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2023.10.04

【2024春夏パリ ハイライト1】新任デザイナー、スターデザイナー退任が話題に

写真左から:「アレキサンダー・マックイーン」「ピーター ドゥ」「カルヴェン」「クロエ」

 

 

 2023年9月25日から10月3日まで、2024春夏レディースコレクションがパリ市内で開催された。コレクションを主催するクチュール組合公式カレンダー上では、前回と比べて今季は1つ増えて107のブランドが参加。その中で、フィジカルなショーを開催したブランドは前シーズンと同じく67となった。

 

 コロナ禍が落ち着き、大きな動きを見せた前回と比べると、今季はやや地味な印象だったが、トピックが無かったわけではない。「ヘルムート ラング(HELMUT LANG)」のアーティスティック・ディレクターに就任して初のコレクションを終え、ニューヨークからパリに乗り込んで来たピーター・ドゥや、ニューヨーク、東京に続きパリでショーを行った「マルニ(MARNI)」はファッション業界全体が注目したコレクションだった。

 

 心配されたラグビーのワールドカップによる影響だが、試合は地方で開催されているためパリ市内は至って静か。またフランスにはサッカー程の熱狂的なファンが多く存在せず、ワールドカップを意識する瞬間がほとんど無かった。

 

 週末のデモ行進は恒例ではあるものの、以前とは比較にならない程の落ち着きを見せている。ただ、今後テロや暴動などの不測の事態が生じる可能性は十分にあり、安易に気を緩めることは出来ず。現時点では至って平和な雰囲気ではあるものの、それはつかの間のことかもしれない。

 

 ただ、大きな問題があったとしたら、それはユーロと円の為替、そして物価上昇だろう。日本から来るジャーナリストやバイヤーは各々頭を痛め、工夫を迫られた。ホテルをパリ市内から郊外に移したり、ホテルから民泊に変更したり、外食を極力控えて、キッチン付きのホテルで調理をしたり。これまでに感じたことのない不便を強いられていたのだった。

 

 しかし、そんな過酷な状況であっても、渡仏する日本人ジャーナリスト・バイヤーは大幅に増えたように見受けられ、また中国勢も多くが戻ってきている。そうして、パリコレクションの招待状の争奪戦が再び勃発し、ショーを見られなかったブランドが増えたことも確かである。ファッション業界の活性化は手放しで歓迎すべきことではあるが、それは弱肉強食の世界の復活を意味することにもなる。良くも悪くもパリコレクションが復活傾向にあるのだから、素直に喜ばなければならないのだった。

 

 第一回目は、パリで初のコレクションを披露したデザイナーによるショー、新任のアーティスティック・ディレクターによるショー、今季を最後にブランドを去るアーティスティック・ディレクターによるショー、そしてクリエーター系のショーについてリポートしたい。

ピーター ドゥ(PETER DO)

「ピーター ドゥ」2024春夏コレクション

 

 「ヘルムート ラング(HELMUT LANG)」のショーを終え、自身のコレクションはニューヨークからパリに発表の場を移したピーター・ドゥ。英語圏のジャーナリストたちはパレ・ドゥ・トーキョーにこぞって応援に駆け付け、会場は超満員となり熱気に包まれた。

 

 ベトナム系アメリカ人のドゥは、フィービー・ファイロ時代の「セリーヌ(CELINE)」でキャリアを積み、「デレク ラム(DEREK LAM)」に移籍した後2018年に独立。ニューヨークのデザイナーらしい、シンプルなシルエットを披露したが、その実、様々なテクニックで単純になりがちなミニマリズムにしっかりとアクセントを付けているところに巧妙さを感じさせた。

 

 ローエッジのロングコートには、レザーとのコンビのサテンのパンツを合わせ、ミニマルともカジュアルとも言えない、モードなルックでショーをスタート。パッチワーク風のパンツとシャツのセットアップ、赤の円を中央に据えたワンピース、フロントにスリットを入れたバギーパンツとヘムをカットされたジャケットなど、大胆なスタイリングとグラフィカルなカラーアクセントが心地良さを生む。ドロップショルダーだが極端にウエストを絞ったジャケットや、極太のスリーブのシャツなど、シルエットの大小によってコレクション全体にアクセントを付けた。

 

 大きなリブのニットやトレンチコートなど、今季は「バナナ・リパブリック(Banana Republic)」とのコラボレーションアイテム8点もミックス。「ヘルムート ラング」以外にも、様々な方面での活躍が期待出来そうである。

カルヴェン(CARVEN)

「カルヴェン」2024春夏コレクション

 

 クリエイティブディレクターにルイーズ・トロッターが着任して初のコレクションは、ミニマルで清潔感溢れる新生「カルヴェン」を印象付けた。

 

