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2023.10.03

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.91】強まる手仕事・日本志向 テーラードと肌見せ 2024年春夏・東京コレクション

写真左から「カナコ サカイ」「ア ベイシング エイプ®」「セヴシグ」「ハルノブムラタ」

 

 総勢50ブランドが集まって、2024年春夏の「楽天ファッション・ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」(通称、東京コレクション/以下、東コレ)は、目先の流行を追わない「アンチトレンド」の傾向が強まった。逆に勢いづいたのは、手仕事重視の上質志向。テーラードジャケットやセットアップの変形が広がった。日本の伝統的な職人技を取り入れ、それぞれの強みを深掘り。

 さらに、きつさを増す一方の暑さをしのぎやすいシアー服やノースリーブ、風通しのよさそうなカットアウトやキャミソールドレスも多い。気負わないムードのなかにも、自立やエンパワーメントを意識した、東京ならではのひねりのあるセンシュアルやストリートを印象付ける提案だ。

 

 

 

◆カナコ サカイ(KANAKO SAKAI)

◆カナコ サカイ(KANAKO SAKAI)

 

 日本の服飾文化とものづくりの技術を受け継ぐポリシーが随所にうかがえる。オーバーサイズのロング丈ジャケットとパンツのセットアップでスタート。以後も性別にとらわれないジェンダーレス仕様のウエアが登場。自在の着こなしに誘った。

 

 ボトムレス風のジャケットルック、真っ赤な立ち襟ジャケットなど、テーラード物が盛りだくさん。オーバーサイズのロングコートはスラッシュ部分からランジェリーのようなレースがのぞく、妖艶なレイヤード仕立て。貝殻を用いた螺鈿(らでん)織りがミステリアスなきらめきを呼び込んでいる。

 亀甲紋はキーモチーフとして繰り返し登場。ダメージドジーンズはほつれ加工が目新しい。左右で色落ち加減を大胆に変えたアシンメトリーも披露した。日本の伝統的な技法や柄を生かしながら、ロック感や反骨も織り込んでいる。

 

 デビューショーらしからぬ引き出しの多さを見せ付け、ファッションウィークの幕開けを飾った。

 

 

 

◆ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA

◆ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)

 

 ゆったりしたエアリーなフォルムと、多彩な素肌見せが「親密な日常のポートレート」のテーマを映し出し、リュクスなリゾート気分に誘った。

 

 ドレープを寄せたり、布を垂らしたりした、ギリシャ神話の女神風ホワイトドレスは軽やかで神秘的。ジャージー生地で仕立てた白のミニ丈ドレスには「オーエーオー(OAO)」とのコラボレーションスニーカーを添えている。イエローからオレンジへとうつろうグラデーションは夕焼けのよう。濃いブルーはロングコートやパンツ・セットアップをマリンムードで染め上げた。

 透けるブロックチェックがロングドレスにセンシュアルを忍び込ませている。アイテム同士の融通を利かせ、キャミソールはパンツルックに融け合わせ、ジャケットとミニ丈ボトムスのセットアップにはブラトップを組み込んだ。あちこちに隙間や窓を開けて、涼やかな立体感を高めている。

 

 球状のゴールドモチーフを連ねたビッグネックレスや、横倒しに抱え持ったレザーの大ぶりバッグなど、小物使いの演出も冴えている。

 

 

 

◆サポートサーフェス(support surface)

◆サポートサーフェス(support surface)

 

 立体裁断に強みを持つ「カッティングマスター」の本領を見せ付けた。過剰に飾り立てず、節度と品格を薫らせる「クワイエットラグジュアリー」のお手本のようだ。

 

 半袖やノースリーブを多用して、軽やかでエレガントに整えている。ゆったりとした半袖の白シャツに、さらにたっぷり幅のワイドパンツをマッチング。ドレープが波打ち、ひだが陰影を生んだ。端正な白ベスト(ジレ)は素肌にまとい、マリントーンや細めストライプですっきりした表情を引き出す。

 シャツ・ワンピース風ドレスは生地をふんだんに注ぎ込んで、風にたゆたう布景色に。ショート袖とドレーピーボトムスの量感コントラストが冴えた。布の遊ばせ具合でエモーショナルな立体感を生んで、服の中で泳ぐかのような仕立てに。履き心地よさげなスニーカーが装いにリズムを乗せている。

 

 服周りの空気にまで「形」が備わったコレクションは、あくまで静かで穏やかに、でも、はっきり胸を高鳴らせた。

 

 

 

◆チノ(CINOH)

◆チノ(CINOH)

 

 クリーンで凜々しい、細身の装いが自然体の強さを引き出した。キャメルや白、黒を主体に、スレンダーで機能的なシルエットを際立たせている。シャツ風のロングワンピースには前立てにボタンを連ねた。トレンチコートはノースリーブにトランスフォーム。タイトなニットのロングスカートはスパンコールやラメのつやめきを帯びた。

