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2023.06.24

【2024春夏ミラノメンズ ハイライト2】軽さ、柔らかさ、流動性が生む不均衡

写真左から「プラダ」「ジェイ ダブリュー アンダーソン」「ゼニア」「エトロ」

 

 

 もはやこれまでより1日早い金曜からのスタートが定着しつつあるミラノメンズ。初日から(金曜には結構頻繁に行われる)ストに巻き込まれて帰れなくなったり、コロナ後、一気にセレブの来場が増えたため、多くの会場の付近で入り待ち、出待ちの人々で混乱状態の中でつぶされそうになったりと、何かとタフな4日間となった。

 

 コレクション傾向としては、春夏という事もあり、軽さ、柔らかさ、流動性が全体のキーワードとなっている。そしてそれを前シーズンに続くシンプルなデザインの中に活かしつつ、あえてちょっとした違和感、不均衡、不自然さを入れているブランドが多い。その違和感の加え方やさじ加減がそれぞれのブランドの個性を作っている感じだ。前シーズンの流れからのテーラリングには焦点を当てつつ、それによって本来そうであるべきのフォーマルな姿を覆す様々な可能性を与えていて、人間の体に調和し、馴染むようなデザインが主流になっている。

 

 またブランドの本質への探究の流れも続いており、自分たちのルーツへの回帰や、得意としてきたスタイルに特化するブランドも多かった。そして「図像」というキーワードを複数のブランドが挙げており、ロゴやアイコンへの再考察が見られた。

 

 というわけで、傾向としては前回からの流れが続いている感が多分にあるが、そんな中、ミラノに発表の場を移すロンドン勢が増えてきたこともあり、良い意味でミラノらしくない独自の路線のブランドたちが別の方向で飛ばしている一面もあった。そんなこんなで、総合的には興味深いファッションウィークだった。

マリアーノ(Magliano)

「マリアーノ」2024春夏コレクション

 

 周りにはフェンスに白いシートが張られ、足場のように一段上がった台がランウェイになった建築現場のようなセット。これは「完成した建物でありながら建設現場でもある」ということを意味しているようで、コレクションに登場する洋服たちも、ワークウェアとしての機能性を持っていたものが、解体されてグラマーやクチュールの要素に変わる(が、それはコレクションノートには「みすぼらしい」と形容されている)。

 

 汚れたようなムラ染めのデニム、引き裂かれて体に巻き付けられたボンバージャケット、長くつなげられたネクタイなど、すごく破壊されたりデフォルメされているわけでもないのだが、どこかがおかしいアイテム達。

 

 全体的にレイヤードが多いが、かっちりしたテーラードジャケットの裾からかなり長めのシャツが、フーディからは薄手のニットが出ていたり。ぴったりしたTシャツの下に大きめのTシャツを重ね、それが下から見えていたり・・・とあえて不均衡なコーディネートをしている。

 

 もはやコロナも終わっているのに、客席の椅子の間隔がやたら広いのが気になっていたら、ショーの最後にはモデルたちが客席の間を練り歩くような演出だった。やはり普通では終わらなかった「マリアーノ」だが、今年「LVMHヤングファッションデザイナープライズ」にてカール・ラガーフェルド審査員特別賞を受賞し、大御所への道を一直線。大御所になっても異才ぶりは発揮し続けてもらいたいものだ。

エトロ(ETRO)

「エトロ」2024春夏コレクション

 

 マルコ・デ・ヴィンチェンツォによる初のメンズ春夏コレクション。昨年の今頃、ボッコーニ大学内のオープンエアの回廊でキーン・エトロによる最後のコレクションが行われたのが思い出される。今回は一転して、元鉄道倉庫の暗く細長い会場で、ランウェイの奥に大きな太陽が浮かんでいるようなセット。ちなみにこの太陽のモチーフはアルニカのバッグやニットのモチーフにも描かれた。

 

 “エトロ アレゴリーズ”というテーマは、マルコが故郷シチリアのメッシーナの古書店で偶然見つけた、図像学者チェザーレ・リパの著書「イコノロジーア(図像解釈学)」からのインスピレーションだとか。アレゴリー(図像)やイコノロジーは歴史上の表現ではなく、現在と別の時代を結びつける存在と考え、安らぎと神聖を込めたリズミカルなパターンを繰り広げる。

