PICK UP

2023.03.11

【2023秋冬パリ ハイライト1】 106のブランドがパリコレに参加 デザイナーの着任劇やブランド復活なども

写真左から「ディオール」「ジバンシィ」「ドリスバンノッテン」「ロエベ」

 

 

 2023年2月27日から3月7日まで、2023秋冬レディースコレクションが開催された。

 

 フランスではマスクの着用義務は早くから解除されていたが、2月に入り、コロナによる自主隔離の規制など全てが撤廃され、コロナ禍以前と変わらない環境・条件が整った中でのパリコレクション開催となった。ただ、年金受給開始年齢の引き上げに端を発したデモ行進とストライキについては最終日と重なる不運には見舞われた。しかし、多くの公共交通機関は間引きされながらも運行しており、大きな混乱は見られず。概ね平穏な中で進行したのは不幸中の幸いだったかもしれない。

 

 今季は106のブランドが参加し、前シーズンと同数だった。公式カレンダー上でショーを行ったブランドは67で、前シーズンの62からは増えたものの、依然としてデジタル配信をメインとするブランドは一定数あり、その場合は自社のショールームや会場を借りてプレゼンテーション形式で服を見せるケースがほとんどだった。

 

 新しいデザイナーの着任劇や古いブランドのパリコレクション復活などのトピックについては、今季はボリューム増加傾向にあった。「ピエール カルダン(Pierre Cardin)」がフォブール・サントノーレ通りのブティック内でスタジオチームによる最新コレクションのショーを開催し、また公式カレンダー上ではなかったが、「マルティーヌ シットボン(Martine Sitbon)」が「レヴ バイ マルティーヌ シットボン(Rev by Martine Sitbon)」として久々に新作をプレゼンテーション形式で発表。パリコレクションのシーズンに両者が返り咲いて話題を集めた。

 

 「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」と「ヴィヴィアン・ウェストウッド(Vivienne Westwood)」は、相次いで他界したブランド創始者をショーの中でそれぞれ異なる形で追悼。26歳のハリス・リードが「ニナ リッチ(NINA RICCI)」のアーティスティック・ディレクターに着任。「アン ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)」は、これまでにメンズウィークに参加してきたフランス人デザイナーのルドヴィック・ドゥ・サン・セルナンをアーティスティック・ディレクターに起用。そんな大きな動きが随所に認められたが、デザイナーの逝去にまつわるショーもあり、やや寂しい空気感が漂ったことも否めず。

 

 今後、更にトピックが増え、業界が活性化されて、コロナ禍以前の雰囲気にどれほどの期間で戻せるのか。未だ先は見通せないが、わずかばかりでも光が見えてきたことを喜びたい。

 

 

 

シーエフシーエル(CFCL)

「シーエフシーエル」2023秋冬コレクション

 

 昨年のミニショー形式のプレゼンテーションに続き、初のランウェイショーを行った高橋悠介による「シーエフシーエル」。装飾性と実用性を兼ね備えたウルトラモダンなルックでパレ・ド・トーキョーの会場を彩り、見る者を大いに魅了した。

 

 今季は“Knit-ware Function”と題し、主に数理的な関数(function)が定義するコンピュータープログラミングの生み出すフォルムと、巻き貝や花の種子の配列から着想を得た螺旋形や、道路のカーブの形状に応用されるクロソイド曲線など、関数が自然界における普遍的な法則を写し出し、人工物に利用されたものとを結び付け、新しいシルエットを追求。

 

 それが色濃く反映されたものが、カタツムリの殻やギリシャのイオニア式柱頭、高速道路のインターチェンジに採用されているクロソイド曲線から着想を得たシリーズのコリマソン(COLIMAÇON)。強いインパクトを与える造形的なフォルムが特徴的で、あらゆる体型にフィットするように設計されている。これまでのアイコニックなシリーズにも変化が見えた。ファーストコレクションから発表しているポタリー(POTTERY)シリーズは、今季は再生ポリエステルのベースに、グリッター加工を施したフェイクファー糸を組み合わせて煌めきの要素を加えている。ギリシャの柱をイメージした定番シリーズのフリューテッド(FLUTED)は、透明のナイロン糸で仕立てた袖を組み合わせてよりエレガントでドレッシーな印象に仕上げていた。

 

 昨年の7月に「シーエフシーエル」は持続可能性を追求する企業に与えられるB Corp(Benefit Corporation)に認証されたが、今季はウール100%の製品と一部のアクセサリーを除き、全ての製品にGRSおよびRCS認証の再生素材を使用しているのも大きな特徴となっていた。

