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2023.10.06

【2024春夏パリ ハイライト1】ファッションマーケットを切り拓くクリエーターたち

写真左から「ドリス ヴァン ノッテン」「ルイ・ヴィトン」「ロエベ」「ザ・ロウ」

 

 後編では、クリエーターブランドのコレクションを紹介する。2018年に「ドリス・ヴァン・ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」がスペインのプーチ社パートナーシップを結び、年を追う毎に減少する独立系クリエーター。そんな状況下にあって、「ザ・ロウ(THE ROW)」と「イザベル マラン(ISABEL MARANT)」は、各々の立ち位置を守りながらしっかりとビジネス展開し、ブランドを維持し続けている。一方の「ロエベ(LOEWE)」「ステラ マッカートニー(Stella McCartney)」「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は、グループ企業ならではの大規模な展開とラグジュアリーな服作りを見せ、そのコントラストもパリコレクションならではとなっている。

 

ザ・ロウ(THE ROW)

「ザ・ロウ」2024春夏コレクション

 

 オルセン姉妹による「ザ・ロウ」は、キャプシーヌ通りのショールームにてショーを開催した。シルクジャカード製のスリッパ風シューズやサウナハット風のフェルト製ハット、首から掛けたカシミア製のタオル風ショール、カシミア製のタオル風パイル地のガウン風ジャケットなど、「ザ・ロウ」が考えるウェルネスをウィットに富んだスタイリングで提案。

 

 シルクポリエステルのブルゾンはそれ自体がラグジュアリーだが、テクニカル素材のレインコートの下にはプリントシルクにビーズ刺繍を施したドレスが合わせられ、敢えて華やかなアイテムを隠すスタイリングも目を引いた。

 

 一見オーセンティックでシンプルなコートやジャケット類は、ダブルフェイスカシミアによるものだったり、シルクジャカード素材で仕立てられたり。それらのライニングには全てシルクを使用し、どこまでもさり気ないリュクスを追求。

 

 シルエットとして印象的だったのが、ドレープを描くバギーなパンツと、シルクの黒とブルーのダブルになったトップスのセットアップ。フォーチュンクッキーと名付けられたオーストリッチ製のバッグと共に、見事な造形美を描いていた。

ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)

「ドリス ヴァン ノッテン」2024春夏コレクション

 

 ラグビーウェア、プレッピージャケット、ワークウェア。男性的なスポーツや男性のユニフォーム、そして労働にまつわる服を再解釈し、全く新しいものを生み出した「ドリス ヴァン ノッテン」。メンズとレディース、マスキュリン・フェミニン、オーバーサイズとタイトシルエット、ミニマリズムと装飾、そのコントラストが美しく、ショー会場となった元々電話局だったという工事中の建築物内のむき出しの壁をバックに、各ルックはとても映えていた。

 

 キャメルのロングコートとバミューダパンツには、メンズシャツ素材のブラトップを合わせ、ドレーピングのワンピースにはプレッピー風のグログランを飾り、ドロップショルダーのジャケットにはラグビーストライプのトップスを合わせ、ラグビーストライプのポロシャツは、アシメトリーのレースアップを飾ることでドレープが生まれ、マスキュリン・フェミニンに仕上げられている。

 

 それらの男性的なアイテムに合わせられたのが、スパンコールを刺繍した市松模様のシャツや立体的なモチーフを刺繍したスカート、パールを刺繍したコートなど、装飾的でありながら、どこか抑えた色調の刺繍アイテム群。このブランドらしいエレガンスをさり気なく発揮している。今季は特にプリントの数が少なかったが、グラフィカルなモチーフのアイテムは随所に見られ、各ルックの引き立て役となっていた。

 

 シルエットの大小、色や装飾の強弱、そして組み合わせの妙。全てにおいて、「ドリス ヴァン ノッテン」らしい絶妙なバランスで貫かれたコレクションとなっていた。

イザベル マラン(ISABEL MARANT)

「イザベル マラン」2024春夏コレクション

 

 パレ・ロワイヤル内の中庭に、オープンエアの会場を設置してショーを発表した「イザベル マラン」。コレクションは、装飾的なアール・ヌーヴォー期の様式に見られる曲線からインスパイアされている。BGMはBlonde Redheadのカズ・マキノ。

 

 レーシーなミニ丈ドレスにドロップショルダーのブルゾンコートをコーディネートしたルックでスタート。ハンドレースのドレスは20世紀初頭の雰囲気を出しつつも、ミニ丈、そしてホルターネックにすることでモダンにアレンジ。ギリギリ胸を覆うスイムウェアにはバミューダパンツやワークウェアパンツを合わせ、ワイルドな仕上がりに。

 

 丸みを帯びたライダースジャケットや、スタッズを打ったスカラップエッジのレザーパンツ、ワンピースのフロントのコード刺繍などは、アール・ヌーヴォーの曲線を意識したディテール。その一方で、金糸で星座模様を描いたデニム製ワークシャツとデニムパンツやミニマルなスモーキングジャケットといった男性的なアイテムがミックスされ、そのコントラストがこのブランドらしい遊びを生んでいる。

 

 後半に登場した銀糸を織り込んだジャカード素材のドレスや、プリーツ状に織られた素材によるワンショルダーのミニブラックドレス、総スパンコール刺繍のシルバードレスなど、生粋のパリジェンヌが好みそうなきらびやかな装いで締めくくった。

ロエベ(LOEWE)

