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2022.05.13

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.81】 クラシックを再構築 変化球ドレスアップの誘惑 2022-23年秋冬パリ&ミラノコレクション

 「ポスト・コロナ」を見込んだ動きは先の2022年春夏から広がっていたが、22-23年秋冬シーズンのパリ&ミラノでは、あでやかさにクラシック感やゴージャスさ、シュルレアリスム演出が加わった。テーラードやタイドアップが勢いづいたのは、目立った変化。長くおあずけを食らわされてきた夜会やパーティーのムードも濃くなった。コルセットで絞るようなウエストシェイプも登場。タイムレスな淑女テイストが提案されている。ジェンダーレスやカルチャーミックスなどの「多様性トレンド」はさらに大きなうねりとなって、装う愉楽に誘った。

■パリコレクション

 

◆シャネル(CHANEL)

 ブランドの原点やヘリテージを見詰め直すアプローチが相次ぐ中、アイコン的生地のツイードを掘り下げた。本来の紳士服テイストを印象づけるジャケットやコートに多用して、マスキュリンなムードをプラス。張り出しポケット付きのアウトドアジャケットはタフ感を帯びた。厚手のニーハイソックスにロゴ入りのラバーブーツで合わせた足元も朗らかでアクティブに映る。

 

 その一方でくすませピンクをキーカラーに据えて、コケットな装いを打ち出した。斜め掛けのミニバッグもキュート。初々しさとクラス感をなじませている。コートを半分だけ掛けるスタイリングは気負いがない。ロングネックレスやカメリアブローチ、ヘアクリップなどの小物使いも目を引いた。

◆ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

 型にはまらないスタイリングを並べ、自由な着こなしに誘った。襟元に結んだスカーフの上から、花柄ネクタイを巻いたのは、気負わないジェンダーレスのアレンジ。タイドアップとゆるいワイドパンツのずれ具合も計算ずく。前身頃を短くカットアウトしたワンピースはパンツにレイヤード。パニエやバッスル風のふくらんだペプラムがロマンティック。ドレスにはラグビーシャツを合わせて、心地よいノイズを奏でた。ジャンパースカート風のワンピースは程よくガーリーだ。

 

 肩が落ちるほどのビッグシルエットが良い意味で違和感を帯びた。オーバーサイズのジャケットは丁寧なテーラリングがかえってファニーな着余り感を生んでいる。ニットセーターのウエスト巻きも楽しげ。全体に若々しい遊び心があふれていて、ヤングアダルト特有の甘酸っぱい背伸び感を醸し出していた。

◆ミュウミュウ(MIU MIU)

 性別を見極めにくいほど、ジェンダーの境目に立つようなモデルたちが登場した。テニスルックを軸に、フレッシュな装いをそろえている。季節感を超えたスタイリングも見どころ。ショート丈トップスとミニ丈ボトムスのコンビネーションは、ウエストに素肌をのぞかせ、まるで春夏シーズンのよう。ポロシャツを中心に半袖トップスの多さも目立った。

 

 白を主体に赤や紺のラインを走らせ、スポーティーな表情に。ローライズのウエストからはつややかなアンダーウエアをあふれさせている。膝上丈ボトムスにはプリーツをあしらって、Y2Kムードに仕上げた。クシュッとたるませた膝丈ソックスはコケットなムード。幼く見せないスポーティーガーリーの提案が光った。

◆ロエベ(LOEWE)

 シュルレアリスムを軸に据えて、倒錯的アートと融け合わせた。パリコレらしいアバンギャルド精神の復活はお出かけ気分を予感させる。夢や幻想、無意識に由来する本来の意味合いでファッション表現に写し込み、ドラマティックな装いで気持ちを高揚させる。トロンプルイユ(だまし絵)は象徴的なモチーフに使った。

 

