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2023.04.09

NFT×ファッションは流行るのか? 「デジタルファッションの未来を探る」

 近年、「NFT」というワードを耳にする。NFTの存在によってアートやゲームを中心に唯一無二のデジタル作品が誕生するようになり、その希少性が担保され、今後広がっていくと見込まれている。はたしてファッション業界でもNFTは広がっていくのか。今号のファッション力では、NFTで商品販売したファッションブランドを調査。また、「ヒロココシノ」「ヨシオクボ」などNFTに取り組んだブランドにインタビューした。

 

Text & Interview : Utako Amino
Interview Photo : Sakura Tsuchiya
Illustration : Hiroko Fukuchi

 

 

 

<用語解説>
 NFTって、専門用語が次々出てくる・・・と苦手意識をもつあなたへ、まずは用語のおさらい!

 

NFT
Non Fungible Token(ノンファンジブルトークン)の略で、日本では非代替性(ひだいたいせい)トークンと訳される。1点物のアートなどをデジタル上で実現でき、唯一無二のものとして改ざんされず、安全に管理できるようになった。

 

ブロックチェーン
取引履歴を記憶し、1本のチェーンのようにひと繋ぎにして複数のコンピューターへ記録する技術。この技術により、唯一無二を証明することができる。仮想通貨を運用するため、不正取引させないためにも取り入れられる。

 

トークン
直訳すると「しるし・証拠」。引換券や代用通貨のことで、たとえば現金の代わりに使う商品券や現金をチャージして使う電子マネーもトークンの一種。NFTは、鑑定書を紙でなくデータで発行したトークンということになる。

 

メタバース
「超越(meta)」と「宇宙(universe)」を組み合わせた造語で、インターネット上の仮想空間を指す。アバター(分身)同士が会話したり商品を購入したりするだけでなく、ビジネスの場としても多くのサービスが生まれている。

 

マーケットプレイス
インターネット上で売り手と買い手を結びつける取引所のこと。オンライン決済ができ、販売コスト削減になる。企業間の取引(BtoB)だけでなく、フリマアプリをはじめとした個人間の取引(CtoC)でも普及が進んでいる。

 

ビットコイン
インターネット上の取引で使われるデジタル通貨。日本円や米ドルといった法定通貨と違い、中央銀行のような管理者が存在せず、実物がない。取引情報は世界中のPCやスマホに記録を共有され、セキュリティーが担保されている。

 

JAPAN BRAND

 

 ルイ・ヴィトン、グッチ、プラダなど世界のハイブランドが参入したことでアパレル業界でも注目されるNFT 市場だが、ここでは日本でNFT に取り組んだブランドを紹介。

 

 

KoH T × MetaMart

 3DデジタルショーやXR技術を使用したショーなど、現代ファッションの新たな可能性に挑戦してきたサステイナブルファッションブランド「コーティー」は、ブロックチェーン×VR事業をおこなうSuishowが運営するNFTマーケットプレイス「MetaMart」でバーチャルスニーカー「URANUS07」を販売した。販売数は限定5足。購入者はファイルをダウンロードし、バーチャル空間で楽しむことができる。ヒール部分の自転軸が極端に傾いた、青く光る天王星をモチーフにしたデザインが特徴的だ。

 

 

Maison MIHARA YASUHIRO × KREATION

 「メゾン ミハラヤスヒロ」はファッションに特化したNFTマーケットプレイス「クリアーション」プロデュースのもと、デジタルCG化したスニーカー「MMY VirtualPeterson Low Silver」を発売した。購入者には、CGの中で登場したスニーカーを希望サイズで制作し、実物を後日配送、既に完売している。収集欲の強いコレクターが多いとされるスニーカーは、ファッションアイテムの中でもNFTとも相性が良いと言われ、スポーツメーカー等の有名ブランドをはじめ、アパレル企業も注目しているようだ。

 

 

TOMO KOIZUMI × cyberagent / startbahn

 ネット広告事業等をおこなうサイバーエージェントと、アート作品のブロックチェーン活用に取り組むスタートバーンがNFT共創プロジェクトを開始し、著名人のデジタルツインをキャスティングするサービス「デジタルツインレーベル」の公式3DCGモデルとして、モデルの冨永愛を起用。「トモ コイズミ」のドレスを身に纏ったNFT作品となってNFTマーケットプレイス「OpenSea」で販売された。トモコイズミのアイコニックなオーガンジーのフリルドレスがデジタル作品となって色鮮やかに表現されている。

 

 

 

インタビュー

 

HIROKO KOSHINO

ヒロココシノ/クリエイティブディレクター
小篠ゆまさん

HIROKO KOSHINO ANOTHER ONE ウェアラブルNFT XANAメタバース

 

 

ファッションの文化をつくる分野を担う者として、リアルとバーチャル両輪でやっていかなければいけない

 