「ロエベ」2024春夏コレクション

 

 前シーズンに引き続き、ヴァンセンヌ城内の中庭にテントを特設してショーを発表したジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ」。会場内には、今年6月に発表された2024春夏のメンズコレクション同様、会場内にリンダ・ベングリスのゴールドに輝く作品を設置。今季は特にベングリスとのコラボレーションによるスターリングシルバーやアルミ製のアクセサリーがモデルたちに華を添えた。

 

 先述のメンズコレクションでは、魚眼レンズで下方から覗いた時に見える人間のプロポーションからインスパイアされていたが、今季も遠近法的なシルエットを継続している。様々なデイウェアを、縦のラインや垂直のシルエットを強調させて、これまでに見たことのない服の数々を披露。

 

 金ボタンを飾ったウルトラローゲージのニットコートは縦のラインを、半分を折り返すことで身頃を二重構造にしているボレロは垂直のラインを印象付ける。5km分の羽を繋いだというドレスやビーズフリンジのドレスは超現実的で、一見しただけでは素材が掴めず、ちょっとした混乱を引き起こす。メタルフレームに3Dプリンターで形成したラインストーンの花を飾ったトップスや、ドレーピングを強調した立体的なビュスティエのドレスなども、非現実的で不思議な後味を残す。

 

 6月のメンズコレクションでは、スワッチにピンを刺したトップスが登場したが、今回はサテンのドレスの胸元に大きなピンが刺さっており、その危うさが不安感にも似た感情を引き起こす。今季はそういった意味で、人の感情を揺さぶる服の多い、今まで以上にエモーショナルなコレクションだったと言えるのかもしれない。

ステラ マッカートニー(Stella McCartney)

「ステラ マッカートニー」2024春夏コレクション

 

 自然由来の合成素材やオーガニック素材の使用、あるいは再生可能な素材開発など、ブランドをスタートさせた時期から意識的に取り組んできたステラ・マッカートニー。今季はサックス大通りにある市場街を会場にショーを行い、ショー後は彼女が関わるベンチャー企業などの見本市を開催し、正に「ステラフェスティバル」のような様相を見せ、招待客達を大いに楽しませた。

 

 父ポールと母リンダの音楽に影響を受けて来たと語るステラは、今季のインスピレーション源に自身のルーツである音楽を据え、両親のバンドであるウィングスをイメージさせるアートワークを用い、ウィングス繋がりで翼を思わせるバルーンシルエットのアイテムを多く披露。

 

 フローラルプリントのドレスには、FREEDOMの文字を配したアンドリュー・ローガンによるアクセサリーをコーディネート。スワローテールのジャケット、カマーバンドを配したデニムなど、タキシードをカジュアルに解釈したルックはデイウェアとしてもパーティウェアとしても着用可能。街に出て楽しい時間を過ごすことを念頭に置いたアイテムで構成され、いつになくオプティミスティックな雰囲気のコレクションとなった。

 

 ショー後はブドウやキノコ由来の合成素材のブースやヴィーガンバーガーのスタンドが並ぶ中、アクセサリーを手掛けたアンドリュー・ローガンのスタンドや、中古レコード店、ポール・マッカートニーがらみのレコードやグッズを置く店なども登場。またステラのヴィンテージ作品も販売され、会計のための行列が出来た。

ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

「ルイ・ヴィトン」2024春夏コレクション

 

 様々なバックグラウンドを持つ人々の集まりであるフランスでは、古くから様々な文化を受け入れてきたことにより、しばしばフランス人の志向が折衷主義になる傾向にある。今季のニコラ・ジェスキエールによる「ルイ・ヴィトン」のコレクションも、あらゆるカルチャー・時代をミックスしている点でその例に漏れていない。

 

 会場となったのは、1900年の世界万国博覧会に合わせてシャンゼリゼ大通り沿いにオープンしたホテルだった建築物で、長く銀行として利用されていた場所。「ルイ・ヴィトン」が購入し、今後はプロジェクトの発信基地として活用していくという。ショー会場となった大広間は、オレンジ色のポリエチレンで天井までカバーされたが、これはバルセロナを拠点とするデザイン集団、ペニーク・プロダクションによるもの。

 

 フェミニンなモスリン製ティアードスカートには、スポーティなレザー製スタジアムジャンパーを合わせ、ストライプのメンズシャツ風ブルゾンには、幾重にもストライププリントを重ねたモスリン製スカートをコーディネート。サスペンダーで吊るレザーのビュスティエには80年代風のゴールドのボタンが飾られ、ボックスプリーツのスカートにはドロップショルダーの80年代風のダブルブレストジャケットが合わせられる。既視感を覚えながらも、実は全く見たことのないアイテム群。

 

 パテントレザーのように見えるコーティング素材のショーツには、バゲットビーズを全面に刺繍したジャケットを合わせ、アシメトリーのツイードのスカートには、ツイード風の刺繍を施したジャケットをコーディネートし、シュールレアリスティックな手法を見せた。ピンストライプ素材に見えるが、実はバゲットビーズによる刺繍でストライプを描いているロングドレスも美しい。圧巻だったのが、80年代風の大きなボタンを飾ったチェックモチーフのジャケット。良く見ると、レーザーカットされたテクノ素材を編み込んでモチーフを描いている。やはり、見たことのないアイテムでコレクションを締めくくっていた。

 

取材・文:清水友顕/Text by Tomoaki SHIMIZU

画像:各ブランド提供(開催順に掲載)

 

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