 

 

 

マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)

「マメ クロゴウチ」2023秋冬コレクション

 

 黒河内麻衣子による「マメ クロゴウチ」は、パレ・ド・トーキョーを会場に竹籠とその周辺文化に着想を得たコレクションを発表。先シーズンも同じく竹籠がイメージソースで、しかも竹籠の作家である飯塚琅玕斎をインスピレーション源としていたが、連続して同じテーマでコレクションを発表するのはパリコレクションの中でも異例中の異例。ただ、アウトプットされるものは別物で、テーマをより深く掘り下げた印象を与えた。

 

 スポーティなパンツスーツでスタート。マニッシュなルックが続く中、直線的なニットとレザーのプリーツスカートや、細かなプリーツのセットアップなど、徐々に竹細工をイメージさせるアイテムが登場。

 

 職人が1枚ずつ手作業で折り畳み、注染の技術を利用して染め上げたという「折り紙染め」によるアルパカウールのニットは、太さの違うベルト状のニットを組み合わせて竹細工の風合いを表現。日本で1社のみが保有する編み機によるスライバーニットのボアコートやベストにも、大胆なモチーフを配してグラフィカルに仕上げている。

 

 今季特に目を引いたのが、トーションレースを複雑に組み合わせたラッセルストライプのニットドレス。竹という素材が持つしなやかさと強さが表現され、工芸品を思わせる美しい仕上がりを見せていた。

 

 

 

ディオール (Dior)

「ディオール」2023秋冬コレクション

 

 第二次世界大戦を挟んで強いパーソナリティを持ちながら時代を駆け抜けた3人の女性、クリスチャン・ディオールの妹のカトリーヌ・ディオール、歌手のエディット・ピアフ、そして同じく歌手のジュリエット・グレコにイメージを求めたマリア・グラツィア・キウリによる「ディオール」。独立心ある女性像を投影しつつ、1950年代を再解釈してモダンなコレクションに仕上げた。

 

 会場となったチュイルリー公園内の特設テント内には、パリで生まれたポルトガル人アーティスト、ジョアナ・ヴァスコンセロスの作品「ワルキューレ ミス ディオール」を設置。ニットや布などでくるまれた巨大なオブジェは強烈なインパクトを与えた。

 

 冒頭はマニッシュなアイテムで構成。黒やトゥースハウンドのアイテムは、洗いを掛けて風合いを出している。バージャケットの新しいバージョンは、よりシンプルですっきりとした印象。アーカイブに残る50年代のモチーフを再解釈したスカートには、シャツブラウスをコーディネートし、レザーの花で飾ったベルトアクセサリーを重ねる。今季は、1949年の花で覆われたドレス「ミス・ディオール」からインスパイアされたレザーで花を表現したスカートを発表。エディ・スリマンの「ディオールオム」を彷彿とさせるホワイトシャツと細いブラックタイを合わせていた。アーカイブから引用されたモチーフのタフタは、全て特別に織られたファブリックによるもので、シャツやニットをコーディネートしてモダンにスタイリング。

 

 最後の5ルックには、特別なティアラを合わせている。麦わらをミリ単位でカットして編み、竹の葉で花を表現。これは19世紀末から20世紀初頭に掛けて生まれた技術によるもので、非常に繊細な仕上がりを見せ、黒のルックを引き立てていた。

 

 

 

アンリアレイジ(ANREALAGE)

「アンリアレイジ」2023秋冬コレクション

 

 毎シーズン、新しいアイデアを編み出し、玉手箱のように我々を驚かせ続ける森永邦彦による「アンリアレイジ」。今季はマドレーヌ劇場を舞台に、正にその場にふさわしいスペクタキュラーなコレクションを見せ、会場からは盛大な拍手が巻き起こった。

 

 今季は“=(イコール)”をテーマに、人間が「見て」いながら「知覚していない」世界があると説いた19世紀のドイツの哲学者・生物学者であるヤーコプ・フォン・ユクスキュルが唱えた「環世界」の概念を表現。

 

 ラヴェルのボレロが流れる中、それぞれフロントとバックの無い、同じ白のコートドレスを着用したモデル2人が登場。それが数パターン続き、再びファーストルックのモデル2人が舞台に姿を現す。中央に立つと、紫外線を発するライトが頭上から降りてきた。すると、ウィッグの色が変わり、コートドレスにモチーフが浮かび上がった。