 

 それを象徴するように使われているのが、アウグリオ・ブオーノ、ベレッツァ、エテルニタ、ルッスーリアなどの神話に登場する寓意的なイメージ。また、エスニックテイスト溢れる幾何学的なプリントをシャツやジャケット、コートに使用しており、(あえて避けているのか、それはペイズリーではないが)これらは「エトロ」の象徴的な図像と言ってよいだろう。

 

 前半は手で持って、後半はガウンとして登場する、フリンジ付きのタペストリーのような厚手のファブリックにも「エトロ」らしいノマド感が漂う。シルエットは全体的にリラックスした、ソフトで軽い雰囲気で、今シーズンの流れに着実にマッチする。ノースリーブだったり、ラペルやポケット、袖の部分などに切り返しで色を変えるなど、ディテールでジャケットにコンテンポラリーさを加えている。

 

 シーズンを一周したところで、「エトロ」というブランドが築き上げてきたイメージは守りつつ、でもこれまでの「エトロ」とは違うマルコらしいスタイルがしっかりと構築されてきた様子だ。

プラダ(PRADA)

「プラダ」2024春夏コレクション

 

 ミラノのプラダ財団にてランウェイショーを行った「プラダ」。今回の会場の内装も前回に引き続きシンプルだが、やはり驚きの仕掛けが待っていた。ショーが始まると上からスライムが落ちてきて、透明なパーテーションが有機的に形を変えながらうごめき続ける演出が。これは“FLUID FORM”というテーマの今回のコレクションに繋がり、人間に内在するダイナミックな動きと絶え間ない変化=流動性というコンセプトを膨らませて表現しているのだとか。

 

 白いシャツが起点になって生まれたというコレクションは、その構造とディテールをベースとして、スーツ、レインコート、 スポーツウェア、レポータージャケットなど、メンズウェア全体へ広がっていく。シンプルから始まり、そこから拡張することで全く違う物になる。そして体に焦点を当てて、軽さ、流動性、快適さを与える。

 

 肩を強調しウエストラインを絞ったテーラードジャケットは軽くソフトに作られ、シャツのようにショーツやパンツにインしてコーディネート。シャツは袖をかなり長めにしてデフォルメすることで存在感のあるアイテムに。作業着のようなコートはクレリックシャツの裾を長くしたかのようだ。

 

 フローラルプリントの概念を一新し、コサージュやフリンジをシャツにあしらうことで立体的かつ流動的に。またジレやジャケットに無数にポケットを付け、本来、機能性の象徴であるものに装飾的な役割を与えた。

 

 無駄なものをそぎ落としたシンプルさの中に、部分的に加えた少しの不自然さ。「プラダ」故に、そこにはきっと社会的な観点や主張があるはずだ。それは決してアグレッシブではない淡々とした姿勢の中に、メンズウェアの自由と解放を謳う熱いメッセージなのかもしれない。

トッズ(TOD’S)

「トッズ」2024春夏コレクション

 

 お馴染みのネッキ宮にて展示会を行った「トッズ」。今シーズンは、「ジャルディーノ・イタリアーノ(イタリアの庭園)」というテーマに合わせ、伝統的なイタリア風庭園をイメージしたセット。緑の中に新作が飾られ、庭でモデルたちくつろぐような演出がなされている。

 

 コレクションでは50~60年代のイタリアの「ドルチェヴィータ」のイメージで、リラックスした雰囲気のカジュアルなテーラリングを提案する。ブラウンやエクリュの暖色系を多用した、軽量なレザーやきめ細かい質感のスエードなどの高品質な素材を使用したテーラリング、コットンのフィールドジャケットやナイロンとファブリックのボンバージャケットなどのミリタリーテイストにもタイムレスな洗練さが見られる。

 