 

 カシュクールのキャミソールジャケットにはジェンダーが融け合う。ロング丈ジャケットはクロップド丈パンツと合わせて、落ち感を強めた。ブラウスの裾をベルトループに通した。長く垂らすような、多彩なベルト使いも提案された。シャツは肩口をカットアウト。レザースカートにあしらった花柄の刺繍で華やかさをプラス。「オニツカタイガー(Onitsuka Tiger)」とのコラボレーションスニーカーは左右で別カラーのアシンメトリーで遊んだ。

 

 2014年春夏に改称してから10周年のコレクションを、ブランドらしいしなやかな日常モード服でまとめ上げてみせた。

 

 

 

◆フェティコ(FETICO)

◆フェティコ(FETICO)

 

 ホテルのドアノブに掛ける”DO NOT DISTURB”のメッセージをテーマに選んで、自由度の高いセンシュアルな装いを打ち出した。これまでのランジェリーに加え、ブラトップやスイムウエアなども組み入れて、フェティッシュ服の表現を拡張。

 

 スタイリングの奥行きを深くしたのは、多彩なレイヤードだ。ビキニ風アイテムにトランスペアレントなワンピースを重ね、色香の漂うルックに仕上げている。

 映画「恋する惑星」で知られるアジアのアイコン、フェイ・ウォンをミューズに選んだとあって、ベビードール風のミニドレスや袖先が遊ぶ白のデコルテドレスなど、魅惑的な着映え。ロンググローブも多用した。パジャマライクなシャツ・セットアップは上からバンドゥーを巻いたり、一見、オーソドックスな黒のセットアップはシャツの袖先が盛大にあふれていたりと、型通りの着方は見当たらない。

 

 カットアウトをはじめ、ベアショルダー、透かし編み、深い襟ぐりなどのスキンコンシャス演出で、こびないヌーディーを仕掛けた。

 

 

 

◆ミューラル(MURRAL)

◆ミューラル(MURRAL)

 

 風をはらむロングドレスが自然体でエモーショナルなスタイリングに導いた。縦に長い、キャミソールドレスやノースリーブドレスがしなやかに流れ落ちるシルエットを描き出す。

 

 丁寧に施したドレープやひだが生地の風合いを引き出している。にじみやぼかしなどの染め技がフラワーモチーフに押し花のようなノスタルジーを忍び込ませた。デコルテを縦に走るストラップと、裾に長く遊ばせたフリンジが動感を加えている。

 淡いパープルが花柄に穏やかでやさしげな情感をまとわせた。レッドであでやかな女性像を演出し、色彩のめりはりを利かせている。

 

 ホルターネックやビスチェ風トップスを組み込んだレイヤードが涼やかな立体感を生んだ。ジュエルライクなワイヤーアクセサリーをケープのように重ねて透明感を引き出し、レース素材をあちこちに用いて、清らかで繊細な風情を寄り添わせている。奇をてらわず、日々の多幸感を確かめるようなムードを印象付けていた。

 

 

 

◆ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)

◆ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)

 

 構築的でアートライクな装いにスポーティエッセンスをまとわせた。ラグビーボールがモチーフという、腰周りで横長に張り出したフォルムはコンセプチュアルアートのよう。アメフトのプロテクターを連想させる、肩から胸にかけて横に張り出した装いはロボットみたいで、腰から下を華奢に見せている。

 

 軽やかなメッシュ素材やジャージーやハイテク素材を使用。オールインワンはボトムスに量感を出した。スポーツブランド風のワンポイントでアスレティック感を添えている。

 つややかなキャミソール・ティアードドレスは胸の目玉モチーフがユーモラス。レインボーのドット柄が「ノスタルファンタジー」に誘う。大胆なカットアウトを施して意外感のある肌見せも演出。

 

 バッグのレパートリーが増え、肩掛けの横長タイプはまるでペプラムのようにウエスト景色を膨らませていた。全体的に、スポーティなムードにひねりを加え、ファニーでクチュールに仕上げている。

 

 

◆クイーン アンド ジャック(Queen&Jack)

◆クイーン アンド ジャック(Queen&Jack)

 

 特別感の高い制服ブランドのコレクションラインは東コレの中でも立ち位置が際立っている。スクールガールの装いを軸に据えつつ、クチュール風味を帯びさせた。固有の深化を遂げた日本の制服カルチャーに、イタリアのサルトリア(職人)技を融合。ナポリの工房との共同制作がクラス感を一段と高めている。

 

 ブレザーをキーアイテムに選んで、プレッピー風味を持ち込んだ。ゆるめのタイドアップはトレンド感が強い。パンツにスカートを重ねるボトムスレイヤードはジェンダーレスの流れを映す。ショート丈のコンパクトジャケットが軽快。チェック柄やストライプ柄でメンズっぽく整えながら、レースやフリル、ギャザーで愛らしさを添えた。