 

 白いコートがピンクになったりイエローになったり、ブルーのコートがピンクに変化したり、真っ白なコートにパステルカラーのモチーフが浮かび上がったり。それぞれのルックはパフスリーブを飾ったコートドレスや、ラフルをあしらったワンピースなど、ボリュームある装飾的なアイテムから、ドロップショルダーのシンプルなカッティングのコートなど、コントラストのある構成。

 

 フォトクロミック材料を用いた、光で色が変わる服の数々。その変化に会場からはいちいち大きなどよめきが起こり、それぞれのルックに拍手が送られる。それは、厳しい眼差しを向ける者の多いパリコレクションでは中々見られない光景だった。

 

 

 

アンダーカバー(UNDERCOVER)

「アンダーカバー」2023秋冬コレクション

 

 元ザ・スペシャルズのテリー・ホールとアンビエントミュージックの祖ともいわれるマニュエル・ゲッチングがそれぞれ昨年末に他界。高橋盾による「アンダーカバー」は、その二人の奏でる音楽とアートワークにインスパイアされている。今季は旧ポトツキ伯爵邸のボールルームを会場にショーを行い、藤原ヒロシによるザ・スペシャルズとマニュエル・ゲッチングのダビーなリミックスがBGMとして流れた。

 

 ザ・スペシャルズを象徴する3つボタンのスーツでスタートし、ルードボーイスタイルを見せた。白黒の市松模様のコートはザ・スペシャルズのアルバムカバーのアートワークから、茶と白の市松模様のコートはマニュエル・ゲッチングのアルバム「E2-E4」からの引用。

 

 「アンダーカバー」と藤原ヒロシのFRGMTとのコラボレーションによるコートも見られ、バックにはザ・スペシャルズの曲、「Enjoy Yourself」にちなみ、「WE ENJOY OURSELVES」とプリントされている。「人生は一瞬で終わってしまうもの。もしそうであるならば、今あるわずかな人生を精一杯生きよう」というメッセージを込めたという。

 

 最後はモデル全員がレザーのオールインワンに市松模様のケープをまとって登場。またショーとは別に、トヨタとコラボレーションしたアイゴもコレクション期間中に発表された。

 

 

 

ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)

「ドリス ヴァン ノッテン」2023秋冬コレクション

 

 招待状に挟み込まれた金箔が、今季の象徴的なカラーになっていた「ドリス ヴァン ノッテン」。会場となったポルト・ドゥ・ヴェルサイユの展示会場内のドーム型ホールのステージには大きな鏡が設置され、モデル達はすり鉢状になった客席の間を縫って最後列からステージに降りながらウォーキングするという演出で見せた。

 

 服との個人的で親密な関係性、そして服への愛情を表現した今季。美しい服とは何かを問いかけるような、「ドリス ヴァン ノッテン」らしい美意識が貫かれたコレクションとなっていた。

 

 ゴールドのブーツと丁寧に仕立てられたテイラード、金箔を押したコート、ルックの中で、アイテムの中で、それぞれコントラストが生まれている。ビニール加工したフローラルプリントのトレンチ、東洋的な金糸織りのコート、古い技法のジャカード素材の糸の上から刺繍を施したアンサンブル、腐食によってモチーフを浮き立たせたデボレのロングドレス、膨れ織りの上からアウトラインを刺繍したジャケット。それぞれ草花の有機的なモチーフは、対照をなす無機質な会場で一層華やかなものに映った。

 

 特に目を引いたものが、ランジェリーの要素を加えたバイアスカットのロングドレスと、様々な素材を組み合わせたパッチワークのジャケット。軽やかな素材と重厚な構造が相反しながらも美しく調和し、コントラストの重なり合いが新鮮さを醸していた。

 

 

 

パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)

「パコ ラバンヌ」2023秋冬コレクション

 

 ブランド創始者と親交のあったダリの作品からモチーフを引用しながら、多様な素材を組み合わせてコントラストを見せたジュリアン・ドッセーナによる「パコ ラバンヌ」。パリ現代美術館を会場にショーを開催し、アートとファッションの深い関係性を印象付けた。

 

 ブランドのアイコンであるメタルパーツを巧みにあしらいながら、強いこだわりを感じさせる繊細なディテールがアクセントとなっている。

 

