PICK UP

2023.09.30

【2024春夏ミラノ ハイライト3】独自路線、ユニークな提案、モダンなデザイン・・・コンサバなミラノのもう一つの表情

写真左から「ディーゼル」「オニツカタイガー」「エンポリオ アルマーニ」「エムエスジーエム」

 

 結局のところ、今シーズンのミラノは、前シーズンからの継続的なスタイルが多い。例えば、透け素材の多用、ランジェリードレスや下着見せ、フリンジ、アシンメトリー、ボリューミーなテーラードジャケットとマイクロショーツのコーディネート…等々。また今シーズンもマスキュリンとフェミニンのミックスや、素材やシルエットのコントラストは一つの流れとなっている。

 

 そんな中、今回の新しいキーワードは、職人技と手仕事。卓越した仕立てや研究された素材、刺繍やレース、ビジューやスパンコールなどの装飾に今まで以上にこだわるブランドが多かった。イタリアならではのモノづくりがコレクションに投影されていて大変好ましい。それがクワイエットラグジュアリーというトレンドと連結し、作りはラグジュアリーながら、それをロゴやアイコンで強調しない見せ方が主流。

 

 ハイライト第三弾では、そんなモノづくりの良さはベースとしつつも、モダンで若々しいデザインやユニークなアプローチをしているブランドを集めた。

オニツカタイガー(Onitsuka Tiger)

「オニツカタイガー」2024春夏コレクション

 

 今回、「オニツカタイガー」は、元菓子工場で現在はイベントスペースとして使われているスペースにてショーを開催。エントランスには「オニツカタイガーカラー」の黄色の大きな気球?が飾られている。

 

 今シーズンのテーマは“パーソナルレイヤード”。これまでも「オニツカタイガー」が得意としてきたレイヤードにフォーカスし、アシンメトリー、ギャザー、カットアウトなどを活かし、自分らしく組み合わせることを提案する。

 

 トップを、片方の肩を落として着た上から透け素材のアイテムを着用して、あえてその効果を見せるコーディネートが多数登場。フィッシャーマンズリブニットのジャンパーやカーディガンには袖の付け根の下に切り込みが入っていて、ショーでは袖を通さずに前で縛るコーディネートがなされている。テーラードジャケットとチュールのミニスカートを合わせたり、ワンショルダーのインナーの上に同素材のドレスを合わせたり、片側だけカットアウトされたアイテムなどアシンメトリーなシルエットも多い。

 

 フラワーモチーフは「オニツカタイガー」には珍しいと思ったら、これは日本のテキスタイルグラフィックブランド「ノワート(nowartt)」とのコラボだとか。このフローラルプリントを同じ柄でインナーとドレスを重ねたレイヤードを作ることで、別の洋服になったような不思議な視覚的効果を与える。

 

 その一方で、ブラックの無地のテーラードテイストのジャケットにバミューダパンツのセットアップやシンプルなコートドレス、または透け素材のトップとトラウザーのコーディネートなどもあり、これまでのスポーツイメージは少な目。その分、足元には「オニツカタイガー」らしい黄色をソールに効かせた黒のスニーカーや雨用の長靴のようなブーツ、レースアップのスポーツサンダルなどのスポーティテイストを強調。

 

 前回あたりから、かなりクチュール感を出していた「オニツカタイガー」は、ますますモーダに。モダンで若々しいスポーツクチュールという立ち位置を、良い感じで確保している。

ディーゼル(DIESEL)

「ディーゼル」2024春夏コレクション

 

 「ディーゼルはパーティーが大好きなので、7000人のお客様をフリーレイブに招待することにした」「コレクションはディーゼルの精神であり、すべてにおいて民主的で実験的。人生を楽しむために、毎日がパーティーであるべきだと信じている」とグレン・マーティンがコメントするように、今回は一般客を無料招待(うち1500枚のチケットは学生に優先的に配布)し、NTSとの8時間のフリーレイブの最中にショーを開催した「ディーゼル」。

 

 デモクラティックな部分を強調し、ショーを沢山の人に公開して、(基本的には)全員スタンディングという同じ条件の元、高い壇上のランウェイ、および巨大スクリーンに映し出されるモデルたちを見るという仕組みだ。

 

