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2023.10.07
【2024春夏パリ ハイライト2】高度なクリエーションを披露する日本人デザイナーのコレクション
写真左から「アンリアレイジ」「イッセイ ミヤケ」「アンダーカバー」「ヨウジヤマモト」
第二回目のリポートは、依然として高度なクリエーションを披露する日本人デザイナーのコレクションについて解説したい。公式カレンダー外でコレクションを披露し、アーティストとしての側面を披露した「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」、ニットの可能性を広げ、ファッション・ビジネスの新境地を拓きつつある「シーエフシーエル(CFCL)」、毎シーズン驚愕のコレクションを発表する「アンリアレイジ(ANREALAGE)」、中毒性あるアイテムの数々を披露した「アンダーカバー(UNDERCOVER)」、変わらずイノヴェーションを追求する「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」、世界中からサポーターたちが大集合した「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」、パタンナーらしいカッティングとボリューム作りでコレクションを構成する「ウジョー(Ujoh)」。各々は異なる方向性・世界観を持ち、それぞれが魅力に溢れるコレクションを見せていた。
トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)
FASHION PRIZE OF TOKYOの支援により、パリコレクションを主催するクチュール組合に参加せず、公式カレンダー外で新作を発表した「トモ コイズミ」。ファッションスクールのエスモード校舎内のフロアを使って、プレゼンテーション形式で服を展示して見せた。
これまで、フリル状のチュールや布帛を配したドレスを発表してきたが、今季はよりアーティスティックな側面を強調すべく、ポリエステルオーガンジーのフリルにハンドペイントを施している。ドレスはドレーピングにより豊かな曲線を見せているが、糸を解くと全て四角の平面になる。
フリルを縫い付けた四角い布にハンドペイントし、立体的にアレンジしたものがドレスとして完成。これまでの制作工程とは全く違う手法によるもので、新しい局面を見せていた。
シーエフシーエル(CFCL)
クチュール組合の公式カレンダー上ではプレゼンテーション扱いだったが、モデルを使った本格的なショーを行った高橋悠介による「シーエフシーエル」。パレ・ドゥ・トーキョーの最上階のフロアには、ベルリン在住のアーティスト三家俊彦によるアルミ製の草花のオブジェを飾り、中央に大掛かりなステージを設置し、様々な角度から作品を眺められる演出でショーを進行させた。BGMは、タブラ奏者KYURIによるエレクトリック音源とのミックスによるライブミュージック。
環境に配慮した企業に与えられるBコープ認証を取得している「シーエフシーエル」だが、今季もアクセサリー以外は4分の3以上の再生素材の使用を達成している。そして特徴的な彫刻のようなシルエットは、今季はその特徴を残しながらも、柔らかさを感じさせ、より流麗なシルエットを描いて見せていた。
滝の水の流れをイメージしたCascadeのシリーズは、コントラストのある色合わせでより立体感を見せる。縫製することなく、全てをプログラミングデータで出力。枝分かれしながら広がるストライプのシリーズもシームレスで、色使いの美しさが目を引いた。アイコニックなPotteryのシリーズは、今季はミラーフィルムを手縫いし、より華やかなアレンジを見せた。
今季も新しいアイデアを散りばめ、ニットの新境地を切り拓く姿勢を見せたが、ニットというジャンルそのものに無限大の可能性を感じさせるコレクションだった。
アンリアレイジ(ANREALAGE)
再び魔術師がパリコレクションに戻って来た。前シーズンは、フォトクロミック材料を用いて紫外線で色を変化させ、拍手喝采となった森永邦彦による「アンリアレイジ」。今季は布帛ではなくPVCにフォトクロミック材料を用い、紫外線を当てて色を変化させた。しかし、単純な構成で見せないところがこのブランドらしい。
白のトップスとパンツにPVCのブラトップとカラー、そして風船のように膨らんだスカートを着用したモデルが登場。ランウェイ中央の回転台に乗ると、紫外線がモデルに当てられ、トップスとパンツにはモチーフが浮かび、ブラトップはオレンジに、カラーはイエローに、そしてスカートはブルーに変化。
空気をはらんだPVC製のブルゾンやスカート、イヤリングなどはそれぞれパープルやスカイブルーに発色し、フォルムも相まってポップな印象を与える。パーツごとに違う色に変化するドレスや、布帛とのコンビのトレンチなども登場。
スクエアのPVC製パーツをかぎ編みで繋いだトップスとスカートは、ダークブルーとスカイブルーの市松模様を描き、照明によってダークブルーはパープルに変化。ひとたび紫外線から離れると、かぎ編みの糸は黄色に変化しており、PVC製パーツはパープルとブルーになっていた。
リボン状にカットしたPVCを這わせたコートドレスは、下地がブルーに、リボンがパープルに変化し、美しいコントラストを見せる。パーツはどんどん小さくなり、細いパーツをグラフィカルに縫い合わせたワンピースが登場し、最後は「アンリアレイジ」のアイコンでもあるマイクロパッチワークのドレスで締めくくった。
アンダーカバー(UNDERCOVER)
様々なエレメントを組み合わせて、コレクションとして構築した高橋盾による「アンダーカバー」。各々が強烈なオーラを放っているが、全てを一つのコレクションとしてみなすと、まとまりさえ感じられるから不思議である。モンパルナス地区にある工事途中の広いスペースを会場にショーを行った。