 ダリ財団から許可を得て、5点の絵画作品を様々なアイテムにプリント。「目覚めの直前」や「瞑想するバラ」などをプリントしたドレスは、ただ布を縫い合わせるのではなく、細かなパーツに分けてそれぞれをメタルリングで繋ぎ合わせている。しかも知恵の輪のように複雑に重ね付けしているのが特徴。バラのモチーフは鎖帷子製のイヤリングにもプリントされた。

 

 ジュリアン・ドッセーナらしいフローラルプリントのドレスは、今季は繊細なレースとパッチワーク。シースルーの要素を加え、強い色を配すことで大胆な仕上がりとなっていた。また冒頭の毛足の長いアルパカ製ニットや起毛素材のシンプルなアンサンブル、ラメニットのセットアップなどは今季目を引いたアイテム。エッジーさを漂わせるアイテムが多い中で、優しい風合いを持つ素材をミックスしてコントラストを見せている。ショー最後には、追悼の意を込めて創始者による1969年の6体が登場。全く古びていない、そのモダニティに驚かされた。

 

 

 

バルマン(BALMAIN)

「バルマン」2023秋冬コレクション

 

 昨年の9月には、カジュアルなルックを交えて壮大なコレクションを発表したオリヴィエ・ルスタンによる「バルマン」。今季はよりクチュール的な手法を強調し、1950~80年代のグラムールを抽出したかのようなルックでコレクションを構成した。ハットはスティーブン・ジョーンズの手によるもの。BGMはフランク・シナトラの「My Way」。自分らしさ、「バルマン」らしさを推し進めた力強いアイテムの数々に、会場となった旧市場のカロー・ドゥ・トンプルに集まった「バルマン」をまとったサポーターたちは熱狂的な視線を送った。

 

 白のサテンカラーのベルベット製スモーキングでスタート。赤の差し色を加えながら、モノクロームの世界を「バルマン」らしいゴージャスなものに仕上げている。パールを刺繍したニットのオールインワンや、ニュールックを思わせるクリスタルドットのモヘアのスカートとシャツブラウスのセットアップ、様々な時代のエッセンスを漂わせながら、このブランドらしい力強さを漂わせる。デニム地やモノグラム地、ニットのアイテムでさえも、ボリュームの出し方一つで華やかなアイテムに。

 

 クリスタルで埋め尽くされた扇のようなパネルを配したミニドレスや、PVCで透明度を出したケープドレスなど、これ程までにエクストラヴァガントなアイテムは、オリヴィエ・ルスタンによる「バルマン」にしか作り得ない、と強く印象付けた。

 

 昨年7月には「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」のクチュールコレクションにゲストデザイナーとして迎えられたが、「ジャンポール・ゴルチエ」のコルセットブラを思わせるルックも登場。しかし、それがしっかりと今の「バルマン」のアイテムに昇華されていた。

 

 

 

クロエ(Chloé)

「クロエ」2023秋冬コレクション

 

 女性の社会貢献こそが気候変動の改善を生む、と説くガブリエラ・ハーストによる「クロエ」。女性がリーダーシップを取ることの出来る世界にしたい、という強いメッセージをコレクションに込めた。また、女性であるがゆえに様々な事象に巻き込まれた17世紀のカラヴァッジオ派の画家、アルテミジア・ジェンティレスキをヒロインに据えている。

 

 今季はハーストらしいムートンが多用され、これまで通り環境に配慮しながらリアルレザーをあしらい、自然染料を使用し、二酸化炭素の排出を抑えるためにフランス産にこだわった。

 

 レザーのアップリケのブルゾンとスカート、そしてウエスタンブーツは、ジェンティレスキの絵画から引用されたモチーフがアップリケされ、パッチワークのバイカージャケットとパンツのセットアップには、「クロエ」の代表的なバッグ「マーシー」のパターンとメタルパーツがあしらわれている。

 

 前シーズンのクリーンエナジーを象徴する核融合モチーフは、今季はドレスのウエスト部分のメタルモチーフとしてあしらわれ、コレクション同士に繋がりを持たせている。それもそのはず。今シーズンは気候変動改善のためのコレクションの第三弾と位置付けており、持続可能性の重要性が叫ばれる昨今、そのコンセプトは今後も続いていくのだろうと思わせた。

 

 

 

ジバンシィ(GIVENCHY)

「ジバンシィ」2023秋冬コレクション

 

 自身のスタイルであるスポーティでストリートテイスト溢れるアイテムをふんだんに交えつつ、ブランド創始者のユベール・ド・ジバンシィのクリエーションに敬意を払い、新しいクチュールスタイルの確立を目指す姿勢を示したマシュー・ウィリアムズによる「ジバンシィ」。ルイ15世によって創設された軍事学校、エコール・ミリテールの敷地内に、モダンなテントを特設してショーを開催した。

