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2022.11.06

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.84】ボディポジティブで自分らしく ロマンティックなセンシュアル 2023年春夏ニューヨーク&ロンドンコレクション

写真左から「コーチ」「マイケル・コースコレクション」「バーバリー」「トリー バーチ」

 

 モードサーキットの幕開けを飾るニューヨークと、続くロンドンの両コレクションに、今回は「感染症対策がほぼ解かれたリスタートシーズンの先陣を切る」という新たな意味が加わった。歴史的な節目を象徴するかのように、ロマンティック、センシュアル(官能的)といった、過去3年間は縁遠くなっていたムードが復活。英国のエリザベス2世女王への敬意と慈しみを示したロンドンでは歴史や平和、愛情など、普遍的な価値を再確認するような提案が目立ち、ファッションの意味を掘り下げるアプローチが広がった。

■NYコレクション

 

◆コーチ(COACH)

◆コーチ(COACH)

 

 春夏にレザージャケットを打ち出した。もともとレザーの丁寧ななめしに定評のあるブランドのオリジンを詰め込んだ。相棒に選んだのはミニ丈のボトムス。長め着丈のジャケット裾から見えるか見えないかのミニ丈だから、コートドレス風のコンパクトさ。ヴィンテージ感やモータースポーツ風味も漂わせている。ボクシーなシルエットやカラフルなパッチワークのレザージャケットも披露した。一方、ベビードール風ワンピースやアルファベットレタード入りトップスは若々しい印象。シーズンレスやサステナビリティーへの目配りも示している。

◆マイケル・コース コレクション(Michael Kors Collection)

◆マイケル・コース コレクション(Michael Kors Collection)

 パワースーツをよみがえらせた、ジャケットに袖を通さない肩掛けルックは90年代の勢いを示す。スカートは正面スリットが深い。バンドゥートップスにジャケットを重ねる装いも持ち込んだ。ここ数シーズンのセンシュアルを超える「パワーセクシー」の気分。持ち味のテーラリングとのマリアージュを試した。ミニマル×フェミニンの掛け算でアーバンな答を導いている。ドレスはロングフリンジが躍る。ボディーコンシャスなシルエットはディスコに誘うかのよう。ゴールドのアクセサリー類もゴージャス感を高めていた。

◆トリー バーチ(TORY BURCH)

◆トリー バーチ(TORY BURCH)

 

 しなやかな自然体ルックを用意した。ボディーに沿うスポーティーなニットトップスが気負わないシルエットを描き出している。ニットバンドゥーをコルセットのようにウエストに巻いて、コンパクトなフォルムを際立たせた。ジャージー系のソフトで薄手の生地で体を包んで、ジャケットやロングアウターをオン。シアー素材のロングスカートでセンシュアルな足元を演出。きれいな縦落ち感を生んでいる。ノースリーブやブラトップで軽やかなムードに整えた。全体にシェイプされた、クリーンできれいめの着映えに整えている。

◆プロエンザ スクーラー(Proenza Schouler)

◆プロエンザ スクーラー(Proenza Schouler)

 

 「裾広がり」のディテールをあちこちに盛り込んだ。トップスはベルスリーブの袖先がトランペットのように開いている。袖先にはティアード飾りも施した。パンツは裾が躍るベルボトム。スカートもたっぷりのフレアが弾む。全体にデザイナーの源流であるラテンのムードが漂う。トップスは三角形の「窓」を開けて、ウエストや腰脇から素肌をのぞかせた。網目が大きめのメッシュニットは見るからに涼しげ。透けるレースも素肌を透かし見せている。サイズの異なるポルカドット(水玉模様)が装いにリズムを添えていた。

◆ピーター ドゥ(PETER DO)

◆ピーター ドゥ(PETER DO)

 

 メンズとウィメンズの合同ショーで、ジェンダーミックス色を濃くした。マニッシュなスーツが主役を張る一方、メンズモデルもスカートをまとった。シャープなテーラリングがユニセックス感を引き立てた。ソフト仕立てのスーツはベーシック色がしなやかなシルエットを印象づける。背中の中央部を大きくくり抜いたようなカットアウトは大胆でアイキャッチー。シャツまで同じ形に切り取って、素肌を露出させている。スカートは床に届くロング丈。スリットや前後アシンメトリーで動感を強めた。

■ロンドンコレクション

 

◆バーバリー(BURBERRY)

◆バーバリー(BURBERRY)

 

 エリザベス女王の死去に伴い、発表タイミングを延期した。チーフ・クリエイティブ・オフィサーのリカルド・ティッシ氏にとって最後のショーもメンズ・ウィメンズの合同形式。ボディーコンシャスなコレクションを披露した。ブランドアイコンのトレンチコートはスリーブレスやウエストシェイプで鮮度を高めている。カットアウトも多用して素肌見せのセンシュアリティー演出を仕掛けた。ランジェリーパーツをあしらったウエアも投入。アンダーウエアやスイムウエアを街着に交わらせている。シースルーやフィッシュネット、マーメイドスカートなどで妖艶さも表現。海辺から着想したとあって、足元にはビーチサンダルを迎えていた。

◆JW アンダーソン(JW ANDERSON)

◆JW アンダーソン(JW ANDERSON)

 

 ロンドン市内のゲームセンターを会場に、ゲームセンターの世界をコレクションに写し込んだ。キーボードの各キーを特大化したオブジェをワンピースにあしらった。スクリーンセーバーのモチーフもプリント柄に。セカンドスキンやユニタード風のボディースーツルックも登場。ストリート感やサイバー気分を、茶目っ気たっぷりに持ち込んだ。リアルとフェイクが交じり合うメタバースライクなムード。ハンモックで仕立てたドレスや、上下さかさまのセーターなど、ウィットフルなアイテムを連打。フィナーレの黒いロング丈Tシャツにはエリザベス女王への追悼メッセージがプリントしてあった。

◆アーデム(ERDEM)

◆アーデム(ERDEM)

 

 クラシカルなドレスルックをそろえて、ロマンティックな貴婦人姿を提案した。ファーストルックは黒のベールをかぶった、花柄刺繍入りのブラックドレス。エリザベス女王への弔意を込めた。チュール仕立ての白いベールは繰り返し登場。古風なムードを漂わせた。胸下で切り替えを施したエンパイアラインや、トップス裾の張り出しペプラム、流れ落ちるようなティアードスカートなどもヒストリカルなたたずまい。腰から下を膨らませるパニエ、量感を弾ませるラッフルなどでボリュームを操った。シグネチャーのフラワーモチーフが繰り返しあしらわれ、優美な華やぎを添えていた。

 

 

 

 

 ジェンダーレスからの揺り戻しが進み、堂々とフェミニニティーをまとうルックが増えた。3年間にわたった試練の時期を経て、「自分らしさ」を軸に、「女らしさ」「身体性」を取り戻すような、しなやかで凜々しい女性像が打ち出されている。全体を貫く気分は「ジョイフル(joyful)=喜びに満ちて」だ。大胆さと華やぎを印象づけたNYとロンドンコレクションだった。

 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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