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2023.03.05
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.87】パワードレッシングが復活、センシュアルに重厚感 2023-24年秋冬ニューヨーク&ロンドンコレクション
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写真左から「トムブラウン」「マイケル・コース コレクション」「コーチ」「バーバリー」
2023-24年秋冬のニューヨーク、ロンドン両コレクションでは、コロナ禍の前に勢いづいていた「人前」で視線を浴びることを意識したパワードレッシングが戻ってきた。「ロングブラックドレス」をはじめ、オフショルダーや袖コンシャスのデコラティブなドレスが復活。レザーがキーマテリアルに選ばれて、先シーズンからのトレンドである「センシュアル」に重厚感が加わった。スーツに華やぎを持ち込んだのも目立った変化点だ。クラシックなアイテムを現代的にリファインして、タイムレスな装いに仕上げている。
■NYコレクション
◆コーチ(COACH)
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ヘリテージ感を濃くしてレザーのレイヤードを押し出した。シアリング加工をキーディテールに位置付けて、職人技の奥深さを引き出している。トレンチコートやライダースジャケットなど、多彩なレザーアイテムをそろえた。一方シアーなシルクシフォン生地で仕立てたスリップドレスや、タイトフィットのニットウエアも披露。ヘビーレザーとのコントラストを利かせた。Z世代へのアプローチが続き、デニム・セットアップやローウエストスカートを盛り込んでいる。デニムジャケットはクロップド丈でウエストをチラ見せ。スーパーマンやミッキーマウスのグラフィックもあしらった。レザー端切れやパッチワークなどでサステナビリティーとハンドクラフトを融け合わせた。
◆トム ブラウン(THOM BROWNE)
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ペイズリージャガードやツイードで仕立てた構築的なテーラリングが打ち出された。ボリュームコントラストがくっきり。パワーショルダーやボリュームスリーブが立体感を強めている。コルセットで絞ったアワーグラス風シルエットでめりはりを出した。その一方でアシンメトリーなスーパーロングスリーブ、ボディースーツ風ウエアも披露。フォルムに変化を加えている。きらめく星モチーフやシアー素材が宇宙や惑星のファンタジーなムードを演出。スパンコールもあしらわれた。スーツをシグネチャーアイテムに位置付けるブランドならではの精緻なクラフトマンシップと正確なテーラリングがウイットフルなフォルムを裏打ちしていた。
◆マイケル・コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)
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◆マイケル・コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)
1970年代の女性ムーブメントを象徴するフェミニスト・活動家のグロリア・スタイネムをはじめとする当時のパワーアイコン的な女性をイメージソースに、凜々しくプラウドなルックを送り出した。パワーショルダーのダブルブレスト・スーツやグラマラスシルエットのドレスを提案。ベルボトムのパンツやロングフリンジにも70年代感が漂う。スパンコール系のきらめきディテールでゴージャスさを添えている。スリットで素肌見せを仕掛け、アニマル・リザード柄でワイルドさも持ち込んだ。ニューヨークらしさとボヘミアン風味をねじり合わせて、「ボーホーグラム」な装いでアーバン女性の背中を押していた。
◆トリー バーチ(Tory Burch)
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伝統的なワードローブの概念を壊し、見慣れたクラシックなアイテムを再構築した。シンプルなシルエットを保ちつつ、どこか意外感のあるような新しさを出している。テーラードジャケットはワンボタンでウエストをシェイプ。パンツと合わせてジェンダーフリュイド的な着こなしに。ランジェリーのエッセンスも取り入れ、コルセットをエレガントに演出した。網タイツでセンシュアルなムードをプラス。スカートのウエストには安全ピンをアクセサリーのように添えている。バッグから垂れ下がったロゴモチーフも遊び心と不完全美を印象づけた。テーラリングとツイストでクラシックなアイテムをトランスフォーム。自由でプラウドな女性像を映し出すような装いに仕上がっている。
■ロンドンコレクション
◆バーバリー(BURBERRY)
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新たなチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就いたダニエル・リー氏が老舗ブランドに磨きを掛けた。アウトドアと英国らしさという2大持ち味を押し出して、新味を強めている。軸に据えたのはコートをはじめとするアウター。ファーストルックで襟にフェイクファーを配したトレンチコートを披露。足元にはラバーレインブーツを迎えて、雨天仕様に整えた。アウターはオーバーサイズやロング丈で、プロテクション感を出している。ブルゾンやアノラックもそろえ、ラインアップを厚くした。プリーツキルトやアーガイルセーターにも英国テイストが薫る。伝統のチェック柄を再解釈し、キーカラーをブルーに変更。イエローや赤も加えた。字体を変えて復刻した「プローサム」のエンブレムも新時代へ向かうムード。メッセージをプリントしたグラフィックTシャツはパンク感も帯びている。サドルバッグやサッチェルバッグなど、小物類が多彩なのはリー氏らしい。
◆ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)
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◆ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)
アートとウィットという強みをあらためて示した。ダンサーで振付師のマイケル・クラークとコラボレーションしつつ、ブランドの15年をセルフカバー。カンガルーポケットに左右から両手を差し込めるベアトップも復活。過去の代表作をブラッシュアップしてみせた。全体にジェンダーニュートラルなウエアが多いのもこのブランドならではだ。ミニスカート風のショートボトムスはタイトフィットのハイネックと引き合わせた。余計な飾り気を削ぎ落としたミニマルフォルムが目立つ。その一方でディテールに凝って、デフォルメや量感で表情を深くしている。パロディロゴやスマイリーも組み入れて、いたずらっぽいファニー感をまとわせた。スーツもコートも素肌にまとって自然体のボディコンシャスを際立たせていた。
◆アーデム(ERDEM)
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古風なヴィクトリア朝のドレスをモダンにリバイバルさせた。キーディテールはひじのあたりにあしらった、過剰なほどパフィーな張り出しラッフル。オペラ仕様のロンググローブと組み合わせて、貴婦人テイストを演出。腕の華奢見えもかなえている。黒をベースカラーに選んで、全体にゴシックなムード。壁紙風のジャカード柄が渋くあでやか。イエローをもう一方のキーカラーに位置付けている。ロマンティックでレディーライクなイブニングドレスが主役ウエア。タキシードジャケットや総刺繍コートで丁寧なテーラリングも見せた。ドレーピーな仕立てやスカートを膨らませるバッスルなどが英国服飾史への敬意を示す。どこかヴィヴィアン・ウエストウッド氏の面影もしのばせているようだった。
引き続き、Z世代には目配りしながらも、グラマラス感や大人っぽさが濃くなった。赤系カラーが主役に躍り出たのは久しぶりだろう。ペプラムやグリッターで起伏を上乗せしている。ミニマルシルエットをシンプルに見せない、特別感を帯びた素材や意外感のあるディテールが適度なリュクスを醸し出す。着る側が本気でおしゃれを楽しもうと意気込むマインドにこたえようとするかのよう。リアルのランウェイショーが当たり前になり、フロントロウにはセレブリティも顔をそろえた。強さとしなやかさに、センシュアルも加わり、周りの目も楽しませる装いが着る人の気持ちを盛り上げそうだ。
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宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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