PICK UP
2023.06.26
【2024春夏パリメンズ ハイライト1】圧倒的な存在感を示した「ルイ・ヴィトン」を始め80ブランドがコレクションを発表
写真左から「ドリス ヴァン ノッテン」「ルイ・ヴィトン」「ヨウジヤマモト」「アミリ」
2023年6月20日から25日まで、パリ市内の各所でショーやプレゼンテーションを行うパリメンズコレクションが開催された。公式カレンダー上では80ブランドが参加。その中でも43ブランドがフィジカルなショーを行ったが、それ以外のプレゼンテーション形式の発表については、ウェブ上でムービーやルック画像を発表しながらショールームで服を見せるケースが主流だった。ただ、日本の「キディル」や「オーラリー」、「ベッドフォード」のように、公にはプレゼンテーションとしているブランドが、ミニショー形式でコレクションを発表したケースも多数見られた。
パリコレクション会期中に付き物と化しているストライキ・デモ行進は、幸いにも開催されずに済んだ。しかし、自由に音楽を奏でて良いとされる「音楽の日」、そしてLGBTQによる「ゲイプライド行進」が重なった。混乱が危惧されたが、結果的には大事に至らず。ただ、会期最終日にはトライアスロン大会が開催され、街中の道路が封鎖される事態となり、バスも車も使えない状態に追い込まれた。しかも最高気温が33度。とはいえ、地下鉄は利用出来たため、ストライキ時と比べたら不幸中の幸いという程度であった。
パリコレクション自体に目を向けると、今季、何よりも話題だったのが、新任アーティスティック・ディレクター、ファレル・ウィリアムスによる「ルイ・ヴィトン」。「ルイ・ヴィトン」本社前にあるパリ最古の橋、ポン・ヌフをランウェイにするという大胆な演出でファーストコレクションを発表したのだが、当日は数時間前からセーヌ川沿いの道路を完全に閉鎖し、周辺地域は大渋滞。国や行政を巻き込むことの出来る「ルイ・ヴィトン」の威力を、今回ファッション業界関係者、パリジャン・パリジェンヌのみならず、世界中が思い知ったのだった。
キディル(KIDILL)
これまで以上に感情的な側面を強調して見せた、末安弘明による「キディル」。コレクションタイトルは“HERESIE CHILDREN(異端の子供達)”。20年以上前までパリコレクションの会場として利用されていたカルーセル・ドゥ・ルーヴルに位置する、工事中の店舗内で最新コレクションをミニショー形式で発表した。
パンキッシュな手法はこれまでのコレクションで幾度となく見られたものだが、パンクは単に表面的なものではなく、生き方や精神状態を表わすものとして服に投影され、これまで以上にパーソナルな作品に仕上がっていた。
様々なアイテムが重なり合うレイヤードスタイルを描きながら、他の模倣ではないディテールの数々が服を彩る。各アイテムは大胆さと繊細さを持って仕立てられ、商業・職業デザイナーではなく、職人デザイナーであろうとする末安の姿勢が強く表れていた。
パリの主流のスタイルからは逸脱していることを自認しつつ、パリシックを凌駕する個性と力強さがコレクション全体にみなぎっており、今後次世代のファッションとして熱狂的な支持を得て一つのジャンルを切り拓いて行くに違いない、そんな期待を抱かせるコレクションとなっていた。
ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)
パリ最古の橋、ポン・ヌフを舞台に、パリコレクション史上類を見ない壮大なスペクタクルを見せたファレル・ウィリアムスによる「ルイ・ヴィトン」。
「ルイ・ヴィトン」の記号の一つであるダミエは、ピクセル化されたカモフラージュに解釈され、「DAMOFLAGE(ダモフラージュ)」と命名。ブルゾンやシャツなど様々なアイテムを彩っている。生命の源としての太陽は、グラフィックの光線や金色や黄色のカラーパレットのイメージソースとしてコレクションに反映し、装飾的な側面を担った。各アイテムに刺繍やプリントで見られた「Marque L. Vuitton Déposée」の文字は、19世紀から第二次世界大戦後まで使用されていた登録商標を意味し、今回アーカイブからピックアップされたもの。
ダンディズムもコレクションを貫くキーワードの一つで、美しいシルエットのテーラードはショートパンツと合わせられ、コンテンポラリーに解釈された。
ショー中盤から、ラン・ランのピアノをフィーチャーしたゴスペル隊Peace Be Stillによる、ウィリアムス自身の作曲作品「JOY (Unspeakable)」が演奏され、感動的なフィナーレを迎えた。
オーラリー(AURALEE)
岩井良太による「オーラリー」は、これまで通り高品質なオリジナルファブリックをベースに、個性を与えるディテールに焦点を当て、着る者のアイデンティティを引き立てる服作りを見せた。
冒頭のシルクライニングのコートやジャケットは、裏返しに着せるスタイリングをし、各人の着用方法の自由を提案。オーガンジー、ドライコットン、サマーウールモヘア、ウールポプリン、ナイロンタフタなど、様々な素材を縦横無尽にあしらい、時に洗いを掛け、しわを強調して風合いを加えている。
後半には、赤、ターコイズ、グリーンといった強い色のアイテムが登場。ベーシックカラーとのコントラストを描きながらも絶妙に調和し、新鮮なエレガンスが生まれていた。