 ルイーズ・トロッターは、1990年代にニューカッスル大学を卒業後にカルバン クライン(Calvin Klein)に入社。「ギャップ(GAP)」などを経て「ジョセフ(JOSEPH)」のアーティスティック・ディレクターとなり、2018年に「ラコステ(LACOSTE)」のクリエイティブディレクターを歴任。2018年以来コレクションを発表していなかった「カルヴェン」は、中国の「アイシクル(ICICLE/之禾集团))」に買収され、今年ルイーズ・トロッターをクリエイティブディレクターに据えて復活を遂げた。

 

 オーバーサイズのテイラードは、フォルム自体はシンプルであるものの、バランスの取れた美しいプロポーションを見せる。光を反射する光沢素材によるドレスやキャミソールなどのランジェリーを意識したセットアップ。完璧に仕立てられた艶やかなアイテムは、会場となったマルソー大通りの工事中の広間とコントラストを描き、見る者に新鮮な驚きを与えた。

 

 ブランドのアイコニックカラーであるカルヴェングリーンは、ストライプのパジャマシャツとシアーなスカートとテクニカル素材によるプリーツヘムのダブルスカートとのセットアップとして登場。ただ一点のカルヴェングリーンが、創始者マダム・カルヴェンへのオマージュを強烈に感じさせた。

 

 ギヨーム・アンリ以来、ガーリーでフェミニンなイメージを守ってきた「カルヴェン」だが、トロッターにより全く違う方向に舵を取った印象。しかし、それは時代を切り取る感性が存分に示された結果であり、新鮮味溢れるコレクションは今後に期待を寄せるに十分な内容となっていた。

クロエ(Chloé)

「クロエ」2024春夏コレクション

 

 「クロエ」は、セーヌ河岸の屋外に会場を特設してショーを開催した。ガブリエラ・ハーストによる最後のコレクション。テーマを“Consciousness”と題し、人々の意識を高めたいとする強い希望をコンセプトににじませた。

 

 これまで通り、環境に配慮した素材を大変のアイテムに用い、ハーストの得意とするレザー使いや、カットソーなどを織り交ぜ、職人による卓越した技術を駆使したアイテムで構成。レザーの花を縫い付けたワンピースや、ブーツを思わせるエンボス加工レザーのパッチワークジャケットなど、手の込んだ作品が目を引いた。

 

 今季は特にフェミニンなモチーフとしてバラやオランダカイウが登場。バラをニットジャージーで表現したタンクトップドレスや、バラを胸に飾ったブラックドレス、肩に花びらを束ねたドレスなどがランウェイを華やかなものにしていた。またレザーを収縮させて花モチーフに仕上げたトップスや、レザーのラフルを幾重にも重ねたアシメトリーのドレスは、レザーという素材の重さを感じさせない軽やかさを漂わせていた。

 

 ショーのフィナーレにはサンバ隊が登場。ガブリエラ・ハーストはランウェイ上で激しいダンスを披露し、南米人らしく最後の瞬間までオプティミスティックなムードを貫いた。

アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)

「アレキサンダー・マックイーン」2024春夏コレクション

 

 13年間のアシスタント時代を経て、クリエイティブディレクターを13年間務めたサラ・バートンによる、最後の「アレキサンダー・マックイーン」のコレクション。かつては市場として利用されていたカロー・デュ・トンプルの広い会場には、マグダレーナ・アバカノヴィッチによる染色を施した麻などを用いた巨大なインスタレーション作品4点が展示され、その合間をアバカノヴィッチ作品に影響を受けたルックが行き交った。

 

 ファーストルックは、スプリットショルダーでフロントにスリットの入ったコルセットドレス。バックサイドにはアレキサンダー・マックイーンが好んで用いたレースアップのテクニックを用い、スプリットショルダーはサラ・バートンによる「アレキサンダー・マックイーン」のファーストコレクションで発表したデザイン。フロントのスリットはアバカノヴィッチの女性の身体的特徴を表現した作品からインスパイアされている。

 

 人体のディテールやフォルムを込めているアバカノヴィッチ作品から解釈を拡大し、解剖学のモチーフを刺繍したドレスも登場。また女性性を象徴するような花びらのドレスや、アバカノヴィッチ作品のテクスチャーを表現したイレギュラーなフリンジ刺繍を施したドレスや、一見しただけでは制作過程が想像出来ない横糸をほぐしたジャケットなど、バートンの創造性とアトリエの技術力を強く印象付けるアイテムも目を引いた。

 

 アレキサンダー・マックイーン、サラ・バートン、そしてマグダレーナ・アバカノヴィッチの感性が見事に融合し、バートン最後のコレクションに相応しい唯一無二の世界観を生み出したコレクションだった。

 

 なお、新クリエイティブ・ディレクターには、「クリストフ・ルメール」、「ドリス・ヴァン・ノッテン」、「JW アンダーソン」などでキャリアを積んだアイルランド出身のショーン・マクギアーが就任したことがヘッドクォーターであるケリングより発表された。

 

 

取材・文:清水友顕/Text by Tomoaki SHIMIZU

画像:各ブランド提供

 

>>>後編:ファッションマーケットを切り拓くクリエーターたち

 

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