テーラードでスタートしたが、多くにオーガンザを重ねて不思議な風合いに仕上げている。硬いメンズの素材にフェミニンな薄い素材を乗せ、コントラストの遊びを演出。激しい色使いのプリントのアイテムが登場したが、これはドイツの画家ネオ・ラオホとのコラボレーション作品。「アンダーカバー」らしい毒を感じさせるアイテムとなっていた。
高橋盾は、パリコレクションの前に東京で個展を開催したが、そこで展示された目のない肖像画を起毛素材で表現し、ドレスに仕立てている。毒性のあるアイテムは続くと思われたが、花を閉じ込めたサテンのドレスが登場。バックサイドには花束のようなディテールが付き、引っ掛かりのあるデザインになっている。それもこのブランドらしい。凝ったデザインで、スペシャルなアイテムだったため、これで終わりかと思われたが、そうではなかった。
生花と蝶を閉じ込めたトランスペアレントなドレスが登場。ロマンティシズムとポエジーが感じられ、会場からは歓声が上がった。フィナーレは無く、BGMは途中で切られて終了。観衆は呆気に取られたが、次の瞬間、割れんばかりの拍手が起きたのだった。
イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)
ソルボンヌ大学の校舎だった広大な複合施設「セシュール(Césure)」でショーを行った近藤悟史による「イッセイ ミヤケ」。ランウェイには、美術家の田中義久と共同制作した、少量の土を混ぜて漉きあげてひだを入れたオリジナルの和紙が天井から吊るされている。冒頭では、ICTUSが奏でる有機的な音色をバックに、コレオグラファーのネモ・フルレによって振り付けられたダンスが披露された。
コレクションタイトルは“Grasping the Formless – 見えない形が見えるまで ‐”。自然にねじれて生まれるドレープが特徴のAMBIGUOUSのシリーズでスタート。強撚糸の特性を生かしたアイテムで、筒状に縫い目なく編み上げている。ねじれたフォルムの布帛のシリーズTWININGに続き、LIGHT LEAKのシリーズへ。これは、一度写したフィルムのフタを開けて露光させ、輪郭をぼかしたものをプリントしている。モチーフを生かすために、ドレープや縫い目を最小限にし、シンプルなシルエットに仕立てたという。
ENVELOPINGのシリーズは、布帛をねじって留めることでドレープが生まれるテクニックを用いたもので、和紙とポリエステル織り上げた素材は独特の光沢感を持つ。FIXED IN TIMEは肩の大きな張りが特徴的で、これはプレス加工することで生まれたシルエット。肩パッドを入れたり、芯を入れたりすることなく生まれた形状である。
最後は一枚の布をねじった布帛のシリーズTWISTEDと、素材をふんだんに用いてゆとりのあるシルエットを生み出した布帛のシリーズSHAPED MEMBRANEで締めくくった。足元には、トレイルランニングモデルのMT10に「イッセイ ミヤケ」らしいデザイン性と配色を取り入れた「ニューバランス(New Balance)」とのコラボレーションシューズを合わせた。
ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)
西洋服飾史を再解釈し、変化を加えながら独自の世界観を築き、支持を広げて来た「ヨウジヤマモト」。パリ市庁舎のボールルームには、世界中から幅広い層の情熱的なサポーターが集合し、その熱気に圧倒された。
コレクションは、シンプリシティとコンプレクシティ、相反するものが同居する多面的なものだった。縦に一直線、ボタンを配したホワイトスリーブのジャケットのシリーズでスタート。シンプルだったシルエットは徐々に装飾性を帯び、花びらを思わせる有機的な装飾を配したドレスへ。スリットにはフェミニンなレースがあしらわれている点が新鮮だった。ゴシック的なパーツを繋いだチェーンベルトを合わせたパンツのシリーズは、シンプルなベストを合わせてリーンなシルエットにまとめている。その一方で、リボンを飾ったシャツドレスやコードでパーツを繋いだドレスは、複雑な構造を見せ、そのコントラストがコレクションにリズムを生む。
ポルカドットも目新しく感じられたが、その実、既存のコレクションで使用しているという。ただ、今回はプリントではなく手でスタンプを押しているそうで、しかも山本耀司自らがバランスを考えながら作業をしたとか。決して人任せにしない、妥協を許さない姿勢を感じさせる逸話である。
フィナーレのウォーキングは無くショーは終了。熱を帯びた拍手が会場内に響き渡ると、山本耀司が登場し、待ち構えていた観衆の勢いは増し、一気に喝采となったのだった。
ウジョー(Ujoh)
得意とするテーラリングを軸に、レイヤードとカッティングで新しい局面を見せた西崎暢による「ウジョー」。アメリカン・カテドラルを会場にショーを行った。教会ならではの静けさとひんやりした空気感の中を、有機的なディテールのアイテムをまとったモデル達が闊歩。
ピンストライプのメンズシャツにはラウンドディテールのドレスが合わせられ、直線と曲線がコントラストを描く。ジャケットのショルダーも丸みを帯び、直線的なパンツとのボリュームの違いが遊びを生む。ラウンドのパネルを重ねたようなナイロン素材のスカートは、独特の光沢感とボリューム感を出し、新しいシルエットを見せた。
ヒップ部分にラウンドのカットを入れたトップスは、ヘムが大きく膨らんでフェミニンかつエレガント。またバギーパンツを合わせたアシメトリーのロングドレスも、これまでに見られなかったフェミニニティを見せている。
光沢感のある素材とマットな素材との違いも、一つのルックの中で奥行きを生み出す。両極を同居させることで生まれる視覚的効果が新鮮で、様々なコントラストが重層的に見え隠れするコレクションとなっていた。
取材・文:清水友顕/Text by Tomoaki SHIMIZU
画像:各ブランド提供(開催順に掲載)