会場は、レストランやプールなど様々な商業施設の入る建築物、ラ・フェリシテ(La Félicité)の入り口に位置するひさしの下。通りとの仕切りは無く、服自体が街に馴染んで一体化しているかのよう。コレクションのゆったりとした精神性と解放性を感じさせる心地良いショーとなった。
アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)
北ヨーロッパ人にとってのイタリアは、19世紀からバカンス地として人気の高い国で、「ベニスに死す」など様々な文学作品も生まれている。そんな憧憬の地であるイタリアのベニスを旅したジョニー・ヨハンソンは、今季のテーマに彼の地を据え、ヨハンソンらしいウィットに富んだ味付けをしてコレクションとして具現化した。
旅先で何も考えずに買ってしまった服を組み合わせたかのようなルック、旅先で汚してしまい、洗濯をしていないかのような黒ずんだスウェット、中世の絵画からインスパイアされたかのような綿入りトップスなど、何の脈略も無いのだが、不釣り合いの中に調和が生まれているのだから不思議だ。
スウェーデンのアーティスト、ペール・B・サンドバーグによるプリントは、動物モチーフなど、様々なものが入り混じったカオスな様相。ヨハンソンが蚤の市でサンドバーグの作品に近い物を見つけ、今回のコラボレーションを思い付いたとか。アクセサリーのチャームもサンドバーグとのコラボレーションで、土産物屋で売っていそうなものをイメージしている。
クレージュ(Courrèges)
ニコラ・ディ・フェリーチェによる「クレージュ」は、北マレ地区のギャラリースペースでプレゼンテーションを行った。
1970年のミケランジェロ・アントニオーニ監督作「砂丘」がイメージソース。アーシーなカラーパレットで統一しながら、スポーティかつフューチャリスティックに仕上げている。
映画の中で描かれる自由と束縛のイメージをレザーのベルトに投影し、Tシャツの袖などにデコレーションされた。バイカーアイテムも多く見られ、レザーのパンツのジップにはフリンジが飾られ、1970年代初頭を想起させるベルボトムのシルエットが取り入れられている。
ルックブックには含まれていないが、今季はトラックスーツもクリエイト。これは、ディ・フェリーチェが普段からトラックスーツを作業着として着用していることからスタートしたもの。acマークを両身頃に分割して配し、クレージュのコードで解釈されたスウェットが完成した。
オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE)
「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」2024春夏コレクション
3人のモデルがカーペットのような巻物を運び入れ、パリ装飾芸術美術館の吹き抜けの大ホールのランウェイに敷き詰めると、「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」のデザインチームが登場。ハサミを取り出すと、カーペットのようなものをカット。すると、中からプリーツ加工を施されたトップスが現れた。カーペットのようなものは、プリーツ加工を施す時に布地を保護するための紙だったことがわかる。上半身裸のモデル達が登場し、トップスを着せてショーがスタートした。
コレクションタイトルは“Everyday, One of a Kind, Now and Hereafter”。これまではダンサーを起用した動きのあるスペクタクルを見せて来たが、今季は服そのもの、服の製造工程にスポットを当てる演出で新鮮に映った。
冒頭のプリーツのシリーズは、長方形をベースにしたものや水平方向にプリーツを掛けたものなど、いくつかのシリーズをミックス。長いシルエットの、ドレスのようなアイテムが目を引いた。
飛行機や鳥類の翼から着想を得た「WING COAT」のシリーズはプリーツ加工を施さず、袖口から背中まで風が入ると膨らむ構造。山、風、大地などの自然界にある景色や、三角や丸などのシンプルな図形を配した「PICTURESQUE」のシリーズもロングシルエットで、まるでドレスのようなシルエット。幅の広いプリーツを施した「EDGE COAT LIGHT」のシリーズも新鮮な美しさを見せた。
アミリ(AMIRI)
ロサンゼルスを拠点に活動するマイク・アミリによる「アミリ」は、隔年でパリコレクションに参加してきたが、今年の1月からコンスタントにパリでショーを発表。今季はパリ植物園を舞台に、ランウェイ中央にインフルエンサーやセレブリティを着席させるバーを設置し、大掛かりな演出でコレクションを見せた。
刺繍で全面を埋めたシャツやラメを散らしたツイードのジャケットなど、ラグジュアリーな素材使いのアイテムには、会場である植物園を意識したのか、コサージュを飾ってフェミニンな仕上がりを見せる。
50年代風のジャカード織のニットポロや、70年代を想起させるジャカード織のカーディガンなど、適度なヴィンテージ感をにじませながら、ソフトでスイートな印象の新しい男性像を描いていた。
ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)