 デザインがシンプルでクリーンな分、大き目のポケットやノッチ使いなどのディテールにこだわったり、ベルトやバッグに重要度を置いた。ベルトはバックルを排したファブリック素材の「グレカ ベルト」と「T タイムレス」バックルの付いたレザーメッシュベルトが、バッグにはウイメンズで大人気の「ディーアイ バッグ」にメンズバージョンが登場した。

 

 シューズは、ペブルが透明になった新しい「ゴンミーニ バブル」、レザーソールとギャザーを寄せたトゥデザインのモカシン、リネンとレザーを組み合わせた「タブズ スニーカー」、タッセル付きの新バージョン「トッズ リビエラ スリッポン」なども加わった。

チャールズ ジェフリー ラバーボーイ(Charles Jeffrey LOVERBOY)

「チャールズ ジェフリー ラバーボーイ」2024春夏コレクション

 

 “THESE NEW CAROLEANS(ニューカロリアンズ)”というテーマで、カロリアンスタイルを現代風に再考察。陽気でお洒落、芸術を愛したイングランド王のチャールズ2世の時代の華やかなカロリアンスタイルが、現在の国王、チャールズ3世時代にはどうなるか?という答えがここに。

 

 1660年の王政復古当時にカロル人が着ていた伝統的な衣装と、AIを駆使したハイテクスポーツウェアを組み合わせたコレクション。当時の軍服風の要素をミニスカート(もちろんメンズモデルも着用)やショーツ、チューブドレスに活かし、大きな襟やプリーツ使いなど貴族的なディテールや、鎧のようなショルダーラインや、レッグアーマーやガントレットなどの兵士的なディテールも。

 

 ロイヤルブルーに始まり、ミントグリーン、ネオンイエロー、そしてブラックも交えたカラーパレットに、ニットやレギンスの上に描かれた水着やモンスターの脚のようなイラスト、怪物との戦いを描いたドレス、フラワーモチーフや英国を象徴するタータンチェックなど、プリントもバリエーション豊か。王冠や跳ね付きの帽子、怪獣のマスクや偽物の剣などの小物類もショーを盛り上げる。そして最後は、ウェッジウッドの装飾を模した鎧やパニエドレスがフィナーレを飾った。

 

 チャールズ2世のカロリアン時代は、イギリスが大きく発展した時期。即位したばかりのチャールズ3世による新カロリアン時代の華やかな明るい未来への願いを込めたかのような、楽しいショーだった。とてもイギリス要素が強いので、ミラノでの理解度は微妙ではあるのだが。

ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)

「ジェイ ダブリュー アンダーソン」2024春夏コレクション

 

 ミラノでの発表が定着しつつある「ジェイ ダブリュー アンダーソン」。ジョナサン・アンダーソンは前回のコレクションを「白紙の状態」と形容していたが、今回は「白紙にしてから再スタートする流暢さ」なのだとか。

 

 シンプルな傾向は続くが、今回のコレクションではその中に流れや動き、そして小さな歪みを入れ込んだ。余り布のようなフラップが付いたショーツが多数登場し、構築的で張感のあるポロやパーカとコーディネートされる。またシャツの前身ごろや袖の部分に同様のフラップが付いたものも。それと呼応するようにウイメンズ(リゾートコレクション)では、アシンメトリーにパネルがついたドレスや、つまんで縛ったようなドレープを効かせたミニドレスが。Vネックのフーディは胸元に三角形を描き、ニットのVネックは開きの部分がウエスト当たりまで届くものもある。こんな小さな不自然さが各所に散りばめられる。

 

 ニットに関してはユニークな物ばかりで、袖の長さが違うドット柄のもの、毛糸の玉を繋げたようなマルチカラーのものや、フリンジのようにほどけた毛糸のディテールが付いたもの、様々な編みの技法が組み合わさったもの、そしてニットでインターシャのように組み合わさったものなど。

 

 コレクションの説明を文章にしてしまうと奇をてらった部分が多いように思えるが、実際のところはこれまでのコレクションに比べるとかなりシンプルだ。でもただのシンプルでは終わらないユニークなディテールが否が応でも入り込むところが、ジョナサンらしい魅力。

44 レーベル グループ(44 LABEL GROUP)

