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2023.04.27

【2023ミラノサローネハイライト】ファッションブランドが新作やインスタレーションで競演

 伊ミラノにて、4月18~23日まで、ミラノサローネが開催された。これは元々家具の国際見本市だけだったのが、その時期に市内でも展示やイベントを行うようになって広がった、インテリアの一大イベント。現在ではミラノデザインウィークとも呼ばれ、この一週間は街中がお祭り騒ぎで盛り上がる。このところ、年々ファッション業界とのコラボレーションが増え、ファッションブランド主催のインスタレーションやホームラインの展示の中には、今やデザインウィークの目玉的存在となっているものも多い。そんな中、ミラノサローネで話題だったファッションブランドのインスタレーションや新作を紹介する。

 

 

ディオール (DIOR)

© Adrien Dirand

 

 来場客たちが連日長蛇の列をなしていた「ディオール メゾン(Dior Maison)」。昨年より行っているフィリップ・スタルクとのコラボレーションを今年も継続。前回はアイコニックな「メダリオンチェア」を再解釈した「ミス ディオール」チェアが登場したが、今回はムッシュ ディオールへのオマージュの「ムッシュ ディオール」アームチェアが主役に。

 

 「ミス ディオール スイート チェアとムッシュ ディオール アームチェアの 2 つのアイテムを通じて、重力と軽さ、陰と陽という、必要不可欠で実存的な概念を通じてパーフェクトに調和」し、これは「ミス ディオールとムッシュ ディオール、カトリーヌとクリスチャン・ディオール、妹と兄、チェアとアームチェア。これはまさに、補完し合う壮大なデュアリティ(二重性)の物語」だとスタルクは語る。

 

 チッテリオ宮にて行われたインスタレーションは、椅子たちが上がり下がりする中、その背景には連続的な美しい映像と、「サウンドウォーク コレクティブ(ステファン・クラスニアンスキーとシモーネ・メルリ)」の音楽による、幻想的な没入型体験を楽しめる仕組み。そしてインスタレーションの向こうには、ポリッシュドまたはラッカー仕上げのアルミニウム、エクリュのブークレファブリック、ピンク、ブラック、蛍光オレンジの「トワル ドゥ ジュイ」といった様々な素材やカラーで展開する新作が展示されていた。

 

 この新作「ディオール BY スタルク」コレクションは、ディオールブティックにてプレオーダーの受注を開始し、一部では 2024 年夏以降の店頭展開を予定している。

 

 

エルメス(HERMÈS)

©Maxime Verret

 

 毎年、大人気の「エルメス」の展示。今年は“Robust(屈強)”をテーマに、展示スペースを格子状の鉄筋で囲み、コンクリートを使ったジオメトリックなセノグラフィーにて新作を発表。表面上の美しさや洗練されたものだけではなく、粗く無骨なものに宿る美しさを表現した。それは華美な装いに対するアンチテーゼとして、不要なものを取り除くことで現れる力強さと明瞭さによる引き算の美学なのだとか。素材からインスピレーションを得て、職人のノウハウによって生み出された、物づくりの本質を表すコレクションとなっている。

 

 新作のメインとなるのは、ピエール・シャルパンのデザインによって、「エルメス」にゆかりのある鞍馬とフェンスポール、レーストラック、そして馬の頭のモチーフを、インドの手刺繍によってリネン製の裏地に上質なコットンの紐で綿密に描いたラグ「コルデリ・アルソン」。

 

 そしてデンマークのデザイナー、セシリエ・マンツによる無垢材のフレームに一枚のレザーシートを組み合わせ、堅牢性とミニマリズムが融合したアームチェア「アンセル・ドゥ・エルメス」。テキスタイルにスポットライトを当て、ウールコットンのスラブキャンバス地にレザーのパイピングが効いたタイムレスな存在感が魅力のソファ「コントゥール・ドゥ・エルメス」。フィンランドのデザイナー、ハッリ・コスキネンのデザインの明かりが消えている状態でもオブジェとして美しい照明「スフル・ドゥ・エルメス」などが登場した。

 

 

ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

©︎PHILIPPE LACOMB 

 

 「ルイ・ヴィトン」は、2012 年の誕生以来、独創的で機能的な家具やオブジェを展開している「オブジェ・ノマド コレクション」にて、アトリエ・オイ、ロー・エッジス、アトリエ・ビアゲッティ、マルセル・ワンダース、ザネラート / ボルトット、スタジオ ルイ・ヴィトン、そしてカンパーナ兄弟によるデザインの11 点の新作オブジェを発表した。

 

 アトリエ・オイは、捩じって仕上げた総長145 メートルの36 本のツートーンカラーのストラップに、シャンパンカラーのメタルフープでボリュームとフォームを与えた高さ 1.2 メートルのレザーを施した「シャンデリア」や、鳥のような形のカラフルな大型の装飾モビール「ケツァール」などを発表。ローエッジスはテニスボールからのインスピレーションの「ビンダ・アームチェア」と「ビンダ・ソファ」を、アトリエ・ビアゲッティは花の形をした 15 個のガラスのバブルで構成される、独創的かつ煌びやかな透明感のある柱形状のランプ「フラワー・タワー」を、マルセル・ワンダースは3 つの磨りガラスが心地良く波打つ光輪を描く「キャペリン・ランプ」を発表した。