装飾性の高いディテールとユーモアを随所に散りばめて、新しい局面を見せた山本耀司。サン・マルタン通りのショールームにてショーを行ったが、世界中からサポーター達が集合し、会場は熱気に包まれた。
ジャケットのカラーにはいくつもボタンが縫い付けられ、トンボのブローチが飾られる。プリントのコートのショルダーにはベルトが這い、一つ目のモンスターのプリントのアシメトリーベストがコーディネイトされる。
ローエッジのパーツをカラーに縫い付けたジャケットは、未完成の中に新しい美をにじませ、山本耀司本人の驚いた顔をプリントしたシャツや、犬と山本耀司のイラストをプリントしたシャツ、“過呼吸”とプリントされたTシャツなど、ユーモアも散りばめられている。その他にも、エンジェルや中世の絵画など、バリエーション豊かなプリントがコレクションを彩り、黒のアイテムを表情豊かなものにしていた。
中盤に登場した裏地が飛び出したかのようなリボン状の装飾は、これまでに見られなかったスタイルで新鮮。ペイントされた安全ピンは、ルック全体に色味を加えて強いアクセントとなり、チェーンのアクセサリーはゴシック的な装いに強さを与える。様々な要素が混然一体となり、絶妙な調和とエレガンスを感じさせるコレクションとなっていた。
ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)
“崩されたエレガンス”をキーワードに、メンズウェアの新しい可能性を提案した「ドリス ヴァン ノッテン」。17区の工事中の建築物内のホール部分を使ってフィジカルなショーを開催した。
既存の男らしさを現代的なマスキュリニティに解釈し直し、力強さと優しさのコントラストを随所に散りばめている。トレンチのようなパネルを重ねたパンツには、シアーなシャツをコーディネイトし、襟を剥ぎ取られたかのようなヘリンボーンのコートにはバギーパンツを合わせ、対照的な質感が不思議な調和を生み出している。ドロップショルダーのロングジャケットは、ウエストがシェイプされ、一つのアイテムの中でもコントラストが感じられた。
春夏のトレンドでもあるショーツやショートパンツは、このコレクションでもキーアイテムとなっていた。ドロップショルダーの洗いを掛けた丈の長いコニャックカラーのジャケットには、スパンコールを刺繍したショートパンツを合わせ、グリッター同士の中でも素材感のコントラストを出している。
今季は特にプリントが少なかったが、少ないなりに存在感を発揮。60年代やアール・デコを想起させるグラフィカルなモチーフは、シャツやパンツにあしらわれたが、モチーフのアウトラインをビーズで刺繍したり、フリンジでなぞったり。控えめながらも効果的な装飾がただただ美しい。どの面を切り取っても、やはりヴァン・ノッテンらしいエレガンスが貫かれているコレクションとなっていた。
アミ パリス(AMI PARIS)
カジュアルなスタイルをモードに落とし込み、パリジャン・パリジェンヌから絶大な支持を得て来たアレクサンドル・マテュッシによる「アミ パリス」。これまで通り、オーソドックスなスタイルのアイテムが多く並ぶも、ルックによってはエッジーで強さを感じさせ、新たな側面を垣間見せた。
ファーストルックは、黒のワントーンコーディネイトの仏俳優ヴァンサン・カッセル。パリ市営テニスコートの広大な会場を、ロングコートをなびかせながら、風を切るようにウォーキングした。
長いシルエットのテイラードには、今季のトレンドでもあるショートパンツやショーツが合わせられ、一方で床に届くほど長いバギーパンツも多く見られ、コントラストを描いている。
コレクション全体を通してアーシーなカラーパレットで統一しながらも、シルバーやゴールド、ラメによるグリッターの要素を加えてドレッシーな印象。メンズもレディースも「アミ パリス」らしいパリ・シックなアイテムばかりだが、今季は特にマスキュリンとフェミニンの境目を行き来するという柔軟な姿勢が打ち出され、強く印象に残ったのだった。
ポール・スミス(Paul Smith)
ジグザグのステッチを入れたワーキングシャツとパンツのセットアップや、丈の長いスタジアムジャンパーといったスポーティなアイテムを交えながらも、「ポール・スミス」らしいテーラードを打ち出した今季。しかし、かなり崩してリラックス感溢れるスタイリングで、ロングシルエット、ボクサーショーツ、アースカラーなど、今季のトレンドもしっかりと織り交ぜていた。
身体にフィットさせたジャケットも冒頭に登場したが、くるみボタンを配した玉虫素材のジャケットについては、丸みを帯びたドロップショルダーで、フォーマルをカジュアルダウンさせている。
他のブランドでも多く見られるボクサーショーツは、スーツに合わせられているが、シャツと同素材で仕立てられ、まるでトラウザーを履かずに出勤してしまったかのよう。よく見ると、モデルはトラウザーを手にしながらウォーキング。
後半にはアーティなプリントのトレンチやパンツなどが登場。それぞれ玉虫のパンツやジャケットを合わせて、コントラストを出している。またスーツの写真をプリントしたシャツとネクタイの組み合わせは、不思議なトロンプルイユ感が生まれていて印象的だった。
取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供(開催順に掲載)