 

 オートクチュールのアトリエで制作されたという、身頃をボックスプリーツ状に重ねたオーバーサイズのコートでスタート。マスキュリンなルックはやがて丸みを帯び、シフォンのスカートやギャザーを寄せた薄いレザードレスなどが合わせられ、徐々にフェミニンな要素が加えられて行く。

 

 ムートンのコートにはカシミアのニットやウールのスカート、ツイードのような風合いを持つダメージファブリックのブーツなどが合わせられ、適度にストリートスタイルを取り入れてシックなフォルムに昇華。

 

 ニットジャカードによるグリーンのドレスは眩く、アーカイブから引用したフローラルモチーフの鎖帷子のドレスの優雅な動きに目を奪われる。同じくアーカイブからのフィッシュモチーフが踊るバイアスドレスは流麗でありながらユーモラスで、シルクフラワーで埋め尽くされたミニブラックドレスはユベール・ドゥ・ジバンシィ作品を彷彿。様々な要素を組み合わせ、解体しては再構築をする、を繰り返したかのように見え、その結果、これまでに見られなかった強固なモダニティ生まれていた。

 

 

 

イザベル マラン(ISABEL MARANT)

「イザベル マラン」2023秋冬コレクション

 

 パレ・ロワイヤルの中庭に設置された透明のテント内が暗転して音楽が鳴り響くと、ルル・ヴァン・トラップのシンガー、レベッカ・ベイビーが登場してエレクトロニカルな曲を歌い出す。周囲の観客たちはダンスし始め、会場は一気にクラブのような雰囲気となった。

 

 シンプルなレザードレスやノーマッド風ジャケットなど、ベージュのトーンで統一したマニッシュなルックでスタート。オープンになったアランニットのプルオーバーや複雑なロープ模様のニットドレスなど、凝ったアイテムが続く。マスタード、パウダーピンク、ローズピンク、バーガンディなどを差し色にしながら、黒やカーキで統一。デニムのオールインワンやレザーのバイカージャケット、ムートンのアヴィエータージャケットなど、スポーティなアイテムをバランス良く配し、スモーキングジャケットにもデニムパンツを合わせてフォーマルになり過ぎないスタイリングを見せた。

 

 最終章はナイトクラブを意識したドレスやニット。スパンコールやビーズを全面に刺繍したミニドレスやラメ素材を編んだニットドレスなど、グリッターな輝きが美しい。イザベル・マランの今季コレクションは、クラブミュージックとの親和性を強く印象付けた。

 

 

 

ロエベ(LOEWE)

「ロエベ」2023秋冬コレクション

 

 パリから東に行ったヴァンンセンヌ城の跳ね橋を渡ると、壮大な白いテントが目に入ってきた。会場内にはイタリア人アーティスト、ララ・ファヴァレットによる紙吹雪を圧縮したキューブ状のオブジェが置かれ、その間をモデルがウォーキング。ジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ」は、フェミニン・マスキュリンの融合を目指しながら、今季もシュールレアリズム的手法で摩訶不思議な世界観を創出した。

 

 肩からバッグのチェーンを掛けているかのように見えるが、実は裾と繋がっているだけのドレスや、不規則な凹凸のあるニットドレス。既存のアイテムのフォルムをねじったり、捻りを加えたり、全く新しいものに作り替えている。

 

 型で成形した羊皮とレザーのボンディングワンピースやジャケットは、身体にフィットしているのかしていないのか、その曖昧な不安定さが心地良い遊びを生む。フローラルプリントのドレスやトレンチコートをプリントしたシルクドレスが登場したが、これはジョナサン・アンダーソンが収集した1940~50年代のドレスやコートを撮影し、ぼやかした状態でプリントしたもの。無駄なものを削ぎ落としていくという今季のコンセプトに沿って、身体のフォルムに合わせてダーツを取るなどせず、全くの平面パターンが新鮮だった。

 

 バランスの逸脱の先に見えるバランス感覚。ジョナサン・アンダーソンの実験性溢れる創作は留まるところを知らず。来シーズンは一体どんなものを見せてくれるのか、期待を新たにしたコレクションだった。

 

 

取材・文:清水友顕/Text by Tomoaki SHIMIZU

画像:各ブランド提供(開催順に掲載)

>>コレクションページを見る

メールマガジン登録