 両袖の横に張り出したフリルや、襟周りを華やがせるレースなど、レディーライクなディテールがふんだん。ジャンパースカートやキュロットも女子度が高い。足元は革靴で正統派ムードに。

 

 良家テイストを保ちつつも、制服のイメージをねじり返すウィットフルな仕掛けを多彩に繰り出して、ユニフォームルックの選択肢を増やしていた。

 

 

 

◆セイヴソン(Seivson)

◆セイヴソン(Seivson

 

 気鋭の台湾ブランドはオフィスの装いを大胆に読み替えた。キーピースは解体したトレンチコート。ほとんど原型をとどめないまでにばらして、ミニドレスに仕立て直した。複数のパネルが重なり合うジャケットが構築的なフォルムを描き出すアートライクなたたずまい。ブラトップを組み入れて、パンク感とフェティッシュを漂わせている。

 

 複数のウエアを重層的に組み合わせて、リズミカルな立体パズルに仕上げた。ハーネスやストラップを多用してミステリアスに見せ、肩出しやカットアウトでヌーディーなムードに。細かいプリーツや透けるチュール風生地で陰影を濃くした。つまんだり垂らしたりと、布の表情を多彩に引き出した。

 

 ランジェリーやビスチェに、端正なテーラードジャケットを引き合わせ、オフィスルックを揺さぶっている。チェーン付きのアイウエアがアクセントに。職場にふさわしい知的さやクール感と、素肌見せやミニ丈のヘルシーセクシーを響き合わせている。

 

 

 

◆セヴシグ(SEVESKIG)

◆セヴシグ(SEVESKIG)

 

 同じデザイナーのメンズブランド「セヴシグ」とウィメンズの「アンディサイデッド((un)decided)」が合同ショーを開催し、反戦やヒッピーの気分を立ちこめた。

 

 デニムのセットアップはパンツのダメージ度が深く、銃弾を浴びたかのようなズタボロのディテールが不穏な危うさを秘める。超ロング袖のトリコロールカーディガンは端をほつれさせた。花をかたどった、ニットのヘッドコサージュはフラワーチルドレンのよう。

 繰り返し現れたタイガーモチーフが闘争のイメージを注ぎ込んだ。つやめきを帯びたレオパードアウターとボトムスの下にダメージドデニムパンツでレイヤード。セックスピストルズ風の目隠しモチーフも見せた。顔にネットをかぶせてミステリアスに演出。アニメ映画「新世紀エヴァンゲリオン」とのコラボレーションアイテムも盛り込んだ。

 

 全体に重層的なグランジ風味にやんちゃ感を上乗せしたストリートでジェンダーレスな装いを送り出した。

 

 

 

◆ア ベイシング エイプ®(A BATHING APE ®)

◆ア ベイシング エイプ®(A BATHING APE ®

 

 30周年の節目に創業の地、原宿エリアを舞台に選んで、東京では初のランウェイショーを開催した。楽天グループが支援するプロジェクト「バイアール(by R)」の企画だ。

 

 「裏原」ブームを起こし、東京ストリートの代名詞的存在となったブランドがストリートラグジュアリーの集大成的なコレクションを披露。様々な書体のロゴで埋め尽くされたマルチカラーのフーディー・セットアップはヒップホップの正装のよう。

 ハーフパンツを組み入れたセットアップをスーツのように打ち出した。オリジナルのカムフラージュ柄がブランドらしさを際立たせる。スタジアムジャンパー(バーシティージャケット)にはワッペンがいっぱい。Gジャン風のチェック柄ジャケットにはピンズをどっさりあしらった。

 

 偏愛のデニムパンツはバリエーションが多彩。正面に白の流れ星モチーフを配した。ブーツはスーパーボリューミーでプレイフルな雰囲気を醸し出している。スポーティ感を印象づけたのはバスケットボール・ルックの連続シュート。アメリカンコミック風の絵柄で埋め尽くしたセットアップはファニー。クロップドトップスとミニ丈ボトムスでウエストをY2K風にヘルシー見せ。

 

 ユースカルチャーへの敬意を示した、アニバーサリーにふさわしいコレクションだ。

 

 

 

 もはやあたりまえになりつつあるシーズンレス、ジェンダーレス、タイムレスのキーワードを思い思いに解釈している。さらに、エスプリやメッセージ、ストーリー性を盛り込んで、アートライクな造形が打ち出された。布の起伏やドレープで装いにリズムを薫らせる手法が相次いだ。涼しくコンフォートな服へのサマーシフトを加速させながらも、エモーショナルなディテールに情感を込めて、各ブランドのアイデンティティーを語りかけていた。

 

画像:各ブランド提供

 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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