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2023.03.09
【2023パリ国際ランジェリー展レポート】「世代交代」を強く印象づける
メインイベントのファッションショー
Salon International de la Lingerie et Interfilière Paris 2023 (photo Kim Weber & Gaelle Andrianstarafara)
会場中心に設置されたトレンドフォーラム「製品・素材」
Salon International de la Lingerie et Interfilière Paris 2023 (photo Kim Weber & Gaelle Andrianstarafara)
多くのコレクションやトレードショーが軒並み開催された1月のパリは、例年以上の寒さの中でいつもと変わらない活気がもどっていた。その中で、ランジェリーの「パリ国際ランジェリー展」および素材展「アンテルフィリエール展」が、1月21日から23日までの3日間、ポルトドヴェルサイユ見本市会場で開催された。イレギュラーな日程でリアル再開された昨年6月に続き、ようやく本来の時季にもどったというわけだ。それ以上に今回から主催者が変わり、「フーズネクスト」などを展開するWSNが運営を行うようになったという意味でも、大きな転換期といえるだろう。
出展者は合計420(三分の二が製品、三分の一が素材)、フランス国外からの割合が73%となっている。来場者は99か国から1万5000人以上(トップ10はヨーロッパ各国中心で、日本やアジア勢は入らず)。「フーズネクスト」など周りの展示会からの回遊性も高まり、全体の25%は新規来場者と報告されている。
■独立系デザイナーブランドが増加
今回の「パリ国際ランジェリー展」のまさに中心ともいえる存在感を見せていたのが、クリエイティブな独立系デザイナーブランドを集めた「EXPOSED(エックスポーズド)」。その中に入りきれなかった周辺ゾーンも含め、今回急増した日本からの新規出展ブランドもここに集中している。
全般にコロナ禍をはさむこの5年前後で起業したブランドが多く、テイストは様々だが、次世代ランジェリーの傾向が見られる。つまり「個」の追求、従来のカテゴリーの境の超越、さらにいうと透け感のある軽い素材や、どこか80年代風といった商品傾向にも反映されているといっていい。
その人気ぶりは、まさに今の世界のランジェリー業界を象徴するもので、伝統的な大手ナショナルブランドメーカーとの二極化の様相を見せている。
日本からの初出展ブランド「Puntoe(プントウ)」
出展希望が集中した「EXPOSED」エリア
Salon International de la Lingerie et Interfilière Paris 2023 (photo Kim Weber & Gaelle Andrianstarafara)
■ランジェリーにとってのジェンダーフリー
男女それぞれの体型をベースにしたランジェリーといえども、ジェンダーフリー、ジェンダーニュートラルと無縁ではない。
ユニセックスで着られる男女兼用は今に始まったことではないが、今回目についたのは、レディスとメンズで同じ素材、ことに同じレースを使用したもの。アイテムでいうと、透け感のあるフェミニンなレースを使ったメンズのボトム(ブリーフやトランクス)がすっかり表舞台に登場した感がある。美しいものへの好みや価値観に男女差はないというわけだ。ブラジャーの脇寄せ効果をメンズボトムのフロント部分に採用したという機能面の応用もある。
その他、ナイトウエア・ラウンジウエアの代表的アイテムであるパジャマが、再びブーム的な様相を見せているのだが、パジャマこそその歴史からいってもジェンダーフリーを象徴するアイテムといえる。
メンズも透ける刺しゅうレースがポピュラーに「Louisa Bracq」
Salon International de la Lingerie et Interfilière Paris 2023 (photo Kim Weber & Gaelle Andrianstarafara)
男女で同じチュールプリント生地を「Scandale eco-lingerie」
■リサイクル素材などエコ対策はマスト
地球環境を考えた「エコフレンドリー」で「サステイナブル(持続可能)」な取り組みはますます進み、ランジェリーにおいてもリサイクルレースなどリサイクル素材が増え、植物由来のバイオ素材への注目も高まっている。
リサイクル素材というのは、工場で廃棄される糸を再利用したものと、古着回収から再生した繊維を使用したものの両方あるが、ポリエステルからコットン、カシミヤ、シルクまで実に幅広い素材でシェアを高めつつある。オーガニックコットンはもとより、コットンやシルクなどの天然素材に対する見直し機運もある。
環境意識はさらに染料や染色にもおよび、今回はナチュラルダイを特徴にしたブランドがいくつか登場した。地球にも肌にもやさしい素材がランジェリーの基本となっている。
リサイクルレースの使用が定着「Simone Perele」
■新しいシェイプウエアへの期待
薄く軽く、ワイヤーの入らないソフトでナチュラルなブラジャーが若い世代に支持される一方、体型の変化が気になる世代にとっては、体型補整機能のあるファンデーションに対するニーズが高いことも見落とすわけにはいかない。
ヨーロッパのシェイプウエア市場をリードしてきたワコールヨーロッパでは、新しいシェイプウエアを「ワコール」ブランドから発売した。従来の縫製設計によるハイコントロールとは異なり、今回の新製品は接着技術を使ったボンディング素材によるミディアムコントロールで、快適性や肌ざわりが重視されている。ガードルだけではなく、ブラジャーもトータルでそろう。
「Wacoal(ワコールヨーロッパ)」の新しいシェイプウエア
■改めて注目される“ウェルネス”
恒常的になりつつあるコロナ生活の影響もあり、生活習慣を見直し、心身共に健康でありたいという人々の欲求がさらに増している。百貨店などの小売市場でも、“ウェルネス”や“睡眠”をテーマにした売場づくりが見られた。
ナイトウエアやニットインナーのプレミアムブランド「HANRO(ハンロ)」は、スポーティなラウンジウエアの延長としてヨガパンツを提案。また、伝統的なランジェリーメーカーも、ファンデーションのノウハウを活かしたコンプレッション(着圧)タイプのレギンスを加え、若いデザイナーによる次世代ブランドは、多様なシーンで着用できるボディウエアを持ち味にしている。
ライフスタイル提案を進めるスポーツウエアブランドとクロスする部分として、またはコスメや食などの異業種との協業も含めて、今後も可能性が期待される分野だ。
セルフケアに欠かせないソフトスポーツに対応した新シリーズ「HANRO」
マルチファンクショナルなボディウエア「Studio Miyagi」
サステイナブル、ボディポジティブ、ダイバーシティ… ここ数年いわれてきたキーワードはすっかり定着(日本でいうところの、SDGs、フェムテック)。声高に表明しなくても、もう当たり前という位に浸透し、もはや主流になりつつある。
時代は大きく変わった。それに適応していくマインドセットが重要であることはいうまでもない。
若い世代に人気なのは透ける軽い素材でできたソフトなブラジャー
Salon International de la Lingerie et Interfilière Paris 2023 (photo Kim Weber & Gaelle Andrianstarafara)
武田尚子(たけだなおこ)
ジャーナリスト・コーディネイター
ボディファッション業界専門誌記者を経て、1988年にフリーランスとして独立。
ファッション・ライフスタイルトータルかつ文化的な視点から、インナーウエアの国 内外の動向を見続けている。
執筆をはじめ、セミナー講師やアドバイザー業務も。
特に世界のインナーウエアトレンドの発信拠点「パリ国際ランジェリー展」の取材を 1987年から始め、年2回の定期的な海外取材は35年以上に及ぶ(2020年のコロナ禍で 一時中断したが、2022年から復活)。
著書:『鴨居羊子とその時代・下着を変えた女』(平凡社)、『もう一つの衣服、ホームウエア ― 家で着るアパレル史』(みすず書房)