 コレクションは、一着ごとに異なるディストレス加工が施され、実験的な破壊と構築が繰り広げられる。ファーストルックのミニドレスに始まり、コンシャスなドレスからメンズのシャツやランニングに至るまで、透け素材にジャージーのレイヤーが剥がれ落ちるように縫い付けられている。またブランドを象徴するデニムも健在。内側から赤いロゴのプリントまたはピンストライプのプリントを浮き上がらせるデニム・デヴォレを、ジーンズやシャツ、ジャケットなど様々なアイテムに使用。クリスタルをあしらったデヴォレ・デニムのブラトップやジーンズ、ミニドレスには内側からフラワープリントが施されてフェミニンに。またジップアップデニムのトップスやポケットで構成されたカーゴパンツなどユニークなピースも。切りっぱなしにしたようなドレープのドレスやスカート、アンダーウェアが縫い付けられたヌードカラーのボディコンシャスなドレスなどパンチの効いたセクシーアイテムも多数登場。週末に開かれた「ディーゼル」主催の無料映画会を記念し、映画のポスターがレーザープリントされたり、ポスターを揉みくちゃにしてファーのようなシルエットに仕上げたアイテムも。

 

 一点一点に様々な趣向と仕立ての技が盛り込まれたコレクションで、バリエーションも迫力も満点だった。一般に公開し、レイブ感覚でみんなでショーを楽しむのも良いアイデアだ。が、(形式上、仕方がないのだろうが)屋外で雨に濡れながらショーを見ることになり、天が味方をしてくれなかったのがつくづく残念だ。

ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)

「ヌメロ ヴェントゥーノ」2024春夏コレクション

 

 お馴染みの自社施設、ガレージヴェントゥーノにてショーを行った「ヌメロヴェントゥーノ」。今回のテーマは“Veiled Contrasts(ベールに包まれたコントラスト)”。アレッサンドロ・デラクアの故郷、ナポリの混とんとした矛盾にスポットを当てる。貴族と大衆、文化と肉欲、偽りの道徳と自然な官能性という対照的なものがミックスされた街のイメージをコレクションに投影。そしてナポリのサンセルヴェーロ礼拝堂博物館にある「クリスト ヴェラート デル サンマルティーニ(ヴェールをかけられたキリスト)」という彫刻、そしてそれがあるサン・ロレンツォ地区に思いを馳せたと言う。多くのモデルたちはミニヴェールをかけて登場する。

 

 コレクションでは透け素材や透明のスパンコールから下着が透けていたり、大きく開けたシャツやマイクロミニトップからあえて下着を見せたり、ジャケットやカーディガンを素肌にはおって下着を見せるコーディネートが多い。それは前回に続く官能的なイメージだが、その下着はデカブラとおばちゃんパンツだったり、メンズのトランクスだったりするところが“矛盾”なのかもしれない。ウエディングドレスから未亡人が喪に服するようなドレスまであるのもコレクション全体としてのコントラストなのだろう。

 

 その一方でブラックのコートドレスや、ワンショルダーでトレーンの付いたブラックドレス、ノースリーブのセットアップなどのシンプルなアイテムも登場する。

 

 このところ、センシュアルムードが続いている「ヌメロ ヴェントゥーノ」だが、今回はコントラストを効かせ、あえてひねりを加えて不協和音を起こしていることで、コレクションに深みが出ている。

アンテプリマ(ANTEPRIMA)

「アンテプリマ」2024春夏コレクション

 

 今回のテーマは“Game On!ゲームを楽しむ”。インビテーションにはトランプが同封されており、コレクションでもトランプにインスパイアされたパターンやカラフルな色を使った、楽しくてユニーク、エネルギッシュでポジティブなムードが繰り広げられる。

 

 パフスリーブやコクーンシルエットなど印象的なディテールを施した透け素材をシンプルなミニドレスに合わせたり、ショーツとミニスカートを重ねるなど、様々なレイヤードが。マイクロトップにロングジレやロングスカートを合わせた長短のコントラストの遊びや、テーラードジャケットにミニスカートやショーツを合わせるマスキュリンとフェミニンのミックスも。現代アーティスト竹村京氏のアートからインスパイアされた刺繍も登場。

 

 荻野いづみは「ファッションは、自分自身を表現するための強力なツールであり、人生のゲームにおいて自分自身を前向きに導く鍵だと考える」「見た目の装飾としてではなく、心の豊かさやライフスタイルにも影響を与えることができるファッションを通じて、友達や仲間とのコミュニケーションや、自分自身を表現する楽しさを強調し、ゲームをプレイするように装うことを楽しんでいただきたい」と語る。そんなデザイナーの意志が伝わる、楽しくてポジティブなコレクションだ。

エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)

「エンポリオ アルマーニ」2024春夏コレクション

 

 自社施設の「アルマーニ・テアトロ」にてショーを開催した「エンポリオ アルマーニ」。バラの花のようなラインが描かれた円形のランウェイが設置されている。“そよ風にのせて”というテーマで、そよ風がもたらす旅先での非日常に包み込まれたい気持ちを表現しているとか。

