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2023.06.22
【2024春夏ミラノメンズ ハイライト1】全79のブランドがコレクションを発表
写真左から「ディースクエアード」「ドルチェ&ガッバーナ」「エムエスジーエム」「ヴァレンティノ」
2023年6月16~20日、「ミラノメンズ・ファッションウイーク」が開催された。事前のイタリアファッション協会の発表によると、27のショー(うち5つがデジタル)、36のプレゼンテーション等、全79のイベントを開催。今回は、「ヴァレンティノ(VALENTINO)」が幕を開け、そして今シーズンも「ゼニア(ZEGNA)」がフィジカル発表日の最終を飾った。
今回「ヴァレンティノ」は3年ぶりのメンズ単独ショーの会場にミラノを選び、ミラノ大学にて 、“ヴァレンティノ ザ ナラティブ”と題したショーを開催。繊細さの中の強さ、やさしさの中の強さ、不完全性における完全性といったパラドックスをテーラードに落とし込んだ革新的なメンズウェアを発表した。
同日には「グッチ(GUCCI)」はホースビットローファー70周年の記念エキシビション「グッチ ホースビート ソサエティ」のオープニングもあり、今回も初日から盛り沢山でスタート。「フェンディ(FENDI)」(今回フィレンツェにて発表)や「ヴェルサーチェ(Versace)」などのビッグネーム不在ながら、「ニール・バレット(Neil Barrett)」の復活や、桑田悟史による「セッチュウ(SETCHU)」や、マルゲリータ・ミッソーニによる「マッカパーニ(Maccapani)」などの新進ブランドに注目が集まった。
さて、ハイライト1では、ミラノメンズファッションウィークの初日、2日目のレポートを開催順に紹介する。
1017 アリクス 9SM(1017 ALYX 9SM)
今シーズンの「1017 アリクス 9SM」は、倉庫跡のイベント会場にてショーを開催。全体的にシンプルなリアルクローズに寄った感のあるコレクションだが、その分、素材には様々なこだわりがある。キャンバスベースのガーメントが主役となり、オーバーダイ加工による色調や、スプレーによるむら染めのようなパターンで、ワークパンツやコート、またはセットアップで登場する。またレザーにも加工が施され、ボンバーやジャケット、パンツやショーツとなって繰り広げられる。ダメージ加工を施したジャージーやニードルパンチ、インターシャによる複雑なパターンも。そんな中にレインパーカや粗めのニット、テーラードジャケットなど、少しずつ多様なテイストも差し込まれている。
先シーズンに続き、「A」ロゴがレザーインターシャジャケット、ニットウェア、ジャージセット、トラックスーツなどに、大胆ながら、同トーンで目立ちすぎることなく施されているのも印象的。
ディースクエアード(DSQUARED2)
今シーズンの「ディースクエアード」は“#D2NAUGHTY”がテーマ。前回に続き、かつての「ディースクエアード」のショーを彷彿させる手の込んだ演出で、今回はランウェイの舞台そのものが映画の撮影現場となり、イタリアの元ポルノ男優、現ポルノ映画監督のロッコ・シフレディが、パームビーチの一室にてセクシー映画を撮影中という設定。プレッピーなエッセンスと淫靡なディテールをミックスした、“NAUGHTY(=いたずらな、みだらな)”コレクションを発表した。
ストライプポロ、エンブレム付きジャケット、ニットベスト、アーガイルソックスやキャップなど、テニスやゴルフの要素も入れながらのプレッピースタイルからスタートするが、それはマイクロクロップトやパンツの腰履きで肌や下着を見せるようなコーディネート。体にぴったりのランニングやTシャツ、フリンジのように切り込みを入れたシャツやTシャツも多数登場して露出度高めだ。またレース使いのパンツや透け素材にビジューをあしらったランニングなど、ウイメンズで使われるようなチラ見せディテールも見られた。一方、実際のウイメンズのほうは、マイクロミニスカートやボディコンシャスなチューブドレス、貝殻のブラや花で部分的に隠しただけのドレスなど、チラ見せどころでは無い露出とボディラインの強調で来場客を圧倒。
そんな中には「ディースクエアード」お得意のデニムも差し込まれ、洗いをかけたブロークンデニムを主流に、2000年代の「ディースクエアード」のデニムシルエットにインスパイアされたバックのジッパーから下着が見えるデザインや、スタッズ使い、カットアウトした星をあしらったデニムなど様々に登場。もう一つのお得意・ウエスタン風プリントやウエスタンブーツも。サイケ柄やフラワーモチーフのスイムウェア、シャツやパンツはパームビーチのイメージに呼応する。
