
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トゥジュー
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トゥジュー
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トゥジュー
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トゥジュー
店によって発注する物の傾向は違うが、ほぼ万遍なく受注が付くという「トゥジュー」。韓国や台湾は取引があるが、「中国は縁がない」と笑う。毎回20件程度の取引が成立するそうだ。今季はフリルを叩いたシャツ、小花プリントや無地のガーメントダイのオールインワンが人気だったという。
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スプラッシュ・パリ
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スプラッシュ・パリ
ビーチ・リゾートウェアのスプラッシュ・パリにとっては、トラノイがバケーションエディトのコーナーを新設した点は、脅威と感じているかもしれないが、唯一前回比で2.7%増と増加に転じたのがスプラッシュだった事から、リゾート切り口の拡大傾向が見て取れる。コロナ前比では、15%減と回復できてはいないが、健闘している数字だ。前述のトラノイ/バケーションエディトの出展者33ブランドを加えると、このゾーンの伸長には目覚ましいものがありそうだ。日本からの出展は無い。
ここからはコレクティブショールームや単独でショールームを開いた日本ブランドを紹介する。
プレコレシフトを感じつつも、個店に支えられてメインの時期で頑張る
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ショールームトーキョー・イン・パリ
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今城薫JFWOコレクション事業ディレクター
ショールームトーキョー・イン・パリを運営するJFWOの今城薫コレクション事業ディレクターは、「アポイントは、前回80件に対して、60件プラスアルファ。韓国、香港、台湾が多く、米国の個店やイタリア、さらにはウクライナのECなどが来場予定だ。大手はプレコレ時期に買うところが多く、メンズ時期のインパクトのあるブランドは伸びているが、日本のバイヤーも含めて9月はスキップする傾向がある。その分、小さな個店が来展してくれる」とプレコレ時期に大手がシフトしている傾向があると分析している。「オダカ、アンスクリア、マリオンヴィンテージは、ピックアップが多いと感じている」とも話した。
「引き続き円安の影響で(ショールーム開催費用の)予算的な厳しさは続くが、そこはなんとかやるしかない」と決意を語った。
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アンスクリア
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アキコアオキ
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ザ・ダブリュー・ショールームと掛け持ちのフェティコ
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ヴィヴィアーノ
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マリオンヴィンテージ
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マリオンヴィンテージ
「マリオンヴィンテージ」は、韓国のトムグレイハウンドとのアポが入っており、期待を賭ける。レースやリネンシーツのデッドストックを使ったジャケットが11万円、パンツが6万4000円と高価格になっており「価格が通りづらくなっている」(清水亜樹取締役副社長)と感じているそうだ。得意のネクタイパッチワークも含め万遍なく見てもらえるが、前述の価格問題が不安材料のようだ。
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オダカ
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オダカ
「オダカ」はミラノの有力店と取引ができており、さらに香港、ドバイ(UAE)、韓国からピックされて、前回より増えそうな気配だ。「ニットについては、素晴らしいと評価してくれ、国内生産についても良いことと受けとめてくれているようだ」と話すのは小髙真理CEO/デザイナー。花柄やボーダーなどのニットと布帛のコンビアイテムが受けたそうだ。
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ザ・ダブリュー・ショールーム
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フェティコ(ザ・ダブリュー・ショールーム)
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ハルノブムラタ(ザ・ダブリュー・ショールーム)
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デターム(ザ・ダブリュー・ショールーム)