 

 そのせいか、アルマーニグループのコレクションとしては珍しく露出が多く、透け素材のシャツ、ジャケットからのブラ見せやマイクロボレロやジレを素肌に羽織るコーディネートが登場。光沢感や玉虫効果のある素材を多用したり、メタリックなコーティングやビーズや刺繍が施され、ニュアンスのある表情を作り出す。これらの素材がゆったりしたジャケットやパンツ、フレアスカートやドレスなどシックなアイテム、またはショーツやベアトップドレスなどの若々しいアイテムとして繰り広げられる。

 

 カラーパレットはホワイトやシルバーから、シャルトルーズグリーン、鮮やかなラピスラズリ、パープル、ピンクなどクリアで鮮やかな色が使用された。春夏らしい軽いイメージに、爽やかな色使い。ランウェイのモデルたちがみんな微笑んでいるのも印象的だった。

エムエスジーエム(MSGM)

「エムエスジーエム」2024春夏コレクション

 

 直前の会場の変更があり、「エムエスジーエム」がショーを始めたばかりの頃、使っていたイベント会場にてショーを開催。

 

 そんな今回のテーマは“新しいリズム、新しい道”。予測不可能で再編成されることもある道・・・その意外性やランダム性からのアイデアだとか。ということは、もしかしたらショー会場の突然の変更も演出の一部なのかも。

 

 コレクションでは様々なチェックやブラシストローク、手描きのバラや椅子のモチーフが登場し、レモン、ラベンダー、ローズキャンディ、スカイなどの鮮やかな色で繰り広げる。テーラードジャケットに施されたカラフルなピクセル型刺繍からはビーズが下がっていたり、シャツに付けられたバラのマクラメは裾からはみ出し、コートやテーラードジャケットの各所にフリンジを付けるなど、動きのある立体的なディテールが使われている。これらをマスキュリンなパワーショルダーテーラードジャケットとマイクロショーツやボディスと組み合わせた今風のコーディネートや、ポロシャツとミニラップスカートやバルーンスカートと合わせるなどガーリッシュな着こなしで。ジョグパンツやカーゴパンツなどのカジュアルなアイテムから、リボンやフリルをふんだんに使ったドレスやシャツまで様々なテイストが登場。

 

 カタリーナ・グロッセやクリストファー・ウールといったアーティストやジオ・ポンティからのインスピレーションもあるという今回のコレクション。マッシモ・ジョルジェッティは「アートや文化を理解する若者のための服が作りたかった」と話していたが、スケスケのアイテムには少々飽きてきた中、「エムエスジーエム」らしいマルチカラーやプリントを駆使した、エネルギッシュで若々しいコレクションが新鮮だった。

スポーツマックス(SPORTMAX)

「スポーツマックス」2024春夏コレクション

 

 今シーズンのスポーツマックスは“A GARDENER’S BALLAD(庭師のバラード)”がテーマ。暗い空間に照明で浮き上がる、花や植物が入ったガラスケースに沿ってランウェイが作られている。このテーマは「自然」と「文化」の両方の領域を調和、または完全な均衡を保つことに苦闘する世界における「自然」と「文化」が何を意味するのかへの問いかけなのだとか。

 

 テーマへの答えを導くために日本の美意識に注目したそうで、大きなベルトやラップスカート、ロールカラーをデフォルメしたようなドレスのネックのディテールなどに帯からの解釈が見られる。チェコ人アーティストの、クリストフ・キンテラのインスタレーション作品の写真を直接転写した、機械から花が咲いているようなプリントも使われた。

 

 コレクションはほとんどが白とごく薄いペールカラーで構成され、エコファーにスプレーしたカラフルなショールのみが色を添える。透け素材でドレスやスーツが作られていたり、チューブドレスにビニールが、コートにはチュールが貼られるなど透明感のあるアイテムが多く登場。その一方で、コットン、コーティングリネン、紙繊維などのマットな素材で作られたドレスやジャケットや、花モチーフの圧加工をしたり、体の形に作られたレザートップなど、素材のコントラストが見られる。

 

 シーズンを追うごとにエッジーになっていく「スポーツマックス」。今シーズンで最も攻めたデザインをしているブランドの一つと言える。

フェラーリ(Ferrari)

「フェラーリ」2024春夏コレクション

 