今シーズンも独自の路線で爆発的に弾けていた「ディースクエアード」。時として、コレクションの内容より来場者セレブのほうが注目されることが多い昨今、コレクション自体で圧倒的な注目を集めていたのは、まさにお見事。
エムエスジーエム(MSGM)
今シーズンの「エムエスジーエム」はマッシモ・ジョルジェッティのタンザニア旅行からのインスピレーションで、“Sogno Off Road(夢、オフロード)”がテーマ。会場となったのは旧鉄道倉庫のトンネルで、モデルたちはトーチライトを照らしながらランウェイを歩く。
サファリのイメージで、サンド、ブラウンやグリーンなどのアースカラーや空を連想させるスカイブルーに、夕日(朝日?)のようなオレンジや鮮やかなグリーンが差し色に。マッシモ・ジョルジェッティが自ら撮影したタンザニアの自然の写真のプリントや、花やカウプリントのモチーフも登場する。
シルエットは、テーラードからワーク、ストリートまで、ベーシックなリアルクローズをゆったりしたシルエットで表現。細く長めのシルエットのジャケットにショーツを合わせたり、ほつれたようなコットンのブラックスーツ、ラペルやポケットに色あせたような加工を施したジャケットなどテーラードにもひとひねり。そしてポケット付きのシャツやオーバーシャツ、ワイドなカーゴやマイクロショーツ、またはポケット付きカメラバッグ、ハイキングハット、デザートブーツなどワークや探検の要素がふんだんに盛り込まれている。
今回はお馴染みのロゴやスローガン使いやカラフルな色使いは控えめで、全体的に落ち着いたポエティックな静寂感が漂うコレクション。前回のカレッジ風の若々しい雰囲気とは対照的に、今シーズンは「エムエスジーエム」の大人の一面を表現した。
ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)
これまでは常に先を見て挑戦をし続けてきた「ドルチェ&ガッバーナ」が、ここ数シーズン、ブランドの伝統を見つめなおすスタンスを続けている。今シーズンも“Dolce&Gabbana STILE(ドルチェ&ガッバーナのスタイル)”というテーマで、ブランド自身の最も基本的なコードに立ち返って、自分たちのスタイルやイメージを再考察するコレクションを発表。
ブランドを象徴するカラーであるブラックを中心に、ホワイト、グレー、キャメル、サンドに色を絞り、プリントはポルカドットやストライプのみ。そんな中にウィメンズコレクションに登場するような花刺繍レースやマクラメレース、肌が見えるような透け素材を使用したり、巻き付けることで彫刻のようなドレープを描くことで、生地の表情に変化を持たせる。これらをタンクトップ、ハンチング、ロザリオ、テーラードスーツといったブランドのアイコン的なアイテムに活かし、アーカイブの中から選ばれ、初めて発表された年のラベルが付いた服も登場する。
極端に長い袖やマキシカーディガンやコート、コクーンシルエットのダウンなど、誇張されたシルエットも所々登場してバリエーションの幅を広げ、テーラードスーツやコートの胸元に付いた大きめのブートニエールはスタイルにアクセントをつけている。
会場の外はセレブの出待ちの人に溢れ、その中を脱出するという過酷な現実が待っていたが、それとは対照的なシンプルながら完成されたコレクションは、その余韻で優雅な気分に浸らせてくれるものだった。
ニール バレット(Neil Barrett)
久々のランウェイショーを本社ビルで行った「ニール バレット」。1990年代の自分のコレクションに立ち返り、ミニマリズムを追求した。でもそこには90年代から現代までのメンズウェアの進化も踏まえつつ、ワークのテイストを入れ、当時よりオーバーボリュームで、ボックスシルエットを取り入れたアップデートされたコレクションに仕上げた。アシッドグリーン、レモンイエロー、ペールブルーなどのニュアンスのあるトーンで展開しているのも今年らしい。
ミニマルなコレクションだからこそ素材やディテール、着心地にもこだわっている。例えばレイヤードで重ねたように見えるTシャツは、実は一枚で繋がっていたり。それを「朝、たとえ自分が寝ぼけていても、服選びに困ることなくぴしっと決まるような服」とニールは形容する。それこそが、本人が「ユニフォーム」と呼ぶ定番スタイルだが、シンプルなリアルクローズ、そして自分の得意なもので勝負しよう、という流れがトレンドになりそうな今シーズンには、ドンズバなスタイルといえる。
テーラリーング系ブランドが魅せるプレゼンテーション
ラルディーニ(LARDINI)
先シーズンより、ピッティから発表の場をミラノに移し、建築やデザインの複合施設・トリエンナーレにて新作を発表した「ラルディーニ」。ミラノで発表するようになってからは特にファクトリーブランドからの脱却を図り、ますますモダンに変革を遂げている。これまでにあったような、3つのラインを設けず、一つの世界観に統一した。