「44 レーベル グループ」2024春夏コレクション

 

 ショーの会場はコンベンションセンターMICO。とは言っても実際は、その屋上の駐車場に続く螺旋状の車道がランウェイで、来場客はオールスタンディングで、そのスロープの内側からモデルを見るというセット。

 

 コレクションは、世界中のあらゆるジャンルのミュージシャンの路上の生活やライフスタイル、そのワーキングワードローブを再考察したのだとか。フーディ、ボンバー、TシャツとロングTのレイヤード、カーゴパンツやワイドショーツなど、クラブやストリートの定番的アイテムを、しわ加工やダメージウォッシュ、レーザーカットによる穴、かすれたプリントなどの仕上げで味付けしている。メッシュのトップスや吠える動物?のようなプリントなどには、ロックやハードコアなテイストも。カラーパレットは黒、グレーとダスティホワイトにネオングリーンが差し色となり、デジタルプリントやむら染めが表情を加える。

 

 ミラノコレクションらしくないブランドではあるのだが、クラシコイタリア時代も終わり、テーラーブランドもモダン化を余儀なくされている昨今、この手のブランドが気を吐いてくれるのは、ミラノにとってもよい起爆剤になるのではないだろうか。

ゼニア(ZEGNA)

「ゼニア」2024春夏コレクション

 

 今シーズンもミラノメンズのフィナーレを飾った「ゼニア」。街のど真ん中に位置するサン・フェデーレ広場を192梱分のリネンの束で囲ってショー会場とした(このリネンはショーの後、生産チェーンへと戻り、リネンへと加工されるのだとか)。今回も午前中のショーから少し時間が空いていて、落ち着いて会場に向かえるのはよかったのだが、14時という日ざしが一番強い時間帯の灼熱のショーとなり、来場客は少々バテ気味。それでもリネンにフォーカスした今回のコレクションは涼しげな雰囲気を振りまいてくれた。

 

 今回は“L’OASI DI LINO(リネンのオアシス)”をテーマに、軽やかで流動的な素材であるリネンにフォーカスする。多様な人の体形にマッチするこの素材を使うことで、アイテムを好きなように組み合わせて自分らしく自由にスタイリングできるシステムを構築するのが目的だとか。「統一性というアイデアこそが、非統一性を刺激します。揃いのジャケットとトラウザーというスーツは、もはや通用しません」「構造の中に機能的な要素を隠し、テクスチャーを前面に押し出します。全体の流れるような表情のためにすべてが落ち着いた華やかさを見せますが、ディテールの緊張感、色彩の豊かさ、そして無限の組み合わせによる自由さは、少しもシンプルなものではありません」とアレッサンドロ・サルトリは言う。

 

 コレクションはそれぞれのアイテム自体の作りも流れるように軽く、かつアイテム同士のコーディネートにおいても流動的だ。ジャケットはスタンドカラーや細いラペルのデコンストラクテッド。袖をまくり上げたコーディネートや、7.5分袖のサックジャケットも再登場。または丸首のトップスやシャツジャケットをセットアップにしてスーツ感覚でコーディネート。ベストはタンクトップにもなり、ボマージャケットはシャツとしても使用。トラウザーの代わりとなるショーツやジャンプスーツも登場する。これらのすべての要素が、フォーマルであるはずのスーツスタイルを崩し、一方でカジュアルアイテムにエレガンスを与える。

 

 リネンはギャバジンやニットなど様々に姿を変えて登場するだけでなく、レザージャケットなどの裏にも施されている。またその他の素材もすべて天然素材だ。「ゼニア」は2024年までに自社リネンの完全なトレーサビリティ認定を実現すべく取り組んでいるのだとか。

 

 ショーのフィナーレには、モデル達が勢揃いしてランウェイに立ち、来場客により近くでルックを見せるお馴染みの演出が。炎天下に立ち続けるモデル達には少々気の毒だったが、触って質感を確かめたり、内側の仕立てまでを見ることで、「ゼニア」の底力を目の当たりにした。

取材・文:田中美貴

画像:各ブランド提供(開催順に掲載)

 

 

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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