 テアトロ・ヴェトラというイベントスペースにてショーを開催した「フェラーリ」。真っ白な空間ではクインテットの生演奏が。今シーズンのテーマは“POWER OF DESIRE(欲望の力)”。「フェラーリ」がデザイン、パフォーマンス、美しさ、革新性において、卓越と洗練を求め続けるパワーをファッションで表現する。

 

 軽量のナッパのミニドレスやラップスカートとジャケットのセットアップには、袖の部分にキルティングでレーシングスーツのプロテクトのようなディテールが。ネイビーのクラシックなウールのジャンプスーツやジップ使いのミニドレス、また多くのルックにレーシンググローブやヘッドフォン、エンジン部品からインスピレーションを得たジュエリーなどのアクセサリーをコーディネートして、モータースポーツの要素を各所に入れ込んでいる。

 

 その一方で、今のトレンドのドロップショルダーやバルコニーカットのドレスや、スカートやドレスなど透け素材のアイテムもふんだんに登場。ショーの終盤にはフェラーリレッドのパテントレザーのシリーズが登場するが、パフスリーブやベルスリーブのドレス、スリット入りのスカートなど、こちらはあえてモータースポーツ感のないシックなデザインのアイテムのみに絞っている。

 

 (車の)「フェラーリ」のアイコニックな要素はさりげなく入れつつ、今シーズンは特にかなり時のトレンドも盛り込んでいる。回を追うごとにモードになっていく「フェラーリ」。近い将来、あの車メーカーが母体だとは気づかない人も出て来るかもしれない。

スンネイ(SUNNEI)

「スンネイ」2024春夏コレクション

 

 いつもサプライズのあるショー構成で楽しませてくれる「スンネイ」。今回は、コンテスト形式でショーを開催。ショー開始前に招待客には点数が書かれたボードが渡され、モデルが壇上に上がると、そのルックに対して、みんなが点数の書かれたボードを上げてジャッジするという参加型ショーだ。コレクションピースを商品化する際に「スンネイ」がその点数を判断材料にするとは思えないが、見ている側としてはルック一体一体のへの関心度がぐっと上がるのは確か。

 

 コレクションではオーバーとタイトの対局したボリュームが登場する。でもそれは今シーズントップとボトムでボリュームや長さのコントラストを付けるブランドが多いのに対し、「スンネイ」はオーバーなトップにはワイドなボトム、トップがスリムならボトムもタイト…というパターンだ。Aラインのドレスにワイドなワークパンツ、ボリューミーなシルク シャツにはクリスタルストーンのハートを特徴とする多層シルクドレスを合わせる。その一方でぴったりしたカットアウトのトップのレイヤードにジャージータイトスカートをコーディネート。「スンネイ」らしいストライプに、ハートを再解釈し、特徴的な言葉遊びをいれた「ストーン ハート」が使われる。

 

 ファッションショーとは、それについて執筆する我々にとっては「仕事」でしかないのだが、実は「ショー」=「見世物」でもあり、本来は楽しむためのもの。ショーの演出においてもコレクションにおいても、独自の楽しい提案とクリエーションを繰り広げる「スンネイ」はファッションの楽しさを思い出させてくれる。

エリザベッタ フランキ(ELISABETTA FRANCHI)

「エリザベッタ フランキ」2024春夏コレクション

 

 今回もミリタリースクールにてショーを行った「エリザベッタ フランキ」。今回のテーマは“ディペッシュモード”。このテーマは、バンド名がフランスのファッション誌に由来し、また「最先端の流行」を意味していることにも関係している様子。

 

 コレクションは80年代と90年代のインダストリアルミュージックにフォーカス。オーバーサイズとスーパーフィットなどコントラストの効いたボリュームを特徴としたロックな雰囲気が流れる。

 

 マイクロショーツやスリムパンツにパワーショルダーのボリューミーなテーラードジャケットやトレンチを合わせたプロポーションの遊びが見られる。フリンジのスカートにクロップトTシャツやブルゾン、スパンコールのロングスカートにGジャン・・・といった、テイストの違う物をあえてコーディネート。足元にはレザーのバイカーブーツやポインテッドヒールを合わせる。

 

 ラメやメタリックカラーのロングドレスはボディコンシャスだったり、大きなスリットやカットアウトが施されていたりとセクシーでグラマラス。素肌にジャケットを羽織ってブラ見せするコーディネートは今シーズンよく見られるが、ここではあくまでロックテイストだ。

 

 トレンドとは全く別の方向を行き、パンチの効いたグラマラスなコレクションを展開した「エリザベッタ フランキ」。今シーズンもやはり独自の路線を貫いた。

取材・文:田中美貴

画像:各ブランド提供

 

 

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

アパレルウェブ ブログ

メールマガジン登録