新たなコレクティブショールーム「ザ・ダブリュー・ショールーム(THE W SHOWROOM)」が誕生した。「満を持してパリのショールームを開設した」と語るのはザ・ウォールの長谷川順啓CEO。アデライデなど有力セレクトショップを運営し、輸入卸、国内ブランド卸、PR業務など幅広く展開している同社にとって、今までの繋がりを活かしてパリにショールームを開く事は古くからの目標でもあった。特に「日本ブランドのクオリティーの高さや欧米に伍するデザイン力、繊細な感性にアドバンテージを感じていた」と言い、「同じ蝉の声でも、雑音のように感じるか、季節感や風情を感じるかのような違い」と語る。ショールームはパートナーのウィンザーコンサルタントと共同で運営し、ランビュトー駅近くで7日間開いた。ショールームトーキョーにも選ばれた「フェティコ」「ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)」と関連会社が作るインティメートウェアの「デターム(determ;)」の3ブランドを出した。
アポイントは中国、韓国、香港、ベトナム、シンガポールなどアジア圏を中心に米国、フランス、スペイン、ドイツ、ロシアなど欧米も含め30〜40件。「来年1月のプレコレ時期も開催したい。ブランドも増やしていくつもり」と意気込む。
ここからは、単独ショールームを巡る。
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ウジョー
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ウジョー
2016春夏からパリでの販売をスタートさせた「ウジョー(UJOH)」は、8年目を迎えて20件ほどの既存取引先に新規が6~7件と堅調だ。アジア圏は韓国、中国、香港、ベトナム、欧米はフランス、ドイツ、英国、ロシアなどに販売する。オンスケジュールのショーを続けてきたことが奏功しているようだ。来年1月のパリでは、コレクティブショールームに参加する計画という。
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ミュベール
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ミュベール
マレ地区でショールームを開きながら、新規獲得に向けてトラノイに2度出展した「ミュベール (MUVEIL)」は、今回から単独ショールームのみに戻した。8月にはコペンハーゲンのCIFFに出展したが、「展示会が巨大過ぎて埋もれてしまった」と総括した。この間のトレードショー出展の経緯を振り返って「コロナ明けの動きとしては良かった」と評価した。今季は10件ほどのアポイントがあり、アジアは韓国、香港、中国、台湾、さらに米国、スイスなどと商談予定だ。
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ディウカ
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ディウカ
2013春夏からパリでの販路開拓を続けている「ディウカ(divka)」はコロナ後、2022年9月から独自ショールームを再開した。海外販路は、ニューヨークのショールームで北米中心に 22件、アジア圏は上海のショールームを活用して41件取引があり、今季パリでは既存14件に新規7〜8件が目標。パリからは米国、カナダ、オーストリア、フランス、イタリア、スイス、ギリシャ、ルーマニア、リトアニアなど欧米各国に加え、サウジアラビア、UAE、クウェート、レバノンなど中東にも販路が広がっている。コロナ以前は海外比率が4割程だったが、コロナ下に国内営業を強化し伸長したこともあって、海外は比率としては2割まで減少していたが、昨年度、売上げとしては過去最高となった。現在、海外は3割まで回復したが、5割を目指すという。
コロナ以降、毎年確実に増えてきているパリでのセールス。日本からの出展意欲も日に日に高まってきたと言える。一方で長引くウクライナ情勢に加えて、パレスチナ・イスラエル問題の勃発でフランスのテロ警戒水準が「urgence attentat」(最高度)まで引き上げられるなど、不透明な状況になってきた。湾岸戦争、9.11、パリ同時多発テロと幾度となく社会不安を抱え、乗り越えてきた都市だけに細心の注意が必要だ。また中国経済の減速懸念による先行き不安、世界的なインフレやパリ五輪の影響による宿泊費の高騰、原燃料高による航空運賃や輸送コストの高止まり、円安といった様々な経済要因を分析しながら、大胆に世界に打って出る機運も必要だ。それらを天秤に掛けながら、パリという大舞台での挑戦は続いていく。
取材・写真・文/久保雅裕(ファッションジャーナリスト)
アナログフィルター「ジュルナル・クボッチ」編集長/杉野服飾大学特任教授/東京ファッションデザイナー協議会(CFD TOKYO)代表理事・議長
ファッションジャーナリスト・ファッションビジネスコンサルタント。繊研新聞社に22年間在籍。「senken h」を立ち上げ、アッシュ編集室長・パリ支局長を務めるとともに、子供服団体の事務局長、IFF・プラグインなど展示会事業も担当し、2012年に退社。
大手セレクトショップのマーケティングディレクターを経て、2013年からウェブメディア「Journal Cubocci」を運営。2017年からSMART USENにて「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」ラジオパーソナリティー、2018年から「毎日ファッション大賞」推薦委員、2019年からUSEN「encoremode」コントリビューティングエディターに就任。2022年7月、CFD TOKYO代表理事・議長に就任。この他、共同通信やFashionsnap.comなどにも執筆・寄稿している。
コンサルティングや講演活動の他、別会社でパリに出展するブランドのサポートや日本ブランドの合同ポップアップストアの開催、合同展「SOLEIL TOKYO」も主催するなどしてきた。日本のクリエーター支援をライフワークとして活動している。