 オブジェ風の靴も装いを揺さぶる。レザーのドレス、フェルトのビスチェといった異素材でフェティッシュを帯びさせている。モールド成形の技法も「アート服」の印象を濃くした。レザーメゾンならではの職人技がクチュールライクな特別感をまとわせている。

■ミラノコレクション

 

 

◆プラダ(PRADA)

 フェミニンとテーラードに、新たな「定義」を用意した。キーピースに位置付けたのは、シンプルな白のタンクトップ。胸に三角形ロゴを配した。細身のスカートにはビジューや刺繍でハンドクラフトの装飾を施している。スカートルックで押し切ったところからも、ジェンダーレス志向とは距離を置いた、しなやかな新フェミニニティー観が読み取れる。

 

 オーバーサイズのMA-1ブルゾンには、透け感を帯びたスカートを引き合わせた。ウエストを絞って、ボリュームコントラストを引き出している。マニッシュで端正なジャケットもオーバーシルエット。ファー飾りをあしらったり、透けるスカートで合わせたりして、テーラードの決まり事を書き換えてみせた。

◆グッチ(GUCCI)

 英国調の伝統的なスーツをリモデルした。着る人を選ばないジェンダーレスを超えたアンドロジナス(両性具有)仕様の装いだ。ウィメンズ服にもタイドアップを持ち込んでいる。クラシックなテーラリングにシュルレアリスムやパンク、80年代感、センシュアルなどの風味を足し込んだ。

 

 「アディダス(ADIDAS)」とのコラボレーションでは、さらにスポーティーやカジュアルを交わらせている。ニットのトータルルックではバラクラバやパンツにスリーストライプスを走らせ、胸にはトレフォイル(三つ葉ロゴ)をあしらった。多様なテイストがアンバランスで不穏なムードを引き出している。

◆フェンディ(FENDI)

 ジェンダーレスの定着を受けて、フェミニンへの揺り戻しが勢いづいたのは、今回のパリとミラノで目立った動きだ。「女性らしさ」をまっすぐ受け入れる提案が相次いだ。ワンピースやスカートにシフォン系のトランスペアレント素材を多用。マスキュリンなテーラードジャケットを重ねて、芯の強い女性像を描き出した。キャミソールドレスでランジェリー感を寄り添わせている一方、強みのレザーでクールさも印象づけている。

 

 カール・ラガーフェルド時代のアーカイブやヘリテージへのオマージュを捧げ、細身シルエットやミニ丈、クロップド丈でタイトなフォルムを構築。コルセットでウエストシェイプも利かせている。三日月フォルムのバッグが小粋。ロンググローブはクラシックな貴婦人ムードをまとわせていた。

◆ジル サンダー(JIL SANDER)

 テーラリングとエレガンスを、高い次元で両立させた。ミニスカート・スーツはウエストをシェイプして、砂時計フォルムに造型。コンパクトな丈感でスーツを若返らせている。たおやかな曲線を組み込んで、ミニマルを再定義。キルティングドレスも優美なカーブを描いた。花柄の透けるオールインワンやスリーブレスのワンピースなどが飾りすぎないフェミニンをうたう。

 

 肩周りにはケープ状のピースで抑揚を加えた。フラットなリボンやセーラー風の大襟も目を引く。ロンググローブは貴婦人の風情。ソックスとアンクル丈ブーツのコンビネーションが足元をフレッシュに見せた。構築的でしなやかなシルエットがミニマルの先にいざなった。

 

 

 ドレスアップが復活し、品格を保ったデコラティブな装いが目立った今回のパリ&ミラノコレクション。クラシックな仕立てとウィットフルな仕掛けを交わらせて、モードのルネッサンスを印象づけつつ、シュルレアリスムやパンクがスパイスを利かせている。その一方で、Y2Kや健康的センシュアルといった、Z世代に目配りした、元気で若々しいテイストが加速。2年以上も抑え込まれてきた「おしゃれエナジー」が一気に噴き出し、ファッションパワーをみなぎらせていた。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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