今回のテーマは“サンド、マラケシュ”。モロッコからのインスピレーションの砂漠的な空気感が漂うサンド、ベージュ、オフホワイトなどのカラーパレット。クリエイティブ・ディレクターのルイジ・ラルディーニ曰く、「モロッコのピンク色の夕焼け色からのインスピレーションから始まり、スタイルにもモロッコのテイストを取り入れた」とか。カフタン風のシャツ、バブーシュのようなローファーなどモロッコのテイストも満載。ノーラペルのジャケットやレース使いのシャツ、メッシュ的な透け感のあるニットなどこれまでにはなかったようなアイテムが登場する。パンツもかなりワイドでコンテンポラリーな雰囲気が漂う。また、お馴染みの花のブートニエールの形が変わり、クリップ付きでブラックのみに。ルイジ曰く、マネークリップとしても使えるのだそう。
ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)
ピッティに続き、ミラノショールームでも展示会を行った「ブルネロ クチネリ」。テーマは“BOHEMIAN EVOLUTION(ボヘミアン エヴォルーション)”。キューバやフレンチリヴィエラなどから連想されるイージーゴーイングなエレガンスを追求し、80年代のボリュームやスタイルと70年代のディテールを、時代を超えて行き来するような感覚でミックスした。例えば、ブルゾンをブラウジングしたり、パンツはハイウエストで股上深めのパンツに細いベルトを合わせるコーディネーションは、80年代を彷彿させる。
それを象徴するような、キューバ襟やキャンプ襟の開襟シャツをジャケットやブルゾンの上に出すコーディネートが印象的。これまでなかったペイズリー柄やドビーなど、プリントや織りによるモチーフが描かれたシャツのバリエーションが広がっている。カラーパレットはニュートラルカラーとピンク、ラズベリー、ターコイズブルー、モーヴを組み合わせた提案。またニュースとして、カポックやワトロといった、天然素材ながら独特の光沢感を与える、珍しい素材も加わった。さらに、スポーツがテーマのカプセルコレクションとして、今シーズンはテニスのラインが登場した。
ブリオーニ(BRIONI)
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Photo by Torre Breda
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Photo by Torre Breda
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Photo by Torre Breda
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Photo by Torre Breda
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Photo by Torre Breda
「ブリオーニ」2024春夏コレクション Photo by Torre Breda
今シーズンは、元は個人所有だったペントハウスの室内とテラスを使用して展示会を行った。晴天に恵まれ、程よく風が吹くテラスで、軽やかに風にひらめくコレクションピースたちは“In the perspective of lightness (軽さという視点)”という今シーズンのテーマを強調。ノルベルト・スタンフルが70年代の旅行からのインスピレーションを受けたというコレクションには、リラックスした雰囲気が漂う。
「ブリオーニ」はこれまでも軽さや心地よさを重視してきたが、今回はさらに無重力のような最高の軽さと柔らかさを表現。ブルゾン、イージーパンツ、一枚仕立てのジャケットなどレジャーウェアがメインとなり、それを上質のシルクやリネン、薄いレザーなどを用いて、職人技を駆使して仕立てている。レザーやスエードもしばしば登場するが、レザージャケットにもスーツの型紙を使っていたり、前がレザーで背中部分がシルクになっているシャツジャケットなど、機能性や快適さを追求している。襟の部分だけにさりげなくクロコを使ったスエードトレンチなど、「ブリオーニ」らしい控えめな高級感を添えたアイテムも。色はサンド、ラスト、ブルー、グリーンなど、マットでダスティなニュアンストーンがメインだ。
取材・文:田中美貴
画像:各ブランド提供
田中 美貴 大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。 |