@LOUIS VUITTON

 

 また、会場となったセルベローニ宮の中庭では、マーク・フォルヌ による、1600 枚を超えるユニークな形状とパターンのアルマイトシートを複雑に組み合わせて作られたノマディックな建築物 「パビリオン・ノマド」が展示。またマーク・ニューソンが「ルイ・ヴィトン」のクラシカルなトランクをエレガントに再構築した「キャビネット・オブ・キュリオシティーズ by マーク・ニューソン」が初お披露目された。

 

 

アルマーニ/カーザ(ARMANI/CASA)

 「アルマーニ/カーザ」は今回、ショーの会場としても使用している本社パラッツォ・オルシーニ宮を初めて一般に公開して新作を発表。初となるアウトドアコレクションもお披露目された。無垢のチーク家具に、籐の網目のように見える装飾を施した木製の表面と、ソファやクッションの丸みを帯びたラインがコントラストを放つデザイン。屋外での使用に耐えられるように特別に設計されたジャカード生地が使われている。ソファとフットレスト付きアームチェア「テレンス」、サンラウンジャー「ティモシー」、ダイニング テーブル「トーマス」、サイドテーブル「ターナー」、「テリー」、折りたたみアームチェア「テルマ」などが、緑あふれる宮殿の中庭に展示された。

 

 宮殿の中では、インテリア用の新コレクションを展示。明るく優しい色使いで、軽い雰囲気のカーヴィなラインが特徴だ。シェーズロングとソファの「プリティ」、ソファとフットレスト付きアームチェア「シャロン」など。そしてアールデコ調の真珠貝を使った書斎机「カミッラ」や、奥の部屋には化粧台「アントワネット」などラグジュアリーなアイテムも。また、ラグやテキスタイル、アクセサリーのセレクションも豊富に揃った。

 

 

ロエベ(LOEWE)

 「ロエベ」はイジンバルディ宮の中庭にて“LOEWE Chairs”と題した展示を開催。中庭の回廊に椅子たちが展示され、真ん中にはキノコをモチーフにしたインスタレーションが設置された。

 

 アンティーク22脚とこの展示のために作られた8脚の30脚のスティックチェアたちに、さまざまな素材によるカラフルな装飾がなされた。使われている素材はレザーやラフィアなど「ロエベ」が核としている素材から、シアリングやフェルト、そしてサーマルブランケット(人工衛星に使用されている断熱性や耐熱性のある素材)の箔やクリスマス用の飾りのような意外なものまで。質素なスティックチェアが、クリエイティブかつ職人技溢れた織物装飾へと変身する。

 

 チェアはすべて販売され、サローネ期間中にすでに売約済みの商品も。また、チェアの素材や技法にインスパイアされたバッグやレザーグッズも期間限定で販売される。

 

 

 

期間中は市内店舗でのインスタレーションも開催

ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)

 「ボッテガ・ヴェネタ」はミラノの旗艦店にて、ガエタノ・ペッシェが手掛けたインスタレーション“VIENI A VEDERE(会いに来て)”を開催。ペッシェとは2023サマーファッションショーの為に作り上げたアート空間に続くコラボとなる。モンテナポレオーネ店が、洞窟をイメージした、樹脂とファブリックに覆われた狭い通路に変身。来場者はその細い道を通り、奥にあるバッグの展示コーナーにたどり着ける仕組みだ。

 

 これらのバッグはガエタノ・ペッシェが初めてデザインしたもので、山と草原をモチーフに、彼が幼少期育ったイタリアの小さな町エステにある山と、現在住んでいるアメリカの草原を反映している。ペッシェのスケッチを基に、シグネチャーであるイントレチャートを全く新しい方法で表現。ナッパレザーにペッシェが水彩画で描いた山々をイメージして、エアブラシを用いて一点一点丁寧にペイントを施した。

 

 このアーティスト・エディションのハンドメイドのバッグはナンバリングされ、数量限定で販売される。

 

 

エイポック エイブル イッセイ ミヤケ(A-POC ABLE ISSEY MIYAKE)

© ISSEY MIYAKE INC.

 

 「エイポック エイブル イッセイ ミヤケ(A-POC ABLE ISSEY MIYAKE)」はミラノの旗艦店にて、特別展示“THINKING DESIGN, MAKING DESIGN: TYPE-Ⅴ Nature Architects project”を行った。メタマテリアル(自然界に見られるもの以外の特性を持つように設計された材料)を活用した最先端の設計技術による設計図面を提供する東京大学発スタートアップ企業ネイチャーアーキテクツとのコラボで、アルゴリズムを用いて、「エイポック エイブル イッセイ ミヤケ」の「Steam Stretch」の設計プロセスを自動化・効率化し、一枚の布がもつ新たな可能性を探求する。

 

 「エイポック エイブル イッセイ ミヤケ」のシステムにメタマテリアルを組み込むことで、これまで実現できなかった、より複雑で多様なプリーツ表現が実現し、高温の蒸気をあてることで立体的なフォルムができる。今回の展示では、これを用いることで実現可能となった、最小限の縫製で作られるジャケットから、家具や照明、建築などのさまざまな分野への発展を示唆するようなプロトタイプがお披露目されていた。

 

取材・文:田中美貴

画像:各ブランド提供

 

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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