 日本を代表するファッションデザイナー、コシノヒロコが展開するファッションブランド「ヒロココシノ」が、メタバース上で着用できるウェア「ヒロココシノ│ アナザーワン」を昨年6月に発表した。NFTマーケットプレイス「XANALIA(ザナリア)」内でショップを出店し、3Dデザインしたアイテムを販売。実店舗で販売するリアル商品と連動し、リアルでもデジタルでも商品をリリースした。購入したアイテムはメタバースプラットフォーム「XANA(ザナ)」内のアバターが着用できる。「きっかけは4年位前、デジタル上でファッションを展開していくのはどうかと知り合いに提案されて、やってみようとスタートしました。まだコロナ前でメタバースという言葉も無いような頃でしたが、試行錯誤しながらゆっくり進めていました。そうして1年半前、当時日本でのNFTマーケットプレイス第1位を獲得したザナリアで展開することを決めて、春夏コレクションの中から20型を選び限定販売しました。日本のデザイナーズブランドの出店は初めてでしたが、約40分で完売してしまい、マーケットのスピード感に驚きました」と、コシノヒロコの次女でブランドのクリエイティブディレクターを務める小篠ゆまさんは話す。アバター用のアイテムとして手の届きやすい価格で購入できるため、新しいターゲットへのプロモーションにもなったようだ。しかし、大きいリボンや羽が揺れるさまなど、表現したくても技術が追い付いておらず、改善したくても技術者が数少なく開発費用もかかるなど、課題も多い。それでも取り組む理由とは。「今年1月、世界の政財界のトップが集まって世の中の課題について意見を交わすダボス会議が行われていましたが、そこで『2030年、世界の人たちのコミュニケーションを交わす場がメタバースになる』と言い切っていました。2030年って、あとたった7年。急速に業界が伸びていくことは確かです。そうと分かればじっとしていられない。ファッションというクリエイティブな文化をつくる分野を担う者として、リアルとバーチャル、両輪でやっていかなければいけないと思っています」。取り組みは続き、昨年12月にはザナのメタバース内で初めてファッションショーを開催。ファッションブランドがショーをしたのは初めてのことで盛況を得た。「バーチャルを進める反面、人間が生み出す価値をもっともっと世の中にアピールしていかなければいけない。コンピューターを作るのもそもそもは人間なので、そこを見失ってはいけない」。今後の取り組みにも注目したい。

学生へメッセージ

 今のZ世代もその次のα世代も、生まれた時からスマホがあってバーチャルが身近だと思いますが、クリエイションを扱う人間になりたければ受け身では駄目。失敗することも大切だし、リアルの尊さも知ってほしい。バーチャルでもの作りをするとしても、人間であることを最大限に生かせるリアルな体験から感じることを忘れないでほしいです。

 

 

 

yoshiokubo

ヨシオクボ/デザイナー
久保嘉男さん

yoshiokubo 2022-23AW COLLECTION

 

 

洋服は原始的な部分に戻っていくような気がする

 

 国内外で活躍するデザイナー久保嘉男さんによるメンズブランド「ヨシオクボ」は、楽天ファッション・ウィーク東京2022年秋冬に発表したプレゼンテーションでNFTウェアを販売した。「バーチャルとリアルの空間を行き来する時代が目と鼻の先まで近づいてきている中、取り組むきっかけをもらって作品発表できたことは良かった。どうせやるなら今まで誰もやったことのないことをしたくて、デジタルの服と本当の服を両方作りました。実際の服は光沢のあるナイロン素材を使ったけど、3Dではダイヤモンドを散りばめたりフェラーリの車の塗装のコーティングだったりと、絶対に生地にならないような質感で見せた」とデザイナーの久保さん。プレゼンテーションでは「イカ上り」をテーマに8体のウェアが制作され、モデルが実物を着用。風をはらみ空気が入ったように膨らんだボリュームシルエットのアウターやドレスなど、迫力ある作品が並んだ。同時にデジタルファッションファクトリー「クロスクチュール」の協力によって会場にスタイル画が展示されていて、スタイル画に埋め込まれたNFTチップをスマホにかざすとデジタルデータが現れ、そこからアイテムの購入予約ができる仕組み。「やはり流行りがあるので、無名でNFTファッションをやろうとするなら相当奇抜なことをしないと難しい。いかに面白いことを一発目にやるかが重要です。この先オタクやゲーム好きな人がやるものという概念ではなくなって、もっとバーチャル世界がリアルになってきたら、メタバース内の生活はおのずと増えてどんな服を着たいかも考えるようになる。服の作り方や着心地は必要ないけど、ディテールや切り返しなどは気になってくるだろうから、そういう時に僕らみたいな仕事はいるのかなと思います。まだ開拓されていないけど、バーチャルリアリティーの世界でビジネスを探すならファッションは結構可能性がある」。しかしそうした取り組みに挑戦する一方で、コレクションを続けてきて感じたこともあると言う。「服飾学生でさえパリコレよりも日常のインスタグラムを見ているし、ショーの価値観、ファッションの追いかけ方もジェネレーションギャップが出ていると感じます。パリコレも客観的に見てみると、この先もっと原始的な部分に戻っていくような気がしていて。もう一度服と向き合って、捨てられない、長く着てもらえる凝った服を作ることがサステイナブルにもつながるから、今はそういう服作りをしたい」。今後ますますデジタル化が進むほど、服本来の価値観も見直すべきなのかもしれない。

学生へメッセージ

 オフィスにはインターンを含めて若いスタッフも多いですが、僕も48歳になったし、これまでと違う切り口で新しい才能を育てていかないといけないと思っています。そうして本気の人を集めたい。次シーズンのコレクションはオフィスに設けた僕の実験室のような場所で商品を丁寧に説明して見せます。本気で服作りしたい人にぜひ見てほしい。

■「ファッション力 (Fashion Ryoku)」

杉野学園出版部が発行しているフリーマガジン。2008 年 6 月より、毎回パリ プレタポルテ、オートクチュール終了時を目安に年 4 回発行。
デザイナーインタビュー、コレクション報告、スナップ、座談会などを掲載している。

 

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